私たちがほぼ毎日利用している電車。電車を運転しているのは「電車運転士」という国家資格を持った方々です。車掌や駅員とはまた違う仕事を担当しており、私たちの命の安全を守るために快適で安全な運転をしてくれています。子供が憧れる職業のひとつでもあります。 しかしその道のりは長く、鉄道会社に就職・転職してから最短でも3年の月日が必要とされています。それだけ責任感が重く、知識や経験がないと務まらない仕事というわけです。 今回はそんな電車運転士の仕事について、日々の業務や勤務形態、年収や資格について完全網羅。この記事を読めばきっと電車運転士の仕事の全貌が分かるでしょう。
鉄道会社に勤め、毎日安全に電車を運転するプロである電車運転士。鉄道関係の仕事のなかで人気の高い職種のひとつです。
時刻通りの正確な運転技術や、乗客が安全に電車を利用できるよう運転前の準備からトラブル対応までおこなっています。私たちが日々、自分のスケジュールを時間通りにこなせているのも、電車運転士が秒単位に仕事をしてくれているからです。
そんな子どもの憧れの職種でもある電車運転士は主にどんな仕事をしているのでしょうか。
メインの仕事はやはり電車の運転です。しかし電車運転士の仕事はそれでけではありません。
電車が出発する前におこなう車両の整備・点検はとても重要です。車内に忘れ物はないか、汚れはないかなど乗客が安全に乗車できるようにさまざまな点検をおこないます。
また人身事故やお客さん同士のトラブルなど、思わぬトラブルへの対応も電車運転士の仕事です。そのため電車運転士には冷静な判断力が求められます。車掌や指令所のスタッフと連携し、出来るだけ素早くトラブルを解決できるよう行動していきます。
電車運転士の仕事は変則的なシフト制で働いています。1日中勤務する日もあれば、朝から夕方まで勤務する日もあります。2つの働き方を組み合わせて日々の仕事をおこなっているのです。
今回は一般的な1日中勤務のスケジュールをみていきましょう
朝の9時から翌日の9時まで、乗務と休憩を繰り返しながら安全な運転をしてくれていると思うと、とても頭がさがりますね。
1日勤務と朝から夕方までの勤務は、必ずしも交互にシフトが組まれるわけではありません。1日勤務の後、朝から夕方までの勤務をおこなうこともあります。ただその場合、日勤を勤めた後に休日となることが多いようです。
1日勤務、日勤、休日を組み合わせながら電車運転士の方々は働いています。
電車運転士の年収は高いイメージという方は多いでしょう。実際にはどれくらいの水準になっているのでしょうか。
勤務先の鉄道会社によって差はありますが、平均年収は500万円〜600万円ほど。なかには600万円以上もらっている方もいると言われています。
平均月収は「賃金構造基本統計調査の職種別賃金額」によれば以下のようになっています。
平均月収は30万円台となっており、鉄道会社や勤務年数によっては40万円ほどとなる方もいるのだとか。この金額にボーナスもきちんと支給された額が電車運転士の年収となります。
鉄道会社にはさまざまな手当がありますが、電車運転士にだけつく手当として「乗務員手当」があります。これは乗務時間と距離に応じて支給される手当のことで、乗務時間は1分単位、乗務距離はkm単位で計算されます。
この乗務員手当は1カ月あたり3万〜8万円ほどになりますが、災害などで緊急出勤もある場合は手当のみで10万円になることも。
こう聞くと乗れば乗るほど収入をあげられるという考えもでてきそうですが、そうもいきません。先述したように電車運転士の勤務はかなり変則的です。1日のあいだで集中力を保てるよう細かく休憩がはさまれますが、若いうちは問題なくても年を重ねるごとに体への負担が大きく感じられることもあるでしょう。
また自動車に取り入れられている自動運転が、将来的には電車にも搭載されるのではないかといった話もあります。そうなれば乗務員手当も今より金額がさがり、乗務員手当で月収が大きくあがることも少なくなるかもしれません。
