5分でわかるスペインの歴史!王国成立から大航海時代、植民地政策など簡単に解説

更新:2021.11.27

かつて「太陽の沈まない国」と呼ばれ、黄金の世紀を築いたスペイン。一体どんな歴史をたどってきたのでしょうか。イベリア半島の変遷とともに、スペイン王国の成立、大航海時代、植民地政策、そして帝国の衰退までわかりやすく解説していきます。

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スペインってどんな国?人口、治安、経済状況など

ヨーロッパにあるイベリア半島の大部分を占める、議会君主制国家のスペイン。アフリカ大陸のセウタとメリリャ、西地中海のバレアレス諸島、アルボラン島、大西洋のカナリア諸島なども領有しています。

首都はマドリード。日本語では「スペイン」や「スペイン王国」、また古代ローマ人がイベリア半島を「ヒスパニア」と呼んでいたことに由来して「イスパニア」などと呼ばれていますが、スペインの憲法上正式な国名は定められていません。現地では主に「エスパーニャ」「レイノ・デ・エスパーニャ」「エスタード・エスパニョール」と呼ばれています。

国土面積は日本の約1.3倍にあたる50万6000平方キロメートル、人口は約4700万人。国民の多くはラテン系民族のスペイン人ですが、カタルーニャやバスクなど自身のアイデンティティを国家ではなく地方に求める人も多く、17ある自治州に多くの自治権が与えられています。

それぞれの自治州で文化や慣習に大きな違いがあり、言語も例外ではありません。公用語であるスペイン語のほかに、カタルーニャ語、バスク語、ガリシア語、アラン語などが地方公用語として認められていて、アストゥリアス語やアラゴン語など特定の地域で固有の言語として認められているものもあります。

さらに自治州のなかにはスペインからの独立運動を展開している場所もあり、テロなどの過激な行動が起きることもしばしば。1959年に結成された民族組織「バスク祖国と自由(ETA)」は、スペインとフランスによる共同の取り締まりがおこなわれ、2018年に解体されました。

また、スペインは世界屈指の移民受け入れ国であり、人口の1割以上が外国人です。なかには「アルカイダ」や「イスラム国(IS)」などイスラム系過激派組織に影響を受ける者もいて、2004年には「マドリード列車爆破テロ事件」、2017年には「車両突入連続テロ事件」などが起こりました。スペイン政府はテロ警戒レベルを5段階中2番目に高い「レベル4(高い脅威)」に引き上げ、2020年現在も継続している状況です。

スペインのGDPは約1兆4000億ドルと世界第14位の規模。EU加盟国のなかではドイツ、フランス、イタリアに次ぐ第4位です。世界遺産など多くの観光資源を有していて、主要産業である観光業がGDPの約1割を占めているのが特徴でしょう。

午後にいわゆる昼寝をする「シエスタ」の習慣があるため、「働かない」というイメージを抱く人もいるかもしれませんが、実際の労働時間はEU加盟国のなかで最長だそう。その一方で、若年層を中心とする失業率の高さが大きな課題になっています。

スペインの歴史をわかりやすく解説!イベリア半島の変遷、レコンキスタ、スペイン王国の成立

スペイン北部にあるアルタミラ洞窟には、紀元前1万4000年頃にクロマニョン人が描いたといわれる洞窟壁画が残されていて、イベリア半島にはかなり早い時期から人類が進出していたことがわかっています。

紀元前5000年頃には中東から農耕技術がもたらされ、ドルメン遺跡など多くの巨石記念物が築かれました。かつてはケルト人の遺跡であると考えられてきましたが、ケルト人がイベリア半島に進出したのは紀元前2500年頃なため、ケルト人以前の先住民によるものと考えるのが一般的です。

紀元前12世紀頃にはフェニキア人がイベリア半島に進出し、ヨーロッパ最古の都市とされるカディスを建設します。鉱山開発や交易に従事しながら、イベリア半島に数字やアルファベットをもたらしました。

紀元前2世紀にローマとカルタゴ間で勃発した「ポエニ戦争」では、イベリア半島が重要な土地に。両陣営が軍を派遣して支配権を奪いあい、結果的にローマの支配下となりました。

以降、「パックス・ロマーナ」と呼ばれる平和な時代にイベリア半島は大いに繁栄し、トラヤヌス帝などローマ皇帝になる人材も輩出。政治面だけでなく、紀元前1世紀にキリスト教が伝来してからは教会でも重要な役割を果たしていきます。

しかし395年にローマ帝国が東西に分裂すると、西ローマ帝国がゲルマン人の侵入によって衰退。イベリア半島にはスエビ族、ヴァンダル族、アラン族、西ゴート族などが侵入し、それぞれが王国を建国します。このうち西ゴート王国は、当初は南フランスに都を置いていましたがフン族の圧迫によって南下。560年にはスペインのトレドに都をうつし、他の王国を征服してイベリア半島のほぼ全域を支配下に置きました。

