あなたは、ビジネスとアートは関係ないと思ってはいませんか?グローバル企業の幹部が美術の名門ロイヤルカレッジオブアートでトレーニングを受けることが流行しているそうです。 優秀なビジネスマンがこぞってアートの勉強をしているというのです。理由は、複雑で不安定なビジネスの世界で、論理や分析の能力だけでは不十分であることに気づいたから。 本記事では、『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』の内容まとめを中心に、数多く講演も行っている著者の経歴やほかの作品、読みやすい解説漫画まで、幅広く紹介していきます。 ぜひ、ビジネスとアートは密接しているんだという気づきを得ていただけたら嬉しいです。
著者の山口氏は、ビジネスをする際、次の3つの要素のバランスが重要だといいます。理性や論理からなる「サイエンス」、経験や知識からなる「クラフト」、そして感性や直感からなる「アート」です。この「アート」が、本のタイトルにある美意識にあたります。
ここでいう美意識とは、何が正しいのかを認識する「真」、何がよいのかを判断する「善」、何が美しいのかを感じる「美」から成り立っていて、自身の内部にその基準を持っているのです。
この「アート」を重視しているビジネスマンは少ない一方で、「サイエンス」が重視されていることが多くあります。これによって、ビジネスに必要な3つの要素のバランスが崩れてしまっているのです。
では、「サイエンス」が重視されることのどこが問題なのか。その理由を、筆者は以下の3つにまとめています。
1.論理的情報処理スキルの限界が露呈しつつあるため
2.巨大な「自己実現欲求市場」が登場しているため
3.システムの変化にルールが追いつかない状況が発生しているため
3つの根源として共通していえることは、ビジネスは日々変化しているということ。一昔前と比べると、論理だけでは解決できない複雑な要素が絡からみ合っているのです。
だからこそ、「アート」を学ぶことで美意識を鍛え、その変化に対応していかなければなりません。
- 著者
- 山口 周
- 出版日
- 2017-07-19
先ほど、「サイエンス」を重視することの問題点を3つ紹介しました。ここでは、その3つをさらに深掘り、美意識を鍛える必要性を説明していきます。
筆者は、この問題の発生について、大きく2つの要因が絡んでいるといいます。
1つ目は、「正解のコモディティ化」です。分析的かつ論理的な情報処理のスキルは、ビジネスパーソンにとって必須のものでした。しかしそれは、自分以外の多くの人も行き着く考えなのです。論理思考というのは、正解を出す技術に過ぎないということを忘れてはいけません。
この技術だけを鍛えるということは、「差別化の消失」が発生するということ。論理的情報スキルである「サイエンス」を重視し過ぎると、必ずこの問題が発生するのです。
2つ目は、論理的情報処理スキルの「方法論に限界がある」こと。ビジネスパーソンが向き合う問題は、難易度がきわめて高くなってきています。論理的かつ理性的なプロセスのみによって、有効な解を見出すことが難しくなってきている(『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか』p42参照)と筆者はいうのです。
このように意思決定が滞ると、結果としてビジネスが停滞してしまいます。関わっているビジネスパーソンは、疲弊していく一方です。
以上のような2つの事態を回避するために、論理と理性だけではなく、直感と感性、つまり「美意識」に基づく意思決定が必要になるのです。
市場のライフサイクルの変化に伴い、消費者が求めるものも変わってきます。市場の導入期から順を追って整理してみましょう。
最初は「こんな機能があったらな」といった機能的便益のフェーズから始まります。それがある程満たされると、次は「こんなデザインのものがいいな」といったような情緒的便益のフェーズへと変化します。そして最後に、美的な感覚が重要視される自己実現的便益のフェーズがやってくるのです。
全地球規模での経済成長が起こっている今、この自己実現欲求の市場になってきています。このような市場を生き残っていくためには、何が人々にとって美しいかを提案できる力が必要です。
そこで、筆者は人の承認欲求や自己実現欲求を刺激するような感性や美意識が重要になる(『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか』p18参照)と結論づけました。
コピーが不可能なストーリーや世界観を作り出すことができれば、それは大きな強みになります。
これまでは、明文化されたルールだけを根拠とする考え方が一般的でした。しかし今は自然や人間の本性(真・善・美)に一致するかを重んじる考え方に変わってきています。
