バレリーナは、優雅な身のこなしで壇上の上で舞い、観ている人を魅了します。ふわっと広がる衣装に身を包み、重力を感じさせないジャンプや回転、つま先立ちで踊る姿。プロの舞台でなくとも、友人の発表会であれば観たことがある方はいるかもしれません。バレリーナとして就職・転職するには国内外どちらもオーディションやコンサートに参加する必要があります。しかし国内外では年収や待遇などが異なるため、どのバレエ団に所属するかはよくよく考える必要があるで翔。 今回は、職業としてバレエを生業にするプロのダンサーの実態について、魅力と厳しさの両面からご紹介する記事をお送りします。
バレリーナとは、クラシックバレエの舞台に出演し、その表現力や技術力で観客を感動させる仕事です。一般に女性のダンサーを「バレリーナ」、男性のダンサーを「バレリーノ」と呼びますが、男女を使い分けずに「バレエダンサー」と呼ぶ場合もあります。
バレリーナの主な仕事は舞台に出て踊ることです。しかしプロのダンサーとして踊るために必要な体力、表現力、技術力などを向上させるため、舞台の外でも継続的な努力が求められます。
毎日の基礎練習に加え、美しく健康的な身体を維持するための食事管理、感性を磨くために音楽や美術など他の芸術を鑑賞したり学ぶこともあります。振付家や演出家の要求に応えられるよう、読書などを通じて作品背景を知ることも欠かせません。
バレリーナの仕事を舞台で踊ること以外にも目を向けていくと、次のような内容があります。
これらは世界中のバレリーナ共通というより、日本におけるバレリーナの仕事内容となっています。日本では、バレリーナの職業だけで経済的に自立し生きていくことは厳しい現状にあると言われています。
もちろん海外でも国やバレエ団の規模によって異なりますが、一般に日本におけるバレリーナの待遇面は恵まれていると言い難い状況です。生活費をまかなうために、レッスンのない時間帯にバレエ講師をしたりシフト制のアルバイト入れるなど副業をするダンサーは珍しくありません。
それでは、バレリーナの雇用形態はどのようなものなのでしょうか。
▶︎日本の場合の働き方
バレエ団に所属し有期契約を結んで舞台に立ちます。契約を結んでも、毎月定額の給与が払われることはごく稀です。1回の公演出演料は、平均が1.5万~5万円と言われており、入団した時のダンサーの階級によっても異なります。
▶︎海外の場合の働き方
海外でも、国立や州立など大きなバレエ団やバレエが根付いている国でのケースをご紹介します。バレエ団に所属し、1年または数年単位で有期契約を結ぶような日本と同様の団体もあります。
しかし初回のみ有期契約で以降は自動更新制であったり、初回からダンサーが自ら離職を希望しない限りは団体からの雇用期間の定めがない団体も少なくありません。国立の劇場付属のバレエ団が多く、国から助成金が出たり福利厚生や社会保障が整っている場合が多いです。
こうした現状から、とりわけ日本においては、バレリーナとして活躍しながら、踊ること以外の副業を得て生活するダンサーが多くいます。
バレリーナになるには主に2つの方法があります。ひとつはバレエ団のオーディションを受けること、もうひとつが海外のコンクールやバレエスクールに挑戦することです。
バレエ団に所属するには、バレエ団が開催しているオーディションを受け合格しなくてはなりません。バレエ団のオーディションは例年1月〜3月におこなわれ、応募するには各バレエ団によって年齢や身長など条件が決められています。
オーディションといっても、何かを壇上で披露するのではなく、クラスレッスンに参加し合否が決定されます。参加費もかかるので、どのバレエ団のオーディションをいくつ受けるかは検討しなければなりません。
先述したように日本のバレエ団では1公演ごとに出演料が支払われる雇用形態なため、レッスンや公演以外の時間を使ってバレエ講師をするなど副業をして生計を立てていることがあります。
全ての時間を使ってバレエに集中したい方は、海外のコンクールに参加し、海外のバレエ団に入団する足掛かりを作ることをおすすめします。国際的なコンクールに参加し、もし入賞できずとも観覧にきている海外のバレエスクールから声が掛かることもあるでしょう。
知る機会はあまりないかもしれませんが、国内外には数多くのバレエ団があります。その一部をご紹介しましょう。
日本にはいくつか主要なバレエ団があります。
このなかのいくつかのバレエ団をご紹介しましょう。
▶︎新国立劇場バレエ団
