もはやこれなしでは生活が成り立たない電力。なくてはならないものである一方、その生産は環境に大きな負荷を与えてもいます。 社会インフラであるため企業や職業としての安定に注目が集まっていましたが、競争の自由化により今後は安定しているとは言い難い業界になる可能性があります。ただ電力会社も激しい競争を乗り越えるためにさまざまな動きを見せているのは確かです。 公的なインフラとしての側面と、営利企業としての側面を両方持つ日本の電力業界について解説します。
できるだけ安定した雇用を希望している人も珍しくない昨今。インフラ系企業なら公的な性格もあり、需要がなくなることもあまり考えられません。そんな業界のひとつである電力業界について、安泰なのか、どんな課題があるのか見ていきましょう。
日本の電力会社は民営ではありますが、長らく半公営的な性格を持っていました。電力という現代社会での主要なインフラを担う立場でもあるため、一見すると安定している業界のように思えます。
しかし近年では電力に関する規制が大幅に緩和され、競争が加熱してきています。「実家の電気をインターネットとまとめた」「ガス会社が電気が安くなると営業してきた」というような経験がある人も多いのではないでしょうか。
これは電力を作るほうではなく、小売りするほうの規制緩和が影響しています。これまで発電から小売までを担ってきた大手電力会社以外でも電気を販売することができるようになりました。現在はおもに電力以外のインフラを担う企業がまとめて販売することで総額が安くなる「まとめ買い」が人気です。
化石燃料へ依存しすぎていたことへの反省から、再生可能エネルギーへのシフトが世界的に進んでいます。おもな再生可能エネルギーは風力・地熱・太陽光などです。日本の電力はこれまで化石燃料を燃やす火力発電に大きく頼ってきました。今後この割合をどう減らしていくのかが大きな課題となっています。
2011年の東日本大震災以降、原子力発電所のリスクが広く認識されるようになりました。新しく作られた基準に到達しない設備も少なくなく、2019年現在での原子力発電所利用率は20%台前半に留まっています。
原子力発電所の再稼働や新規建設にも大きな制限がかかっています。稼働していない発電所の維持コストや、廃炉のための費用といった問題もあります。経営にも環境にも影響が大きいだけに難しい課題です。
参考:2019年の原子力発電設備利用率は21.4% | 一般社団法人 日本原子力産業協会
近年では住宅のオール電化が人気です。オール電化にすると給湯や調理などのそれまでガスが担ってきた部分も電化されます。消費者には火を使わないので安心、請求がひとつにまとまるのでお得といったメリットがあります。
一方、ガス業界から見ると電力にシェアを奪われるわけで、大きな脅威として見られています。そのためガス会社も電力に参入するなどさまざまな方策を練っています。国内の限られたシェアを奪い合う構図になるため、今後も競争が激化していくことは間違いないでしょう。
大手電力会社と呼ばれることが多いのは、以下の10社です。
電力自由化以前は「一般電力事業者」と呼ばれていました。現在ではほかにもさまざまな電力会社が参入してきていますが、大手のように発電・送電・売電を一手に担う会社や企業グループはほとんどありません。
旧一般電力事業者以外には、日本原子力発電や「J-POWER」と呼ばれる電源開発などの企業も大手の事業者です。このほかに大手電力会社が合弁で設立している発電所などもあります。
規制緩和により電力業界に新規参入してきた電力会社で、おもに小売のみをおこなう企業のことをこう呼びます。企業数は非常に多く、母体となる事業もさまざまです。
2020年現在で大手電力会社に次ぐようなシェアを持つのは、ガス会社や通信会社などのインフラ企業が多いようです。
近所に突然ソーラーパネルがたくさんできた、という経験のある人もいるかもしれません。電力自由化により、非常に小規模な発電事業者も参入が容易になりました。とくに再生可能エネルギーのシェア拡大は国際的な課題です。
そのため、国は「固定買い取り制度(FIT制度)」というものを設けて再生可能エネルギーで発電された電力を固定価格で買い取っています。一時期小規模なソーラー発電所が増えたのはFIT制度による利益を期待してのことでした。
現在では新規参入事業者のFIT制度適用が停止しています。ただ小規模発電所を作るだけでなく、どうそこから利益を出していくのかが課題です。
激しい競争を経験したことのない大手電力会社ですが、競争の自由化の影響を受け、今後は営業方針や新事業を展開する必要があります。しかし電力会社は営業力が弱いのが弱点であるため、電力会社のみで事業を展開していくのではなく、他業界の大手と提携する形で新たな価値を生み出していくことになるでしょう。
今でも安定した業界という印象のある電力業界ですが、今後就職や転職を考えるならば、従来のサービスだけではなく未来に目を向けた事業展開をしているかどうかをチェックした方がよいといえそうです。
- 著者
- ジュンパ ラヒリ
- 出版日
- 2003-02-28
エジソンによって電気を恒常的に供給するシステムが作られてからまだ200年ちょっとしか経過していません。しかし地球上の多くの場所では、電力とは「あって当然のもの」になっています。とくに明かりがつかなくなる夜の停電は人を不安に誘います。
『停電の夜に』は、あるはずの電気が点かない停電の夜に、ふたりの男女がある決断に至る短編です。「あるはずのものがない」という状況が重層的に描かれています。
- 著者
- 公益事業学会 政策研究会/編著
- 出版日
1990年代から続いてきた電力制度改革。2020年はおもな法律や規制が出そろう節目の年とされています。今後電力業界を志す人は、現時点で一度制度改革の概要を知っておくとよいでしょう。
『まるわかり電力システム改革2020年 決定版』はキーワードやテーマ別に解説を読むことができるので、辞書的に使うことができます。実務のシーンでもおすすめです。
- 著者
- ["ヴァルター ベンヤミン", "佐々木 基一"]
- 出版日
芸術も電力によって大きく変わりました。録音や録画といった技術は、そもそも電力がなければ成立しなかったでしょう。様々なものが「複製可能」になった時代に芸術がどう変わるのかを説いたのが『複製技術時代の芸術』です。
現代に生きる人には「電力以前」がもはや想像しづらくなっています。ただし、あらためて読み返すと「オリジナルとは何か」といった問いは今でも有効なことが分かります。最近のアメリカの音楽業界では原盤権の扱いが非常に大きな問題となっていますが、これも複製が容易に可能になった現代における芸術のあり方と大きく関わっているといえるでしょう。
安定志向にも思える電力業界、実は非常に大きな変化の波にさらされています。
世界的な課題とも密接に関わっている分野だけに、「これからどうしたいのか」「現実をどう理想に近づけていくのか」という難しい問いが横たわっています。日々の仕事をこなすだけでなく、広い視点で世界や歴史を見る視点を持つようにするとよいでしょう。