映画や漫画、舞台など伊坂幸太郎の作品は小説以外のかたちでも目にする機会が増えました。現実感とフィクションが程良く入り混じるユニークな設定や、スリルに溢れたダイナミックなストーリーを持つ伊坂作品をランキング形式でご紹介します。
1971年生まれの千葉県出身、東北大学法学部を卒業したのち、システムエンジニアとして働いていました。
その傍ら小説を執筆し、2000年に『オーデュボンの祈り』で新潮ミステリー倶楽部賞を受賞しデビュー、その後の発表作も様々な賞にノミネートされ、メディアミックス作品も多いなど、人気・実力ともに兼ね備えた作家です。
あるときは20代の女性を待ち伏せしてみたり、あるときは暴力団になってみたり、あるときは殺人犯とドライブ旅行に出かけてしまったり、という破天荒な主人公・千葉に「え!そんな事しちゃうの?!」と興味本位でどんどんページを捲ってしまう中毒性のある作品です。
- 著者
- 伊坂 幸太郎
- 出版日
- 2008-02-08
千葉の仕事とは、ずばり「死神」です。「人間が事件や事故に巻き込まれて死ぬのは死神が選んだから」というこの世界では、その人間が死ぬべきかどうか死神が調査しにやってくるのです。
人間の会社のように死神も部署ごとに担当が分かれており、「調査部」に属する千葉は1週間の調査をしに人間の元にやってきます。調査期間中にその人間と接触し、「可(=死ぬべき)」か「見送り」のどちらか報告するのですが、「可」と報告した場合は調査終了後の8日目にその人間は命を落とすという仕組みになっています。
性格はややドライですが仕事熱心、音楽に目が無くて仕事の合間を見つけてはCDショップの視聴コーナーで延々と立ち聴きをし、時に常識はずれな質問で人間たちに困惑と笑いをもたらす、こんな死神に人生最期に出会えたらラッキーかもしれないですね。「人間の死に興味はない」と言いながら、仕事熱心なあまりうっかり人間を救ってしまう千葉。時に悩み恋をし、熱くなる人間たちの心を死神が温めていくというユニークで素敵な作品です。
『オーデュボンの祈り』は、システムエンジニアとして働いていた伊坂幸太郎が専業作家になったきっかけの作品でもあります。伊坂幸太郎作品を「時系列」に追って楽しみたい人は、まずこの作品から手にとってみるとよいでしょう。
コンビニ強盗に失敗し逃走していた伊藤は、見知らぬ島で目を覚まします。荻島と呼ばれるその島は、外界との交流を断ち、独自のルールで成り立つ奇妙な島でした。住民は未来を見通す事が出来る話せるカカシ・優午を頼り、桜という青年が人を殺すのはルールとして許されている、といった摩訶不思議な世界の中で戸惑う伊藤ですが、その翌日カカシが殺されます。
未来を見通せるはずのカカシがなぜ自分の死を予測できなかったのか、皆に頼られていたカカシが殺されたのは何故なのか。その真相を追いかけながら、伊藤はこの島に変化を巻き起こしていきます。
- 著者
- 幸太郎, 伊坂
- 出版日
カカシの殺人事件が起こり、その真相を暴くために登場人物が奔走する、というミステリー要素もさることながら、伊坂幸太郎が創ったワンダーランドの魅力に読者は引き込まれていきます。奇妙な世界の住民は皆人間くさく、現実的な世界で生きている人たちよりもはるかに生き生きと暮らしているように見えるから不思議です。
「おまえは逃げるよ。」そう祖母から言われていた伊藤は、この島で過ごすうちに徐々に変わっていきます。
「ここには大事なものが、はじめから、消えている。だから誰もがからっぽだ。」「島の外から来た奴が、欠けているものを置いていく」という言い伝えを現実のものにしていく伊藤の姿は清々しく、全てが暴かれ新しいスタートを切るような爽やかなラストは必見です。
今まさに大学生となろうとする椎名は、一人暮らしの家に引っ越してきた初日、悪魔的風貌の隣人・河崎から「一緒に本屋を襲わないか」と誘われます。もちろん断る椎名ですが、河崎の強引さとどこか憎めない人間性に引っ張られるように結局本屋を襲いに行きます。
「広辞苑を盗むため」という不思議な目的を河崎は語りますが、実は別の目的もあったのです。
- 著者
- 伊坂 幸太郎
- 出版日
- 2006-12-21
2年前の琴美、ドルジ、河崎という3人のエピソードが交錯しながら、物語は進んでいきます。