電車運転士になるには、まず鉄道会社に就職を目指さなければなりません。学歴は気になるところですが、高卒の方も、大卒の方もどちらもいます。ただ割合的には高卒でそのまま就職する方が多いようです。
しかし高卒も大卒も、就職したらすぐに電車運転士になれるわけではありません。電車運転士は「動力車操縦者免許」という国家資格がなくてはなれないため、電車運転士を志望する方はまず車掌や駅務員として働きながら、電車運転士としての適性を判断されます。
数年働き、適性があると判断された場合のみ国土交通省が指定する「動力車操縦者養成所」に入所し、講習を受け、試験に合格して晴れて電車運転士を名乗ることができるのです。意外と道のりが長く、最短でも約3年ほどかかる点を考慮して、高校卒業と同時に電車運転士を目指す方が一般的なルートのため、高卒者の割合が多くなっているんです。
中途採用の場合、不定期に募集をかけている可能性があります。ですので日々、中途採用の募集がかかっていないか各鉄道会社のホームページを確認するようにしていれば、転職も不可能ではないでしょう。
しかし中途採用であっても、電車運転士への道のりは新卒と同じです。研修や登用試験を受け、電車運転士を名乗れるようになるかどうかは、その人の努力次第といったところが大きいようです。
先述したように、電車運転士になるには「動力車操縦者免許」という国家資格を取得しなければなりません。この資格は電車や新幹線など動力車を運転するのに必須の資格で、ほかには蒸気機関車やモノレール、路面電車なども含まれています。
しかしそれらの免許は12階級に細分化されているため、ひとつの資格を取得すればすべて運転できるわけではありません。
電車運転士の場合であれば、複数の動力車の運転が可能な「甲種電気車免許」の取得が一般的です。
国家資格取得の試験を受ける前に、まずは国土交通省が指定する「動力車操縦者養成所」に入所します。養成所では学科講習と技能講習を受け、実際に電車運転士として働いた際に起こり得る事故や異常時のシミュレーションなどもおこないます。
国家資格のため独学でも勉強可能かどうかは気になるところですが、試験には技能試験も含まれているため難しいといえるでしょう。また養成所での講習には数百万円単位の費用がかかるため、環境と時間どちらの面から考えても個人では厳しいと言わざるを得ません。
養成所での訓練が終わったら、やっと資格取得のための試験を受けることができます。受験資格は意外とゆるく、20歳以上で講習を受けた者であれば誰でも受験可能です。試験は年に2回、9月と3月におこなわれ、各養成所もしくは地方運輸局にて実施されます。
試験科目は全4科目。
このうち身体検査や適性検査で引っかかることはあまりないでしょう。視力や聴力など機能が正常であれば問題はありません。重要なのはやはり筆記試験と技能試験です。
▷筆記試験
主にこの3つの科目から出題されます。専門知識に関する内容になっているので、きちんと用語の意味や、電車運転士として必要な知識を習得できていれば大きな問題はないでしょう。
▷技能試験
技能試験は以上の6項目で試験をおこないます。実際の列車を使い、講習で訓練してきたことを思い出して堂々とやることができれば大丈夫。非常の場合の措置の課題にはどんな問題が出題されるかわからないためドキドキですが、突飛な問題は出題されないので安心して技能試験にのぞむとよいでしょう。
運転席の後ろで電車の運転を見ているとき疑問に思うことはないでしょうか。数百トンの列車を時速100キロ以上で定刻通りに運転し、ホームの停止位置にピッタリ止めるのを見て、運転士は何を考えているかと。
この本では、特急列車から貨物列車まで乗務経験のある著者が列車の仕組みを解説しています。
- 著者
- 宇田 賢吉
- 出版日
この本の著者は、日本国有鉄道(国鉄)に入社し、蒸気機関車・電気機関車・電車に乗務した経歴を持っています。国鉄民営化後、JR西日本で岡山運転区・府中鉄道部・糸崎運転区に所属し、電車と電気機関車の運転をしたこともあるのだとか。
読者のなかには子どもの頃から運転席の後ろで電車の運転を見ているとき、どのようにしてぴったり止めるのか気になる人がいると思います。
