「化学業界」は理系だけでなく、文系総合職の人気がある業界でもあります。 化学メーカーには総合化学メーカー、誘導品メーカー、電子部品メーカーなど他にもさまざまなメーカーがあり、比較的、給与水準が高く安定した仕事と言われています。IoT化やAI化など、最新技術には欠かせない部品製造を受けていることもあり、今後も高い安定性がのぞめる業界です。 「化学業界ってどんなことをやっているの?」という基礎的な疑問から、実際に働くときに読んでおくと役立ちそうな本まで、本記事で解説していきます。書籍はぜひ手にとって一読してみてはいかがでしょうか。
文系の学生さんの中には、「化学」と言われるだけで試験の苦い思い出がよみがえってくる……そんな人もいるかもしれません。しかし、せっかく就職活動するのだから、新しい挑戦もしてみたいと思いませんか? 教科としてはちょっと苦手だった「化学」、どんな仕事になるのか見ていきましょう。
ガソリン、灯油、合成ゴム、プラスチック。これらに共通する原材料は石油です。化学業界では石油を加工して様々な化学製品を作っています。
そのため、これらを扱う企業は単なる「化学」メーカーではなく、「石油化学」メーカーと呼ばれることもあります。海沿いの大きな工業地帯に行って、複雑な構造の石油プラントを見たことがあるかもしれません。あのような工場を保有しているのが石油化学メーカーです。
天然ガスは石油とは異なるものですが、石油化学メーカーが扱うことも多いためか同じカテゴリに入れられているのがしばしば見られます。
石油以外の化学製品も、もちろんあります。化学の範囲は非常に広いため分類方法にも種類が多くありますが、その中でよく使われるのが「有機」と「無機」に分けるやり方です。炭素が含まれる「有機」の代表格が石油です。
一方、無機は炭素が含まれない化学製品です。想像しやすい製品としては、医療用になることもある液体窒素、風船を膨らますのにも使われるヘリウムや、酸素などの気体・液体が挙げられるでしょう。
有機・無機は便宜上の分け方で、ひとつの企業が両方を手がけることも少なくありません。たとえば酸素と二酸化炭素を両方生産している工場は珍しくありません。
ここまでやや日常的にはなじみの薄いような製品を紹介してきました。では、普段目にすることも多い化学製品は何でしょうか。
たとえば石鹸や化粧品も化学製品です。もとは自然素材を利用して作られていたものも多いですが、品質上の問題や大量生産への対応が必要なため現在では化学的な工程を経て作られています。
家の外壁や内装に使う塗料や、家庭の園芸でも必須な肥料などの一部も化学製品です。こうやって見ていくと、化学の技術は現代の生活になくてはならないものだということが分かってきます。
化学メーカーは将来性が高いと言われています。その背景にはIoTやAI化などがあります。これらで使用する部品の製造に欠かせない樹脂や半導体材料は、化学メーカーが製造を担っているのです。
メーカーには、総合化学メーカー、誘導品メーカー、電子材料メーカーなどがあります。それぞれどんな企業があるのかを見ていきましょう。
総合化学メーカーは、電子部品の製造だけでなくCDやDVD、USBメモリなど一貫して製造することができます。
一般的に有名な化学メーカーはこのあたりです。他にもさまざなメーカーがありますが、特に三菱ケミカル、住友化学、旭化学、三井化学の売上高は1兆を超えています。
最も売上高の高い三菱ケミカルでは、社員の平均年収は1千万円を超えており、平均勤続年数は約19年。長期で働けるようなよい環境であることが分かります。
誘導品メーカーでは、その名の通り誘導品と呼ばれる材料を製造しています。何らかの部品のみの製造をおこなっているため、最終製品の製造はおこなっていないのが特徴です。
最も有名なのは信越化学工業です。塩ビ、シリコン、半導体シリコンなどの製造をしており、塩ビ、半導体ウエハでは世界首位を誇っています。また2008年のリーマンショックを挟み、営業利益は9期連続更新を続けています。
給与水準も高く、平均勤続年数は20年も超えています。働きやすさや安定志向の方にはおすすめの企業といえるかもしれません。
総合化学メーカーや、誘導品メーカーから材料を購入し、電子部品を作っているのが電子材料メーカーです。化学製品に必要な材料を作るのには高度な技術を要するため、メーカーの得意分野ごとで棲み分けされているのが化学メーカーなのです。
あげたメーカーのなかでも「富士フイルム エレクトロニクスマテリアルズ株式会社」の売上高は1兆を超えています。2016年には早くもIoT時代到来の未来を見据え、台湾に先端半導体材料の新生産工場を建設するなどさまざまな動きが見られます。
また2018年には世界最大の半導体受託製造会社であるTaiwan Semiconductor Manufacturing Company Limitedより「Excellent Performance Award」を受賞するなど、世界の企業からも高評価を得ている化学メーカーなんです。
