『食糧人類-Starving Anonymous-』は未来の地球⁉衝撃のグロサスペンス全巻ネタバレ

更新:2021.11.23

温暖化の影響により全世界で気候変動が起きています。予想しなかった天災が年々増えてきたように感じられますが、今後食糧事情も大きく変わってくるでしょう。『食糧人類-Starving Anonymous-』は、地球温暖化が進行した近未来の日本を舞台にした物語。グロ耐性必須の衝撃作、キャラクターの魅力や見所など、全巻ネタバレ有りでご紹介いたします。

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『食糧人類-Starving Anonymous-』人間は食糧だった!グロ耐性必須の衝撃作全巻ネタバレ

『食糧人類-Starving Anonymous-』(以下「食糧人類」)は、地球温暖化の影響により人間の居住可能区域が激減し、3月でも真夏のような暑さとなってしまった日本が舞台。主人公の伊江と親友のカズがバスに乗車し帰宅中、他の乗客とともに何者かに拉致されてしまいます。目が覚めるとそこには、冷凍されて固まった人間たちが転がされ解体されていく、謎の施設でした。

施設の目的は何なのか、人間たちはどうなってしまうのか。伊江たちの脱出劇はもちろん、施設を巡る謎の解明や、極限状態だからこその人間ドラマも魅力。『ハカイジュウ』のようなグロいパニック漫画が好きな方におすすめの作品です。この記事では各巻のあらすじやキャラクターなど、本作の魅力を余すことなくご紹介していきます

本作は水谷健吾原案、蔵石ユウ原作、作画をイナベカズが担当した漫画作品です。同名の『食糧人類』という作品がありますが、こちらは原案が同じ水谷健吾の作品で、作画をKamaroが担当。未来の日本という設定は同じですが、後者は東京が砂漠化しているなど、大きな違いがあります。

舞台は近未来の日本!人類が食糧になる物語あらすじ

3月でも真夏のような暑さが続く日本。高校生の伊江はその日も普段と変わりなく、友人のカズと帰宅するため路線バスに乗車しました。しかし、車中に何者かが催眠ガスを撒いたことで乗客たちは昏倒、異変に気が付いた伊江も耐え切れず眠らされてしまいます。

目を覚ますと、そこはトラックの荷台でした。冷凍された人間が無造作に転がされ男たちに運搬されていくという異様な世界。これは現実ではないと思い込もうとした伊江でしたが、防護服を着た作業員に無理やり真っ暗闇の部屋に通されてしまいます。

『食糧人類-Starving Anonymous-』1巻

そこには肥満体型の大勢の人間が、チューブから一心不乱に謎の液体を吸っているという光景が広がっていました。伊江はここが謎の巨大生物の食糧である人間を飼育する施設であることを知らされます。

突然誘拐されて謎の施設に連れてこられた伊江は、施設内で出会った協力者とともに、施設から脱出しようと試みます。その過程で施設の目的や謎が明かされていくのですが、とにかく描写がグロいので要注意。人間が解体されたり食べられたりといった場面が頻繁に登場します。冒頭からグロ描写は全力なので、覚悟して読み進めてください。

著者
["イナベ カズ", "蔵石 ユウ", "水谷 健吾"]
出版日

施設の謎を解き明かす!個性的な登場人物紹介

あらすじのご紹介でとにかくグロいことを強調しました。そんな過酷な現実を生きなければならなくなった登場人物たちをご紹介していきます。

主人公・伊江

まずは主人公である伊江。真ん中で分けた髪型が特徴的な高校生です。華奢な体格で性格は気弱ですが、いざという時には機転が利き気丈。画家を目指しており、自分が見た物を瞬時に記憶し描く瞬間記憶能力を持っています。

カズ

伊江の高校の友人です。体格が良く家族や友人想いでしたが、施設に拉致されたことで急激な肥満体型に。伊江とともに施設脱出を試みることになります。

ナツネ

伊江は施設内で仲間となる人物と出会っていきますが、1人が黒髪で切れ長の目が特徴のナツネ。人とのコミュニケーションが苦手で言動は少々乱暴ですが、施設内の人間に哀れみの感情を見せるなど不器用ながら優しさを見せることも。身体能力が高く戦闘を得意としています。特殊な体質をしており、母のさおり同様多くの秘密を抱えた人物です。