この本は、電車運転士が頭のなかで何を考え、どのように運転しているのか分かりやすく解説しています。この本を読んだ後で、電車の運転席の後ろで運転を見ていると、見方が変わるかもしれません。
毎日、電車は当たり前のように定時運行をしています。当たり前だと気付くことはないかもしれませんが、定時運行を支えているのは運転士です。
この本では、運転士になるまでの過程・運転士を支える裏側・上手に運転するための技術・安全に対する意識など写真やイラスト入りで分かりやすく解説しています。
- 著者
- 西上いつき
- 出版日
普段、電車に乗って運転席の後ろで運転を見ていると、ピタリと停止できたり、定時運行ができたりするのはなぜだろうと疑問に思うことはないでしょうか。当たり前のようにできることですが、運転士が運転士になるまでに訓練を受けたことや日頃から意識していることが分かります。
回送車の場合、車内に立ち入ることができないので運転席の後ろで運転を見ることができません。回送車を運転するときに運転士の意識していることが分かります。
この本を読んで電車の運転席の後ろで見ると、見方が変わるかもしれません。
最後に、著者の西上いつきさんのYoutubeチャンネル「IY・西上いつき の「鉄道ゼミ」【元運転士・鉄道アナリスト】」があります。動画の解説も分かりやすいです。
2018年の東海道新幹線の遅延時分は1列車あたり平均54秒と言われています。なぜ正確な運行ができるのか気になると思います。
この本では、正確なダイヤを実現するために、身近なところではみどりの窓口から輸送指令にいたるまで新幹線のシステムを写真入りで解説しています。
- 著者
- 梅原 淳
- 出版日
第1章ではマルスが紹介されています。マルスとはJRの新幹線と在来線の特急の指定席を管理するシステムのことで、みどりの窓口で窓口の駅員が端末を指で叩くように操作しているのを見たことがあると思います。乗客の立場では知ることのできないマルスの仕組みをこの本を通して知ることができます。
マルスだけでなく、東京駅で掃除時間を含めて12分程度で折り返しができるコツも紹介されています。駅員の方がテキパキと掃除する様子を、実際に見たことがある方は多いでしょう。
そうした普段は知ることができない車両の検査の方法などが写真入りで解説されているため、新幹線の運転に興味がある方にぜひおすすめです。なぜ安全かつ正確・高速で運転できるのか疑問に思ったら手に取ってほしい本です。
安全運転、快適な乗り心地、省エネへの飽くなき工夫を解説しています。乗客が知ることのできない装置や素材について紹介しています。
- 著者
- 宮本 昌幸
- 出版日
- 2009-12-22
普段乗っている電車には、多くの仕組みが採用されています。そもそも電車はどのように電気をエネルギーにして走っているのか、速いスピードを出しているのにドアも窓もなぜあんなに大きいのかなど、疑問に思い出したらキリがありません。
そうした電車にまつわるさまざまな疑問を図を用いながら説明してくれているのが本書です。この本を読めば、電車は多くの人の研究や開発の賜物であることがわかります。そしてそのおかげで安全、快適に電車を利用できているのだと思うと、技術への感謝の気持ちもわいてきます。
知らなくてもきっと利用するのに支障はないだろうけれど、知っていたら利用するのがもっと楽しくなる。そんな1冊です。
憧れの職業のひとつである電車運転士。今回はそんな電車運転士のなり方だけでなく、あまり知る機会のない働き方や収入の仕組みなどについても解説しました。
驚きなのは運転士の資格が国家資格であること。しかし電車を利用している乗客の人数や、万が一事故が起こった場合の危険性などを考えると、国家資格だというのも納得ですよね。
責任ある仕事のため国家資格が必須で、国家資格を取得するための道のりも長い。しかしだからこそ憧れられる職種なのかもしれません。電車運転士の仕事は、知れば知るほど魅力の増す仕事です。関心のある方はこの機会にご紹介した本を手に取り、さらに知識や理解を深めてみるのもいいかもしれませんね。