落語家などと並ぶ伝統大衆芸能のひとつに、「講談師」があげられます。寄席などに出演し、釈台と呼ばれる机に座り、ハリセンを叩いてリズミカルに物語を語っていく講談師は、6代目神田伯山など人気の講談師の登場もあって、昨今注目を集めている職業です。 本記事では、そもそも講談師とはどういう仕事をしているのか、落語家や噺家との違い、講談師になるにはどうすればよいのかといった情報を解説していきます。あわせて、講談師を目指す人におすすめしたい書籍も紹介しますので、講談師の仕事に興味のある方はそちらも手にとってみてくださいね。
昨今、テレビ番組などでも紹介されるようになり、知名度が上がってきた「講談師」。日本の伝統大衆芸能のひとつです。大衆芸能といえば、落語が有名ですが、講談は落語とはスタイルも話す内容も異なります。
講談師は、釈台と呼ばれる小さな机の前に座り、ハリセンを持ちながら、大衆に向かって講談をするという職業です。講談とは、軍記物や政談といった歴史に関する物語や怪談を語り聞かせる大衆芸能。
物語を朗読するように聴衆に話し聞かせる講談は、もともと戦国時代の御伽衆と呼ばれる職業が起源といわれています。将軍や大名に仕え、雑談をしたり、書物の講釈などをしたりしていた御伽衆が、徐々に大衆向けとなり、現在の「講談」という大衆芸能になったとされています。
講談師という仕事の魅力は、話術をもって大衆を楽しませることができるという点にあります。ハリセンをリズミカルに叩いてたたみかけるように話を進めていくことで、聞き手は嘘の話も本当のことだと思い込んでしまうのです。話芸で大衆を引き込み、どんどんとリズムよく自分のペースで物語を語り聞かせていく。それが講談師の仕事です。
講談師とは、どのような職業なのでしょうか。ここからは、講談師と落語家の違いをはじめ、講談師になるためにはどうすればよいのか、講談師をさらに知るためのおすすめの書籍などを紹介します。
講談師とよく比較される職業として、落語家や噺家があげられます。それぞれ、講談師とはどのような違いがあるのでしょうか。
落語家は、高座に出演し物語を読むという点では講談師と同じ職業です。しかし、大きな違いとして、物語の話し方やネタが異なるという点があげられます。
落語家は物語の登場人物になりきり話を進め、ストーリーテラーといった役割を演じることはありません。抑揚をつけながら登場人物たちを自身に憑依させ、登場人物たちの会話を軸に物語は進みます。ネタは「落とし咄(おとしばなし)」を由来とする落語というだけあり、ラストにオチのある話が基本です。
対して講談は朗読するように物語を語っていき、演者はストーリーテラーとして、第三者目線で話を進めます。小気味よい速めのテンポで話が進んでいき、ハリセンで釈台を叩いて物語を盛り上げるなどします。講談には、聴衆を飽きさせないような独特のリズムがあります。
講談師と比較される言葉に「噺家」がありますが、噺家は落語家のことを指します。まだ「落語家」という言葉が生まれていない江戸時代の頃、落語家は噺家と呼ばれていたといいます。その名残りや、古くから語り継がれてきた古典落語を披露する落語家などは、自身のことを噺家と呼ぶ場合があります。
講談師という職業は、高座に上がって芸を披露する職業であるため、高座ごとに給与が支払われる仕組みとされています。ただし、世間一般的に講談師の年収や給与については明らかにされておらず、一度の高座でいくら収入を得られるのかは明白になっていません。
ただ、講談師は落語と同じく、見習い、前座、二ツ目、真打ちという順番で階級がつけられており、階級が上がるごとに高座1回ごとの給与が高くなっていきます。
見習いは、高座に上がることができません。師匠に仕え雑務をこなすことを主な仕事とし、師匠から給金をいただくことで収入を得ることとなります。月10万円の給金をいただく場合、平均年収は120万円になります。
前座の高座出演料は1回平均で1万円ほど、ほぼ毎日高座に出演するとすれば、年収は約360万円と考えられます。
次の二ツ目の高座出演料は2万円から15万円の間とされており、年収の平均は約550万円です。真打ちは、師匠から認められることで初めて名乗ることができるもっとも高い階級です。
高座の出演料は振り幅が広く、1回あたり15万円〜100万円以上、年収は1000万円以上にもなるといわれています。
人々に物語を語り聞かせる伝統大衆芸能の講談師。講談師になるにはどうすればよいのでしょうか。
まず、講談師になるために特別な資格は必要ありません。
ですが、講談師になるためには、講談師として活躍する人の元に弟子入りをし、その技術を学んでいくしか方法はありません。プロの講談師になりたい場合は、講談師に弟子入りし、前座の修行を積んでいくこととなります。
講談師になるためには特別な資格は必要ありませんが、歴史の知識を身につけておくととても役立ちます。講談師が扱う古典的な物語の多くは、『太平記』や『真田軍記』などといった軍事記や、有名な事件の歴史物語が多数。そのため、歴史に詳しくなっておくことで、物語を深く理解でき、より話芸に磨きをかけることができます。
ほか、雑務をこなすスキルも必要です。師匠の雑務を担うのはすべて弟子の役割のため、寄席の裏方の仕事をしたり、師匠の家の掃除をしたり着付けを手伝ったりと、師匠の芸を盗みながら、あらゆる雑務をこなします。
