世界14カ国で翻訳された『生き方』を要約!稲盛和夫の人生哲学とは。

更新:2021.11.23

「京セラ」、「KDDI」。皆さんも1度は聞いたことがある2つの大企業。実はこの2つ、同じ人物が創業した企業なのです。 名前は「稲盛和夫」といい、業績が低迷していた「JAL(日本航空)」を再生させた人物としても知られています。 今回は、そんな稲盛氏が自身の体験を元に「生きるとは何か」を説いた『生き方』を紹介します。 大切にすべき人生の原則や、ビジネスマンとしての考え方など、多くの学びを得られる1冊となっています。

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先が見えない時代をどう生きるか

先が見えない時代をどう生きるか
『生き方』

世の中というものは、先行きが見えないものです。不安や心配が積もっていくと、多くの人が悲壮感を持ったり、憂鬱になったりします。その結果、なぜ生きているのかわからなくなってしまうことがあるのです。

そんな人たちに大切なことは、

「何のために今を生きているのか」を自らに問うこと。生きていくために自分の「哲学」を持つこと。

このように語ったのは、今回紹介する『生き方』の著者であり、また「京セラ」と「KDDI」の創業者である稲盛和夫氏です。著者は人間にとって何が正しいかを考え、実践し、人間としてのあるべき姿を常に追い求めました。そんな著者が考える「生きる意義」について説かれたものが本書『生き方』になります。

忙しい日々に追われる中、自分の生きる意味を見つけ出したい人や、自分が本当にやりたいことを見失ってしまったビジネスマンの方に、是非読んでいただきたい本になっています。

この記事では『生き方』の重要なポイントとなる、生きることや心の持ち方・高め方などを解説していきます。また後半では『生き方』に関連する本をいくつか紹介しています。

生き方

2004年07月22日
稲盛和夫
サンマーク出版

『生き方』はなぜロングセラーになったのか。世間からの評価は?

2004年に発行されてから10年で100万部を突破し、世界でも2015年時点で300万部以上発行されています。

本書は、生き方だけにとどまらず、ビジネスにおける大切な心構えにも触れているため、仕事に行き詰まりを感じている多くのビジネスマン心の支えになっています。

「悩みに寄り添って生き方を考えさせてくれる」というような声もあり、人生を前向きにし、勇気を与えてくれるといった評価も得ています。

思いを実現させる

まず最初に、求めたものだけが手に入るという人生の法則について紹介します。

「勉強を頑張ったのに不合格だった。」「必死に取り組んでいるのに自分の仕事が評価されない。」など、 人生において「思い通りにならない」と感じる場面は皆さんにもあるでしょう。

しかし、著者は「思い通りにならない」と考えているからそうなってしまうといいます。 

著者は「心が呼ばないものは自分に近づいてくるはずはない」という信念を抱いています。つまり人生は、よくも悪くもその人の心の中にあるものがつくり上げている、と考えているのです。 

よい人生にしたいのであれば最初にすべきことは、「~したい」、「~になりたい」と強く思うことです。

次に、その思いを実現させるための手順を模索し、シミュレーションを繰り返すこと。 これをおこなうことで、実現への道のりはすでに通ったことがある道へと変化していきます。最初は願望だったものが徐々に現実へと近づき、最終的には現実になっていくという流れです。 

「素敵な人と出会いたい」という願いがあるのであれば、「自分が思う素敵な人とはどこで知り合うことができるか」を考え、結論へとたどり着く道のりを、頭の中で何度も思い描きます。 それを行動に移すことで願いが叶うようになるのです。 

著者は、大学卒業後に就職した会社が倒産寸前で、社員が次々と辞めていくような状態でした。 しかし、この状況をネガティブに捉えず、目の前の仕事に真摯に取り組んでいきました。こうした姿勢が成果へとつながり、さらに仕事にのめり込んでいった結果、24歳という若さで、日本で初めての新しい製品を開発することに成功しました。

この体験から、著者は心の持ち方しだいで、人生をよくすることも悪くすることもできると実感したのです。
 

原理原則から考える

続いて、原理原則、つまり物事の基本的な決まりや規則について考えることの必要性、知識と経験の関係について紹介していきます。 
 

人間は複雑に物事を考えてしまう生き物です。しかし、物事の本質とはいたってシンプルなものです。 一見、複雑で理解しがたいものでも、紐解いていくと実は単純なもの同士の組み合わせに過ぎないことがあります。 著者は複雑に思えるものほど単純なものに変換して考えていました。 そして、「常識」よりも、「本質」に基づいた原理原則を重視していたのです。 

