漁師はメジャーな職業ですが「漁師のなり方」については知らない部分が多いかと思います。何か特別な学歴が必要? 親が漁師でなくてもなれる? などさまざまな疑問をひとつずつ解決していきましょう。漁業にはさまざまな漁法があり、メインの漁法によって休暇の取り方や給料の水準などは異なります。また必要となる資格についても違いがでてきます。 今回は漁師の仕事内容から、なり方、必要となる資格について詳しく解説します。記事の最後には漁業について軽く知りたいという方から漁師になりたい方にまでおすすめの本3冊を紹介していますのでぜひご覧ください。
漁師とは漁業を仕事とし、生計を立てている人のことです。主に魚介や海藻類を捕り、セリ市場で卸売業者に買付してもらうことで収入を得ています。ただ商売として漁師をするためには、漁業権や資格が必要となってきます。
漁師の仕事は多くの方がイメージする通り、海や川へ行き、魚介類を捕ることです。しかし一言で漁業と言っても、魚介を捕る場所や方法も種類があります。
①沿岸漁業
捕れる魚介の種類…アジ、タイ、ヒラメ、アンコウ、エビ、イカ、貝など中高級な食品
日帰りが可能な範囲の沿岸でおこなう漁業のことをいいます。使用する漁船は10トン未満と小さいものであることが特徴です。地域や時間によってとれる魚はさまざまですが、アジ、タイ、ヒラメ、アンコウ、エビ、イカ、貝など中高級な食品をとることができます。
②沖合漁業
捕れる魚介の種類…マグロ、カツオ、さんまなど
10トン以上の大きな船を使用し、200海里以内でおこなわれる漁業のことをいいます。1回の漁の期間は数日間で、マグロやカツオ、さんまなどの魚を獲ります。200海里は排他的経済水域といい、半径約370キロの距離です。
③遠洋漁業
捕れる魚介の種類…マグロ、カツオなど
大型の漁船を使用し大人数で行く漁業のことをいいます。主にマグロやカツオを獲ります。遠い場所での漁業になるため、数カ月かけて行くのが一般的です。
捕る場所や漁業の時期、狙っている魚の特性に合わせ、さまざまな漁法も存在します。
①はえ縄漁
はえ縄漁とは1本の幹縄に多くの枝縄を付け、その先端に釣り針を付けて魚を獲る方法です。日本ではマグロやタコ、アメリカではカニなどもこの「はえ縄漁」でおこなっています。
②定置網漁
定置網漁とは魚の大群を網によって誘導し、別につないである網で捕獲することをいいます。この漁法は古くから伝わるもので「待ちの漁」ともいわれます。季節や場所によってとれる魚はさまざまですがサケやニシン・タイなど多くの魚が獲れます。
③底引き漁
底引き漁とは網を海底まで下げて一気に船によって引き上げる漁法です。一気に多くの魚を獲れる一方で、急な水圧や温度の変化により魚の品質が低下してしまうことが多いのが問題点です。この漁法で獲れるものとして主にホタルイカなどがあげられます。
④まき網漁
アジやサバなど群れをなして回遊する魚を網で囲いこみ捕獲する漁法です。数隻でチームを組んで漁をするのが一般的で、夕方に出港し、何度か漁獲を繰り返し、朝方帰港します。
漁師の働き方は一般的な時間帯とは大きく異なります。漁師の朝はとにかく早く、朝の4時頃に出港し、10時前には帰港することが普通です。そこから、魚の仕分け作業や道具のメンテナンスなどをおこない、午後2時頃には1日の勤務が終わるというスケジュールです。
また、漁師の仕事は大変天候に左右されやすい仕事であるため、天候が悪い時は漁に出ることはできず、休日としてリフレッシュするか、道具の整備をおこなうなどして過ごします。
遠洋漁業のように数カ月~1年かけておこなうものだとその間家に帰れませんが、外国の港にとまって現地を楽しめたり、まとまった休みがあったりとよい点もあります。
一般的な企業とは働く時間も、その長さも違う漁師ですから、漁師の働き方で気になるのは休暇がどうなっているのかです。
