5分でわかる百貨店業界!過去と現在、ショッピングセンターとの違い。今後の課題を解説!

更新:2021.12.4

憧れや非日常という感覚と強く結びつき、消費の殿堂として君臨し続けてきた百貨店。そのあり方が変わりつつあるのは、ニュースでもよく取り上げられています。とは言いつつ、いまいち百貨店となじみがないという人も多いのではないでしょうか。本記事では、百貨店とはどのような業態なのか、そして何が課題なのかについて解説します。百貨店業界への就職・転職を検討されていた方にとって参考になる内容になっていれば嬉しいです。記事の最後にはあわせて読んでほしい書籍も紹介しているで、そちらも目を通してみてくださいね。

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百貨店は人や街にとってどんな存在なのか

百貨店やデパートにはほとんど足を踏み入れたことがない、という人も増えてきました。地方都市にある百貨店の閉店ラッシュも続いています。小売業界に関心があるけれど、百貨店にはなじみがない。そんな人に向けて、百貨店業界の仕組みと課題を解説します。

元々は消費の象徴的存在

文字の通り「ここに行けばさまざまな(百)もの(貨)がそろう」のが百貨店でした。贈答品から日用品、娯楽から教養まで、すべてがそろう消費の象徴的存在だったのです。

百貨店には店舗だけでなく「外商」というシステムがあります。これは簡単に説明すると「御用聞き」で、お得意様の家まで担当者が定期的に訪問し、受注をするものです。

百貨店の御用聞きは多岐にわたります。「取引先へのプレゼントによいワインを選んでほしい」「孫が入学するのでお祝いをしたい」といった贈答品はもちろん、「家具を買い換えたいからおすすめを教えて」といった依頼もあります。

外商先になるのは富裕層なので、富裕層の好みを把握しつつ、適切な商品を選ぶことができる目利き力が求められます。

全体が高級セレクトショップ

百貨店のなかにある売り場にはいくつかの種類があります。もっとも人通りの多い入り口があるフロアは、たいてい化粧品売り場になっています。ここは各化粧品ブランドが売り場を借りている、いわゆるテナントフロアです。

百貨店にはほかにも衣料品ブランドなどのショップがあります。各ブランドごとに店舗が分かれているものは、基本的には場所を借りて入居しているテナントです。

テナント以外の売り場もあります。キッチン用品・衣料品・インテリアなどのテーマに合わせて百貨店が商品をセレクトする売り場です。このような売り場を担当するスタッフのことを「バイヤー」と呼びます。物産展が開催される催事場や、美術品を扱うギャラリーにも百貨店の担当者が配置されており、販売される商品は百貨店のチェックが入ります。

このように、百貨店はテナントビルとしてだけではなく大規模な高級セレクトショップという側面がある業態です。ある意味ではテナントも「セレクトされている」といえます。無条件で出展できるわけではなく、百貨店が要求するクオリティを満たさないといけないのです。

また、百貨店のテナントは売上高に応じて百貨店に手数料を払うという特殊なシステムを採用しています。つまり各テナントの売り上げは百貨店側にすべて把握されている状態なのです。売上が悪い店舗は契約の更新が断られることもあります。百貨店側が主導権を握って売り場作りを行えるようにシステムが作られています。

最近ではショッピングセンターとの差が曖昧に

しかし、最近ではこのような百貨店の特徴が薄れつつあります。以前であればテナントにならなかったような安売り量販店が入っているところも珍しくなくなってきました。

一方で存在感を増しているのが郊外型のショッピングモールです。広い敷地でさまざまな層のニーズを吸収できるショッピングモールへの対抗が難しくなってきました。従来であれば百貨店に出店していたような高級ブランドも、客層の広さを見込んでショッピングモールに店舗を出すようになってきています。

これまでであれば百貨店への出店はステータスであり、テナントとの関係性においても百貨店は一定程度の優位を保つことができました。しかし状況が変わってきている現在、百貨店のクオリティとプライドをどう折り合わせていくのかが課題となりつつあります。

