無隣館の同期に西さんという人がいる。

西さんの本名は西風生子さんで、「にし ふうこ」さんという。よく名前を「西風さん」と間違えられている。間違えられるたびに、「よく間違われるんで」と間違えてきた人に対して、フォローを入れている。優しい人だ。

西さんは俳優だ。私は西さんのことをとても尊敬しているし、嫉妬もしている。

西さんは舞台上でとても自由な人だ。毎回やってることが違うし、毎回面白い。どーんと何も構えずに立ち向かう。恐れを知らないように見える。西さんは次何をやるかわからないという感じがして、気づいたら目で追ってしまう。上手いなぁと思う。西さんは中学のときのバスケ部のトレーナーを稽古着にしてよく着てくる。その無頓着さがかっこいいのだ。

ある日、西さんとたまたま一緒に帰る機会があった。私は西さんの佇まいはどこから来ているのか気になって、西さんが今までどうやって過ごしてきたのか色々詮索していたけれど、気付いたら、立場が逆転していて、私が西さんに色々質問をされていた。

西さんの質問は哲学的で、「人はどうして悲しみを背負って生きているんでしょうか」という内容のものが多かった。そういった類の質問をする人と今まで出会ってきていなかったので、戸惑った。最初は、冗談で聞いてきているのかな?と思ったので、「どう思うの?」とはぐらかした。すると、西さんは2、3分黙り込んで、慎重に言葉を選んで答えてくれた。西さんは破天荒そうに見えて、めちゃくちゃ繊細な人なんだとそのとき気づいた。舞台上で見る西さんと西さんの考えていることのギャップが大きくて、私は西さんという人にとても惹き込まれてしまった。

前置きが長くなってしまったけど、その西さんに去年、この漫画をおすすめしてもらった。いつか読もう、いつか読もうと思っていたけれど、先延ばしにしてしまっていた。

先日、美容院に行った。そこの美容院は漫画がたくさん置いてあって、西さんに教えてもらった『岡崎に捧ぐ』もあった。私は一巻を手にとって、読み耽った。おもしろかった。ぼさぼさだった髪もきれいに整えてもらった。

帰りに、2、3羽のカラスが何かをつついていた。お菓子のゴミの袋を漁っているのかな?と気になって近づいてみた。ウゴウゴしていた。それは生き物だった。ひっくり返っていたから何なのか分からなかった。甲羅のなくなったカメかなと思ったけど、よく見ると、大きなガマガエルだった。東京の道端でこんな大きなカエルを見れることなんてあるんだなと思った。このまま死んじゃうのかな、と見ていたけど、カエルは起き上がって、歩き出した。休み休み、歩いていた。呼吸で身体が膨らんだり、縮んだりしていた。カエルが知らない人の家の庭に入っていって姿が見えなくなったから、私も家へ帰ることにした。

岡崎に捧ぐ

著者
山本 さほ
出版日
2015-05-20

作者である山本サホさんと、親友の岡崎さんのお話です。二人が出会って友達になっていった小学生からのお話です。スーファミなどのゲームの話や漫画の話や当時流行っていたものがたくさん出てくるので、懐かしさを感じる人も多いのではないでしょうか。一巻では小学生時代、二巻は中学生時代、三巻は高校生時代、四巻は浪人生時代、五巻は就職してからのことが描かれています。

山本さんの見方がとても面白く、こんな風に物事をとらえて生きていきたいなぁと思いました。昔のことまで細かく覚えていらっしゃっていて、すごかったです。

一~三巻の学生時代のバカバカしい遊びやくだらなさにお腹を抱えて笑ったし、同じクラスにいた子たちのことを思い出したりもしました。あの頃わからなかったことが、今わかったりするんですよね。小学生のときの友達の家庭環境とか、中学生のときの自意識の過剰さとか。一巻の最後に出てくるエピソードが好きです。四巻や五巻は、今の自分の年齢に近くて、何度も頷きながら読んでいきました。自分の存在価値や周りと比べて凹んだり、未来のことを考えて恐ろしくなったり、全部逃げ出したくなったりすることってありますよね。すごく響くからおすすめです。美大の予備校時代の話が面白かったです。そして、「岡崎に捧ぐ」というタイトルの意味も最後に気付きます。

絵がシンプルだから、自分に置き換えて読み進められます。漫画も好きですけど、あとがきの言葉も素敵です。

山本さんは漫画の中で、何度も「私は逃げてきた」って書いているけど、私は山本さんがそんな風に逃げていると感じませんでした。むしろ、自分と向き合って、ずっと挑戦しているように感じました。周りの人に対して、思いやりがあるし、だから明るく、面白く、岡崎さんも山本さんに惹き込まれたんだと思います。

ちょっとの休憩に、ぴったりな本です。

「よっしゃ!頑張るぞ!」じゃなくてもいいと思います。

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