児童福祉司は子どもと保護者を繋ぐ専門性の高い職業のひとつです。勤務するためには地方公務員試験合格後、任用資格というものを取得しなければなりません。資格取得までの条件はあるものの、社会人になってからでも目指すことができます。 地方公務員のため、福祉職のなかでは収入は安定していて、福利厚生もしっかりしています。そういった面から目指す方は多いものの、人材不足が嘆かれているのが現状です。 この記事では、子どもと保護者を支援し、親子の健康な関係を築く一旦を担う児童福祉司の仕事を解説します。 記事の最後には児童福祉司について詳しく知りたい方におすすめの本を紹介しているのでぜひご覧くださいね。
児童福祉司は子どもや保護者の相談にのったり、家庭の調査をし、家族療法をおこなったりするなど、家族の絆を繋ぐ仕事です。児童相談所には設置が義務付けられている職種で、さまざまな家庭の問題を解決するケースワーカーの仕事のひとつです。
児童福祉司は地方公務員ですが、児童福祉司になるには公務員試験に合格した後に児童福祉の任用資格を取得しなければなりません。児童福祉司になる方法や、任用資格の取得方法などは後ほど詳しくご紹介します。
現代の日本では離婚率の増加や核家族化、インターネットの普及などにより子どもと保護者のコミュニケーションが取りにくく、悩みを持つ人は増えています。また、それによって虐待や非行、貧困なども大きな社会問題となっています。
このような踏み込みにくいことにも強い責任感を持って積極的に関わっていくのが児童福祉司の仕事です。
児童福祉司の勤務時間は週に38時間45分です。虐待などのトラブルは土日にも起こり得るので交代制で休暇を取っています。
地方公務員なので福利厚生はしっかりしており、有給休暇や特別休暇、産休・育休などもきちんと取れるため、自分や家庭の時間も大切にできるでしょう。
児童に関わる仕事には、児童福祉司のほかに児童相談員や児童指導員、児童心理士という職業があります。それぞれどんな役割を担う仕事なのか、違いをみていきましょう。
児童福祉司と児童相談員はほとんど同義の意味ととらえて問題ありません。
児童福祉司は児童相談所で働くことが義務付けられているため、地方公務員として働く場合のみ児童福祉司と呼ぶことができます。そのため民間の児童福祉施設で働く場合は、任用資格を持っていたとしても児童福祉司そのものではありません。そのような場合に、児童相談員と呼ばれるケースが多いようです。
児童指導員も、児童福祉の現場で活躍する職業のひとつです。
児童福祉司との違いのひとつにまず勤務先があります。児童福祉司は児童相談所で働くことが義務付けられている一方で、児童指導員は児童養護施設や乳児院、児童発達支援センターなどさまざまな児童福祉施設で働くことができます。幅広い年齢の児童に対して、支援や指導をおこなうことができるのです。
もうひとつの違いは、児童指導員は任用資格であり、就職する際、勤務先によっては地方公務員試験に合格する必要がないということです。児童福祉司は地方公務員として合格し、その上で任用資格を取得しなければならないので、その分就職の難易度はあがるでしょう。
児童福祉司は地方公務員なので地方公務員の給料を参照します。「地方公務員給与実態調査」によれば、令和1年の児童福祉司の平均給与額は約34万円となっていました。児童福祉司は専門性の高い福祉職としての採用が一般的ですので、給与も福祉職の平均値をご紹介しています。
都道府県、指定都市、長村などによって多少の差はあるものの、ほかの民間の児童福祉施設で働く福祉職と比べると比較的高い収入を得ています。
児童福祉司の資格は、地方公務員試験を合格して得られる任用資格です。その条件について厚生労働省の「児童福祉法」第13条にはこのように記載されています。
・厚生労働大臣の指定する児童福祉司もしくは児童福祉施設の職員を養成する学校その他の施設を卒業し、または厚生労働大臣の指定する講習会の課程を修了した者
・学校教育法に基づく大学または旧大学令に基づく大学において、心理学、教育学もしくは社会学を専修する学科またはこれらに相当する課程を修めて卒業した者であって、厚生労働省令で定める施設において1年以上児童その他の者の福祉に関する相談に応じ、助言、指導その他の援助をおこなう業務に従事したもの
・医師
・社会福祉士
・社会福祉主事として、2年以上児童福祉事業に従事した者
・前各号に掲げる者と同等以上の能力を有すると認められる者であって、厚生労働省令で定めるもの
(児童福祉法第13条より)
大学で心理学、教育学、社会学を専攻していた場合は、福祉施設などで1年の実務経験を積んだ後、地方公務員試験に合格することで任用資格を得られます。
もし大学でそれらの学部・学科を専攻していない場合は、都道府県知事指定の養成機関を卒業することで、児童福祉司としての任用資格が得られます。
つまり、すでに社会人として働いている方も児童福祉司を目指すことができますし、児童福祉司を目指している高校生は、大学で専攻することにより最短のルートを選ぶことができるのです。
児童福祉司を目指すには「任用資格」が必要です。任用資格を取得し、地方公務員試験に合格したのち児童相談所に配属されることによって晴れて児童福祉司を名乗ることができるようになります。
