私たちの生活に必要なお金を保管してくれている銀行。しかしその仕組みや、銀行の業務を知らない方は意外に多い。今回は「預金口座を作ったことくらいしかないな」という方にも分かりやすく銀行業について解説します。銀行が利益を得る仕組みや、銀行の種類、日本銀行の役目など金融機関についての基礎的な知識をご紹介しています。また記事の最後にはこれから金融・銀行業について勉強したい方におすすめの書籍を3冊紹介しています。こちらもぜひ参考にしてみてくださいね。
アルバイトを始めると、給与受け取りで必要になる銀行口座。実家からの仕送りや奨学金の受け取りのために使っている方もいるかもしれません。日々多額のお金がやりとりされている銀行という仕組み、いったいどうなっているのでしょうか。
銀行はお金を扱う仕事です。しかも建物など、非常に高額なものの売買にも関わります。そのため、まずは常にお金がたっぷりと銀行に集まっている状態を作らなければなりません。
それでは銀行のお金はどこから来るのでしょうか。それは口座を持つ顧客が預けた預金です。「お金を預ける」というと、自分の持っていた分のお金をそのまま物理的に保存しておくようなイメージがないでしょうか。
しかし銀行は、顧客から預かったお金をひとまとまりとして保存し、別の口座に移したり、貸したりしています。顧客から預金の引き出し要求があれば、またひとまとまりの中から要求された分の金額を引き出すのです。
銀行で他口座に送金をすると、一定の手数料がかかります。個人にとっては「高いな」と感じる手数料ですが、手数料の売上だけでは銀行の経営をまかなうことはできません。
では銀行は何で利益を得ているのかというと、利子です。口座にお金を入れたままにしておいたら、年に1回数円の利子が払い込まれたという経験はないでしょうか。これは銀行が預金者に払う利息で、一般的には「利子」と呼ばれています。しかし、厳密に言うと利子はそれとは異なるものです。
利子とは、お金を借りた人(債務者)がお金を貸した人(債権者)に支払う手数料のようなものです。借りる金額と機関に応じて利子の割合が変わります。通常、銀行から借りるお金は高額になりがちなので、銀行が受け取る利子もそれなりの金額になります。
それでは、どのような場合に銀行でお金を借りるのか考えてみましょう。
個人が住宅や車などを購入するためのローンがまず想定できます。ローンが通ると、銀行は売主に一括で支払いをし、買い主側から契約通り分割で返済を受けます。
そのほかにも企業が経営のためにおこなう借入や、いわゆるカードローンなどがあります。カードローンは通常の貸付より審査がやや緩い反面、利子が高いのが特徴です。利子が高いといえば消費者金融が有名ですが、大手の消費者金融のほとんどは現在大手銀行の傘下にあります。
このように、銀行はお金を集めているだけではだめで、貸さないと利益が出ません。預金口座を持っているだけでは気づきにくい銀行の最大の特徴がここにあります。
前述の内容と少々重複する部分もあるのですが、為替業務も銀行にとっては大切です。これは現金を直接動かさずに資金を移動させる業務で、税金や公共料金、通販の代金支払いなどで日常的に利用されているものです。
とくに住宅や自動車など、購入代金が高額なものは金融機関でないと送金がおこなえないことになっています。現金を持ち歩くわけにはいかない現代で、銀行の役割は非常に大きなものとなっています。
なお、一度に送金できる金額や許認可に限度がありますが、資金移動業者という業態でも一部の資金移動が可能です。銀行系以外のキャッシュレスサービスではこの仕組みを利用している事業者が少なくありません。
参考:ニッセイ基礎研究所
銀行の業務について大まかなことが分かったところで、続いては銀行の種類について見ていきましょう。種類とは何か、仕事の違いがあるのか、ご存じでしょうか。
中央銀行とは、国家にひとつだけある銀行のことで、日本では「日本銀行」です。中央銀行は一般に政府から独立した機関とみなされています。通貨を発行する権利のある銀行で、市場の調整のために通貨の流通量を調整しています。
また、「国のための銀行」「銀行のための銀行」と呼ばれることもあります。国庫金は日銀に預金してありますし、銀行同士も日銀の口座を使って決済をおこなっています。一方、一般人や企業が日銀に口座を作ることはできません。
そのほか、日銀は日常的に株の取引をしたり、外貨の売買をしたりしています。市況が悪くなると自身の財源から出費をして日本円や株を買い支えたりすることもあります。このように、一般人が中央銀行と取引することはありませんが、その国の金融情勢は中央銀行の働きによって支えられているのです。
2020年は「政策金融公庫の金利が実質無利子に」などといったニュースをよく耳にしました。日本政策金融公庫、日本政策投資銀行などは「特殊銀行」と呼ばれており、中央銀行とも一般の銀行とも異なる組織です。
特殊銀行の特徴としては、まずその銀行を設立するための特別な法律が存在していることがあげられます。つまり、何らかの政策的な意図を持って作られている銀行なのです。政策金融公庫であれば、企業や農林業に向けて比較的利率の低い貸し出しをおこない、事業の安定化を支援しています。
また、国の政策として作られた銀行であるため、実質的な国営企業であるということも特徴です。銀行としてだけでなく、役所としての性質も強く備えた金融機関だということになります。
普通銀行は、私たちが普段の生活で利用する銀行のことです。
民営化したゆうちょ銀行をはじめ、メガバンク、地方銀行のほか、ジャパンネット銀行・セブン銀行といったいわゆるネットバンクも普通銀行に含まれます。