 

「1日1日をど真剣に生きる」 これが著者の生き方の根本であり、原理原則になっています。 力が伝わってこないような、だらしない生活を過ごしてしまっては、人生が無駄なものとなってしまいます。 自分の人生をよりよいものにしたいと考えるならば、1日1日を「ど」がつくほど真剣に生きていくことが必要です。  
 

 変わり映えのない毎日でも、何か新しい発見がないか、いつもと違う視点で観察してみると思ってもみなかった発見に出会うことがあります。 一生懸命生きた日々の積み重ねが、自分にしかない魅力となり、しだいに人生を充実したものへと変えていくのです。 
 

また、「知識より体得を重視する」ということも人生における大切な原理原則だといいます。 これは「知っていること」と「身に付けていること」ではまったく違うからです。 

 新しく何かを始める時、インターネットで得られる数多くの情報から、その方法を見つけることはできます。 しかし、情報通りにおこなってもうまくいかないことが多々ある通り、やってみないことには何も得られていないことがあります。  

実際にやってみたという経験が大切で、それによって「知っている」ことが「できる」ことになっていくのです。 その経験が人としての魅力となり、自信にもつながります。 
 

 

心を磨き、高める

著者は、働くことを人生でこのうえない喜びとし、どんな時も感謝の気持ちを持って生きることが大切だといいます。例を交えて説明していきましょう。

著者は、人間にとって、心からの喜びは「仕事」から生まれるとしています。 仕事が休みの日におこなう趣味や娯楽は、仕事があるからこそ楽しいものであり、仕事に真面目さが欠けたり、仕事に不満があると、休みの日の遊びを心から楽しいと感じられなくなります。

また、よいことが起これば、次は悪いことが起きる。このように人生というのは幸と不幸の繰り返しです。たとえどんなに最悪な1日であっても態度を変えず、「ありがたい」という感謝の気持ちを持つことが大切です。

自分が今生きていることに感謝しながら生活することで、心が磨かれ高まっていきます。 ついていない日であっても、困難を乗り越えるチャンスと捉えてそのチャンスに感謝し、ラッキーな1日であれば、さらにありがたいという気持ちを持つ。 

どんな状況であろうと、その人が「ありがとう」という感謝の気持ちを持っていれば、充実感を味わえるのです。

また、人の考え方は、その人の生まれ育った環境やそれまで生きてきた経験、人から教わったことなどから成る「人格」を基盤にしているといいます。 

つまり、人格が人として正しいものでなければ、そこから生まれる発言や行動、結果は決してよいものにはなりません。 たとえば、リーダーとなるような人間であれば、人格がより重要となります。 これは、上司に人格が備わっておらず、人間として正しくない行動をとると、部下はそれをよしとして同じようなおこないをしてしまうからです。  
 

加えて、人生を充実したものにするためには「勤勉」が不可欠となります。 誠実に仕事に取り組む、どのようなこともそれを学びの機会に換えて知識を増やしていく。このような行動を習慣化していくことによって、心が磨かれ、人生が豊かになり人格も育っていくのです。 

 

利他の心で生きる

次に、社会貢献こそがビジネスの原点であるべき理由を説明していきます。

会社は、誰から見ても正しいやり方で利益を生み出し、社会の役に立つ必要があります。つまり、 世界や国、地域、人のためにという精神で事業をおこなうことがビジネスの原点となります。

もちろん、お金を稼ぐということにおいても人として正しい行動をしなければなりません。 相手にも自分にも得がある「自利利他」を信念に持ち、実践していくことが大切です。

著者は、「利他に徹すれば物事を見る視野も広がる」と語っています。 利益を追求したいという気持ちは事業や人間の活動の原動力になります。 ここで注意が必要のは、利己のみに捉われないことです。利益を求める「欲」は持っていてもいいが、自分だけが得をしようとしてはいけないということです。

利己的にならないためには、自分だけではなく、周りを含めた広い視野で物事を捉えることが必要になります。 会社の利益を上げたい場合は、自社の利益だけを考え商品の価格を吊り上げて売上を伸ばすのではなく、お客様が何を求めているのかを考え、売上の向上を目指すことが大切です。 

