通常の生活を送るのに、エネルギーはなくてはならないものです。エネルギー業界に就職するのはわりと安定しているのでは? そう考えて調べはじめると、一言で「エネルギー」とまとめられる業界の多様さにびっくりするかもしれません。エネルギー業界って、何をしているか、どんな仕事があるのか。そんな疑問に分かりやすく答えます。 また電力・ガス・石油、それぞれの大手3社についても解説しています。より詳しく知るための書籍もピックアップしました。
エネルギー業界と聞くと一般の方には無関係のように思えますが、実は生活を送るのに欠かせない業界です。そのエネルギー業界には上流と下流があり、さらに細かく3つのフェーズにわけることもできます。
炭鉱・開発ではまず、世界各地で石油・天然ガスの開発をおこなわなければなりません。大まかな流れは以下のようになっています。
地下資源の権利は原則、産油国や土地所有者に帰属するため、まずは権利保有者との個別交渉をするところから始まります。その後、石油やガスが発見されれば開発・生産をおこないます。
このように炭鉱・開発はエネルギー業界の出発点となっているのです。
加工や流通をおこなう石油・ガス・発電は、一般生活者に届けるため石油やガスを加工するフェーズです。石油元売り会社や都市ガス会社、電力会社はこの加工・流通を担っています。
発電といえば2011年以前は原子力発電が主でしたが、東日本大震災以降は火力発電の割合が増えています。環境負荷の少ない発電の割合が増えているのです。発電方法は他にもいくつかあります。
上流にも下流にも関わってくるのが、輸送の事業です。これには海運会社、石油元売り会社、都市ガス会社、電力会社などが関わっています。
それぞれの形状に適した輸送方法で、安全かつ正確な輸送がおこなわれることは、エネルギー業界で最も大切なフェーズといっても過言ではないかもしれません。
参照:INPEX
「エネルギー業界」とひとくくりにまとめると、どこも似たような仕事なのかと考えてしまいませんか。
実は同じ業界にありながら、メインの商材が異なると業務内容が大きく変わってくるのがエネルギーの仕事です。まずは電力・ガス・石油について知りましょう。
国内の電力大手3社は以下の会社です。
社名から分かるように、人口が多い地域で、これまで独占的に電力の販売をおこなっていた会社がトップを占めています。
また2016年より電力の全面自由化が始まりました。それにより電力小売りをおこなう企業はとても増えてきています。ただし、大規模な発電所や配電網を持っているのは上記のような大手企業です。
実質的な生産と配電は未だに大手の采配の中にあるため、この勢力図はなかなか変わらないことが予想されます。
続いてガス業界を見てみましょう。2019年の売上大手3社は以下の通りになっています。
こちらも電力と同様、人口の多い地域のガス会社が強いことが分かります。
一般家庭や店舗などに供給されているガスには、大きく分けて都市ガスとプロパンガスの2種があります。都市ガスはガス管によって供給先までガスが運ばれます。水道のようなイメージです。
プロパンガスは、各供給先大きなガスボンベを設置して、そこからガスを供給するものです。主に都市ガスのガス管が通っていない地域で利用されています。都市ガスが大手の寡占状態にある一方、プロパンガスは中小の企業も多く参入しています。
電力・ガスとともにエネルギー業界で大きな一角を占めるのが石油業界です。2019年の売上大手3社は、以下の通りです。
JXTGホールディングスという名称になじみのない方もいるかもしれませんが、こちらは2020年6月にENEOSホールディングスへと名称変更をおこないました。ガソリンスタンドのENEOSを擁する企業です。
大手3社がENEOS・出光・昭和シェルということで、「ガソリンスタンド大手がそのまま石油大手」という印象がないでしょうか。ざっくりとした理解では正しいのですが、石油産業は国内需要のみでなく仕入れや加工の面から見ていくことも大切です。
日本は、石油をほとんど産出しない国です。国内で消費する石油は中東・東南アジアなどにある油田から採掘されたものを仕入れています。
そのため、石油大手メーカーは原油由来の様々な製品を生産・販売することになります。電力やガスと比較すると、業務の内容が幅広く、グローバルな仕事になりやすいのが特徴です。
エネルギーに関心のある人なら「代替エネルギー」や「新エネルギー」といった用語を見聞きしたことがあるかもしれません。これらは主に石油由来のエネルギーに依存している現状を変化させるために、それ以外のエネルギー製造方法に着目した用語です。日本では再生可能エネルギーのことを指すのが一般的です。