百貨店業界の今後の課題

ショッピングモールとの差別化が難しくなっている百貨店業界。今後の課題について考えてみましょう。

海外からの消費頼み

ほかにも買い物ができる機会が増えたこと、選択肢や嗜好の幅がどんどん増えていることなどから、国内での需要が減少し続けていた百貨店。近年その傾向を変えたのが、海外旅行客からの需要でした。お土産はもちろん、自分で使う日用品にも高品質なものを、との志向が百貨店の品揃えとマッチしました。

一方で、最近では日本への旅行ブームもピークを越えつつあります。また、社会情勢の変化により海外旅行が難しくなりつつあり、2020年の百貨店業界は大きな岐路に立たされました。予想していた売上を達成できないという会社も少なくありません。

富裕層の減少

百貨店の売り上げを大きく支えてきたと言われる外商制度も課題を抱えています。一例では年間数百万円規模の取引があるという上顧客ですが、該当する富裕層自体が減少していると言います。進む二極化は企業努力だけでは解決できない問題です。変化にどう対応していくのかが問われています。

参考:fashionsnap.com/年間買上実績が全てではない?現役スタッフに聞く「百貨店外商の顧客になる方法」 

体験重視の消費傾向

「若者の○○離れ」という言葉が使われるようになって数十年が経過しようとしています。「高くてそんなものは買えない」「流行が変わった」という要因もありますが、それ以外に重要な要素として指摘されているのが「ものではなく体験を重視する消費傾向」です。

たとえば、自動車は買わないが毎年海外旅行をするという人もいます。家族との過ごし方でも、ものを買うよりは一緒に体験できることを好む傾向が見られるようになってきました。商品とショップのセレクトで差をつけてきた百貨店は「体験」をどう提供できるのか、模索が続いています。

百貨店は非日常。吹き抜けのある空間

著者
パイ インターナショナル
出版日

百貨店は非日常な空間でもありました。屋上には遊園地があり、観覧車などの大型施設を備えているところもありました。そして建物内には大きな吹き抜けがあるのが一般的でした。吹き抜けをどう魅力的に装飾するかで百貨店の個性を見ることもできます。

そんな非日常の空間演出を写真で楽しめるのが『世界の夢のショッピングモール&デパート』です。足を踏み入れただけでワクワクする、そういう意味では百貨店はこれまでも「体験」を提供してきたのかもしれません。

現代の価値観ではそれが何に該当するのか、美しい写真を見ながら考えるきっかけになるのではないでしょうか。

文化の拠点でもあった百貨店

著者
片山 正夫
出版日

百貨店は、かつてはさまざまな小売の業態を統括する立場であり、社会や文化にも大きな影響力を持っていました。傘下にファミリーマートや無印良品などがあった西武百貨店はとくに目立つ例です。

西武百貨店などを含むセゾングループを母体として生まれた「セゾン文化財団」は、芸術文化への積極的な支援をおこない、「セゾン文化」という言葉まで生みました。

バブルの崩壊とともに規模は小さくなっていますが、現在でもその活動を続けています。

節目の日の百貨店

著者
P.L. トラヴァース
出版日
2000-07-18

海外文学でも、百貨店の担ってきた役割を垣間見ることができます。「メアリー・ポピンズ」シリーズはロンドンを舞台にしていますが、子どもたちがクリスマスの買い物のために百貨店を訪れるストーリーが描かれています。特別な日のための、特別な買い物の場所としての百貨店という姿が分かります。

こちらの本は子どもでも読めるよう親しみやすい文体になっています。メアリー・ポピンズの世界を楽しみながら、百貨店が提供する価値についても考えてみてもよいかもしれません。

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百貨店業界について、これまでとこれから、課題などを紹介しました。「夢のある場所」であった百貨店。現代の「夢」とは何か? という問いに、今後のためのヒントが詰まっているのかもしれません。

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