日本のモノづくりを支えていると言っても過言ではない溶接工。自動車や建築物、作業ロボット、工作機械などの製造の担い手です。溶接という仕事を頭の中でイメージできる人は多いと思いますが、仕事も資格の種類は多く、多様です。そこで本記事では仕事の種類から付随する資格、やりがいや年収まで溶接工についてひと通り解説します。また溶接工を目指す方や興味のある方におすすめの溶接の入門書もあわせて紹介しますので、これらの本でより理解を深めてみてください。
溶接工と言ってもその仕事の種類は幅広い。ここではまず仕事の全体像について解説し、それから主な溶接の種類と資格について紹介していきます。
溶接工は、溶接作業を仕事としている人のことをさします。そして溶接とは、金属やプラスチックなどの材料を専用機材を使って接合することです。
溶接加工には60種類以上の方法がありますが、大きく分ける下記の3つになります。
これらの方法はさらに細分化することができるのですが、溶接工は主にこれらの方法を使って溶接作業をおこなっています。
▶︎溶融溶接
溶融溶接とは、素材に融点を超える熱を加え、溶接する方法のこと。空気中の放電現象(アーク放電)を利用して、同じ金属同士をつなぎ合わせる「アーク溶接」はこの仕組みです。
▶︎加圧溶接
加圧溶接は、プレス機などの機械で素材に圧力を加えて接合する方法です。多くは非常に硬質な金属製の素材をくっつけるときなどに用いられます。
▶︎ろう接
接合する素材よりも融点の低い合金であるろうを用いて接合する方法。ろうを接着剤のようにして、素材を溶融させずくっつけます。
溶接工はメーカーや発電所、町工場、鐵工所などで働くことができます。就職先によって担当する業務の幅が異なるので、どんな業務を任されることが多いのか情報収集をすることをおすすめします。
▶︎大手メーカー系の溶接業務
造船・鉄骨橋梁・建設・鉄道車両関係の大手企業では溶接業務が多いとされています。造船なら三菱重工や川崎重工業、建設会社なら大和ハウス工業、積水ハウスなどがあげられます。
大手企業では作業が細分化されているため、溶接の作業に集中することができます。その分、溶接の技術力を磨くことができるでしょう。
▶︎発電所関係の会社
発電所関係の会社では関電プラントや、中電プラントなどの会社があげられます。大手メーカーと同様、溶接作業に集中して取り組める環境が整っていることが多く、給与額もメーカーに近い額が支給されます。
設備や待遇もしっかりしているところが多いのが特徴です。
▶︎町工場、小さな工務店、鐵工所など
町工場や工務店、鐵工所では溶接以外の仕事なども担当する場合が多いようです。溶接に特化していない分、さまざまな作業を学べるという捉え方もできますね。
溶接の技術だけでなく関係する知識や技術を少しずつ習得したい方には、町工場や鐵工所などがおすすめです。
製造業にかかわる仕事の多くは、給与が高いとは言いがたい現状があります。しかし溶接工に関しては少し異なり、平均年収は400万円台と高い水準となっています。
一般的な会社員より高く、製造業の職種のなかでは上位の年収となっています。ただし、資格が必須で高い技術も求められる仕事のため、この額が妥当と思えるかどうかは人それぞれかもしれません。
厚生労働省が公開している「賃金構造基本統計調査の職種別賃金額」の過去3年分のデータを一例として見てみましょう。
▶︎月額給与額
▶︎特別支給額
▶︎年収
なかには例外もありますが、一般的には年齢が上がるごとに給与もアップし50〜54歳でピークをむかえます。また、独立した親方クラスの溶接工であれば1万円以上稼ぐ人もいるようです。
溶接作業は危険と隣り合わせの仕事です。そのため、それぞれの溶接を扱うためには資格の取得が必須となります。ただし、溶接工として就職する場合、現場経験を問わない会社も多くあり、働きながら資格を取得できるところも多数あります。
日本溶接協会がJISやWESなどの検定試験にもとづいておこなっている資格は、主に10個あります。
資格によって取り扱える材料も、溶接方法も異なります。このなかでもまず取得しておかなければならないのが「アーク溶接」の資格です。今回は溶接工の基本資格である「アーク溶接」とガスを使った溶接に必要な「ガス溶接」の資格について解説していきましょう。
アーク溶接の資格は特別教育を受講し、合格することで得ることができます。かなり易しい内容になっているため、きちんと受講すればほとんどの人が合格できるでしょう。
▶︎必要な受講科目と要する時間
受講料は、講習場所によって異なりますが、およそ1万5000円〜3万円程度。受講日程についても講習場所で異なるため、受講する際に確認する必要があります。
アーク溶接の資格同様、ガス溶接の資格も溶接工として取得しておきたい資格のひとつです。国家資格でもあるので取得しておくと就職や転職でも有利となるでしょう。
▶︎必要な受講科目と要する時間
受講料は1万2700円とテキスト料の880円がプラスされ、計1万3580円が必要となります。受講は学科と実技にわかれて2日間、主に土日におこなわれます。
参照:労働技能講習協会
アーク溶接やガス溶接の資格は、実際に現場で溶接をする際に必要なものです。資格を取得し現場で働き始めてからは、キャリアアップのための資格取得を視野にいれるとよいでしょう。
溶接管理技術者の資格では、溶接施工とそれに関連する作業・工程の計画や管理をおこなうことのできる資格です。階級は2級、1級、特別級にわかれています。