2年前、琴美はペットショップで働きながら、留学生のブータン人の・ドルジと暮らしていました。何かにつけ関わってくる元彼の河崎やペットショップの店長・麗子との日々のやりとりの中、ひょんなことから仙台市内で起きている動物殺し事件に触れることになります。
登場人物はお互いの関わりの中で少しずつ変わっていきます。「人は1人では生きていけない」と言いますが、それは恋愛だけに言えるのではなく、気持ちの整理をつけて「先に進むため」でもある、そんな作者からのメッセージが含まれているような気がします。
成長、という大それた事ではなく、自分のペースで一歩踏み出すような変化は、琴美や河崎、椎名など周りの人との関わりによって生み出されたように思えるのです。
登場人物は表情豊かで、時に軽口をたたきつつ各々持論を披露する姿が魅力的で引き込まれます。登場人物同士がリンクするように同じ台詞を発するなど、伊坂幸太郎独特の言葉遊びも随所に散りばめられた楽しい作品です。
『重力ピエロ』は2003年の直木賞候補作であり、伊坂幸太郎が一般読者に広く知られるようになった作品です。
主人公の泉水は遺伝子検査を扱う会社で働く青年。その会社が火事にあったところから物語が始まります。
泉水が驚いたのは、弟の春がその事件を預言していた事です。落書きを消す仕事をしている春は、街に現れる落書きと街で起きている連続放火事件に関連性があることに気づき、泉水に連絡してきたのです。春の情報を元に、謎解きゲームのように事件に引き込まれていく泉水でしたが、そのうちに春のおかしな行動に気づいていきます。
- 著者
- 伊坂 幸太郎
- 出版日
- 2006-06-28
類まれなる容姿を持つ春が女性に興味を示さないのには理由がありました。泉水と春は血の繋がらない兄弟で、春は父親と血が繋がっているわけではなく、母親がレイプされたときに身ごもった子供なのです。成長しその事実を知った春は、自分の出自に苦悩し続けます。そして泉水も、春の事も母の事も大事に思うからこその葛藤を抱え続けて生きています。
2人は思い思いに春の出生について、そして自分達家族の在り方について悩み考え抜き、けじめをつける決心をします。謎の美女・郷田順子や泉水のお客さん・葛城、探偵の黒澤との出会いは泉水と春をそれぞれのやるべき事へと駆り立てます。それと並行して連続放火事件の真相が徐々に暴かれていくのです。
「重力」に負けずに家族の形を模索しつづけた泉水と春、そして彼らの父親がいきつく家族の形は、血の繋がりなど関係なく、紛れもなく家族らしい家族です。社会よりも家族が大事だ、と言い切る強さを持つ「最強の家族」の物語です。
「伊坂作品のNo.1は?」という問いに対して『ゴールデンスランバー』と答える人も多いはず。伊坂幸太郎の代表作ともいえる一冊です。
仙台で金田首相の凱旋パレードが行われる日、主人公・青柳雅春は大学時代の友人・森田森吾と久しぶりに再会したところでした。久しぶりに顔を合わせたのもつかの間、「ペットボトルに薬を入れた」「おまえは、陥れられている」と深刻な顔をして言う森田の様子に戸惑っているうち、爆発音が聞こえます。
突如現れた警察からとっさに逃げ出し、青柳の逃走劇が始まります。
- 著者
- 伊坂 幸太郎
- 出版日
- 2010-11-26
作中でも言及される通り、ケネディ暗殺事件とその犯人とされたオズワルドをモチーフとしているようで、巨大な権力が企てた暗殺の濡れ衣を平凡な個人が着せられるというストーリーは手に汗を握る迫力がありどんどんと読み進めてしまいます。元恋人の樋口晴子や大学時代の後輩カズ、職場の元先輩の岩崎や花火職人・轟や青柳の父親など、青柳を信じ、逃亡を助ける人達とのやりとりも心が熱くなる見所です。
巨大な権力が手を尽くして青柳を陥れようと追いかけてくる中、青柳は必死で生き抜きます。個人の力ではどうすることもできない苦境に立たされた時、どう生きたらいいのか。そのときに誰に信じてもらいたいか。考えさせられる深いテーマを扱った作品です。
人間嘘発見機・成瀬、演説の達人・響野、スリの天才・久遠、精確な体内時計を持つ女・雪子。そんな特殊能力を持つ4人が起こす銀行強盗は絶対成功するはずでしたが、あろうことかせっかくの「売上」を同じく逃走中の現金輸送車強盗犯に横取りされてしまいます。その「売上」を奪還するべく4人が奮闘する、という物語です。
- 著者
- 幸太郎, 伊坂
- 出版日
