一昔前まで介護業界は3K(きつい、きたない、危険の頭文字をとった造語)といわれており、担い手が少なかった介護業界。しかし、今ではライフワークバランスを重視した働きやすい業界に生まれ変わっているのをご存知でしょうか。転職する方を受け入れやすくするため、給料や就職環境の改善などが徐々におこなわれているのです。 ここでは、介護業界で実際に働いてきた看護師の視点から介護業界が現在どうなっているのか、これからどうなっていくのかを解説します。
まず現在の介護業界がどうなっているのかをご紹介する前に、現在の日本の高齢化について解説していきます。
高齢化を語るために必要なデータが高齢化率です。高齢化率とは日本の全国民の中で65歳以上が占める人口の割合です。日本の高齢化率は1950年時点で5%に満たなかったのですが、年々その数字は増加傾向にあります。
現在も高齢化率はぐんぐん上昇しているところであり、今後もこの上昇は続くものと考えられています。2060年には約2.5人に1人が高齢者となる見込みとされています。
もちろん世の中には、病気知らずで元気な高齢者もいらっしゃいますが、年齢を重ねることで体調が悪くなってしまうこともあります。認知症など高齢者特有の病気も多いこともあり、高齢者が増えることで必然的に要介護者も増える傾向にあります。
先ほどもお話しした認知症ですが、特に認知症高齢者は増加傾向で7人に1人が認知症といわれています。認知症以外にもさまざまな病気があり入院して治療をしていきたいと考える方も多いでしょう。しかし、国の予算の関係や医療機能の関係で病気を抱える全ての高齢者が病院で療養していくことは不可能です。
そのため、病気と付き合いながら社会資源、介護の資源を活用して地域で暮らさなければなりません。これを地域包括ケアシステムというのです。
▶︎介護職で働ける職場が増えている
地域包括ケアシステムを充実させるためには、介護の力が必須となります。そのため、介護施設は近年増加傾向にあり、ほとんどの介護サービス事業所や介護施設が前年度と比較して徐々に増えています。このことから、介護職として働ける職場は多くなってきており、どこででも働くことができるようになりました。
▶︎介護職員の賃金改善、環境整備も始まっている
さらに、介護職員処遇改善加算の運用も始まっています。介護職員処遇改善加算とは、「キャリアパス要件」「職場環境等要件」という国の定める要件をある程度満たすことによって施設に介護職員ひとり当たり、一定の金額を加算する制度です。
介護職員処遇改善加算が始まった目的として、介護職員の安定的な処遇改善を図るための環境整備とともに、介護職員の賃金改善があげられます。
つまり、制度が整った施設で働けば、給料も能力分、改善されるため、今までのような薄給な業界ではなくなってきているといえるのです。
現在の介護業界を加味したうえで、介護業界は今後どのような業界となっていくのかをご紹介していきます。
まず、これからの介護業界は今以上に就業場所が多彩となることが考えられます。一昔前までは介護業界で働くとなると、介護老人保健施設や特別養護老人ホームといった介護施設やデイサービスなどが就業場所の中心でした。
しかし現在はサービス付き高齢者住宅やリハビリ特化型デイサービスなど、今までになかった新しい介護事業所が増えてきています。特にこれらの施設では要介護認定はされているものの、ある程度もことは自力で行える、あるいは行いたいという人が多いため、排せつ介助や入浴介助、異常や移送といった介護業界の仕事のなかでも力がいる仕事が少ない傾向にあります。
介護の世界で働きたいけれど力仕事に自信がない、腰痛など持病を抱えているという方でも介護業界で働きやすくなったということです。
次に、勤務時間の問題です。介護業界は交代勤務がほとんどであり、夜勤も必須というようなところがほとんどでした。ですが、近年増えてきているリハビリ特化型デイサービスやデイサービス、デイケアの場合は夜勤がありません。
特にリハビリ特化型デイサービスについては午前、午後と時間を分けて利用者を受け入れるところが多いことから、午前、午後に分けて働くことができます。
そのため、介護の世界もライフスタイルに合わせて働き方を選択できるようになりました。たとえば、しっかり稼ぎたいという方ならば夜勤のある施設を選択したり、育児と仕事を両立したいという方なら夜勤がなく、定時で上がれる施設を選択したりできるようになったということです。
最後に、スキルアップやキャリアアップができる環境が以前よりも整ってきているということです。介護業界でもキャリアパス制度がスタートしました。キャリアパス制度とは働き、学んでいくことで徐々に上位の資格取得を目指していけるという制度です。