具体的な代替エネルギーには太陽光・地熱・風力発電、バイオマス燃料などがあります。これらのエネルギーは電力になったり、ガソリンの代わりになったりするものです。
専門の企業もありますが、上記で紹介した電力・ガス・石油の各メーカーが製造や販売を担っていることも少なくありません。
エネルギー業界の中にある電力・ガス・石油それぞれについて解説しました。続いてはもう少し詳しく仕事内容を見ていきましょう。
大手3社が東電・関電・中電であることからも分かるように、電力は発電から販売にいたるまで国内で完結することがほとんどです。
発電・送電に関わる技術者や販売に関わるスタッフなど、職種はさまざまにありますが、基本的には日本の国内のみを見ていることになります。
ただし、少子高齢化の進行や電力自由化にともなって国内需要にも減少の傾向が出てきています。そのため、大手では海外に目を向けた事業をおこなっていることもあります。
ガスも電気と同様、国内の需要を相手にしてきた業種です。しかし最近では、電気との競争が激しくなってきました。背景にはオール電化人気があります。
オール電化住宅は、調理器具・風呂など、それまでガスが担ってきた部分も電力で賄えるようになります。火災の恐れなども少ないことから、最近の住宅では積極的に採用されることが珍しくありません。
このため、ガス業界全体としては、国内にある限られたパイをどう電力業界と奪い合うかというのが大きな課題となってしまっています。
電力と異なり、ガスの多くは海外で生産されます。ガス会社大手の中には実際に海外拠点を持ち、生産・開発に積極的に関わっているところもあります。
ただし、大部分のガスは商社経由で輸入されているものです。生産国でのガス事業に携わりたいという方の場合は、いわゆるガス会社よりも石油メーカーや化学メーカー、商社などを就職先として検討してみるとより希望の進路が見つかるかもしれません。
参考:Baseconnect
前述したように、石油業界の企業は、グループ全体で原油の生産・加工・流通・販売までを一手に担っていることが珍しくありません。そのため電力・ガスに比べると国外で働く機会も多く、多国語を習得している人材が重宝されることが多いでしょう。
ただし、これはグループ全体を見たときの話であり、人材の採用はそれぞればらばらにおこなっていると考えておきましょう。
国内での販売をメインにおこなっている企業であれば仕事は国内がメインです。グループ内での人材の流動性などはそれぞれ企業によって異なりますので、個別に確認することが大切です。
2020年8月にはモーリシャスで商船三井がチャーターした大型貨物船が座礁し、重油10万トンが流出しました。重油を購入して運ぼうとした荷主の名前は公表されていませんが、燃料等を製造している会社であることが予想されます。このように、業界内の仕事であっても一部には他業界が絡んでくることもあります。
- 著者
- 公益事業学会 政策研究会/編著
- 出版日
電力自由化を中心に据えておこなわれた制度改革の全体像が分かる書籍が『まるわかり電力システム改革2020年決定版』です。
電力ビジネスや電気事業制度は、大きな変化をし続けています。その基盤が作られるのが2020年と言われているのです。どのような変化があるのか、何が問題になっているのかなど、まずは項目ごとに知識を手に入れたい方におすすめです。
今後の電気ビジネスを知る上で必要な専門用語なども掲載されています。
- 著者
- ["ローズ,リチャード", "勝, 秋山"]
- 出版日
火を手に入れたことは、人類にとって非常に大きなターニングポイントになったと考えられます。小さなたき火は石炭・石油などの燃料発見につながり、産業革命を誘導し現在のような工業社会を生みました。
人間がエネルギーをどのように使ってきたのかを知ることができるのが『エネルギー400年史』です。少々高価な書籍ですが、大学の図書館などで探してみてください。エネルギー業界を志望する方にとっては役に立つ歴史を学ぶことができます。
- 著者
- 山中 俊之
- 出版日
産油国にはイスラム教国が多く、海外の貿易拠点には英語圏が多いというのが現在の世界です。エネルギー業界に就職すると、思ったよりも早く海外赴任のチャンスが巡ってくるかもしれません。
そのようなときに知っておきたいのが赴任先の文化・慣習です。どのような考え方がベースにあるのかを知っておくと、相手に対して適切な配慮を持って接することができます。まずは教養書のようなもので十分なので、一度学んでおくとよいでしょう。
現在のライフスタイルには欠かせないものとなったエネルギー。それらを産出して供給するエネルギー業界について紹介しました。企業によって仕事の内容はさまざまなので、しっかり調査して後悔しない進路選びをしてください。