山引

ナツネ同様、施設内で出会い協力者となるのが山引。細身で眼鏡をかけた、中性的な魅力を持った人物です。不思議なものが大好きで知的好奇心が旺盛、施設内の異様な光景や設備にも興味津々です。また、バイセクシャルを公言しており妙なところで興奮するなど、マイペースで変態的ながら、人を惹きつける不思議な魅力を持っています。

『食糧人類-Starving Anonymous-』2巻(小倉年雄)

他にも施設の天井裏で隠れて暮らす小倉年雄や施設の所長を務める和泉新太郎、マッドサイエンティストの桐生龍三など、クセが強く謎の多い登場人物が物語を彩ります。

また、巨大生物は虫のような姿をしているので、虫が苦手な方は要注意。なかでも高い知能を誇る「クイーン」は巨大生物のなかでも女王的な存在となっており、人間たちの前に立ちはだかります。

生殖種・増殖種ってなに?用語解説

キャラクターをご紹介しましたが、続いて本作に登場する用語を解説していきましょう。

ゆりかご

伊江が目覚めた場所は人間を飼育する施設「ゆりかご」だったわけですが、表向きは廃棄物処理施設。国家機密扱いにされており、施設に勤務する職員は一度雇われれば基本的に外に出ることはできず、機密厳守が義務づけられています。

生殖種

ゆりかごでは人間を拉致してきて太らせるだけでなく、独自の人間生産システムが構築されています。その1つが「生殖種」と呼ばれる人々。ゆりかごの地下1階エリアに収容されている人間がそう呼ばれています。彼らの存在目的は文字通り生殖。催淫剤や興奮剤により強制的に発情させられ、半永久的に子作りさせられます。

エロ展開かと思いきや、行き過ぎた描写はグロくなるもの。薬漬けの状態で「子供を作る」行為だけを一心不乱にする姿は人間の理性や知性を感じさせず、恐怖が沸き起こってきます。また薬漬けなため正気に戻ることはなく最後には廃人となって破棄される運命。残酷な末路に言葉を失います。

増殖種

そんな生殖種の母親から誕生したのが増殖種です。彼らは巨大生物の要求を打開すべく開発された人造人間。身体能力が高く、中枢を破壊しなければ再生し続けるという驚異的な再生能力を持っています。

同じ施設内にいても、まったく違う道を歩むことになる生殖種と増殖種、そして捕獲されてきた人間たち。すべては巨大生物の手のひらの中にあり、抗うための手段として人間が作られてしまうという現実にも胸が痛みます。

グロだけじゃない!作品の見所は登場人物らの一人ひとりの物語性

人間を人間として扱わない、倫理崩壊のグロ展開が見所であり魅力でもある本作ですが、もちろん他にも注目してほしい点がたくさんあります。こちらでは作品の見所をご紹介していきましょう。

まずは謎が謎を呼ぶ展開。実は伊江がゆりかごに拉致され、そこが人間の飼育施設であり、巨大生物の食糧供給所であることは早い段階で明かされます。施設の秘密を明かしていくという性質上、中に隠されているものの正体を探っていくのだなと予想していた読者の期待をあっさりと裏切ってきました。

では一体謎はどこにあるのかと言えば、登場する人間たちがそれぞれ抱えている秘密です。施設の謎が明かされてもナツネや山引、施設職員たちの噂する人物など本来の目的が明かされていません。両者の思惑が絡み合った結果が物語の始まりでもあります。絡み合った糸をほぐす間に新たな謎が浮かび上がり、読者を引き付けます。

また、彼らの抱える謎や目的が人間的な輪郭を与え、個性となっています。ナツネは人間との言語コミュニケーションが苦手としていますが、それには特殊な出生という背景があるため。山引や施設の職員などそれぞれ複雑な事情を抱えており、言動に影響を与えていると感じることができます。

明るい、元気といった言葉ひとつだけの性格をした人間は誰も存在しません。登場人物たちにも人間の持つ複雑さや奥行きが感じられる点が、本作の魅力につながっているのです。次からは、そんな登場人物たちが歩むことになる壮絶な物語のあらすじや見所を、完結巻である7巻まですべてご紹介していきます。

