「住宅業界」と聞くと、大工や建築家などのイメージが先行しませんか? 実はそれだけでなく、大小さまざまな企業が関わっている業界なのです。たとえば、ハウスメーカーや中小工務店など、住宅業界には複数の業態があります。 他にも住宅ぎょうではどのような企業やどんな仕事での関わり方ができるのかなど、最近の動向について解説します。住まいに興味がある人はぜひおすすめの書籍も読んでみてくださいね。
「家を建てるのは大工さん」。そんなイメージがあると、「住宅業界」と言われてもあまりピンとこないかもしれません。まずはどのような業態があるのかを見ていきましょう。
就職活動で出会う企業としてはハウスメーカーが多いのではないでしょうか。名前の通り「家を建てる」メーカーです。それぞれのメーカーごとに、規格ものの住宅プランを提案しています。基本のプランがあり、敷地の広さや注文者の要望に合わせて部屋数を足したり減らしたり、設備を増やしたりします。
ハウスメーカーが建てている住宅は、実は比較的見つけやすいです。建設中の建物には足場が組んであり、その足場にネットがかかっていることがよくあります。ネットをよく見てみると、企業のロゴや宣伝文句が掲出されている場合がほとんどです。ロゴに着目して建設現場を巡ってみると、地域で人気のあるハウスメーカーが見えてくるかもしれません。
ハウスメーカーでの求人は、多くの部分が実際に顧客と会う営業職(総合職)が占めています。その他の一般職や、建築の専門知識がある設計担当者なども募集に入っています。
ハウスメーカーのように全国展開はしないものの、地域に根ざして住宅を作る中小工務店もあります。こちらも足場のネットにロゴを掲出していることが多いので見つけやすいでしょう。
ハウスメーカーや中小工務店は注文によって住宅を建てることもありますし、土地を自ら購入して「建売」をすることもあります。ポスティングで入っている新築住宅のチラシは、このすでに建設済みの建売住宅であることが多いです。
また、アトリエ系建築事務所も住宅に関わることが多い業態です。いわゆる建築家が経営する企業で、建物の設計を担当します。住宅にこだわりのある人が好きな建築家に依頼して設計をしてもらうケースも目立ちます。
工務店の場合は営業担当職などのほか、現場で仕事をする大工の募集も見つけることができます。企業の規模によっては毎年新卒を採用しているわけではないケースもあります。アトリエ系は設計担当者を採用することがほとんどで、大学で建築を学んでいるなどの条件がつけられることが多いでしょう。
ここまでは人を雇用する企業について見てきました。続いて紹介する職人は、住宅業界にはなくてはならない人材ではあります。しかし多くの場合は被雇用者ではありません。
ハウスメーカーや一部の工務店は、建設にかかわるすべての作業を自社で担当するわけではありません。工程管理のみを自社でおこない、建てる前の整地、コンクリートを流す土台づくり、足場を組む鳶、実際に建物を建てる大工などをそれぞれ外注しているケースがよくあります。
この場合の外注先が、いわゆる「職人さん」です。職人の多くは個人事業主であることが多く、得意先のハウスメーカーや工務店から受注して担当する部分のみ仕事をします。
職人の多くは工務店などで経験を積んだり、ほかの職人に雇われて働いたりしてから独立する「一人親方」です。ただし、受注が不安定であったり、過当競争があったりして労働環境はあまりよいとはいえません。
また高齢化の影響もあり、全国的には職人の数が減少しています。これからの住宅業界では、職人の確保が非常に重要な課題になってくる可能性があります。
参考:戸建住宅業界の構造と課題。深刻な中小工務店にみる技能継承 | SPEEDA
ここまで主に建物の外側を作ることを解説してきました。しかし、建物だけでは生活ができません。外側ができたら、内装の工事が始まります。
住宅の内装は設計段階で仕様が決められていますが、実際に施工する職人は別の人になることが多いです。そのため、工程管理がうまくいっていないと「受注時と違うものができてしまった」「作る予定のキッチンを入れるスペースがない」といったトラブルが発生することがあります。
少子化で人口減少傾向にある日本社会。果たして今後住宅の需要はあるのか? と心配している人もいるのではないでしょうか。業界全体の動向を見てみましょう。
少子高齢化の影響で、新築の着工数は徐々に減少しています。特に2020年上半期は社会情勢の変化によって着工数を大幅に減らした企業も少なくありませんでした。全体の着工数減少は、ある程度今後も続くと考えておいたほうが良さそうです
参考:20万戸の新設住宅需要が蒸発、住宅業界サバイバル戦:日経ビジネス電子版
一方、内装業はそれなりに新規需要を獲得しています。高齢化にともないバリアフリー化する需要が増えていることがまず挙げられます。実際に親族が車椅子でも使えるようにリフォームをした、という経験がある人もいるのではないでしょうか。
また、都市部では古い住宅をフルリフォームする、いわゆるリノベーションの需要も高まっています。特に東京近郊では新築価格が跳ね上がり、一般の会社員には手が出ない価格となっています。そのため中古マンションなどを現代のライフスタイルに合わせてリノベーションした物件に人気が出ています。この流れを受けて、内装に特化した工務店や代理店なども生まれています。
住宅そのものの需要減を受けて、住宅にまつわる周辺の事業を手がける企業も増えてきました。