この物語の見どころは一人ひとりのキャラクターの個性です。他人の嘘が見抜けてしまう能力が裏目にでて恋愛に失敗した経験を持つ成瀬や、喫茶店を経営しているのに淹れるコーヒーは美味しくない響野など、憎めない強盗たちの活躍は読者を飽きさせません。
コメディ映画のように軽快で疾走感がありながら、伏線が絡まりあうストーリー構成は伊坂幸太郎の真骨頂。そのなかに自閉症やいじめなどの現代テーマを織り込むことで、深みのあるエンターテインメント作品となっています。
中学生教師だった鈴木は2年前に妻を亡くします。死因は轢き逃げで、目の前で妻を亡くした鈴木はその犯人に復讐をするため、犯人の父親が経営している裏社会の会社・フロイラインに入社をします。しかしその犯人が車に轢かれるのを鈴木は目撃し、その背後に立っていた「押し屋」と呼ばれるその殺し屋を追いかける事になるのです。
- 著者
- 伊坂 幸太郎
- 出版日
- 2007-06-23
鈴木と2人の殺し屋・鯨と蝉、3人の視点で進んでいく物語です。殺し屋達の鬼気迫るやりとりは社会の不条理を浮き彫りにしたような恐ろしさがあります。
妻の死までは平凡な生活を送っていた男が復讐のためにここまでするのか、という迫力が鈴木からは滲んできます。「やるしかないじゃない」という亡き妻の言葉に何度も奮い立ちながら、目の前で起きる非現実的な現実を無我夢中で駆け抜ける一人の男性の物語です。
小学生の頃、同じ野球チームだった相葉(アイバ)と井ノ原(イノハラ)。社会人になった相原は後輩の為に多額の借金を背負い、一方井ノ原は難病の子供の治療費工面に奔走する毎日。そこで相葉は一攫千金を狙い、とある作戦を練ります。しかしトラブルが起き、たまたま居合わせた井ノ原を道連れに、とんでもない事件に巻き込まれ……。
- 著者
- ["阿部 和重", "伊坂 幸太郎"]
- 出版日
- 2017-11-09
本作の魅力は、何といってもスケールの大きさでしょう。仙台を舞台に、冴えない2人が世界の危機を背負って謎に迫っていくのですから。
また、物語の随所に伏線が張り巡らされており、その回収の仕方も見事です。序盤での会話が物語の終盤で活かされていたり、ふとした瞬間にでてくる単語が物語のキーワードであったりと、一瞬も気を抜けません。
キャラクターも魅力的です。主役の2人はヒーローでもなんでもなく、元問題児と苦労人。現実世界にもいるかもしれない、と思わせる人物だからこそ、スケールの大きな物語も違和感なく成立します。
トラブルメーカーの相原に、面倒見の良い井ノ原が振り回されるという図は、一種お約束なのかもしれませんが、「喉が渇いたところにお茶が差し出される」というような心地よさを感じます。
魅力あふれるキャラクターにアクションシーン、主役2人の友情と青春等、見どころが満載。読後は大作映画を見たかのような爽快感が得られます。エンターテイメント大作という言葉が相応しい1冊でしょう。
会社員の安藤は、あるときふたつの事に気がつきます。ひとつは、「自分が念じれば、念じた通りの言葉を相手に話させる事が出来る」という特殊な能力を自分が持っているという事。もうひとつは、野党議員・犬養の人気が高まっており、人々が彼の示す方向を一様に向き始めているのではないか、という事です。安藤は自分の特殊能力を使ってある行動にでます。
- 著者
- 伊坂 幸太郎
- 出版日
- 2008-09-12
大学時代の友人・島や弟の潤也など身近な人が犬養の好む宮沢賢治の詩集を読み感化され始め、街中では反アメリカを叫ぶ人々が過激な行動を起こします。安藤はそんな周囲を見回し、犬養が扇動する方向へ大衆が大きな流れをつくりうごめいていく事にファシズムの予感と恐怖を覚えます。「でたらめでもいいから、自分の考えを信じて、対決するんだ」と、安藤は行動を起こしていくのです。
わかりやすく、過激なものにほど迎合しやすい大衆になることへの警鐘と、「そのことに気付いたとき、あなたはどうしますか?」という伊坂幸太郎の大きい疑問符が描かれているような作品です。
家庭裁判所の調査官・陣内は、一風変わった人物です。若者たちの喧嘩の仲裁に入ったかと思うと被害者を殴るなど、言葉も行動も時に乱暴で斬新な彼のやり方は真似できるものではありません。それでも、一見脈絡なく思える方法から、非行に走った少年達をすくってしまう手腕を持っています。そんな陣内を巡る5つの短編から成っている作品です。
