「出版業は斜陽だよね」「ほかの業界と比べると特殊だよね」など、少々ネガティブな見方をされることも少なくない出版業界。しかしホンシェルジュ読者にはきっと気になる業界なのではないでしょうか。しかしそもそもの出版業界の仕組みや、出版業界の現状と今後の課題をまず知っておく必要があるでしょう。 本記事では出版業界の構造と、出版の今を知るためにおすすめな書籍を紹介していきます。さまざまな働き方もご紹介するので、出版業界の道に進みたいと考えている方はぜひ参考にしてみてくださいね。
出版業界に関心のある人なら「出版不況」という言い回しを聞いたことがあるかもしれません。10年、20年という長い単位で、出版は少しずつ業界規模を減らしてきたと言われています。ほかの産業と比較しても独特な点がある出版は、具体的には何が特殊なのでしょうか。産業構造をまず知っておきましょう。
生産・製造者が商品を作り、卸が買い付け、流通業者を経て小売店に並ぶ。一般消費者に向けた現代の市場では、細部は違えどこのような仕組みで商売がおこなわれています。
出版業界の場合、生産・製造者にあたるのが出版社です。そして、卸にあたる業者が「取次(とりつぎ)」です。この取次という業態が出版業界を知る上でまずひとつ大切です。
◾️販売に欠かせない配本制度
取次は出版社から本を仕入れて、取引のある書店に入荷します。これを「配本」と言います。通常、出版社は配本制度を使わずに本を販売することはありません。書店に並んでいる書籍のほとんどは、取次から配本されてきたものだと考えてください。
「でもそれだと書店は売れない本まで押しつけられてしまうのでは?」という疑問が出てくるかもしれません。出版業界はそのことを見越して「委託販売」というシステムを作り上げています。
◾️書店に負担のかからない委託販売制度
通常の商売では、小売店は定価よりも安い卸値で商品を仕入れて販売します。一方、委託販売は売る側が書店に商品を置くスペースを借りて売ってもらうという制度です。売れた分だけ書店側には手数料や売上の一部が入ってくる仕組みになっています。
書籍にはヒットしてどんどん売れるものもあれば、ほとんど売れないが文化として重要だというものもあります。学問や芸術などの「金にならない」分野の書籍もきちんと絶やさずに出版・販売を続ける必要があるため、売る側の書店に負担のかからない委託販売制度というものが取り入れられているのです。
また、出版業界にはもうひとつ大きな特徴があります。それは「再販制度」です。再販制度は、簡単に言うと出版社が決めた本の定価を販売者に守らせることができる制度です。
◾️書籍は定価販売の強制力が認められている
商品の定価を生産者が勝手に決めて、小売店側にそれを強制することは日本では違法です。独占禁止法がそれを禁じています。このような強制を認めてしまうと自由競争が失われてしまうからです。
しかし書籍は例外的に定価販売の強制力が認められている商品です。販売価格が一定であることで、全国どこにいても同じ値段で同じ書籍を購入することができるようになります。
◾️古本屋や書籍ECサイトは対象外
「でも古本屋は値段がバラバラだよね?」という疑問が出てきたでしょうか。古本屋や一部の書籍ECサイトは、取次を通した委託販売ではなく、自分たちで書籍を買い取って販売しています。そのため再販制度の枠からは外れ、自由に価格を決めることができるのです。
出版業界の大きな特色である「委託販売」「再販制度」ですが、最近ではこの制度に頼らないケースも増えてきました。
一見、書店側に大きなリスクがないようにみえる委託販売制度は、「取次が倒産してしまうと商品の入荷が止まる」というデメリットがあります。実際に近年は中小の取次業者が相次いで倒産したため、連鎖的に閉業する書店が少なくありませんでした。
また、取次を通して全国に配本するためには何千部という部数が必要になります。そこまでたくさん印刷ができない小規模な出版社には配本制度はあまり使い勝手がよくありません。
こういった事情から、出版社と書店が直接やりとりして委託販売や卸値での買い取り販売をおこなうケースが増えてきました。有名な例では「蔦屋書店」を擁するTSUTAYAが買い取り販売をおこなっています。
出版業界の構造について解説してきました。続いては、実際に働くとするとどのような仕事があるのか見ていきましょう。