取得している級によって扱える業務の幅が異なります。全般的な業務に携わりたい方は、2級・1級の資格を取得した後に特別級の試験を受験するとよいでしょう。
合格率は30〜50%と決して高くはありませんが、業界で活躍したい方は受験をおすすめします。昇進や初級も見込めるはずです。
参照:溶接管理技術者
溶接作業指導者は、現場で溶接作業者に指示・監督したり、実現のために計画を立てたりと班長のようなイメージで職務を担う資格です。
実は溶接現場の主役は、溶接作業指導者なのです。彼らは高い技術と豊富な経験をもって現場の指導・監督にあたります。座学では学べない熟練した溶接技能と実務技能を備えているのが溶接作業指導者なのです。
資格を取得するには3日間の受講と、筆記試験を受ける必要があります。
▶︎1日目
▶︎2日目
▶︎3日目
試験には実技はなく、すべて筆記試験です。この試験に合格することで資格を得られるのですが、試験合格率はほぼ100%と言われています。
受験には詳細な受験資格を満たしている必要がありますので、それは受験案内を確認しましょう。
ガス溶接作業主任者は、作業全般の責任者として、作業方法を決定したり、現場の指揮を取ったりする職務を担っています。
アセチレン溶接装置またはガス集合溶接装置を用いておこなう金属の溶接、溶断または加熱の作業をおこなう場合に選任することが必須とされています。上級資格のため、さまざまな産業や工場からの需要も高いでしょう。
受験資格は基本的には不要で、必須科目の試験を受験し、合格することで資格を取得することが可能です。合格率も80%以上と高くなっているので、昇給や昇格を目指す方は受験をするのがおすすめです。
試験時間は3時間。人によっては免除科目などもあるため、1時間30分の試験時間になる場合もあります。
参照:安全衛生技術試験協会
溶接のやりがいはやはりモノづくりを通じて感じることが多いはず。ここではやりがいに加え大変さもあわせて紹介していきます。
溶接はただくっつけて終わりかといえばそうではありません。強度が弱く、くっつけた素材同士がすぐ離れてしまったらそれは不良品になりますし、接合部がボコボコで見た目が悪い物を量産していては、いずれ仕事がなくなってしまいます。
そのため、常に技術を高めていくことが重要です。いいモノをつくるには、どうしたら密接度が高く、綺麗に見せられるかなどを考える探求心も必要で、経験を積めばうまくなるかといえばそうではありません。
だからこそ研究と試行錯誤を重ね、納得がいく物が出来上がったときの喜びは大きなものとなります。
また、誇りが持てるのもやりがいとしては大きく、日本が世界に誇るモノづくりの担い手として、喜びを感じながら仕事ができます。
溶接は火やレーザーを使う危険な仕事です。そのため溶接用手袋や革エプロン、防じんマスクなどを着用して作業をおこなうことが多くあります。
体を守るとはいえ、熱を出す溶接機にこの装備ですから夏場の暑さは相当です。熱中症などには気をつけて仕事をおこなう必要があります。
- 著者
- 野原 英孝
- 出版日
さすがに専門用語が頻出する本は厳しいけど、溶接についてもう少し詳しく知りたいという人におすすめの本です。
各種溶接の原理や作業内容、機器や器具の解説、素材や材料の特性を生かした溶接方法まで詳しく解説。また資格取得に役立つ情報も掲載されており、参考書としても使える1冊です。
溶接についての勉強を始めたばかりの方におすすめの内容となっています。仕事の合間や、大学の勉強の合間に読み進めるのがよいでしょう。
- 著者
- ["宗弘, 野村", "英孝, 野原"]
- 出版日
何を学習するにもはじめが肝心。いきなり技術的なことが記された専門書なんかを読んでしまったら難解すぎて心が折れてしまいます。
本書は、カルト的人気のほのぼの溶接マンガ『とろ鉄』のキャラクターたちが溶接作業を語るユニークな入門書です。
アーク溶接の実務において9割以上のシェアを占める「被覆アーク溶接」「半自動アーク溶接」「TIG 溶接」に限定し解説をおこなっています。
直感的な理解を助ける漫画の表現と補足解説、図版や写真を駆使し、安全で適切な溶接作業の基本を楽しく学ぶことができます。楽しく学びたいという方におすすめの1冊です。
- 著者
- 安田 克彦
- 出版日
溶接分野の第一人者である著者が、よい溶接とよくない溶接の見分け方について教えてくれる解説本。
さまざまな試験や検査方法によって導き出された溶接欠陥の見分け方はもちろん、試験や検査によって得られた結果がどのような意味を持つのかなどを写真や図でわかりやすく解説してくれます。
溶接工であれば身につけておきたい「欠陥を見る目」を養えます。かなり溶接の専門的な内容が書かれているため、溶接についてある程度の知識や実務経験がある方におすすめの1冊ですよ。
溶接の仕事をするには、くっつける素材やつくりたい製品に応じた資格が必要です。しかし、実務経験がなくても入れる会社は多いですし、資格も入社後取得すればいいところもたくさんあります。さらに給与が高いというのも大きな魅力です。ただ勘違いしてほしくないのは、決して易しい仕事ではないということ。職人仕事のため技術は簡単には身につきませんし、高温の熱が発生する機器を使用するため危険でもあります。それでも「やってみたい」と思った方は、ここでおすすめしている本をはじめ、ネットや詳しい人に聞くなどして溶接について勉強して一流の溶接職人を目指してください。