661年に中東で興ったウマイヤ朝イスラム帝国は、北アフリカに勢力を拡大します。711年にはベルベル人の軍団がジブラルタル海峡を越えてイベリア半島に進出。「グアダレーテの戦い」で西ゴート王国は滅亡することになりました。その後、716年までに北部の一部を除く大部分がイスラム勢力の支配下になり、イベリア半島は「アル=アンダルス」としてウマイヤ朝の属州となります。

しかし722年、「コバドンガの戦い」イスラム軍に勝利した西ゴート王国の貴族ペラーヨが、アストゥリアス王国を建国。キリスト教国家による再征服運動「レコンキスタ」を開始します。

ウマイヤ朝はアストゥリアス王国と戦いながら、ピレネー山脈を越えてフランク王国にも侵攻しますが、732年の「トゥール・ポワティエ間の戦い」で敗北。750年にはウマイヤ朝そのものが滅亡しました。イスラム勢力は後ウマイヤ朝を経て、小国家群に分裂。徐々に劣勢になっていきます。

「レコンキスタ」の主軸を担ったのは、ポルトガル王国、カスティーリャ王国、アラゴン王国の3つ。カスティーリャ王国の女王のイサベル1世とアラゴン王国の国王のフェルナンド2世が結婚し、1479年には両国が統合されてスペイン王国が成立しました。そして1492年、スペイン王国はイスラム勢力最後の拠点だったグラナダを陥落させ、「レコンキスタ」を完了させるのです。

スペインの歴史をわかりやすく解説!ハプスブルク家の台頭、大航海時代と黄金の世紀

スペイン王国が成立したのと同じ1479年、イサベル1世とフェルナンド2世の間に王女フアナが生まれます。フアナは1496年にハプスブルク家出身の神聖ローマ皇帝、マクシミリアン1世の長男ブルゴーニュ公フィリップと結婚。2人の男児を出産しました。

1504年にイサベル1世、1516年にフェルナンド2世が亡くなると、長男のカルロスがスペイン国王に即位します。しかし父フィリップの領地であるネーデルラントで育ったカルロスは、スペイン語を話すことができず、国民たちにはスペインで育った次男のフェルナンドを推す者も多くいたそうです。

1520年、カルロスに反発する者たちが反乱を起こしますが、翌年に終息。これを期にスペイン・ハプスブルグ朝が成立し、カルロスはカール5世としてローマ皇帝に即位。ハプスブルク家の全盛期を築きました。

一方で1492年、カール5世の祖母イサベル1世の援助を受けた探検家クリストファー・コロンブスが、「新大陸」を発見。大航海時代が幕を開けます。

1494年には、すでに喜望峰を発見していたポルトガルとの間に「トルデシリャス条約」を締結し、両国が子午線に沿って世界を二分すると決めます。

1502年、スペイン王室が入植者の功績に対し、一定地域の先住民を委託する「エンコミエンダ制」が制定されます。エンコメンデーロと呼ばれる委託を受けた入植者は、割り当てられた先住民の労働力を利用して貢納物を受け取る権利を得る代わりに、先住民をキリスト教徒に改宗させる義務を負うという仕組みでした。

またエンコメンデーロの多くは、征服者コンキスタドールでもあり、彼らはスペイン王の認可を得て活動するものの、財政的・軍事的援助はほぼ与えられていませんでした。多くは自ら資金を集めて編成した私兵部隊で、規律に乏しく、征服をする際は略奪や暴行がおこなわれることも。アステカ文明を滅ぼしたエルナン・コルテス、マヤ文明を滅ぼしたペドロ・デ・アルバラード、インカ文明を滅ぼしたフランシスコ・ピサロなどもコンキスタドールです。

新大陸の多くがスペインの支配下に入るなか、インディオと呼ばれた先住民たちは鉱山やプランテーションで強制労働に従事することに。疫病の影響もあり、民族が完全に絶滅してしまう地域もあったそうです。

エンコメンデーロによる残虐行為を糾弾しようとする人々もいましたが、その流れも1545年に現在のボリビアにあたる場所で「ポトシ銀山」が発見されると、なかったことに。多くのインディオの犠牲のもと、スペインには金や銀など大量の富がもたらされ、カール5世と息子のフェリペ2世が統治した17世紀前半までの約80年間は「黄金の世紀」と呼ばれるほどになります。

1571年には「レパントの海戦」でオスマン帝国を破り、1580年にはポルトガルを併合。ブラジル、アフリカ、インド洋各地の植民地を吸収し、「太陽の沈まない国」と形容される大帝国になりました。

スペインの歴史をわかりやすく解説!帝国の衰退と近現代史

全盛期を迎えたスペイン。海軍も無敵艦隊と呼ばれていましたが、1588年の「アルマダ海戦」でイングランド海軍に壊滅的な敗北を喫します。これをきっかけに徐々に制海権を失い、衰退へと向かうことになるのです。