編集者という職業はよく目にするものの何をやっているのかいまいち分からない、という人も少なくないのではないでしょうか。編集者は書籍を作る現場で、最初の企画から出版までを担当する総合プロデューサーのような役割を果たします。
書籍を出版するためには、まず最初の企画が大切です。出版社内部で「この企画をやりましょう」という提案が通ると、著者に依頼が出て執筆が始まります。
編集者は書かれた内容を確認してブラッシュアップしたり、スケジュール通りに進行しているかを管理したりします。内容ができあがってくるのと同時進行で、本をどのように作るかも決めていきます。装丁やデザインの進行なども担当します。
本が仕上がったら別部署にある営業とコミュニケーションを取り、この本がどのような内容なのか、どんな読者に届いてほしいかなどを伝えます。社内・車外を問わず人とのやりとりが非常に多い職業なので、企画力やコンテンツを読む力以外にコミュニケーション能力も大切です。
書籍を販売するときに活躍するのは営業担当者です。出版社は取次に本を渡して終わりではなく、実際に配本された書店へ行って営業活動もおこないます。
書店にはたくさんの本が常に入荷しているため、全ての本に目配りをするのは簡単ではありません。そのため、営業担当者が実際に足を運んで「売れ行きはどうか」「入荷冊数は適切か」「もう少し売り方に工夫はできないか」といったことを確認していきます。
場合によっては書店と交渉して売り場面積を広げてもらったり、フェアを開催してもらったりすることもあります。
広報担当者は広告を打ったり、新聞等のメディアに取り上げてもらうためにコミュニケーションをおこなったりします。最近ではSNS活用に力を入れている出版社も少なくありません。
先に解説したように、取次は書籍の卸業者です。取次は全国各地に取引先の書店があります。また、取り扱う書籍の店数も非常に膨大です。クライアントが多く、商品点数も多いので、細々とした作業が多い仕事です。取次にも営業担当者がいますので、出版社と同様に各地の書店へ営業活動に出ることもあります。
また、取次は公共図書館への販売も担当しています。どこの取次を選ぶかで蔵書の傾向が変わる図書館も出てきます。大手の取次は書籍だけでなくさまざまなものの卸をおこなっています。そのため、入社してみたらおもちゃやお菓子などの意外な商材を担当することになるかもしれません。
紙の書籍に欠かせないのが印刷業です。大手出版社の書籍は、大日本印刷や凸版印刷のような大手印刷業が担当することが多いですが、それ以外の印刷業者も活躍しています。書籍の奥付には担当した印刷業者が記載されています。好きな本を印刷しているのはどこなのか、探してみると就職先の候補が広がるかもしれません。
書店の売り場にはたくさんの工夫が見られます。独自で選書をしてフェアを開催していたり、本だけでなく生活雑貨も販売したり、新刊本と古書を一緒に販売したり、など、探してみるとさまざまなアイデアを見つけることができます。
書店で働くのは体力仕事ですが、経験を積むと自分の裁量で任せてもらえる範囲が増えることもあります。絵が得意な従業員が独自でポップを描いたり、自分の読書経験を活かして選書してみたりと、得意なことが活かせるかもしれません。
出版業界に関する話題のなかで、雑誌の動向や販売部数については気になる人も多いのではないでしょうか。実際、2020年までに多くの有名雑誌が廃刊・休刊になるなどショッキングなニュースは多く見られました。しかし一方で、新しい雑誌も登場していますし、雑誌については各社の工夫が見られる部分もあります。
10歳以下の「アルファ世代」と呼ばれる世代を対象にした雑誌に注目が集まっています。10代、20代が紙からオンラインに移行しているのとは対照的に、10歳以下はオフラインで読み物を楽しんでいます。
また10歳以下を対象にした雑誌には、大人からの注目も集まっています。そのきっかけが雑誌についている付録です。「幼稚園」では「セブンティーンアイスの自動販売機」や「公衆電話」、「ワニワニパニック」などが特別付録としてついてくる号も販売されました。
子供にとっては新鮮ですし、大人にとっては懐かしいと感じる付録が話題になり、売り上げを伸ばしている好事例です。
そして大人向け雑誌でも、雑誌の内容ではなく付録目当ての購入者が増えています。10代、20代に人気のアパレルブランドとコラボしたコスメやファッションアイテムが付録になっているため、それを求めた購入者が増え、時には完売することもあります。