『食糧人類-Starving Anonymous-』1巻あらすじ:たどり着いたのは人間飼育施設⁉【ネタバレ】

主人公の伊江が友人のカズとバスで帰宅中、突然催涙ガスが撒かれ乗客は拉致されてしまいます。トラックの上で目を覚ました伊江は、人間が冷凍されて転がされているという、信じがたい光景の中に居ました。防護服を着ている作業員に連れていかれた先は、暗闇の中で天井から垂らされたチューブに吸い付く肥満体型の人々がいる奇妙な部屋。

そこでカズと再会しましたが、顔の輪郭がふくよかになり言動もおかしく、目がぎらついています。しきりにチューブから流れる液体をすすめてくるカズに従い、口にしようとした伊江はナツネと山引という2人の青年に助けられました。3日以上飲まず食わずで脱出を試みようとしている2人から、ここが人間を飼育する施設であることを知らされます。

物語の始まりですが、丸々と太った冷凍人間がまるでマグロのように解体される描写もあり、作品の異様さを際立たせます。1巻の段階で施設の基本的な情報が明かされますが、なんといっても見所は施設内の描写。人間を食糧として扱うということに対して神経がざわつく感覚を味わうことができます。

著者
["イナベ カズ", "蔵石 ユウ", "水谷 健吾"]
出版日

『食糧人類-Starving Anonymous-』2巻あらすじ:ナツネの秘密が明らかに!【ネタバレ】

施設が巨大生物たちに食糧を供給していることを知った4人。施設脱出方法を探る最中、巨大生物が産卵をする場所で発生した事故に巻き込まれます。職員たちが捕食されている間に用具室に隠れますが、発見されてしまい万事休す。絶体絶命の中、小倉という不思議な男に助けられます。

小倉は元々悪い噂の絶えない施設内の情報を探るために潜入したルポライター。用具室から繋がる隠し部屋に住んでおり、施設内の情報に精通しています。施設には「王座の間」という場所があり、そこで総理大臣と巨大生物の王らしき者が何か密約を結んだらしいとのこと。それを聞いたナツネは通路に降り立ち、カマキリ型の生物に捕食されてしまうのでした。

2巻は施設内の情報に精通している小倉が登場。新たな情報も判明し、施設内の隠された秘密の一端が暴かれていきます。見所を作るのはなんといってもナツネ。なぜ巨大生物殲滅にこだわるのか、驚異的な身体能力の理由などナツネの過去や秘密が明かされます

著者
["イナベ カズ", "蔵石 ユウ", "水谷 健吾"]
出版日

『食糧人類-Starving Anonymous-』3巻あらすじ:明かされる衝撃の過去!「夕凪の会」がヤバすぎる【ネタバレ】

自身を捕食した巨大生物を倒し、生還したナツネ。一方、王座の間には責任者が呼び出され「17人」という数字を告げられます。それは、巨大生物が何者かに殺害されたため、施設内の安全を確保できなかった人間側に対する罰でした。職員の中から17名が選抜され、幼体の生贄とされてしまいます。

所長の和泉新太郎は防犯カメラの映像から、巨大生物を殺害したのが伊江たち4人であることを突き止めました。特にそのナツネの姿に、6年前巨大生物による大粛清が行われるきっかけとなった逃走事件の記憶がよみがえります。生餌の被害を減らすため、和泉は「夕凪の会」と呼ばれる追っ手を差し向けるのでした。

施設側に伊江たちの行動が露見し、追手として差し向けられるのが「夕凪の会」。3巻の見所は主に夕凪の会と伊江たちとの戦いです。夕凪の会の戦力は人造人間。人間に特殊な能力を持つように改造した存在なのですが、これがとても気持ち悪い。巨大生物を見慣れてきたところですが、新たな生理的嫌悪を感じることでしょう。

著者
["イナベ カズ", "蔵石 ユウ", "水谷 健吾"]
出版日

『食糧人類-Starving Anonymous-』4巻あらすじ:サイコパス男、山引の過去が明かされる【ネタバレ】

改造人間たちに捕獲されてしまった伊江、カズ、小倉の3人。殺されるわけでも施設側に引き渡されるわけでもなく、人体改造されるために手術室に運ばれます。そこで3人は夕凪の会のトップである桐生から、巨大生物の正体や政府が施設を作った目的をあらためて知らされるのでした。