- 著者
- 伊坂 幸太郎
- 出版日
- 2007-05-15
表題作の「チルドレン」「チルドレンⅡ」は陣内と後輩・武藤を描いており、「バンク」「レトリーバー」「イン」は家裁調査官になる前の陣内を描いた物語です。「短編集のふりをした長編小説」と作者自身が言う通り、物語全体を通して陣内と父親との確執が見え隠れしています。読み進めていくうちに、個性的ですが筋の通っている陣内の魅力が浮き上がってくる作品です。
8年後に小惑星が落ちてきて地球が滅亡する。そう宣告されてから5年が経過し、地球の余命はあと3年。
『終末のフール』はそんな世界観で紡がれる、仙台にある団地「ヒルズタウン」を主な舞台とした短編集です。
小惑星が降ってくるのが紛れもない真実だと分かった当初は、暴力や略奪といった慌ただしいできごとが頻発しました。親を失った子供も少なくありません。身を守るために暴徒を殺して、罪悪感に苛まれる人もいます。
ですが、地球滅亡宣言から5年も経つと世間は意外と落ち着くのです。
- 著者
- 伊坂 幸太郎
- 出版日
- 2009-06-26
人々はどんな反応を示し、どんな行動をして、どんな感情を抱くのか。
タイトルにもなっている「終末のフール」は、老夫婦と十年前に家を飛び出していった娘との再会が題材となっています。もうすぐ終わってしまう世界の片隅の、家族再生の物語。
「籠城のビール」では、悲しい過去を背負った兄弟2人がマンションの一室に立て籠もります。そこに住む元アナウンサーの男と家族に復讐しようとしますが、復讐を誓った兄弟も当惑するような予想外の事態が待ち受けていて……。
引きこもりの父親に苛立つ少年が登場する「鋼鉄のウール」には、世界の状況なんて関係なく延々とキックボクシングの練習を続ける選手が登場します。どうして黙々と練習しているのか。そして、崩壊寸前の少年の家族はどうなるのか。
8つの短編の登場人物たちはそれぞれ個性的な余生を過ごしています。
世界がもうすぐ終わるというあまりにも重たい現実。にも関わらず、描かれるストーリーが読者に与える印象はあたたかいです。普通に考えたら絶望的なのですが、不思議とその世界を生きる人々が羨ましくなるかもしれません。
伊坂幸太郎の軽妙な語り口が遺憾なく発揮されています。それぞれの物語は独立しているのですが、すべて同じ団地で起きる話なので少しずつ繋がっていて、その仕掛けもまた愉快。
間もなく地球が滅亡してしまうとして、自分なら今この瞬間からどう生きるだろうか。そんなことを考えながら読み進めるといいかもしれません。
伊坂の2作目となる作品で、拝金主義の画商、泥棒、預言者、不倫中の精神科医、リストラされた中年男性の5人について主に話が展開される群像劇です。
交わることのないはずの5人の話は平行して展開され、気付いたときには複雑に話が絡まっていきます。
各々の行動が別の人物の前後の行動に絡み、伊坂幸太郎の細かな工夫が見て取れます。本の最初にエッシャーのだまし絵が描かれているページがあるように、読み終えた時、まるでだまし絵を見たかのような奇妙さに襲われ、あなたは再度読み返すことになるでしょう。
そしてすべての時間が一本に繋がった時は、まさに圧巻です。
- 著者
- 伊坂 幸太郎
- 出版日
『ラッシュライフ』というタイトルは慌ただしく紡がれるそれぞれの人生の話に実にコミットしています。主観的にしか見ることのできない人生を客観的に見せることによって、読み手に普段考えもしない本質を気付かせます。
人生の主役は自分ですが、自分を取り巻く人々にもそれぞれの人生があり、複雑に交差しているのだと考えさせられる作品。ダークな内容の中に哲学的に盛り込まれた課題は、これから読まれる方に対して優しく「生きること」について問いかけてくることでしょう。
バラバラ殺人の遺体が動くなど、グロテスクかつシリアスな話にも関わらず、なぜかすらすら読み進めることができるのは、独特のテンポと登場人物の距離感の良さが成せる技と言えるでしょう。
伊坂幸太郎好きにはもちろん、初めて彼の作品を読む方には特におすすめできる1冊だといえます。
もしも皆さんのお父さんが4人もいたらどうしますか。
もちろん血が繋がっている本当のお父さんは1人です。しかしお母さんも含めて本人たちにそれを突き止める気は全く無いようです。どんな家庭になるのでしょうか?
