リハビリ職のひとつでもある作業療法。理学療法と混同される方も多い印象であり、実際に医療現場で働かれている方でも、理学療法と作業療法の違いが分からないという方もいらっしゃいます。 作業療法とはどんな学問なのか、理学療法との違いは何かについて詳しく解説していきます。また、作業療法を学ぶことでどんな職業に就くことができるのかについても解説していきます。 さらに、作業療法をこれから学ぼうと考えている方におすすめの書籍もご紹介していきますので、ぜひ参考にしてみてください。
作業療法とはリハビリテーションの1つの分野です。一般社団法人日本作業療法士協会では下記のように定義されています。
人々の健康と幸福を促進するために、医療、保健、福祉、教育、職業などの領域で行われる、作業に焦点を当てた治療、指導、援助である。作業とは、対象となる人々にとって目的や価値を持つ生活行為を指す
参照:一般社団法人日本作業療法士協会
作業療法の対象は、日常生活の全ての動作です。たとえば私たちが普段の生活でご飯を食べたり、お風呂に入ったり着替えたりするこの一つひとつが作業ととらえています。
日本作業療法士学会では「人の日常生活に関わる全ての動作を作業」と位置づけています。作業療法はこの作業にアプローチをしていくことを目標としています。また、日常生活だけでなく、就学や就労など社会に適応していくことも作業療法が目標としているところです。
作業療法のプログラムはその人の必要性に合わせて多岐にわたるため、作業療法の学問では幅広く学習していきます。また、作業療法はほかのリハビリテーションの学問のなかでも唯一、精神障害の方へのリハビリを深く学んでいくということも特徴です。
リハビリテーションの職業のなかでも作業療法士と理学療法士は混同されやすい職業です。理学療法と作業療法は何が違うのか、買い物を例にとってご紹介します。
理学療法では、家から目的地まで歩いていく、買い物かごを持つ、荷物を持って家に帰るという大きな動作の部分に着目をして、この行動に対してアプローチをしていきます。
一方、作業療法は、家から出て家の鍵をかける、信号などに気をつけて目的地へ行く、買うものを選ぶ、お金を払う、袋に入れる、家の鍵を開けて買ってきたものを取り出すという作業に着目して、アプローチをしていきます。
行動に着目するのか、やっていることに着目するのかが理学療法と作業療法の明確な違いであるといえます。
作業療法は、大学または専門学校などの養成校で学ぶことができます。 作業療法士の国家資格を得るには国が認める養成施設で学ぶ必要があるため、資格取得を考えている方は、大学や専門学校への進学は必須です。
2019年時点で、養成施設は全国に193校あります。北は北海道から南は沖縄まで、全国に養成施設があるため、非常に学びやすい学問であるといえるでしょう。
それらの大学・専門学校で3年もしくは4年就業することで、資格試験の受験資格を得ることができるのです。
作業療法士として働くためには基礎的な医学的な基礎知識はもちろん、福祉、社会学、心理学など多岐にわたる知識を学びます。具体的には下記の分野を学ぶことになります。
◾️基礎分野
◾️専門基礎分野
◾️専門分野
これらの作業療法のカリキュラムを履修すると、国家試験篇受験資格が与えられます。この国家試験に合格すると作業療法士の資格を取得することができます。大学や専門学校で作業療法について学ばれた方のほとんどが、この国家試験を受けて作業療法士の資格を取得されています。
大学や専門学校を卒業して作業療法士の国家試験の受験資格を得ても、試験に合格しなければ作業療法士として働くことはできません。
作業療法士の国家試験は例年2月におこなわれます。試験地は北海道、宮城県、東京都、愛知県、大阪府、香川県、福岡県、沖縄県の全8都道府県です。
◾️試験科目
試験科目は、一般問題と実地問題の2種類があります。
<一般問題>
解剖学、生理学、運動学、病理学概論、臨床心理学、リハビリテーション医学(リハビリテーション概論を含む)、臨床医学大要(人間発達学を含む)および作業療法
<実地問題>
運動学、臨床心理学、リハビリテーション医学、臨床医学大要(人間発達学を含む)および作業療法
幅広い専門的な知識を問われるため、大学や専門学校に通っている間の日々の勉強がかなり大切となってきます。学校以外にも自習の時間を多くとることで、試験合格への道が開けるでしょう。
作業療法士国家試験の合格率は、例年70〜80%超えと高水準です。これは養成学校で基礎からしっかりと勉強をする機会が与えられているためと考えられます。過去5年分のデータも見てみましょう。
平成28年度:87.6%
平成29年度:83.7%
平成30年度:76.2%