いよいよ改造手術が始まるとなった時、別行動をとっていたナツネと山引が救出に現れます。山引は桐生を「お義父さん」と呼び、迫ります。動揺し山引を「悪魔」と呼んでおびえた様子を見せる桐生の脳裏には、自身が大学の教授を務め遺伝子学の研究をしていた頃、研究室の学生だった山引とのやり取りが思い起こされていくのでした。

3巻で抜群の生理的嫌悪感をもたらす改造人間を披露した桐生でしたが、彼と山引の意外な過去が明かされるのが4巻です。マッドサイエンティストで倒すべき敵の1人だった桐生に思わず同情してしまうのではないでしょうか。見所は変態扱いだった山引の真の姿がわかる過去の出来事。あまりのサイコパスっぷりに1番ヤバいのは山引では、との思いが脳裏をよぎります。

著者
イナベカズ 蔵石ユウ 水谷健吾
出版日
2017-11-20

『食糧人類-Starving Anonymous-』5巻あらすじ:施設所長和泉の奮闘!反乱が始まる【ネタバレ】

山引を殺そうとした桐生でしたが、自身にも様々な生物のDNAを投与した結果臓器の位置が変わっており、致命傷を与えることができずに終わります。自棄になった桐生に改造人間たちの怒りが爆発し、桐生は彼らの反乱により命を落とすのでした。

桐生が倒れたことで夕凪の会の追手から逃れた伊江たちでしたが、施設は突如停電。施設内アナウンスでナツネの母である「山崎さおり」の名を呼ばれたナツネは、所長室に侵入します。そこには所長の和泉が待ち構えており、自身の過去の過ちと巨大生物を全滅させる驚くべき作戦を実行に移すのでした。

5巻の見所は、所長和泉のナツネとの意外なつながりと、多くの施設職員が失われることとなった大粛清の詳細です。和泉の過去は想像以上に壮絶で言葉を失うほど。施設の職員は今までも散々な目に合ってきましたが、拉致された人間と同様に命の危機と隣り合わせの生活を送っていることを実感します。

著者
["イナベ カズ", "水谷 健吾", "蔵石 ユウ"]
出版日

『食糧人類-Starving Anonymous-』6巻あらすじ:解き放たれる巨大生物たち!未曽有の危機が迫る【ネタバレ】

施設内の電力を停止させ、巨大生物を閉じ込め餓死させることで殲滅を狙った和泉の作戦。順調に進んでいたかのように見えましたが、巨大生物のトップであるクイーンに操られた副所長花島によって施設の開錠ボタンが操作されてしまったことで失敗に終わってしまいます。それどころか餓えた巨大生物たちが野に解き放たれ、日本各地で甚大な被害をもたらし始めたのでした。

クイーンはこのような事態を望んでおらず、彼らなりに人類との共生の道を探った結果がこの施設だったと明かします。そんな中、山引の背中から死んだはずのナツネが蘇り、まだ地下に残っているクイーンを殺しに向かおうとします。ナツネを呼び止めた山引は、ナツネにある計画を提案するのでした。

物語が進むにつれ、おのおのが抱えていた事情が明らかになっていきますが、6巻では巨大生物たちが歩んできた歴史や抱えている問題が語られます。見所はクイーンが語る巨大生物の歴史なのですが、想像以上に長い間人類と歩んできた存在であることに驚かされるでしょう。人間の存在理由という根幹が揺さぶられます。

著者
イナベ カズ
出版日
2018-09-20

『食糧人類-Starving Anonymous-』7巻あらすじ:遂に完結!人類は生存できるのか?【ネタバレ】

山引は完全なる増殖種であるナツネを食べ、生み出すことでナツネという個体を増殖させていきます。誕生した赤ん坊のナツネはすぐさま成長していきます。山引は自身の肉体が崩壊してもナツネを生み出し、大量発生したナツネはクイーンの部屋に赴くのでした。

完全体の増殖種を待ち望んでいたクイーンは歓喜し、全世界に集まっていた巨大生物たちが再びゆりかごに集結します。しかし、地下施設にいるクイーンの元にたどり着くことができずやがて共食いをはじめてしまいました。小倉はこのままたくさんのナツネとともに、施設を封鎖しようと提案します。

山引の作戦により、巨大生物殲滅作戦が開始されました。7巻は作戦後から生き延びた伊江たちのその後の日常が収録されています。あれだけサイコパスな一面を見せた山引の提案は意外ですが、マッドな研究者としてみれば有りなのかもと思わされてしまいます。ナツネの決意は相当なもので、彼が経験する苦しみを想像すると胸が痛みます。見所はナツネの笑顔。泣き笑いのような表情に、やるせなさが募ります