休暇は漁の形態によっても異なります。たとえば底曳き漁には4月〜6月の間は禁漁期間が設けられています。これは海の資源保護のためおこなわれており、この期間は船のメンテナンスをおこないつつ、カワハギ漁や素潜り漁など、船を使わずにできる漁をおこなっています。
また基本的に晴天であれば漁に出て、天候が悪い日は休みとされています。そのため雨季や雪の降る地方の冬の期間は漁に出る回数が少なく、長期休暇のような扱いになるようです。
夏から冬の頭まではがっつり働き、冬の間は休養期間(船のメンテナンスなどはおこなう)と考えてよさそうです。
漁師の給料や漁の種類や場所、年齢によって違いがあります。基本的には沿岸、沖合、遠洋の順に年収が高くなりますが、特に給料が高いのはマグロ漁やカニ漁をしている漁師で、平均年収は1000万円を超えます。ただ漁での滞在期間が3カ月ほどと長く、危険をともなうこともあるため高くなっているようです。
他にもカツオの1本釣り漁師は平均年収500万円前後で、カニやマグロほど高くはありませんが他の職種と比べても高いほうなのではないでしょうか。
また、漁師の場合、歩合制としている組合が多いのでその年の業績によって大きく年収は変わるでしょう。
漁師をやるうえで必要になってくるのが「漁業権」です。漁業権を持つことで、漁協に加盟し売り上げの一部を払うことで漁業権を取得し、商売として漁をすることができます。漁業権は漁業者の利益を守るために必要な権利なのです。
漁業権を取得するには漁業協同組合に加盟しなければなりません。また加盟するのにもその地域での認定基準が存在するので、加盟方法は一概にはいえないところがあります。
漁業をするにあたり、最低限取得しておきたい資格が主に2つです。
▶︎小型船舶操縦士免許
カツオやマグロなどの大型漁船でいくものであれば資格は必要ありませんが、小型船で働くならば「小型船舶操縦士免許」という免許が必要です。この資格試験では救助の方法や気象知識、海域内のルールについて問われます。個人事業主として働くのであれば取得は必須となります。
取得には主に2つの方法があります。
小型船舶操縦士の資格には4つの階級がありますが、どの級にも年齢、身体検査合格基準以外に受験資格は定められていません。誰にでもひらかれた資格なのです。
参照:JMRA
▶︎海上特殊無線技士免許
他にもほかの漁師と連絡をとるための海上無線技術の証明となる「海上特殊無線技士免許」を取得することも大切となります。小型船舶操縦士免許同様、こちらも国家資格となっており、取得の方法は2つあります。
国家資格は年に3回実施されています。4つの階級があり、最上級の「一海特」では英語も試験科目になっているため、しっかりとした試験対策が必要となります。
一方、養成課程は各実施団体によって受講料も、期間も異なります。なかには1年以上学ぶ長期養成課程もあるので、どの団体の養成課程を受講するかは慎重に選ぶことをおすすめします。
学歴関係なく、中学校を卒業してからすぐでも働き始められる漁師ですが、最近では水産高校や普通高校を卒業してから漁師の道に進むという人も多くなっているようです。
この学科を卒業していなければいけないという規定はありませんが、漁関係の仕事に就くと決めている方は水産高校に就学して漁や海の知識を学んでおくとよいスタートが切れるかもしれませんね。
▶︎体力に自信がある人
漁師の仕事は朝が早く、魚を釣ることには相当な体力が必要なため体を動かすことが好きな人、スタミナに自信がある人にはよい職場でしょう。数カ月のあいだ家に帰れないこともあるので、疲れにくく毎日元気に活動できる人は漁師に向いています。
▶︎自然の変化に臨機応変に対応できる人
漁師の仕事場は海や川など人間の力で変化させようのないものです。そのため、天候によって漁ができないということはしょっちゅうです。このような自然の変化を愛し、臨機応変に対応することができる人にとってはよい職場でしょう。
