大手アパレル企業の倒産や日本撤退の話題などが増えてきているアパレル業界。ファッションは夢のあるものですが、業界自体の先行きはよくないかもしれないと考えている人もいるかもしれません。しかし人が生活していく上で衣食住は欠かせないものですし、ファッションは自己表現のひとつであることは事実です。 実際のところアパレル業界ってどうなの? 今後はどうなっていくの? という疑問に答えつつ、参考になる書籍を紹介していきます。
「就職を希望していた企業が新卒採用を取りやめた」「周りからはアパレルは辞めておきなさいと言われてしまう」など、最近ではこのような経験をしている学生さんもいるかもしれません。アパレル業界の実情はどのような者なのでしょうか。
2019年は「FOREVER 21」「アメリカンイーグル」など、海外発ブランドの日本撤退が相次ぎました。アパレル市場を席巻する勢いだったファストファッション型企業ですが、最近は業績の低迷が見られるところが珍しくなくなってきています。
国内でも、2020年2月にはアパレル大手の「しまむら」の減益が報じられています。海外のファッション企業だけでなく、日本国内のファッション企業でも、業績低迷による存続の危機がいよいよ無関係ではなくなってきている現状があります。
客単価では、ファストファッションと対極にあるラグジュアリーブランドも、昨今の情勢変化を受けて大きく揺らいでいます。2020年7月、アメリカでは老舗「ブルックスブラザーズ」が破産申請をしています。
このような状況はアパレル業界特有の問題点をあぶり出したという指摘もあります。アパレルの製造・輸送・販売に関わる人たちは低賃金で働いていることが知られています。このようにして経費を削減した上で大量に作られた洋服は、定価販売ではたくさん売れ残ります。これらをセールを繰り返して売り、それでも余ったものは廃棄されます。
関わる人に無理をさせることで回っているのが現在のアパレル業界であり、このような仕組みではそのうち立ちゆかなくなるのは当然であるという指摘です。しかし業界のかなりの部分がこのような仕組みを前提として動いている以上、今後の見通しもあまりよいものとはいえなそうです。
一方、小さく仕入れて小さく売る、個人レベルのブランドやショップは変化に柔軟な対応ができるという指摘もあります。店頭販売ができなくてもWEBショップに切り替える、SNSなどを上手に活用して集客するといった取り組みが例としてあげられます。
こういった「必要な分だけ仕入れて売る」という手法は今後アパレル業界で主流になっていく可能性があります。アパレル業界で働くなら大手という考えも、今後は大きく刷新されていくかもしれません。
ここまで一言で「アパレル業界」とまとめてきましたが、業界内には製造から流通まで多数の工程があります。分かりやすいようにまとめてみました。
服を買う側としては製品が売られている場面にしか接する機会はあまりありません。しかしひとつの製品が製造され、売られるまでには長い工程を要しているのです。
衣料品の多くは何らかの繊維からできています。植物由来ではコットン(綿)やリネン(亜麻)などがあり、動物由来ではウール(羊)、カシミヤ(ヤギ)、アンゴラ(ウサギ)などが有名です。化学繊維にはアクリル・ポリエステル・ナイロンなどがあり、そのほかにもテンセルなどの再生繊維や紙なども使われることがあります。
アパレル業界の最初の工程では、この繊維を作ります。繊維メーカーは直接下流工程のメーカーと取引することもありますし、アパレル専門の商社に卸して販売することもあります。
国内にも繊維メーカーがありますが、人件費の安い海外の繊維を使っている企業も少なくありません。また、国内のメーカーでも繊維の仕入れ先は海外になることがほとんどです。
繊維を使って生地を作るのが次の工程です。ブラウスやシャツなどのための布帛だけでなく、ニット地を作ることもあります。メーカーによってはオリジナルの生地を作るための工場を持っていることもありますが、多くは下請けの企業に外注してオリジナルの生地を作ってもらいます。
繊維メーカーと同様に国内企業もありますが、価格の安い海外企業のほうが競争力があるのが実情です。