島田廣初代芸術監督のもと、1997年に設立されました。古典から20世紀の名作、現代作品までレパートリーにあがります。2020・2021シーズンからは、イギリスで長年プリンシパル・ダンサーとして活躍してきた吉田都氏を芸術監督に迎えています。
▶︎東京バレエ団
1964年に設立されました。古典から現代の名作までレパートリーは幅広いです。海外公演をおこなった数は775回にもおよび、32か国155都市を巡っており、日本のバレエ団として世界的に有名な存在です。
▶︎Kバレエカンパニー
熊川哲也氏によって1999年に設立された、日本で唯一の株式会社が運営するバレエカンパニーです。設立当初は他分野とのコラボレーションなどさまざまな舞台パフォーマンスへの新しい挑戦が目立っていました。
2002年以降は、バレエを正しいスタイルで継承するという理念のもと、熊川氏自身のオリジナリティを盛り込んだ古典が「熊川版」として発表されています。
▶︎NBAバレエ団
久保栄治氏によって1993年に設立されました。
バレエダンサーの地位向上と待遇改善、高品質な作品上演に向けて国内外で活躍するバレエ団の幹部らが集って生まれたバレエ団であり、高いとは言い難い報酬やチケット販売のノルマなど、従来のバレエ界の常識を覆すことを掲げています。
代表的な国内のバレエ団は数多くあります。オーディションを受ける際、事前に作品をよくよく観ておくことはもちろん、沿革や方針、待遇面においても調べておくことが重要です。
▶︎ロシアのバレエ団
ロシアはバレエ大国と言われており、国民の芸術として人々の日常にバレエが浸透しています。公演のチケット料は、日本の約10分の1の価格です。
他には「マリンスキー・バレエ」や「レニングラード国立バレエ」も有名なバレエ団です。
▶︎フランスのバレエ団
▶︎イギリスのバレエ団
他に、英国ロイヤル・バレエと姉妹関係にあるバーミンガム・ロイヤル・バレエや、ロンドンにある第二のバレエ団とされホリデイシーズンに有名な「くるみ割り人形」の上演で知られるイングリッシュ・ナショナル・バレエも有名です。
▶︎ドイツのバレエ団
その他、ミュンヘン・バレエやフランクフルト・バレエ、ドレスデン・バレエなどの有名なバレエ団があります。ドイツのバレエ公演の活発さはロシアと並ぶほどであり、バレエ大国のひとつだといえるでしょう。
海外のバレエ団への所属は下調べをしっかりする
他にもイタリア、スペイン、アメリカ、カナダ、ウクライナなど世界的に有名なバレエ団は数多くあります。バレエ団の特徴のみならず、まずはその国の風土や特徴、暮らしやすさなど下調べをし、長く生活するのに適した環境を選びたいですね。
働き方の他に、バレリーナの給与形態や年収などは気になるでしょう。基本的には1公演ごとの給与形態になっているため高い水準の年収を目指すのは難しいと言われています。
日本の場合は、有名な国内バレエ団で、1公演の出演料が1.5~5万円と言われています。バレエ団によりますが年間50~60公演あるとして計算すると、年収にして75~300万円ほどが相場です。ダンサーとしての階級が上がったり活躍の場を広げられれば、400万円以上を目指すことも可能です。
海外の場合は国によりますが、日本と比較してバレエが浸透している国では最低でも年収が約400万円と言われています。ソリストで約500~800万円、有名なバレエ団で最高階級のプリンシパルともなれば1000~2000万円にもなると言われています。
バレエ団に所属しているバレリーナは、基本的には会社員と同様、決まった時間にスタジオに出て決まった基礎練習から1日を始めます。国やバレエ団にもよって違いはありますが、公演シーズン以外は出勤曜日や休日も固定されているバレエ団もあります。
▶︎日本の場合
オフの過ごし方は、同様に別の職業で収入を補う場合は多いですが、その他身体のメンテナンス、ジムでのトレーニング、また他の芸術に触れたり読書などを通じて感性を磨いて過ごします。
▶︎海外の場合
日本と海外での違いは、練習時間外やオフの時間を副業に捧げるバレリーナが海外では少ない点です。収入面で仕事を掛け持ちしなくとも生活していける待遇を得られているダンサーたちは、身体のメンテナンスやトレーニング、芸術鑑賞や読書など自己研鑽に集中することができます。
副業の必要がある日本のバレリーナの場合でも、バレエ講師などバレエと関係のある仕事を選ぶダンサーが多いです。レッスン着のデザインや販売をする人もいます。基本的には、オフの時間であってもバレエと関係した何かを行っている人が多い印象です。