また、新大陸からもたらされた銀の多くがスペイン国内を通ってイギリスやオランダなどの新興国に流出してしまい、国内で産業が成長しなかったことも大きな原因だといわれています。

レコンキスタの完了からまだ100年ほどしか経っていませんでしたが、カトリックを重んじて、プロテスタントやイスラム教、ユダヤ教などを排除する気風が強く、特にフェリペ2世は異端審問制度を拡大させて彼らを弾圧していきました。経済や金融、そのほかさまざまな分野の新しい知識をもつ人々を追放してしまい、スペインは停滞していったのです。

その影響は軍事面にも現れます。1568年から起こった「八十年戦争」ではネーデルラント連邦共和国が独立。1640年にはポルトガルが独立。1648年の「三十年戦争」、1659年の「西仏戦争」で相次いで敗北し、スペインの黄金時代は終焉を迎えました。

1701年から始まった「スペイン継承戦争」では、フランス王ルイ14世の孫であるブルボン家のフィリップがフェリペ5世として即位。スペイン・ブルボン朝が成立します。その後、「オーストリア継承戦争」や「七年戦争」に参戦するものの、大きな存在感を示すことはできませんでした。

1789年に「フランス革命」が起きた後、1808年にはナポレオン・ボナパルトがスペインに進駐。ナポレオンの兄ジョゼフ・ボナパルトがスペイン王ホセ1世として即位します。これに反発したマドリードの市民たちが蜂起し、「半島戦争」が勃発。スペイン、ポルトガル、イギリスの連合軍は1814年まで戦って勝利し、ナポレオンに退位させられたカルロス4世の子フェルナンド7世が国王に即位しました。

しかし、フェルナンド7世がナポレオン以前の絶対君主制を復活させようとすると、フランスに感化された自由主義者の市民たちが反発。スペイン国内は混乱状態に陥ります。

その影響は植民地にも波及し、各地で独立運動が興り、ベネズエラ、パラグアイ、コロンビア、チリ、メキシコ、ペルーなどが相次いで独立を宣言しました。

1833年にフェルナンド7世が亡くなると、絶対王政派の王弟ドン・カルロスと、自由主義派の長女イサベル2世の間で王位をめぐる争いが勃発。断続的に40年以上戦い続け、スペインは革命と王政復古を経験。最終的にはイサベル2世が勝利し、スペインの絶対王政は終わりを迎え、近代化していくことになるのです。

その後、「第一次世界大戦」では中立の立場をとりますが、インフレによって国民の生活は困窮。さらにロシア革命の影響で労働運動が激化し、カタルーニャやバスクでは独立運動も起こります。

この混乱は1923年にクーデターで政権を掌握したプリモ・デ・リベラ将軍の独裁政権下で鎮静されますが、独裁が長期化するにつれて反発する国民が増え、1930年に政権が崩壊。1931年には国王アルフォンソ13世が退位を余儀なくされ、第二共和政が成立します。

第二共和政下のスペインは、ソ連やメキシコが支援する左派の「人民戦線政府」と、ドイツやイタリア、ポルトガルなどが支援する右派のフランシスコ・フランコ将軍との間で対立が起き、1936年に「スペイン内戦」が勃発。勝利したフランシスコ・フランコは、1975年に亡くなるまで長期独裁体制を維持します。

彼の死後、後継者に指定されていたブルボン家のフアン・カルロス1世が即位。大方の予想に反して独裁体制は継承せず、民主化を推進し、1977年には41年ぶりの総選挙がおこなわれ、スペインは議会制君主国となりました。

歴史を紐解けば国民性も理解できる!おすすめ本

著者
俊一, 池上
出版日

先史時代やレコンキスタ、黄金の世紀、ハプスブルク家やブルボン家による統治、スペイン内戦などを軸に、スペインの歴史をわかりやすく解説した作品。作者は中世ヨーロッパやルネサンス史が専門で、広範にして精緻な知識が凝縮されています。

読んでいくと、「太陽と情熱の国」と形容されるスペインの独特な国民性がどのような経緯で育まれていったのかも理解できるでしょう。

幅広い年代の読者が気軽に手にとれる、わかりやすい文章も魅力です。観光大国でもあるスペインを訪れる際に予備知識として読んでおくと、旅行もより満喫できるのではないでしょうか。

「黄金の世紀」を中心にスペインの歴史をたどるおすすめ本

著者
岩根 圀和
出版日

歴史上、世界帝国と形容される国はいくつもありましたが、「太陽の沈まない国」と形容された国はスペインとイギリスの2つだけ。スペインはキリスト教が伝来してからというもの、長らくカトリックの雄として、プロテスタントやイスラム教などと戦ってきました。

本書はそんなスペインの歴史のなかでも「黄金の世紀」と呼ばれた約80年間に焦点を当て、解説した作品です。女王イサベルやコロンブス、『ドン・キホーテ』の作者セルバンテスなど日本人にも馴染み深い人々が登場し、スペインの輝きに満ちた歴史を追体験できるできるでしょう。

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