令和1年度:71.3%
令和2年度:87.3%
過去には90%を超えていることもあり、かなり合格率が高いことがうかがえます。
日本作業療法士協会が公開しているデータによると、作業療法士の2020年の国家試験合格率は87.3%とされており、しっかりと勉強をすることで国家試験に合格することは可能であるといえます。
また作業療法士の資格を取得した方の就職率は100%という数字も提示されています。これは作業療法を学んで資格を取得すると、リハビリ職のなかでも就職先が多岐にわたることが理由と考えられます。
作業療法の知識を活かせる就職先にはさまざまな施設があります。
なかでも最も多いのが病院で働かれる方であり、実際に作業療法士の資格を取得された方の7割ほどが病院で働かれています。他にも医療の分野であればクリニック、介護の分野であれば介護施設や通所施設で働いている作業療法士が多いです。
また、稀ではありますが、役所や特別支援学校、自動発達支援センター、刑務所でも働くことができます。
作業療法士は女性に資格取得者が多い職で、作業療法士の資格を取得している方の約7割が女性というデータもあります。子育て後に常勤に復帰するなど柔軟な働き方ができるため、結婚や出産などライフイベントを経験しても働き続けやすい職業であるといえます。
また、理学療法よりも手先のリハビリが多いため、力仕事が少なく、年齢を重ねても働きやすいという点も魅力です。
- 著者
- 山﨑 裕司
- 出版日
理学療法および作業療法を学ぶ上で着目されるADLについて書いた1冊です。患者さんのADL(Active Daily Life=日常生活活動のこと)を高めるためにはどうすればいいのかということが詳しく書かれています。
この本は会話形式で書かれていますので、とても読みやすいです。また、それだけではなくイラストや図も豊富ですので、初めて学ぶという方でも使いやすいことが特徴です。
さらに、QRコードを読み込むことで動画を見ることもできます。1冊でテキスト、イラスト、写真、動画の4つから学べるというところがこの本の最大の魅力といえるでしょう。
作業療法について学び始めた段階から、働いた後にいたるまで幅広く使っていくことができます。作業療法がどのようなことを学ぶのかを知りたいという方にぜひ一度目を通していただきたいです。また、作業療法を学んでいる方はぜひ自宅での練習にご活用ください。
- 著者
- ["小林隆司", "森川芳彦", "河本聡志", "岡山県学童保育連絡協議会"]
- 出版日
作業療法を学童保育の場で活かし、作業療法を通じた子どもとのかかわり方を書いた1冊です。
著者は、作業療法士として医療現場だけでなく作業療法を学ぶことのできる学校で教鞭を取っている方、障害児のケアに関わってきた方の2人です。
そのため、この2人の観点から、障害のある子どもだけでなく学童期の全ての子どもにおいて子どもの発達を促す作業療法の感覚遊び・学習・生活づくりを紹介しています。
もちろん、作業療法という学問についても詳しく書いてあるため、読んでいてとても勉強になりますので、この本は実際に働かれている作業療法士の方にも読者が多くいます。
将来作業療法を通じて子どもと関わっていきたいと考えている方だけでなく作業療法を学びたい方、子どもが好きあるいは親族など子どもが身近にいるという方はぜひ一度読んでいただきたい本です。
- 著者
- 早坂 友成
- 出版日
近年、精神疾患の増加にともない重要視されている精神科領域での作業療法について解説した1冊です。
さまざまな病態や働く場における精神分野の作業療法について細かく解説しているため、これから作業療法を学ぶという方も、今まさに学んでいるという方にも、さらには精神分野に就職した方にいたるまで幅広い方にお使いいただける1冊です。
執筆者もほとんどが現在現場で働いている方や、教師として生徒を指導されている方なので内容がこまかく非常に分かりやすいことが特徴です。
また、医療現場の改定に伴い本書もアップデートをされているため近年の傾向に則しており、すぐに活用することができます。
作業療法という学問は、学ぶ範囲が多岐にわたり、さまざまな知識と技術が必要になるといえます。
学ぶ範囲が広いこともあり、就職先も多岐にわたります。さらに作業療法を学んで得られる作業療法士という職業は、ライフスタイルが変わったり年齢を重ねても働き続けやすいので、作業療法を学んだ後はぜひ資格取得にもチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
今回は作業療法についてだけでなく、作業療法の知識を学べる幅広い領域の書籍をご紹介しています。書籍を参考にまずは作業療法に触れてみてはいかがでしょうか。