学生だけでなく、社会人や高齢者、小さな子どもまで、老若男女がお世話になっている鉄道。しかし、鉄道はよく利用しているものの、仕事となるとイメージが就かないということもあるかもしれません。 鉄道会社は単に電車を走らせるだけではありません。駅前の再開発に協力するなどして、鉄道の利用者だけでなくその街に出入りする人口も増やそうと画策しています。 今回はそうした鉄道業界の仕組みや、そのなかでの仕事、今後の動向などを解説します。また、さまざまな事業展開についてより考えを深められる書籍を紹介しますので、そちらもぜひ手にとってみてくださいね。
突然ですが、鉄道会社にはどのような種類があるのでしょうか。鉄道に関心がある方にとっては知っていて当然の常識かもしれません。
ですが「今までJRしか使ったことがない」「むしろ日常生活では電車にまったく乗らない」という方は「へえ、そうなんだ!」となる企業ごとの違いを紹介します。
まずは全国に鉄道網が伸びているJRです。JRは「Japan Railway」の略称で、もともとは国営の鉄道でした。当時の呼び名である「国鉄」という名称を現代でも好んで使う方もいます。
JRとして民営化される際、国鉄は数社に分社化しました。
そのため、事業や採用活動は別々におこなわれています。そのため、「西日本で働きたいなあ」と考えている人がうっかりJR東日本に応募してしまうと、勤務地は東日本になってしまいますので注意が必要です。
民間の鉄道事業者「私鉄」
JR以外の、かつ下記で紹介する一部の鉄道事業を除いた民間の鉄道事業者を「私鉄」と呼びます。たとえば、大手の私鉄には下記のような会社があります。
なお、東京メトロ(東京地下鉄)も私鉄に含まれることが多いのですが、もともとは「営団地下鉄」という半公営の鉄道会社でした。現在でも日本国政府と東京都が株主となっており、ほぼ民営であるものの公的な性格の強い鉄道です。その点ではJRと似ているともいえます。
東京都・京都府などの都府県や、札幌・横浜・名古屋などの一部の市は、独自に運営する鉄道会社があります。その多くは地下鉄です。
どれも自治体の運営ですので、職員は公務員です。ただし一般の公務員試験とは別に採用活動がおこなわれますので、「鉄道で働きたいけど異動があるのは嫌だ」という人でも安心して応募できます。
さて、ここまで鉄道業界の動向を見てきましたが、実際に働くとするとどのような職種があるのでしょうか。代表的なものを見ていきましょう。
子どものころに憧れた方は少なくないであろう運転士や車掌。これらの仕事には特殊な訓練が必要なので、ほかの職種とは分けて採用活動がおこなわれます。
一般的には新卒採用者が多くを占める職種ですが、JR東海の新幹線乗務員など、一部では中途採用や契約社員登用などもおこなわれています。
線路の保守点検などから、設備の研究開発までさまざまな技術を持つ職員がいます。鉄道会社の規模にもよりますが、理系の院卒者が多い求人などもあり、専門性を活かした働き方をするために鉄道会社に入社する方も珍しくありません。
人事・総務などの管理系から、営業・企画・建築などが総合職に含まれます。部署によっては鉄道そのものと直接携わらない仕事をすることになるかもしれません。
また、一部の仕事を分社化している鉄道会社もあります。JRの駅ビル「アトレ」がその例です。それ以外にも、社内の中吊り広告は多くの鉄道会社で子会社が請け負っており、そちらに入社すると広告代理店としての仕事ができます。関心がある方は関連会社の求人も探してみるとよいでしょう。
日常的に電車を使う人なら、鉄道がなくなる可能性というのをなかなか想像できないかもしれません。一方、国内でも地方の不採算路線が廃止されたり、鉄道会社が廃業したりという動きが目立つようになってきました。現在の社会情勢を受けて、鉄道業界にはどのような影響が出てきているのでしょうか。
とくに都心部でリモートワークが広まったため、2020年は鉄道会社の定期券売上が減少しました。定期券は通常の乗車券と比べると割安なものの、ある程度まとまった額が定期的に入ってくるという意味で鉄道会社にとって大切な収入源です。
定期券を使う人だけでなく、たまに電車に乗るという人の乗車頻度も下がっていると考えられます。そのため、乗車券全体の売上が急激に低下している傾向が見られます。
参照:テレビ朝日
JRのようにたくさんの路線を運行している鉄道会社では、赤字になる不採算路線がどうしても出てきてしまいます。一方、人気がありかなりの黒字を出せる路線もあります。JR東海の新幹線などが代表格です。新幹線は出張などのビジネス需要が強く、平日昼間の利用も多くありました。
ただし、2020年はビジネスでの移動全般が控えられていますから、新幹線の売り上げも落ち込んでいます。JRの支社によっては新幹線の売り上げで全体の底支えをしているというところもあり、この状態が長く続くと財政の悪化が避けられないという読みがあります。