「空き家管理サービス」は、親族の他界などによって空き家になってしまった住宅を定期的に見回り、管理するというサービスです。「田舎に実家があって」「親が介護施設に入った」という世代に利用されています。
また、不動産を使った投資信託(REIT)や、企業向けに不動産購入を融通する不動産リース業なども参入が増えています。
世の中の動きに影響を受けやすい業界である住宅業界。しかし顧客の理想を叶え、希望通りの家が完成したり、顧客の嬉しそうな顔を見ることができたり、多くのやりがいを感じられる業界でもあります。
今回は大手ハウスメーカーをご紹介します。
テレビCMなどでも見かけることの多い「ダイワハウス」はここ数年で圧倒的な売上を誇っています。2019年には売上・総販売戸数ともに業界トップの企業となりました。
戸建て住宅、賃貸住宅、土地の売買などさまざまな事業を展開しているため、企業規模も売上も大きいのが特徴です。住宅業界のトレンドなどをいち早く取り入れ、顧客への対応力なども素早いところが魅力のひとつとなっています。
数々のテレビCMでお馴染みの「積水ハウス」。2019年には戸建住宅販売戸数は業界トップで、売上だけでなく顧客満足度も高いと言われています。
住宅関連設備が充実しているため、その点で「戸建てを建てるなら積水ハウス」と考えている方も多いのでしょう。太陽光発電システムや、燃料電池(エネファーム)、スマートタウンなど時代に合わせた家づくりをおこなうことができます。
最近では、少子高齢化社会となる日本においてのよりよい住まいづくりを積極的に進めており、住宅業界では積水ハウスの動向に注目が集まっています。
「住友林業」は木造住宅が好みの方に人気のハウスメーカーです。豊富な木の種類や、木の力を活かす最新技術などを使った木造住宅を多数作っています。
また設計やインテリアの提案力も高く、予想通りの家を完成させてくれたなど顧客満足度も高いところが特徴です。
「ヘーベルハウス」といえば、耐震・耐火に強い住宅というイメージが強いのではないでしょうか。ヘーベルハウスは長く、安全に住める住宅づくりをしており、60年以上の耐久性を実現しています。
また住宅完成後のアフターケアがとても充実しており、60年の無料点検システムや、主な住宅設備機器の保証が10年、初期保証30年などさまざまなサービスをつけることができます。
ハウスメーカーと聞くと、どこも同じではと考えてしまいがちですが、実はハウスメーカーごとに強みが明確に異なります。
上記でご紹介した以外にも、「セキスイハイム」や「ミサワホーム」、「パナソニックホームズ」「三井ホーム」など他にも大手ハウスメーカーはいくつかあります。
たとえばパナソニックホームズであれば建材、住宅設備、家電などほぼ全てがパナソニックの製品が使用されています。ミサワホームは国の機関から「100年住宅」として認められているほど耐久性に優れた家づくりをおこなっています。過去の大震での全壊・半壊の住宅がゼロだったことが確認できているのだとか。
このようにハウスメーカーごとに強みが異なりますし、今後の事業において重要視しているポイントも異なります。ですので住宅業界、特にハウスメーカーに興味がある方はじっくりと調べることをおすすめします。
- 著者
- マガジンハウス
- 出版日
住宅業界に関心を持つ方は、「住む」ということに少なからず関心を持っているのではないでしょうか。「知識はあまりないけど、興味はある」という方も多いはずです。
「自分はどんな暮らしが好きか」「人にどのような住宅を提案したいか」は、就職先選びでも大切なポイントになってきます。自分は何を大切にしたいのかを知るためには、好きなものを探すとよいでしょう。
Casa BRUTUS特別編集のムック『美しい住まいの教科書』は、「心地よい住空間を作りたい」と思っている方にぴったりです。どんな人がどのような暮らしを選んでいるのか、その理由は何か、などについて知ることができます。
- 著者
- 大島芳彦 佐々木龍郎 嶋田洋平 新堀学 田島則行 馬場正尊
- 出版日
- 2012-06-30
特に都市部では、今後もリノベーションの需要が続くと考えられます。リノベーションという言葉が使われる場では、単にリフォームするだけでなく、現代のライフスタイルに合わせた、より居心地のよい空間を作ることに重点を置くことがしばしばあります。
どうしてリノベーションしたのか、どんなふうにリノベーションしたのか、リノベーション前はどんな住まいだったのかなどを知ることができるのが『最高に気持ちいい住まいのリノベーション図鑑』です。
建築家による設計も多く掲載されているので、いわゆる「リノベーション業界」内でどのような考え方がされているのかなどについて詳しく知ることができます。これから中古住宅を買ってリノベーションしたいと考えている方にもおすすめです。
- 著者
- TAC宅建士講座
- 出版日
住宅を供給するのが住宅業界ですが、流通させる不動産業界とは切っても切れない間柄にあります。実際、ハウスメーカーなどは不動産業の資格を持っていることも少なくありません。
そのため、住宅業界を目指す人はどこかで宅建士の資格を取得しているとよいかもしれません。社内での可能性が広がるほか、転職の際にも選択肢が増えます。宅建士は国家資格なので、ブランクがあいても使えるというメリットもあります。
住宅業界について解説しました。業界全体のボリュームは少なくなってきてはいますが、常に一定の需要があることも事実です。毎日の生活の基本となる「住」にどうかかわっていきたいか、自分なりの理想を探してみてください。