日本の場合は恵まれてるとはいえない現状にあります。海外のバレエ団ではトウシューズ(ポワント)とタイツは消耗品であるため支給されるのがほとんどですが、国内では自費が基本であり、ごく一部では全額支給や一部補助のバレエ団があるという状況です。
またオフシーズンで公演がなければ給与が発生しないことはもちろん、契約形態が雇用契約ではないことから、社会保険加入義務がなくダンサーは個人事業主と同じ扱いになります。ケガの病院代や身体のメンテナンス費なども基本的にダンサーの自己負担です。
一方海外の場合、たとえばヨーロッパの国立の劇場付属のバレエ団では、国が運営する劇場であるため国から補助が出ます。給与面でも固定給や月給制がとられている団体は多く、残業手当がついたり、副業が必要ないだけの給与が支給される団体は珍しくありません。
またオフシーズンでも固定給が支払われているバレエ団もあります。とりわけロシアはバレエダンサーへの手当が充実しているため、現役寿命が短いダンサーに考慮して、引退後は30代後半から年金が支給される仕組みも整っています。
バレリーナとして、公演に出演する以外の活躍の場を多くのダンサーたちが模索し開拓しています。ここではそうした活躍を広げている日本人ダンサーをご紹介したいと思います。
1991年生まれ、アメリカのヒューストン・バレエのプリンシパル。ダンサー業のかたわら、シャネルのビューティ・アンバサダーを務めるなど、ファッションアイコンとしての活躍も注目を集めています。
元々ファッションが好きでインスタグラムに自身の私服の投稿をしていたことから、バレエファンだけではなくファッショニスタとしてのファンも増え、ビューティ・アンバサダーの仕事はインスタグラムから依頼が来たそうです。
バレエ・ダンス用品を扱うチャコットとのコラボアイテムを出すなど活動を更新中です。好きな作家は安部公房や川端康成、趣味でイラストを描いたりフィルムカメラで撮影もされるそうです。
1994年生まれ、吉本新喜劇の座員であり、お笑いタレント兼バレリーナ。新喜劇に入ったきっかけは、闘病中であったお父さんがテレビでお笑いを観られない精神状態になってしまった中で、新喜劇だけは観ることができていたからだそうです。
また、お父さんが亡くなって1週間後に新喜劇のオーディションがあったことから、運命的なものを感じ受けることを決めたとのことです。
芸人としての自分にインパクトが足りないという思いから、芸人になってから受けたバレエの全国コンクールで優勝したり、Youtuberとしてバレエやメイクのことなどを題材に映像を制作したりと、自らの武器を探し徹底的に磨く強さが魅力的です。
1987年生まれ、アメリカのサンフランシスコバレエプリンシパル。156センチという、欧米のバレエ界で活躍するにはかなり小柄な身長でありながらも、逆境を乗り越えながらバレエダンサーの最高階級であるプリンシパルにまでのぼりつめました。
繊細で可憐な印象の表現力や確かな技術力が評判です。日本で毎日放送の人気長寿番組『情熱大陸』で取り上げられたこともあります。
普段のレッスン動画や写真、オフシーンでの日常が垣間見える投稿が継続的にアップされており、インスタグラムのフォロワー数は14万人を超えるほどです。レッスン風景の動画の投稿が多く、バレエ経験者からそうでない方も、その優雅な動きについうっとりと眺めてしまいそうです。
SNSや動画配信サービスを利用したバレリーナのセルフプロデュース力、どんな業界・職業であっても参考にできる、積極的な姿勢を感じることができそうです。
国内外で活躍をくり広げるバレエダンサーたちのインタビュー記事、動画などを見ていても、共通するのは「何よりもバレエが好き」「踊っている時が一番幸せ」といった、バレエそのものへの強い希求心です。
希求というより、熱望、渇望といった表現の方が適切に思われるほどの強く激しい思い、ストイックさが感じられます。以上のことからも、バレエを心から愛するバレリーナにとって、やりがいは上記の2つが最たるものだと考えられます。
一方で、バレエを続けることやプロを目指すこと、プロであり続けることには常に苦労がつきまといます。
本格的にバレリーナを目指す場合、週5日ほどレッスンに通うのはもちろん、体調管理や体重の管理は欠かせません。時間的にも体力的にも、学業や部活動との両立はかなり難しいです。
プロを目指すために早々に他の選択肢を捨てバレエのみに集中できるよう、機会を得られれば13~15歳頃から海外のバレエ学校に留学することもあります。