付録自体のクオリティも上がっているため、その分、雑誌としての価格は上がっています。
従来、雑誌は10代向け、20代向け、ビジネスマン向け、ママ向けと大きな枠でくくられていましたが、今後は細分化されたターゲット向けの雑誌により注目が集まるでしょう。
実際、50、60、70代をターゲットにした「ハルメク」や「素敵なあの人」、「リンネル」など、よりセグメントされた情報を発信している雑誌は売り上げを伸ばしています。
10歳以下や50〜70代はSNSで情報収集することが習慣化されていないため、オフラインで最新の情報が集まる雑誌を購入する傾向が高いことが読み取れますね。
出版不況、雑誌販売部数の減少で多くの人が雑誌はなくなるのではと思っているかもしれませんが、紙の本がなくならないと言われているように、雑誌もなくなることはないでしょう。
各出版社では、雑誌を軸にSNSとの連携をおこなったり、イベントを開催したりと、雑誌だけではコンテンツが完結しないような取り組みが多くなされています。
雑誌は広告を掲載する広告ビジネスであるため、物理的なタッチポイントである雑誌自体をなくすことは考えづらいでしょう。
- 著者
- 出版日
- 2015-03-20
「もう少し書籍の仕事を知りたい」という人におすすめなのが『エディターズ・ハンドブック』。編集の仕事に携わる際の心構えを知ることができます。実務に役立つ「校正の仕方」「表記ルール」なども記載されています。
本の企画立案から出版流通までを一貫しておこなう編集者の仕事を知ることができます。実際に使える編集技術を身につけることのできる1冊です。
ライター・編集者を目指す人以外にも、面白いと言われる企画を考えたい人にもおすすめの内容です。
- 著者
- ["ネルノダイスキ", "ネルノダイスキ", "三根かよこ", "ネルノダイスキ"]
- 出版日
全国に増えつつある小さな出版社。作っている人の好みや考えていることがよく分かるようなラインナップが魅力です。最近ではAmazonなどのプラットフォームだけでなく自社のECサイトを持っているところも多いので、ぜひお気に入りを探してみましょう。
『ひょうひょう』は、神奈川県三浦市にある出版社「アタシ社」から出版されている漫画です。不思議な生き物の暮らすちょっと変わった世界が詰め込まれた短編集です。
全てがボールペンで描かれているという素晴らしさ。不思議で、シュールで、魅力的な世界観に引き込まれること間違いなしです。
ECサイト
- 著者
- 内沼 晋太郎
- 出版日
- 2013-12-11
オフィスに置いておく参考書籍や、カフェでお客さんが読むことのできる本棚。どんな人が本を選んでいるのか、気になったことはありませんか? 「他の人や会社のために本を選ぶ」ことを仕事にしている人が実はいるのです。
そのうちのひとり、内沼晋太郎氏が書いた『本の逆襲』は、出版不況と言われる現代でも本はおもしろい、価値のあるものだ、ということをさまざまな実例から伝えてくれる本です。
たくさんの情報に煽られて、これからの「本」や「本屋」の未来は暗いと決めつけてはいませんか。この本を読むと、発想次第で本の未来は明るくなると考え直すことができます。本好き、本屋が好きな人にはぜひ一読してほしい1冊です。
- 著者
- piggiesagogo 赤星友香
- 出版日
出版社に原稿を持ち込み、必要な費用を著者が全部持っておこなう自費出版。自費出版は高価であることで有名でしたが、最近では事情が変わりつつあります。
『piggiesagogoのシームレスなあみぐるみ』は、筆者が自費出版した編み物本です。本は注文ごとにAmazonのオンデマンドプリントサービスで印刷されるので、在庫を持つ必要がありません。非常に安価に出版することが可能です。インターネットの普及にともない、出版の事情も変わりつつあります。
ECサイト
他の業界と比較して特殊と言われる出版業界について紹介しました。
出版業界での働き方や、職種、出版業界の販売の仕組みや、今後の動向などについても解説しています。本が好きで出版業界の不況について気になっている人や、これから出版業界への就職・転職を考えている人はぜひ参考にしてみてください。
紹介した書籍もおすすめなのでぜひ読んでみてください。