『オー!ファーザー』はそんな一見複雑な家庭環境を持つ主人公、由紀夫のお話です。お話自体は一言で表現するならば「サスペンスコメディ」であり、設定から想像するようなホームドラマとはちょっと違います。
作中の経過時間も、由紀夫の通っている高校の試験期間一週間前から試験最終日までの約10日間と小説としてはかなり短い中で、由紀夫がその4人の父親、お節介焼きなクラスメイトとその周りの人々に巻き込まれていく日常を描いた作品なのです。
- 著者
- 伊坂 幸太郎
- 出版日
- 2013-06-26
4人の父親がそれぞれ「ギャンブラー、中学校の体育教師、大学教授、バーを経営する元ホスト」であったり、富田林という「ザ・裏社会のボス」のような人物がいたりと、各登場人物の個性を色濃く描きながら、クラスメイトの不登校、中学時代の同級生が持ち込む厄介ごと、選挙騒動など複数のストーリーを同時に展開していくため読み応えとその疾走感については目を見張るものがあります。
さすが伊坂幸太郎、とも言えるような魅力的なキャラクターと、爽快感のあるストーリー展開によって読み終わった瞬間「面白い」とため息をつくこと、間違いないでしょう。
表題作「フィッシュストーリー」は世代をまたがって善行が施されていく物語です。売れないけど、自分たちの主張をロックに載せて伝えたいバンドが生み出した曲「フィッシュストーリー」。彼らはあえて売り出したレコードに無音部分を作り出しました。その「フィッシュストーリー」をドライブ中に聞いていた男性が、無音部分で事件に遭遇します。
遭遇した事件がきっかけで新しい生活が始まり、その息子も事件に大きく影響を受けるのです。その息子が偶然遭遇したハイジャック事件で事件を解決します。そして、そこで救われた女性がまた世界を救うのです。
- 著者
- 伊坂 幸太郎
- 出版日
- 2009-11-28
世の中の正義は、実はこのように周り回って発揮されるんじゃないか?しかも何世代にも渡って。その繋がりがゆったりと表現されています。バンドマンが夢をもって楽曲に取り組み、売れたかというとそうではなかったかもしれないけど、その楽曲が正義を作り、世界を救う!読み終わったときには爽快な気持ちになることができます。
その他の短編も、表面的には善い事なのかそうじゃないのかわからないけれど、結果的に何らかの善行を支えている、といった物語が集められています。
本作を読むと、結局は良いほうに進んでいくに違いない、いや進んで欲しいという思いを込めて創り上げた物語たちに出会うことができます。伊坂幸太郎を読んでほんわかしたい気持ちになったときには、ぜひ『フィッシュストーリー』を手に取ってみてください。
劣悪なことをしているにも拘らず、どこか憎めない、それでいてほっこりする小悪党物語です。
悪事の下請けを生業としている岡田という男。岡田は、悪事から足を洗いたいと相棒の溝口に申し出ます。これに対し溝口は条件を提示し、岡田は見知らぬ3人家族の父親に「友達になろうよ」とメールを送るところから物語は動き出します。どうやらその家族は“訳有り”のようで、岡田はその家族とドライブに出掛けますが……。
- 著者
- 伊坂 幸太郎
- 出版日
- 2015-12-17
物語は5本の短編で成り立ち、小悪党2人組が絡んでくる様々な出来事についての話が中心となっています。虐待されている小学生、盗んだ車のトランクの大金、問題児の男の子、ボスを騙してのかたき討ち。一見、これらは何の繋がりも無いように見えますが、登場する多くのキャラクターの行動や発言が、見事なまでにすべてラストの章の伏線になっています。
作中に散りばめられた伏線の素晴らしさはもちろんのこと、同時に注目すべきは作中に登場する濃いキャラクターたちです。特に、岡田の相棒である溝口です。50を過ぎた親父が良い具合にふざけていて笑いを誘います。