さまざまなルートがある児童福祉司ですが、一番最短のルートとして大学で心理学・教育学・社会学の学問を専攻し福祉施設で1年以上働いたあと地方公務員試験に合格して児童相談所で働く道があります。一応それ以外の学部でもなれないことはありませんが、その場合は都道府県知事指定養成機関で働くことが必須なので長い道のりとなるでしょう。
児童福祉司の任用試験を目指せる大学の例をあげてみましょう。
教育や心理、社会について学べる大学はたくさんあるので自分がどこを重点的に学びたいかを考えてみるといいでしょう。
児童福祉司のやりがいは、自分の手によって親子問題の解決ができたり、初めは心を開いてくれなかった方から最後に感謝を述べられたり、達成感のある仕事であることです。
また、児童福祉司は家庭や学校、地域などさまざまな組織と関わっています。そのため、チームで協力して問題が解決できた時は大きなやりがいを感じることでしょう。大変なことも多いですが専門性の高い仕事ですので重宝されますし、さまざまな場所で活躍できます。
児童福祉司の大変なところは一度に抱える案件が多く、多忙であることです。平成30年度の統計では虐待(心理的虐待、身体的虐待、性的虐待、ネグレクト)で児童相談所に16万の通報が入っています。このように多くの通報があるにもかかわらず、児童相談所数は全国220か所、一時保護所数144か所(令和2年7月1日時点)で圧倒的に施設の数が少ないことがわかります。
そのため、ひとりの抱える件数が多く、多忙なことが大変な部分でしょう。また、難しい問題に積極的に介入していくため、精神的なタフさがなければ務まらない仕事でもあります。
児童福祉司は意外にも保護者との関わりが8割を占めます。そのため、「子どもが好き」といった理由のみで働き始めると理想と違う場面も少なくありません。
それを踏まえて向いているのは「社会問題を解決したい」という強い意志がある方です。
児童相談所にかかわる保護者や子どもすべてが支援に積極的なわけではありません。なかには虐待や非行の事実を認めたくなくて反抗してくる方もいます。そのようなときに確固たる信念を持って寄り添える方は活躍できるでしょう。
また、責任感の強い方も向いているといえます。時に一刻を争う事態に介入することがあります。子どもやそれを取り巻く環境を守っているんだという強い責任感が現場で必ず役に立つでしょう。
児童福祉司は専門性が高く、社会的に重要な仕事です。児童福祉司によって助けられた子どもや保護者はたくさんいます。しかし、普段の生活ではなかなかかかわることのない仕事のため、詳しい仕事内容や現場の声は知られていないのが現状です。
そんな児童福祉司の現状を知るのに最適な本がこちらです。
- 著者
- ["幸芳, 斉藤", "常文, 藤井"]
- 出版日
斉藤幸芳氏・ 藤井常文氏著作の『児童相談所はいま―児童福祉司からの現場報告 (新・MINERVA福祉ライブラリー)』という本です。
この本では自らの児童福祉司としての実体験をもとに、支援に対する魅力や困難を詳しく解説しています。仕事内容をもっと詳しく知りたい方はもちろん、リアルな声を聞いてみたいという方にはおすすめの1冊です。
現場の方や、児童福祉司に興味のある方はぜひご覧ください。
現代では子どもの虐待に対する虐待やそれによる死亡事件が相次いでいます。
また、虐待というと暴力など身体的なイメージがありますが、それだけではなく心理的・性的・ネグレクトなどさまざまな形で虐待がおこなわれています。さらに虐待によって子どもが犯罪を犯したり、親になった時に虐待を繰り返したり、虐待による不幸の連鎖が社会問題にもなっています。
虐待はなぜなくならないのでしょうか。また、それを救う児童福祉司はどのような気持ちで子どもや保護者と関わっているのでしょうか。そのことについて詳しく解説している本がこちらです。
- 著者
- ["青山 さくら、川松 亮", "中畝 治子"]
- 出版日
青山 さくら氏、川松 亮氏、 中畝 治子氏著作の『 ジソウのお仕事50の物語(ショートストーリー)で考える子ども虐待と児童相談所』という本です。
この本では50の物語やそれに対する児童福祉司の解説を収録しています。児童相談所の日常や驚きの実態について知りたい方はぜひご覧ください。
児童相談所で現実に起きていることを知ることで、理想論だけでは語れないリアルな子供や親への寄り添い方を考える力が身に付くはずです。
現代の日本が抱える社会問題は虐待だけではありません。若くしての妊娠や、赤ちゃんポスト、貧困格差などさまざまな問題があります。また、そのような子どもを支援する児童養護施設や少年院、児童相談所の利用人数も増加しています。
児童福祉司の仕事にかかわらず、まずは児童を取り巻く社会問題について詳しく知りたい方にはこちらの本がおすすめです。
- 著者
- 石井 光太
- 出版日
石井 光太氏著作の『漂流児童』という本です。
著者の石井氏は世界で恵まれない子どもを多数取材してきました。そんな彼が独自の視点から日本の福祉について言及しており、福祉現場の光と影について詳しく解説しています。児童問題について学んでみたい方はぜひご覧ください。
児童福祉司は子どもが好きというだけでなく高い専門性や責任感が必要とされます。社会問題を解決したい、子どもと保護者の悩みを解決したいという方は今回紹介した本をぜひご覧くださいね。