生地ができたところで、ようやく実際に洋服を作る工程に入ります。先にデザインをして材料を発注する場合もありますし、メーカーが持ってきた素材からデザインをおこすということもあります。ニットの場合は生地を作る工程を経ないで、糸を仕入れてそのまま編み立てることもあります。
ブランドによっては、できあがった服を買い付けるというところもあります。このようなブランドではデザインをおこないません。工場が作ったサンプルから、ブランドイメージに合った商品を選んで自社ブランドとして販売します。
自社でデザインをするブランドでも、工場は海外に持っていることがほとんどです。そのため製品の打ち合わせなどで海外出張が多くなる傾向があります。
消費者が見ることができる「アパレル業界」はここから先です。自社ブランドを自社の店舗やWEBショップで直接販売するのが直販です。ショッピングモールに入っているブランドのショップがこれに当たります。
メーカーによっては、販売自体を別の業者に任せることがあります。セレクトショップでしか購入できないようなブランドものなどが該当します。
また、ブランドではありませんが、大型のスーパーなどで販売されている衣料品も卸から仕入れたものです。
- 著者
- 福田 稔
- 出版日
ファストファッションの台頭、オンラインショップの利用増加など、世界情勢の変化により先行きが懸念されているアパレル業界。ですが以前から、現在のビジネスモデルはいつか破綻するという警告がなされていました。
『2030年アパレルの未来』では、今後起こりうる変化とそれに対応するための提案が記されています。
これからアパレル業界を志望する人は、本書に書かれているような状況を前提にして戦略を組んでいる企業を選ぶ視点が必要となるかもしれません。
また職業としてアパレル業界で働くことは考えていないけれど、ファッションには興味があるという人にとっても無視できない内容となっています。10年後、アパレル業界がどうなっているのか気になる方はぜひ一読してみてくださいね。
- 著者
- 繊研新聞編集局
- 出版日
業界の内部にいないと分からない事情というのもたくさんあります。
『最新業界の最新常識よくわかるアパレル業界』は業界紙である繊研新聞が出版している業界研究本です。アパレルを志望する人は一度目を通しておくとよいでしょう。
店頭やオンラインで服が売られるまでにどういった工程があり、どれだけの時間や人が関わっているのかを知ることができます。
ざっくりと「アパレル業界で働きたいな」と考えていた人は、自分がアパレル業界のどの職種で働きたいのかを明確にするのに一役買ってくれるでしょう。
- 著者
- 大森 〓@41F0@佑子
- 出版日
あまり先行きのよくなさそうな話題が増えているアパレル業界ですが、この業界を志望する人には「ファッションが好き」という気持ちがあるはずです。最後に「やっぱりファッションって楽しいな」と思える本を紹介します。
1990年代から人気のあるスタイリストであり、「装苑」や「Olive」でのスタイリングも手掛けた大森伃佑子氏の『FOR A GIRL』は、コーディネートだけでなく紙面デザインや広告的な観点からも勉強になる書籍です。
雑誌「装苑」で連載していたページを一部抜粋、再編集した内容になっており、とても読みごたえがあります。ファッションを通した自己表現や哲学を読み取ることができ、自分のなかで固定されていた「ファッションへの理解」がゆるやかに見直されていくようです。
ファッションを使った表現を知りたい人や、あらためてファッションについて考え直したい方にもおすすめです。
アパレル業界の今とこれからについて、分かりやすく解説しました。
あらゆる書籍やニュースなどでアパレル業界、産業に関するネガティブな推測を目にしますが、その全てが実際に起きるとは限りませんし、未来のことは誰にもわかりません。先陣をきって小売でアパレル業界に新たな風を吹かせている方は多くいますし、この記事を読んでいるあなたがその1人になることもありえるでしょう。
衣食住は人が生活する上で切り離せない営みですから、現状からよい方向に変わる可能性だってないわけではないのです。
大切なのは洋服が好きという気持ちです。その気持ちを大切にできる進路を、諦めずに探してみてください。