死の直前に被害者が残した血文字やサイン……ダイイング・メッセージは犯人捜しの明確なヒントになるため、解読できるかが重要です。この記事では、ミステリー小説を盛り上げるダイイング・メッセージが用いられたおすすめの作品を紹介していきます。
ウォール街で株式仲買人をしていたハーリー。自身の婚約披露パーティーを終え、2次会を自宅でおこなうために出席者とともに市電に乗り込みました。しかし、車内で毒殺されてしまいます。
凶器は毒針。彼のポケットに入れられていました。一時は犯人として疑われた車掌が海に落ちて死亡、さらに2人目の容疑者だった同僚も殺害されてしまいます。
唯一の手がかりは、ハーリーの左手の中指をねじ曲げられて作られた「X」の形だけで……。
- 著者
- ["エラリー・クイーン", "中村 有希"]
- 出版日
1932年に発表された、アメリカの推理小説家エラリー・クイーンの長編本格ミステリー小説。エラリー・クイーンはダイイング・メッセージの発明者ともいわれていて、なかでも本作は名作中の名作です。
ハーリー、車掌、同僚が亡くなった3つの殺人事件に挑むのは、変装が得意なイケメンオヤジ探偵のドルリー・レーン。あらゆるところに張られた伏線を回収し、ラストでダイイング・メッセージの謎も見事に解決する推理が鮮やかです。
アメリカのミステリー小説黄金期を代表する王道の一冊、まずは読んでみてください。
時は1960年代。アメリカ探偵作家クラブが主催する「エドガー賞」の授賞式に、エラリー・クイーン、ロス・マクドナルド、マーガレット・ミラーなどの有名作家や編集者が集まりました。
ところが、最高受賞者であるロス・クレグソーンが挨拶をしているちょうどその時、マイクに仕掛けられた銃が発射されてしまうのです。瀕死状態のクレグソーンは最後の力を振りしぼり、司会者の手から陶器でできた大鴉像をもぎとって、床の上に打ち砕きました……。
- 著者
- ["エドワード D.ホック", "皆藤 幸蔵"]
- 出版日
1969年に刊行された、アメリカの作家エドワード・D・ホックの作品。「短編ミステリーの名手」と評されていた作者が初めて手掛けた長編で、意外すぎる犯人と、作中にも登場するエラリー・クイーンにも解けなかったダイイング・メッセージの謎が話題になりました。
大鴉像を砕いたことはダイイング・メッセージなのではないか……そう疑った作家クラブの副会長が探偵役となり、犯人捜しが始まります。犯人はこのなかにいる、という正攻法のフーダニット。ミスリードの仕掛けもありますが、謎解きは非常に論理的で納得感があるでしょう。
実在するミステリー作家たちが登場し、「エドガー賞」の受賞者でも収入があまりないなどのリアルな事情も楽しめる一冊です。
平泉文化史の権威である歴史学者の高村が、盛岡のホテルで殺害される事件が発生。「アヒル」と書かれたダイイング・メッセージが残されていました。
新米新聞記者の法願総一郎は、そのメッセージから高村の弟子である阿蒜(あびる)静子に注目するのですが、彼女もまた何者かに殺害されてしまい……。
- 著者
- ["中津 文彦", "岡嶋 二人", "日本推理作家協会"]
- 出版日
1982年に刊行された、中津文彦の代表作。作者は岩手日報社で報道記者をしていた際に本作を書きあげ、「江戸川乱歩賞」を受賞しデビューしました。
法願は、源義経とモンゴルのチンギス・ハーンが同一人物であったとする「義経北行説」に関する古文書に事件を解く鍵があると見て、解読不能な古代和文字と格闘していきます。義経伝説、奥州藤原氏、中尊寺、黄金伝説、古代文字などが登場し、歴史好きにはたまらないストーリーでしょう。
比較的ゆったりと進む前半から一転、後半の暗号解読からの盛り上がり方は興奮もの。うんちくと本筋のバランスもよく、満足度の高い一冊です。
英都大学に入学したばかりの有栖川有栖。推理小説研究会に入部しました。
夏合宿のため矢吹山キャンプ場を訪れるのですが、矢吹山の突然の噴火、そして連続殺人事件に巻き込まれてしまいます。
- 著者
- 有栖川 有栖
- 出版日
1989年に刊行された、有栖川有栖のデビュー作。副題に「Yの悲劇'88」とあるように、エラリー・クイーンの影響を色濃く受けたクローズドサークルものです。
偶然居合わせた3グループの学生男女17人は、噴火の影響でキャンプ場に閉じ込められてしまいます。大混乱のなか、雄林大学の戸田という男子学生が刺殺体で発見。その後も地面に「Y」の文字を書き残し、次々と仲間が殺されていくのです。推理小説研究会の部長、江神が探偵役、有栖川がサポート役となり事件解決に臨みます。
トリックの完成度の高さと、青春小説のみずみずしさ、さらに読者への挑戦状も付いた珠玉のエンターテインメント作品となっています。
風ヶ丘高校に通う袴田柚乃は、試験勉強をしようと市立図書館に向かいます。ところが館内で殺人事件が発生。そこで、アドバイザーとして警察と一緒にいた裏染天馬と出会うのです。
天馬はイケメンでアニメオタクの高校生探偵。これまでにも数々の殺人事件を解決してきた天才でした。
- 著者
- 青崎 有吾
- 出版日
2016年に刊行された青崎有吾の青春ミステリーです。作者は2012年に『体育館の殺人』で「鮎川哲也賞」を受賞してデビュー、同賞史上初の平成生まれ作家として注目を集めました。本作は、デビュー作から始まった「裏染天馬」シリーズの4作目にあたります。
作者は謎解きでやりたかったことのひとつに「ダイイング・メッセージの解釈を徹底的に無視しつつ、すべての推理にダイイング・メッセージを絡めること」を挙げています。本作では、山田風太郎の『人間臨終図巻』で男子大学生が撲殺。彼は奇妙な、しかし犯人を明確に示す2つのダイイング・メッセージを残していました。
裏染天馬の推理は、突拍子もないようで実は論理的なところが魅力的。読者も探偵になって謎解きに参加できる、読者への挑戦状付き本格ミステリーです。
もじゃもじゃ頭によれよれスーツの名探偵、天下一大五郎と、迷推理で現場をかき乱す県警本部捜査一課の警部、大河原番三が12の難事件に挑戦する短編ミステリーです。
完全密室、バラバラ殺人、時刻表トリック、そしてダイイング・メッセージなど、ミステリー小説に登場するトリックとその舞台裏を面白おかしく描いています。
- 著者
- 東野 圭吾
- 出版日
- 1999-07-15
1996年に刊行された、東野圭吾の短編集。「バカミス(おバカなミステリー)」要素たっぷりで、本格ミステリーの旗手という東野のイメージとは異なるものの、彼の出世作のひとつとなりました。
ダイイング・メッセージをテーマにした「第4章 最後の一言」では、被害者が死の間際にわざわざ暗号化した犯人の名前を書き残します。天下一による鮮やかな推理で明らかとなるメッセージの内容とオチに、思わず笑いがこぼれてしまうでしょう。
元ネタと古典的手法に対する皮肉、そして作者の小説愛を感じられる、ミステリー通のための一冊です。