さらに細かい分類で見ていくと、さまざまな化学メーカーがあります。
これらの企業では樹脂加工をおこなっていたり、塗料の製造をおこなっていたりと得意分野はさまざまです。総合化学、誘導品、電子材料だけでなく多くの化学メーカーがありますので、細かく情報を集めてみるといいでしょう。
どんな業界であっても、今後の動向が気になる昨今です。化学業界はどのような様子でしょうか。
「化学製品って見てみると生活に必要なものばかり。そこまで業績悪化の恐れがあるのかな?」と疑問に思う方もいるかもしれません。どちらかというと右肩上がりの印象を抱いている方もいるのではないでしょうか。
しかし、2019年までの業績を見てみると、業界全体としての成長は横ばいです。理由としては、発展途上国での価格競争が激化してきたこと、グローバル化の反動で各国の保護貿易志向が高まってきたことなどが考えられているようです。
技術の発展が進み、製品の総量が増えると、自然と競争が始まります。化学業界は海外に拠点を持つ企業が多いため、この傾向がグローバルに進んでいるといえます。競争相手は国内企業だけではないというのがまずポイントです。
また、これまで比較的有利に進めることができていた発展途上国での取引も競争が激しくなってきています。時代が進み、選ぶ側に選択肢が増えてきているためです。選択肢が増えるとより低価格で高機能なものが好まれるようになります。
技術の進展は、その技術自体の陳腐化も招きます。たとえばスマートフォンの種類が限られていた10年ほど前までは、スマートフォン自体が価値のあるものでした。しかし、現在ではスマートフォンそのものに価値を見いだす人はあまりいないのではないでしょうか。そのなかでも、より高機能なもの、流行しているものが好まれる傾向にあるはずです。
化学業界でも、この「付加価値の減少」問題が起こっています。これをコモディティ化と呼びます。陳腐化というと分かりやすいかもしれません。もともと強みだったものが陳腐化してしまった中で、次の一手をどう見いだすのかが鍵になっています。
このような市場の状態を受け、化学業界では再編・買収の動きが目立つようになってきました。この傾向はさらに進むと考えられています。とくに2020年は予測できない社会情勢の変化により、どの企業もコストの見直しなどを余儀なくされています。
一方、こういった内向きの努力だけでは現状を打開できないという考え方もあります。技術や知見を生かした新規事業参入や、これまでの製品に新たな付加価値を与えるなど、これまで行ってこなかった挑戦が必要になってくると指摘がなされています。
参照:東洋経済オンライン
- 著者
- 井筒 俊彦
- 出版日
- 1991-06-17
化学業界に就職する方の多くは、何らかの形で石油産業にかかわることになるでしょう。原油の多くは中東で採掘されています。中には現地に駐在することになる人もいるかもしれません。
中東圏について考えるときに忘れてはいけないのはイスラム教の影響です。原油産出国の中には政教一致の国家もあり、日本に生まれ育った人には想像しにくいような法律や慣習が多数あります。
『イスラーム文化−その根柢にあるもの』は、一般読者向けに書かれたイスラム文化の入門書です。1冊読んでおくと、実務の際にも役に立つでしょう。
- 著者
- ["ローズ,リチャード", "勝, 秋山"]
- 出版日
化学業界自体はエネルギー産業とまったく同じものではありませんが、非常に近い関係にあることは間違いありません。
そういえばどうして何かというと石油が使われるんだろう? 化学業界ならもっとほかの素材やエネルギーに頼ってもよいのでは? そんなことを考えたことがある人もいるかもしれません。
『エネルギー400年史』は人類がどのようにエネルギーを獲得してきたのか、現代に至るまでの変遷を知ることができます。
定価4180円とやや高価な本ですが、大学の図書館などでぜひ探してみてください。歴史を知ると現在の産業構造を知る助けにもなるはずです。
- 著者
- 田島 慶三
- 出版日
「化学業界で働く人にだって化学業界のことはよく分からない」。部外者が聞くと冗談のような話ですが、実際にこの悩みを抱えている業界人は少なくないそうです。
そんな、化学のことはよく分からないという方におすすめなのが、『化学製品が一番わかる』です。
製品そのものに着目し、原材料や基礎化学から、実際にお店に並ぶような商品までが筋道立てて説明されています。「何がどうやって作られているのか」が分かると、新しい仕事に挑戦するときにも理解が早まるでしょう。
巨大なプラントや、海上に浮かぶ石油採掘場。そういった、あまり身近でない印象が強い化学業界について、簡潔に解説しました。石油依存の脱却が大きな課題となっている現代では、化学業界にとってもこれからチャレンジが多数あることでしょう。ぜひ関心の幅を広くして知識を吸収していってください。