週末や長期休暇にあった旅行需要も大幅に減少しています。ビジネス・プライベートにかかわらず、そもそも移動の機会が減っているのが2020年の特徴です。鉄道業界にとっては全体的に厳しい状況といえるでしょう。
先行きの不透明な状況の中、「この会社は大丈夫かな?」「うちの地域の鉄道はなくなったりしたら困るなあ……」と思う人もいるでしょう。今後の見通しは立つのでしょうか。
鉄道業界は運賃を取ることによって収益を得ている営利事業をおこなっていますが、文字通り国民の「足」としての側面も持っています。電気やガスといったものと同様に、インフラとしての性格があるということです。
本当に鉄道会社にとって厳しい状況が発生した場合、地域の住民に大きな影響が出てしまいます。このことを考えると、最終的には公的な支援もあり得ると期待できる、という点で、鉄道業界はやや特殊です。
ただし、そういった支援も一朝一夕で決まるわけではありませんから、まずはある程度自社の体力で耐えることが求められてくるでしょう。もともと経営があまり順調でなかった鉄道会社にとっては厳しい状況であることに変わりはありません。
ある程度規模のある鉄道会社では、これを機会に鉄道に関連した別事業へ注力していく傾向もあるかもしれません。鉄道会社が路線を作ると、地域の交通利便性が高まります。人口が駅の近くに流入してくるなど、エリア開発の側面が鉄道会社の事業にはあります。
これを意図的におこなう企業もあります。古いところでは東急電鉄の田園都市構想が有名です。住宅地だけでなく商業施設を作ったり、駅前の再開発に協力したり、線路の上下を活用したりと、さまざまな工夫が見られます。
鉄道事業そのもののの伸びがあまり期待できないなかでは、このような事業で収益を上げる期待が高まる可能性があります。人によっては、「鉄道の仕事をするつもりで入社したらいつの間にか不動産屋さんみたいになってしまったなあ」というケースも出てくるかもしれません。
- 著者
- []
- 出版日
「これまで鉄道好きというわけではなかったから、鉄道好きな人たちのものの見方を知っておきたい」そんな方には、鉄道をどうやって楽しんでいるのかが分かる書籍がおすすめです。
とはいえ、車両の種類やレールの太さ、ダイヤの複雑さなどをいきなり説明されて楽しめるかどうか不安という方は多いでしょう。そんなときには、旅行した気持ちになれる書籍がおすすめです。
『絶滅危惧鉄道 2020』は、ローカル線と呼ばれる路線のなかでもとくに規模の小さい、採算の取りづらい路線に着目したムックです。地方ならではの景色や、1時間に1本程度しか運行しない不便さなどを楽しむ人が少なくありません。
現在のようになかなか気軽に旅行に行けない状況下だからこそ、こういった本が役立ちます。
- 著者
- []
- 出版日
小さな頃、初めて乗車した電車の運転士がかっこよかったのが印象的だった。そんな話をよく耳にします。
しかし実際に運転士を目指すにはどのような勉強やスキルが必要なのでしょうか。不透明な部分は多いはず。そんな方に向けた1冊をご紹介します。
こちらの本は、主に京王電鉄に取材し、入社した新人が運転士になるまでの課程を追った本です。「自分に適性があるかな?」と疑問に思っている人は、一読しておくとかなり印象が変わるのではないでしょうか。書籍自体は絶版になっていますが、古本で購入が可能です。
職業としての運転士を目指していない方にとっても面白く読める内容になっていますよ。
- 著者
- 宇都宮 浄人
- 出版日
お金になるのは分かるけど、それ以外の理由で鉄道会社が開発に力を入れる理由がいまいち分からない。そういう印象を抱いている人もいるかもしれません。そういった場合には、鉄道側の視点から街づくりや、地域開発について書かれた書籍を読んでみるのをおすすめします。
鉄道会社の多くは、単に電車を走らせるだけでなく、インフラとして地域にどうやって貢献するかを考えています。地域への貢献が適切にできれば、エリアの人口が増えて事業も安定します。少子高齢化が進むなかで、今後鉄道が取り得る選択肢について考えてみましょう。
鉄道会社への就職・転職ではなく、地域復興や町おこしなどの事業に関わりたいと考えている方にとっては、ちょっとした思考のヒントを与えてくれるかもしれません。
鉄道会社の種類や仕事、どうしてこのような事業をしているのかなどについて解説しました。就職活動の際は会社の規模や福利厚生が気になることが多いかもしれません。それに付け加えて、企業の理念や地域との向き合い方を調べてみると、自分にぴったり合う企業がきっと見つかるはずです。鉄道がと覆っている街にいる全ての人にとって欠かせない鉄道。業界の仕組みや業界の動向などを深く知ることで、鉄道への見方が変わることもあるかもしれません。