著者
["イナベ カズ", "水谷 健吾", "蔵石 ユウ"]
出版日

蔵石ユウ・イナベカズコンビで話題!新作『電人N』もおすすめ

「食糧人類」の完結を惜しむ方に朗報です。

主に人間に容赦のない設定とストーリー展開で読者を絶望させる蔵石ユウと、残酷さを際立たせる精緻で美麗な作画に定評があるイナベカズが再びコンビを組みました。新作『電人N』は不幸な家庭に生まれ育ち、家でもバイト先でも虐げられている那須忠太の物語。彼の心の支えはアイドル活動をしている元同級生、神崎さんの存在でした。

忠太は神崎さんから貰ったハンカチを捨てられてしまったことがきっかけで日頃の怒りが爆発。VRの世界に逃避しようとした結果、自身が電脳の世界で生きる「電人」という存在になってしまったことを知ります。電人となった忠太は、神崎さんを1番のアイドルにすべく、暗躍し始めるのでした。

生きる上で電子機器は欠かせない存在です。機械に人の意思は介在しないものですが、「もしも」が現実となった恐怖が目の前に展開されていきます。忠太は不幸な生い立ちの主人公なだけに、行動のすべてを悪だと断じることができないのが難しいところ。

「食糧人類」とはまた一味違うグロ描写もありますので、「食糧人類」が好きだったという方はぜひこちらの作品も手に取ってみてください。

著者
["イナベ カズ", "蔵石 ユウ", "田中 空"]
出版日

『食糧人類-Starving Anonymous-』類似作品が読みたい方には『絶望集落』とその原案『遠野物語』もおすすめ!

ハイペースな恐怖が襲う『絶望集落』

『電人N』に続き、「食糧人類」作者の蔵石ユウが原作の最新作が『絶望集落』です。

タイトルにも表れるように舞台となるのは日本の地方の村。そして今回の敵は猿の「経立(ふったち)」です。体毛は砂と松ヤニで固められているためナイフも銃も通さない体、さらに村の女性を標的とするという妖怪です。

ある時主人公の高校生・三沢の姉が何者かに暴行を受け、三沢はそれを同級生の責任だと決めつけます。しかし山から猿に背後を襲われている鹿が下りてきて、肛門から腸を引き抜かれて殺されるという衝撃的な場面に出くわします。現れたもう1匹の猿もその鹿を犯し始め、家のなかに逃げた三沢たちでしたが今度は彼ら人間がターゲットにされていきます。

冒頭からハイペースで命の危険を感じるシーンが登場する『限界集落』。蔵石ユウらしいパニックホラーは健在です。漫画担当の白山一也によるポップな絵のタッチが、絶妙に違和感を増します。グロくてハラハラする漫画を読みたい方におすすめです。

著者
["蔵石 ユウ", "白山 一也"]
出版日

100年以上前のパニックホラー⁉『遠野物語』

また、『絶望集落』に登場する猿「経立」にはオリジナルがありました。100年以上も前に民俗学者の柳田国男が発表した『遠野物語』。岩手県の遠野地方に伝承される逸話や伝説をまとめた作品です。
 

岩手県の地方村落に古くから伝わる怪異の物語を読むことができますので、パニックホラー作品をさかのぼって味わってみたいという方は一度手を伸ばしてみてはいかがでしょうか。逸話とはいえ、民俗学を研究した作者の調べた具体的な話の出どころや、リアリティのある地名・人名が書かれている点が恐怖を増しています。

著者
柳田 国男
出版日

社会にとって怪異な生物が登場する作品を他にも知りたい方は、こちらの記事もおすすめです。蔵石ユウ作のゾンビもの漫画『アポカリプスの砦』もこちらで紹介しています。

『亜人』好きにおすすめの漫画5選!人間ではない未知の存在

人間の存在理由を根幹から揺り動かしてくる本作、極限状態だからこそ発露する人間の感情が織りなすドラマに釘付けになってしまいます。全編グロであり「本当にこうだったら」を考え出すと震えが止まらなくなりますが、この先の人類が似たような運命を辿らないとも限りません。様々な種類の恐怖を味わえる作品、心してお読みください。

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