また、お客様だけでなく、地域や社会、世界にまで視野を広げ「利他」に集中することで、より大きな目的を達成することができます。 客観的な視点を持つことで、より正しい判断ができるようになり、おのずと失敗を減らすことができるというわけです。

「事業の利益は預かりもの、社会貢献に使え」という言葉が登場します。 著者が創業した京セラでは「利他」の気持ちから生まれた利益は、「利他」の気持ちで使うべきと考え、さまざまな社会貢献活動を行ってきました。こうした考え方が、京セラを世界に通用する一流企業へと成長させたのです。

宇宙の流れと調和する

最後に因果応報と、災難をどう捉えるべきかについて紹介します。

「因果応報」という言葉はご存知でしょうか?

「よいおこないをすればよいことが起こり、悪いおこないをすれば悪いことが起こる」という意味です。

この文章を読んでいる方の中には、この言葉を信じていない人もいるかもしれません。よいおこないがすぐに結果となって現れれば、信じる人も増えるでしょうが、そううまいこといくとも限りません。

ですが、数年、数十年という長い目で見れば、必ず結果は現れると著者は言います。 いつもよい行動を心がける人はいつまでも不幸のままであることはなく、何かにつけて人として正しくないおこないをする人がいつまでも幸せであることはありません。

また、著者は「災難にあったら、落ち込むのではなく喜びなさい」と語っています。 

これは、今までの悪いおこないが災難として現れたものであり、その災難によってこれまでの悪事が消えるから、喜ぶべきだということです。 この災難を「試練」として受け止め、それを乗り越える力を身に付ける機会として捉えましょう。 

宇宙には「すべてのものを成長し、発展させ、よいものをよい方向へ導こう」という意思があると著者は考えています。よい信念や、よいおこないは宇宙の意思に合うことなので、そこからよい結果が現れるのは当たり前のことだといいます。 

これまでに紹介してきた、人間として正しいおこないをする、1日を真剣に生きる、いつも感謝する、利他の心で生きるなどの行為は、宇宙の意思に合うものであるから、人生はよい方向へ導かれ、充実した人生へとつながります。宇宙の意思や流れに沿ったおこないをすることで、人生は大きく変わるのです。

『生き方』の関連おすすめ本①

こちらの書籍では、稲盛氏の経営者としての「会計」と「仕事に対する考え方」を紹介しています。

稲盛和夫の実学―経営と会計

稲盛 和夫
 

単に会計の知識を紹介するのではなく、経営者としての著者自身の苦労や実績をもとにした内容となっているため、実践にも活かせる経営の指南書です。20年前に書かれた本ですがいまだに多くの読者がおり、 企業の大小や役割に関係なく、どんな人でも読んで損はない一冊です。

『生き方』の関連おすすめ本②

「人間が生きる意味」について深掘りたい人はこちらをおすすめします。

著者
出口 治明
出版日
2019-08-08

古代ギリシアから現在に至るまで、世界中さまざまな地域で哲学、宗教が生まれていることからもその重要性が伺えます。人間はどのように「生きる意味」を考えてきたのか、哲学と宗教を通して「現代の知の巨人」である著者の出口治明氏が解説しています。

図を用いて説明しているので、哲学などに馴染みのない人でも理解しやすい内容となっています。

『生き方』の関連おすすめ本③

「生き方」について他の人の考えも知りたい人は『人生心得帖』がおすすめ。

著者
松下 幸之助
出版日

稲盛氏が経営者として尊敬している松下電気(現・パナソニック)を創業した、松下幸之助氏が考える「人生について」書かれた内容になります。 人間関係や、仕事関係、悩みの対処まで幅広く語っています。すらすらと読み進められる一方で、事業を成功した松下氏ならではの考え方に、読後は心に残るものがあるはずです。

いかがだったでしょうか。今回は、稲盛和夫氏が考える「生き方」についてお伝えしました。

稲盛氏は本書で、思いを実現させる方法や心を高める方法など、人生を豊かにする術を教えてくれますが、頭で理解しただけでは不十分です。この教えを実践することが大切なのです。

「生き方」や自分の人生について深く考える際に、一度立ち止まって本書を読んでいただきたいと思います。

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