他の習い事と比較して、月謝や衣装代、発表会費など金銭的な負担は小さくありません。特に食事の面では不健康な体重制限や減量によって思春期の身体に悪影響を及ぼさないよう、家族の協力も得ながらダンサーとしての身体づくりをしていく必要があります。
経済的な苦労は、バレリーナになってからも続きます。学生時代は親が負担してくれていた学費、習い事のレッスン費なども、社会人になれば自立していきたいものです。
ただ、日本におけるバレリーナの場合、完全にバレエ公演のみで生活していくことは先述のように難しいのが現状です。海外のバレエ団で自活できる待遇が受けられるダンサーになるのではない限り、そうした苦労を副業で補填しながら踊り続ける厳しさがあります。
- 著者
- ["菜穂美, 森", "恵, 四家", "明子, 富永"]
- 出版日
5歳頃にバレエを習い、大人になってバレエを再開した、バレエを愛してやまない筆者による読みやすい解説本 。可愛らしいイラスト付きで見やすい辞典形式となっています。
観る専門の方も仕事や趣味で踊る方も、バレエを楽しむ上で知っているとためになる用語が厳選され解説されている点が魅力です。
他にはプロのバレリーナへのインタビューや著者のコラムも混ざっており、楽しく分かりやすくバレエへの知識やイメージを肉付けすることができます。バレエ初心者だけでなく、バレエ経験者が読んでも楽しめる内容と評判です。
- 著者
- ["ヴァレリー グリーグ", "Grieg,Valerie", "房子, 上野"]
- 出版日
バレエを踊る上で必要な、身体の使い方を解剖学および人体力学の視点から学べる入門書です。バレエ、ダンスはもちろん、スポーツをやっている人や体の動かし方に興味がある方におすすめです。
内容は専門的な部分もあり、専門書の翻訳本ゆえの読みづらさが若干ありますが、本書の内容をレッスンに結びつけ、バレエテクニックの習得に繋げられれば大変参考になる本だといえます。
- 著者
- []
- 出版日
2016年に雑誌『家庭画報』のムック本として発売されました。世界で活躍する、人気のバレリーナ10人を取り上げオンとオフの生活に密着取材しその両面を描いた内容になっています。
当記事でもご紹介した飯島望未さん、倉永美沙さんも10人の中に入っています。
バレリーナそれぞれの個性や境遇に合った企画や特集が組まれており、メイクへのこだわりや現地での生活にフォーカスした内容など読みごたえたっぷり。オールカラーでみるバレリーナの姿に、あらためてバレリーナの内面、身体の美しさの魅力を知ることができます。
読んでいると実際に劇場でバレリーナの姿を観に行きたくなります。
DANCE MAGAZINE (ダンスマガジン) 2020年10月号
2020年08月07日
大人向けのバレエ・ダンス情報誌といえばこちらでしょう。最前線で活躍する、国内外のプロダンサーや振付家のインタビュー、バレエ公演のレポートなどが掲載されています。
数々の舞台やバレエシーンのハイクオリティな美しい写真も、魅力のひとつ。眺めているだけで楽しむことができます。チャイコフスキーの名作と言われている「白鳥の湖」や「眠れる森の美女」、「くるみ割り人形」、そのほか世界の名作について知りたい方はぜひ読んでみてください。
昴 (1) (ビッグコミックス)
2000年06月01日
男性漫画家による、手に汗握るバレエ漫画作品です。いわゆるバレエ漫画でイメージされる、細い線の優雅な画風とは一線を画しています。その画風がまた、踊りに対する情熱をもとに、努力をもって才能に磨きをかけていく主人公の様子と絶妙にマッチしています。
音や動きで人を惹きつけるバレエを漫画の表現だけで惹きつける著者の画力に、心を突き動かされます。退屈しない内容で、一気に読み切ってしまうこと間違いなし。バレエ初心者から上級者まで楽しめる漫画です。
バレリーナの華やかな世界、その裏にあるたゆまぬ努力と厳しい競争や経済的状況。舞台上で優雅に舞い、夢のひとときを与えてくれるバレエダンサー一人ひとりに、物語があり苦労があります。ダンサーたちのやりがい、葛藤の両方を知ることで、舞台を眺める視点がより深まることでしょう。
プロでも趣味ダンサーでも、鑑賞の趣味でも、バレエの世界は遠くではなく、すぐそばにあります。
この記事を読んで興味を持った方は、まずはバレエの魅力を発信するバレリーナたちのSNSの投稿を覗いてみることからはじめてもよいかもしれません。