▶︎新しいことを考えるのが得意な人
これからの時代、漁は人の手のみではなくAIとともに進化していくことも必要となってきます。時代の変化にうまく順応しどうすれば効率よく漁ができるか考えられる人は活躍できるでしょう。
▶︎朝が苦手な人
漁師の仕事は一般的な企業のスケジュールとは違います。漁の種類によっては朝3時半頃に起きなくてはならないので、朝が苦手だと仕事に身が入らないかもしれませんね。しかし、その分早く勤務が終わるので、早く寝て早く起きる習慣をつけておくとよいでしょう。
▶︎コミュニケーションが苦手な人
コミュニケーションは漁師になるうえで重要です。他の漁師との関係を保つことは働きやすさにもつながりますし、長い時間を船でともにするためチームワークが欠かせません。
▶︎ストレスを感じやすい人
漁師は不規則な仕事体系や給料体系と、何かと疲れの溜まりやすい仕事です。また、一度漁に出たら数カ月戻ってこれないこともあり、1回の漁が非常に重要となるため、ストレスで不調になりやすい人には難しい職場かもしれません。休みの日にきちんとリフレッシュできる人には過ごしやすい環境ですね。
- 著者
- ["亀井まさのり", "加藤都子"]
- 出版日
そもそも漁業の仕組みを知りたい方におすすめなのがこちらの1冊です。
著者である亀井まさのり氏は、県庁水産課勤務に勤務していた経験を持ちます。そんな亀井氏の経験や知識がイラストで分かりやすく表現されているのが『あぁ、そういうことか!漁業のしくみ』という本です。
漁業に関する資格や用語ってわかりにくいことが多いですよね。難しそうだから自分には無理と思っていた方もご安心ください。
こちらの本では絵やQ&Aを使い、初心者でも分かりやすく解説しています。これから漁師を目指したい方や、水産業に興味がある学生さんにも分かりやすい内容になっているのでぜひご覧ください。
- 著者
- 勝川俊雄
- 出版日
皆さんは「漁業法」とはどのようなものか知っているでしょうか。水産庁によると、以下のように規定されている法律のことを漁業法といいます。
漁場の総合的な利用による漁業の発展を目的とする法律です。漁業権、漁業の許可、漁業調整委員会等について規定しています。
漁師には漁業権の取得が必要とされており、それに基づいて漁をおこなわなければなりません。そんな漁業法を70年ぶりに改正するという案が2018年に出されました。かつては世界でもトップクラスだった日本の漁業ですが、現在では漁師の人数の減少などから業績が落ち込んでいます。
これからの漁業はどうなっていくのか、漁業法の改善によってどう変わるのか知りたい方におすすめの本が『図解入門業界研究 最新漁業の動向とカラクリがよ〜くわかる本』という1冊です。
最新の漁業情報や就職・転職についても記載されているため漁師という職業に少しでも興味がある方はぜひご覧ください。
- 著者
- ["智男, 金萬", "かやの, 三好"]
- 出版日
親が漁師でなくても漁師になれるのだろうか、道具の準備や知識はどう得たらよいのだろうか、と悩んで漁師を諦めようとしている方におすすめしたいのがこちらの本です。
『私、海の漁師になりました。就業ナビ&成功事例』には、元新聞記者から元水族館飼育員まで多様な経歴から漁師になった方の事例が収録されています。
また、この方々がどうやって漁の知識を身に付けたのか、また資格の取得についても説明しているため、漁師になりたいけどどう就職活動をしたらよいかわからないという方にぜひ読んでいただきたい作品です。
自然に囲まれながら仕事ができる漁師。今回は漁師に必要な資格や給料、働き方を解説しました。親が漁師ではないけど漁に興味があるという方や、日本のこれからの漁業を支えたいという方にはぜひ挑戦してもらいたいです。今回紹介した3冊は漁師になるうえで大変役に立つのでぜひご覧くださいね。