普通銀行は規模に差がありますが、業務内容は銀行ごとに大きく変わることはありません。一般的に、取引する銀行は利便性(近くに店舗があるか、日本全国で使えるか)、利益性(定期預金などの利率がよいかどうか)、将来性(安定しているかどうか、今後金額の多い貸付を受ける予定があるか)などを勘案して選びます。
信託銀行とは、通常の銀行業務に加えて信託業務をおこなう銀行です。「信じて託(あず)ける」という名称の通り、信託銀行は顧客から資金を預かり、資産運用をおこないます。いわゆる投資をする際は、信託銀行で口座を開設して取引を開始するのが一般的です。
そのほかに信託銀行ならではの業務としては以下のものがあります。
どれも資産や投資にまつわる業務として覚えておくとよいでしょう。
ここまで銀行の話をしてきましたが、実は銀行以外にも金融機関が存在します。「信用金庫」「信用組合」「農業協同組合(JA)」などがそれに当てはまります。
どれも基本的には銀行と同じ業務をおこないますが、より地域や同業者同士など、狭いコミュニティに貢献することを目的としています。そのため、小さな地域密着型企業では「銀行だと融資が下りにくいけれど信金に口座があったから借りられた」というケースもあります。
他業種と変わらず、銀行業界も少子高齢化の影響を受けています。最近ではどのようなニュースがあるのか見てみましょう。
少子高齢化が進むと人口が減るだけでなく、その地域で事業をおこなう企業も少なくなります。銀行はお金を貸すことによって最大の利益を得ていますから、貸す相手がいなくなることは死活問題です。
そのため、とくに人口減少の激しい地域を筆頭に地方銀行同士の吸収合併が加速しています。「将来的にはひとつの道府県にひとつの地銀しか残らない」という悲観的な予測をする人もいます。
消費税引き上げとともに活発化した決済のキャッスレス化は非常に大きなニュースでした。キャッシュレス決済でシェアを取ることができれば、それだけ金融機関の利益につながるからです。セブン銀行がおこなっていたセブンペイのサービス終了などの残念なニュースもありましたが、今後、銀行業界で競争が続いていくジャンルといえるでしょう。
吸収合併の流れで銀行窓口を減らす地方銀行が増えています。一方で推進されているのがIT化です。取引はWEB口座からおこない、現金の引き出しはコンビニなどのATMを使うというスタイルがかなり定着してきました。人員や経費を削減するために、この傾向はさらに強まっていくと考えられます。
現代ではある種の「お堅い職業」と考えられている銀行業ですが、このようになるまでにはさまざまな歴史的経緯がありました。文学作品を紐解いてみると当時金融業がどう見られていたのかが分かります。
- 著者
- ウィリアム シェイクスピア
- 出版日
- 2007-06-01
シェイクスピアの「ヴェニスの商人」に出てくるシャイロックは「ユダヤ系の金貸し」です。戦争・差別を含む歴史的経緯から、ヨーロッパに住むユダヤ系の人々は高利貸しをして生計を立てることが少なくありませんでした。あらすじはこうです。
裕福な商人である主人公・アントニオがいました。順調な人生を送っていた彼の人生は、彼の友人であるバサー二オーがとある女性に恋をし、そのために必要な旅費を悪徳商人に借金することから悲劇の人生となっていきます。
アントニオは友人・バサー二オーの借金を肩代わりし、返せなかった場合は命で返す契約を悪徳商人と交わしてしまいます。きちんと返せると思った矢先、アントニオの商船が難破し、アントニオは全財産を失います。何もかも奪われてしまったアントニオがどのように行動するのか……?
悲劇は喜劇か。どの登場人物に焦点を当てるのかで、がらりと印象が変わるお話です。小学生にも理解できるようやさしい言葉で書かれているので、ぜひ一読してみては。
もう1冊、イギリスの古典から金融業者が出てくる作品を紹介しておきましょう。ディケンズの『クリスマス・キャロル』です。本文中に明確に書かれているわけではありませんが、主人公のスクルージは高利貸しをしていたようです。
- 著者
- ディケンズ
- 出版日
- 2011-12-02
高利貸しは利子がどんどん高くなっていくため、借りたはいいものの返済ができなくなる人が少なくありません。つまり高利貸しと厳しい取り立てはセットです。そのため高利貸しといえば人に嫌われる職業、という面がありました。
そこから担保・査定・保証会社といった現代のような制度に至るまで、どのようなトライアンドエラーが積み重ねられてきたのかを考えてみると興味深いものがあります。
金融について興味が出てきた人におすすめなのが、そのものズバリのタイトルをもつ『金融』です。
- 著者
- 内田 浩史
- 出版日
教科書的な書籍なので、簡単に読めたり分かりやすかったりというわけではありませんが、用語や概念についてひとつひとつ丁寧に知ることができます。
金融に関することが総ざらいできる1冊として、金融業界で働いている方でも読みごたえがあると言われています。一般的にいう「金融業界」について整理しながら丁寧に解説してくれているので、この本を読めば金融について基礎的な知識から最新の情報まで頭にいれることができるでしょう。
お金を集めることで事業を成り立たせる銀行業について紹介しました。業務の性質上、やや保守的で真面目すぎる面もある業態ですが、現代社会についてはなくてはならないものです。金融・銀行についての知識は働く上でだけでなく、日常を送る上でも役立てることができます。これを機にまず紹介した本を読むことから銀行業界の勉強を始めるのもよいかもしれません。