登場人物の軽快な会話や展開で、どんどん読めてしまいます。伏線にやられた、と悔しい思いをしながらも、読み終えた後はまた読み返したくなるでしょう。
ベストセラー作家となった現在も仙台で執筆活動を続けている伊坂。本書は2005年から2015年の仙台での日々を綴ったエッセイ集です。
「タクシーが多すぎる」、「ずうずうしい猫が多すぎる」など「多すぎる」をテーマに日常が描かれています。
- 著者
- 伊坂 幸太郎
- 出版日
- 2015-06-25
あの伊坂幸太郎が、こんなに心配性で自意識過剰だったのかと驚いてしまうかもしれません。基本的に描かれているのは仙台でののんびりとした暮らしぶり。この日常から、数々のヒット作が生み出されていると思うと不思議な気持ちになってしまいます。
文章の随所にクスリと笑えるユーモアが織り込まれているのは、彼の小説と同じですね。
その一方で、東日本大震災に関しては、地元を愛する真摯な姿勢が伝わってきます。伊坂は震災を経験して、「楽しい小説を書きたい」と強く思うようになったそう。小説家というのは場所を選ばずに仕事ができる職業なのかもしれませんが、それでもどれだけ有名になろうとも、彼が仙台にこだわって住んでいる理由がわかる気がします。
伊坂幸太郎の小説が好きなら、抑えておきたい一冊でしょう。ちなみに本書には短編小説「ブックモビール」も収録されているので、こちらもぜひチェックしてみてください。
それぞれ語り手が異なる6編から成る、連作短編集です。
伊坂と親交の深いシンガーソングライター・斉藤和義に作詞を頼まれた際、「小説なら」と執筆した作品。これを受けて斎藤は「ベリーベリーストロング〜アイネクライネ〜」という曲を作りました。
作中には「斉藤さん」も登場しますよ。
- 著者
- 伊坂 幸太郎
- 出版日
- 2017-08-04
タイトルになっている「アイネクライネナハトムジーク」はもともとモーツアルトの楽曲名。「ある小さな夜の曲」という意味があります。
この言葉が象徴するように、本作に登場するのは皆ごくごく普通の人ばかり。描かれているのも日常の風景です。殺し屋などは出てこないし、サスペンス要素もありません。でも、そんな普通の人が起こした小さな出来音が、誰かの人生を変えていくのです。
物語は緻密な計算によって少しずつリンクしていて、日常の中に小さな奇跡が転がっていることがわかるでしょう。
2018年の冬には映画化されることが決まっています。そちらもお楽しみに。
いかがでしたか。伊坂幸太郎の小説に登場するキャラクターは皆個性豊かですが、ちょっと見回せば私たちの周りにもいるんじゃないか、と思えるような親近感があります。読んだあとは、「明日からまた面白い人に会いに行こう、探しに行こう」と思える不思議な魅力を持つ作品ばかりです。
こちらでもおすすめしています。
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伊坂幸太郎の作品は、たびたび映画化もされ話題になります。この記事では、初めて伊坂幸太郎を読んでみようという方におすすめの作品をランキング形式で紹介。ストーリー展開と文章の巧みさに圧倒され、ページをめくればあっという間に「伊坂ワールド」に引き込まれてしまうでしょう。
伊坂幸太郎の名言を知りたい方は、こちらの記事もおすすめです。
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伊坂幸太郎作品には、当たり前のようなことでも「はっ」と気付かされる言い得て妙な表現がたくさん出てきます。今回は、「名言」にスポットを当てて5作品紹介させていただきます。