つまり「倫理が先、ルールが後」という時代ということです。本来ならばルールをより所にして判断を行っていましたが、この新しい考え方は大きくルールを踏み外してしまう可能性があり、危険です。
ルールの整備がシステムの変化に引きずられている今、クオリティの高い意思決定を継続的にするために必要なのが美意識。内在的に「真・善・美」を判断することで、自分たちを守っていかなければなりません。
これからの時代、なぜ美意識が必要かを理解したところで、「どうやって美意識を鍛えればよいか」について解説していきます。
筆者は、美意識を鍛えるための手段として、絵画、哲学、文学、詩の4つを挙げています。1つずつ見ていきましょう。
2011年、エール大学の研究者グループが絵画を見ることで観察力が向上することを証明しました。(『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』p215参照)観察力、つまり観る力を鍛えるには、具体的に以下の方法があります。
・何が描かれているか観る
・絵の中で何が起きていて、これから何が起こるのか考える
・自分の中にどのような感情や感覚が生まれているか言葉にする
これらを順におこない、30分程度の対話をすることで、「見えていなかったものが見える」ようになってくるのです。
このように、広い範囲や細部の情報を観察することで、対象からさまざまな気づきを得ることができます。結果、固定されていたパターン認識から脱却し、新しいものを生み出すことができる、という流れです。
哲学を通して得られる学びは、大きく分けて以下の3種類あります。
・コンテンツからの学び
・プロセスからの学び
・モードからの学び
1つずつ説明していきましょう。コンテンツというのは、内容そのもののこと。プロセスというのは、コンテンツを生み出すに至った気づきと思考の過程です。そしてモードは、哲学者自身の世界や社会への向き合い方をいいます。
例えコンテンツは古くても、プロセスとモードからの学びは深い、と筆者は考えます。哲学を学ぶことの意義のほとんどは、プロセスとモードにあると言っても過言ではありません。
その当時の支配的な考えへの向き合い方を学ぶことが重要なのです。
文学は、美意識の感覚を研ぎ澄ませるものです。筆者は、美意識を鍛えるにあたって最も有効なものが文学を読むことだという考えを主張しています。
人類は、「真・善・美」とはなにかをずっと問い続けてきました。そして文学は、この問いに対して物語の体裁をとって考察するもの、捉えることができます。
文学を読んで共鳴する場所を探すことが、美意識を鍛えることにつながるのです。自分に何が共鳴するのかを常に考えることが重要ですね。
多くのビジネスパーソンにとって、詩は絵画よりも遠い存在かもしれません。しかし、ビジネスパーソンに必要なリーダーシップと詩には、強いつながりがあります。それは「レトリック(修辞)が重要である」ということ。
リーダーシップを発揮するには、人の心を動かすために言葉の力をうまく活用することが大事になります。一方で詩は、少ない情報量で豊かなイメージを伝達しなければなりません。
つまり詩を学ぶことは効率的なコミュニケーションのトレーニングになります。あなたの言葉に力を与えてくれるのです。
『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか』の著者は一体どんな人なのでしょうか?気になる彼のプロフィールや経歴を深掘りしてみました。
山口周(やまぐちしゅう)氏は、1970年東京都生まれ。慶應義塾大学文学部哲学科卒業後、同大学院文学研究家美学美術史学を専攻し、修士課程を修了しました。美意識を鍛えることには早い段階から関心があったようです。
電通、ボストン・コンサルティング・グループなどで勤めた経歴を生かし、「人文科学と経営科学の交差点」をテーマに活動を行っているようです。
キャリアやコンサルに関する本も多数出版しています。今回紹介している『世界のエリートはなぜ「美意識」と鍛えるのか?』でビジネス書大賞2018準大賞、HRアワード2018最優秀賞(書籍部門)を受賞しました。
ここで、アートとビジネスをテーマにしたインタビュー記事を紹介します。
「山口周インタヴュー “正しい美意識”はどこにもない、心の中に湧き上がる感覚があるだけです」
https://imaonline.jp/articles/art_and_business/20180704shu-yamaguchi/
こちらは2018年6月のものです。世界のエリートが美意識を鍛える理由について、非常にわかりやすく説明されています。
実は、『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』は漫画も出版されています。こちらは物語形式となっており、図解も豊富でわかりやすい内容です。
- 著者
- ["山口 周", "PECO"]
- 出版日