師匠に弟子入りした時点で、見習いとして階級がスタート。師匠によって期間に差はあるものの、1か月〜1年弱ほどの見習い期間を経て、前座の階級へと進みます。前座は約4年の修行を積み、ようやく二ツ目に昇級できます。
プロの講談師になるためには師匠に弟子入りするという方法のみですが、師匠に弟子入りする前に、まずはアマチュアで講談を習ってみることもできます。講談師の多くが自身で教室を開いており、プロの講談師から直接講談を学べます。
講談師になるためには、学歴や職歴は関係ありません。学校卒業後の就職先として講談師への弟子入りを選ぶ人もいれば、まったく別の職業から講談師へと転職する人もいます。
たとえば、人気女性講談師のひとりである神田 真紅さんは、演芸師の編集職を経て講談師になった二ツ目です。歴史が好き、話すことが好き、講談が好きといった思いがあれば、学歴・職歴関係なく講談師への道を進むことができます。
落語家と同じように、講談師も女性が活躍できる職業です。現代では女性の講談師も数多くおり、男性と同じように真打として活躍するプロ講談師も多数います。
ただし、古くから語られてきた古典物語の多くは、男性が演じることを前提に作られているものが多く、女性ができる古典物語は限られているといいます。ですが、昨今は現代に合った女性講談師に適した新作の物語も多くあるため、女性でも問題なく講談師になれるといえます。
講談師には資格も学歴も職歴も、性別も関係ありませんが、向いている人と向いていない人には大きな違いがあります。
講談師に向いている人の特徴として、人に話をするのが好き、歴史物語をはじめとした講談で扱う物語に興味がある、講談師という伝統芸能に興味がある、など、講談師になるための熱い思いを持っていることがあげられます。もちろん師匠の雑務をこなす忍耐力も大切です。
師匠に弟子入りするためには、なぜ講談師になりたいのか、修行を積む覚悟があるかどうかを師匠に話す必要があります。弟子入りを断られても何度も熱い思いをぶつけることで、ようやく見習いとして弟子入りさせてもらえるというパターンも多くあります。何よりも講談が好きという気持ちが、講談師を目指す上で重要といえるでしょう。
最後に、講談師を目指す人に読んでほしい、おすすめの本を紹介します。講談師への理解が深まる書籍や、話術を鍛えるための書籍などをピックアップしました。
講談師と、同じく語り芸をおこなう浪曲師を題材とし、現代におけるそれぞれのスタイルや時代とともに変化してきた講談師・浪曲師の歩みを紹介しています。
- 著者
- ["小泉 博明", "稲田 和浩", "宝井 琴鶴"]
- 出版日
講談師からは女性講談師の一龍斎 春水さん、当時は二ツ目であった人気講談師の神田 松之丞さんを取り上げ、それぞれのスタイルを解説。
ほか、講談の歴史や、前座の一日を追ったドキュメント記事だけでなく、講談師の収入についても紹介しており、講談師のリアルな世界を知ることができます。
講談師を目指す人にとって何よりもうれしいのは、本書では「講談師になるには」をテーマに、師匠選びからプロになるまでの道のりを細かく解説していることでしょう。講談師の適性とは、講談師の団体とは、講談師の収入と将来性は…といった、講談師を自身の職業として目指す人にとって、知りたい情報が網羅されています。
人気の講談師・神田松之丞(現:6代目 神田伯山)が著した、講談好きのための1冊です。
- 著者
- 神田松之丞
- 出版日
講談とはどういうものなのか、講談の歴史はどのようにして歩まれてきたのかなど、講談師を目指す人の入門書になり得る書籍です。
本書では、神田松之丞の全持ちネタの解説も収録されており、聞いたネタの理解をより一層深める手助けをしてくれます。ほか、人間国宝の真打・一龍斎貞水が語る戦後の講談史も収録。現役講談師たちの気概に触れ、講談の魅力にどっぷりとハマることができます。
講談師で初の人間国宝となった一龍斎貞水が著す、「思いやり」を大切にした話術を伝授してくれる書籍です。講談師は、独特なテンポで聞き手を物語へと引き込み、笑わせたり泣かせたりと感情を揺さぶることのできる職業。相手の心を動かすためには、何よりも「話術」を磨く必要があります。
- 著者
- 貞水, 一龍斎
- 出版日
本書では、心を揺さぶる語りの極意について、丁寧に書かれています。思いやりや表現力を高めるための工夫、話術を上達させるための近道など、講談師としての経験を元にした、話術上達へのヒントが事細かく記されています。
話術だけではなく、生き方や人としてのあり方についても学びが多くあると評価の高い1冊です。実際に一龍斎貞水の語り口調で記された本書は、書籍でありながらリズミカルに読み進められるのも特徴。講談師の奥深さを知ることができます。
話術で聞き手を虜にする講談師は、多くの人に愛され続けてきた伝統大衆芸能です。講談師になるには時間も気力も必要ですが、学歴や職歴、性別といった制限がなく、誰でも挑戦できる職業でもあります。熱い思いを持って臨めば、きっと人々を魅了するプロの講談師になれるでしょう。
今回紹介した書籍を手に取り、まずはさらに講談の世界を深く知ってみるのもおすすめです。