今まで介護業界の上位資格は介護福祉士でしたが、2015年に民間資格ではありますが、認定介護福祉士という上位資格も作られています。つまり、学べば学ぶほど、キャリアアップをしていくことができ、お給料に還元できる可能性もあるということになるのです。
超高齢化社会にともない、介護業界の人材の需要が高まり、よい人材がたくさんほしいと働きやすい環境や学びを深めやすい環境を作ってくれているところが多いです。介護業界はいま少しずつ、よい方向に変化しつつあるのです。
今後さらに需要が増していくと言われている介護業界。しかし実は介護業界に従事している8割の人は他業種からの転職だと言われています。
新卒で介護業界に就職する方は少なく、転職を考えている方は多いのです。
求人数が多いのは介護業界だけではありません。各業界で人材を募集しているため、なかなか介護業界に人が集まらないという現状があります。
そのような背景もあるため、介護業界への転職は比較的、容易であると言われているのです。また介護職員初任者研修の資格を取得すれば介護業界で働くことができ、働きながら他の資格取得をする方もいるので、就職・転職がしやすいのです。
転職するとなると、やはりお給料の安定した正社員を目指す方は多いですよね。
環境改善に向けてさまざまな動きを見せている介護業界ですが、現状ではやはりお給料の問題や、夜勤などの働き方の問題がすべての施設で改善されているわけではありません。そのため、派遣社員として働く選択肢も場合によっては検討すべきでしょう。
ただ派遣として働く場合はスキルアップにともなう昇給や、管理職への昇級などはのぞめません。また福利厚生や資格手当なども正社員と派遣社員では待遇が異なることもあるでしょう。
お給料だけで見れば派遣社員の方が時給が高いかもしれませんが、長い目で見た場合、派遣社員が一概によいとは言い難いのが現状です。
- 著者
- イノウ
- 出版日
介護業界に関する基礎知識をまとめた1冊です。さまざまなキャラクターが登場し、ストーリーはマンガで描かれているため、とても分かりやすいことが特徴です。
介護のサービスや制度、施設についてなど介護の業界で働きたいならば知っておきたいことばかりが書かれています。また、介護の資格やキャリア形成についても載っているため、介護の業界で自分がどのように働いていきたいかというイメージもつけやすいのではないでしょうか。
介護関係の資格を取得し、介護業界の第一線で働きたいという方はもちろんですが、介護施設を経営したいという方にも読まれている1冊です。
- 著者
- 中原 登世子
- 出版日
この本は、介護施設を運営したいなど介護業界でビジネスを展開していきたい方向けに書かれている1冊です。そのため、内容としては少々難しかったり堅苦しい表現があったりします。
ですが、介護の業界が現在どのようになっているのか、今後はどのようになっていくのかという現在の状況と今後の展望が見えてくるため、介護業界がどういった業界なのかを知っておきたいという方には一読しておいていただきたい本です。
介護業界には、介護の資格を取って介護の第一線で働てきた方が、介護ビジネスを起業するというような例も多くあります。今後、介護ビジネスを展開していきたいと考える方も読んでみてはいかがでしょうか。
- 著者
- 東田 勉
- 出版日
介護業界で働くならば、介護保険についてはぜひ知っておいていただきたいものです。そんな介護保険についてが易しくまとめられている1冊です。
2018年の改定にも対応しており、この1冊で介護保険について学ぶことができます。介護保険がどういう仕組みであるのか、どのような経緯で改正してきたかなど、介護保険について理解を深めることができます。
文章だけでなく図での開設が豊富で非常に分かりやすいというところがポイントです。介護業界に興味があるという方から、介護業界について勉強を始めた方、介護業界で働いている方まで幅広くご活用いただける1冊です。
国が働き方に注目している介護業界。そのため、働き方改革には国もどんどん介入しており、一昔前よりも格段に働きやすくなってきているということがお分かりいただけたるかと思います。
ライフワークバランスを重視しながら働ける業界に生まれ変わっていますので、介護に興味のある方はぜひチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
ここでご紹介した本を読んでいただき、さらに介護業界についての理解を深めていただけると嬉しいです。