入社3年目、アジサイ食品企画開発部で働く「今井さき」が主人公です。彼女の目標は、自分が食べたい弁当のおかずを商品化すること。そんなある日、新商品の社内コンペにチームで臨むことになりました。さきは得意のデータ分析で、おかずのトレンドを掴もうと奮闘する物語となっています。
漫画の中には、原作の著者であり、漫画の監修者である山口氏も登場します。どうしてビジネスにアートが必要なのか、話し言葉でわかりやすく説明しています。
まずは原作を読み、漫画でさらに理解を深めるのもよし。忙しい方は漫画でさらっと読んでしまうのもよいでしょう。
まず1つ目は、『ニュータイプの時代 新時代を生き抜く24の思考・行動様式』です。こちらは2019年7月に出版されました。
- 著者
- 山口 周
- 出版日
- 2019-07-04
「正解を出す力にもはや価値はない!」と、「サイエンス」重視し過ぎるエリート像を切り捨てます。変化した今の時代に必要とされる「ニュータイプ」の人材とは、どのような思考・行動様式を持っているのか? その疑問に答えてくれるでしょう。
不確実な現代を生きるすべての人に、これからの時代のキャリア戦略を提示してくれます。「今のキャリアを歩み続けてよいのだろうか」とお悩みの方は、ぜひこちらの本を手に取ってみてください。思考・行動を変化させるヒントを与えてくれることでしょう。
2つ目は『武器になる哲学 人生を生き抜くための哲学・思想のキーコンセプト50』です。2018年に出版され、7万部を突破しました。NHK「おはよう日本」で紹介されるなど、「使える哲学本」として、ビジネスパーソンから多くの支持を得ています。
- 著者
- 山口 周
- 出版日
- 2018-05-18
こちらの本で紹介される特に大切と感じたコンセプトは4つ。
・なぜ、この人はこんなことをするのか
・なぜ、この組織は変われないの
・いま、社会でなにが起きているのか
・思考の落とし穴に落ちないために、どうすればよいか
そして特徴的なのは、それぞれの考え方を、哲学を通してビジネスシーンや日常生活にどう適用できるかが明確であることです。「哲学って難しい……」と感じている人はもちろん、1度哲学に挫折してしまった人にもおすすめしたい1冊です。
最後、3つ目に紹介するのは『「仕事ができる」とはどういうことか?』です。こちらの本には、筆者と経営学者である楠木建が「仕事ができる」の正体を求めて行われた対談が描かれています。
- 著者
- ["楠木 建", "山口 周"]
- 出版日
あなたは「仕事ができる人になりたい」と思ったことはありませんか?では「仕事ができる」とはどういうことでしょうか。本によると、それはずばりスキルを超えたセンスを持っていることだといいます。
しかし、センスを鍛えるにはどうすればいいかについて書かれている本が、それほど多くないことはお分かりでしょう。2人はそこに着目し、スキルがセンスより優先される状況が起きる理由から、「何がセンスを殺すのか」「センスを磨くとはどういうことか」まで論じています。
読めばきっと、あなたの「仕事観」が変わっていくはずです。
最後に、『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』についてわかりやすくまとめられたYouTubeを2つ紹介します。
「【名著】世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?【解説】」https://www.youtube.com/watch?v=QhruWy-mcIs
こちらはアニメーションを用いて、内容紹介をしています。また、動画の下部に説明文が表示されているため、さらに理解が深まります。
動画は約7分。家事や通勤の途中など、忙しい方でも聞くことができそうですね。
「【NewsPicks】ダイジェスト:山口周』ビジネスパーソンのためのアート×哲学』」https://www.youtube.com/watch?v=vm2gCAZXExQ
こちらはNewsPicksから出ているダイジェスト動画(5分)です。筆者本人がトークイベントで、ビジネスの中心であるオッサンについて洞察しています。
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いかがでしたか?ビジネスとアートは密接に関係していることに気づけたでしょうか。『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』では、さらに詳しく、美意識を鍛える理由や方法について書かれているため、ぜひご自身で読んでみることをおすすめします。
現在は複雑で不安定なビジネスの現場が増えてきています。サイエンスだけにとらわれず、美意識を身に付けることによって新たなリーダーが生まれることでしょう。
本記事が、あなたが「美意識を高めよう」と思うきっかけになれば嬉しいです。