バトラーは、直訳すると執事という意味の職業です。現代の日本では、特定の一家に仕える仕事ではなく、ホテルに滞在するVIPの身の回りの世話をする客室係の仕事を「バトラー」と呼ぶことが一般的です。近年は、執事をテーマにした漫画やアニメも多く展開されているので、イメージしやすい職業ですよね。しかし幅広い教養や高いスキルが必要とされるため、選ばれた方のみが就職・転職できる難解な職業でもあります。 本記事では「バトラー」という職業に聞き馴染みがない方にもわかりやすく、バトラーの仕事内容や必要なスキルについて解説しています。おすすめの資格や就職先なども紹介しているのでぜひ参考にしてみてくださいね。
バトラーの仕事は、ホテルに滞在するゲストの身の回りのお世話をするのが業務とされています。
Butler(バトラー): 召し使い頭 (がしら) 。執事。
出典:goo日本語辞典
現代では、バトラーは「ゲスト専属の客室係」といったニュアンスで使用するのがベターです。召使いという表現や訳の意味もありますが、昔のような使用人や奴隷のイメージとは異なるので注意しましょう。
直訳すると執事というだけあって、元はイギリスの家事使用人(男性)の中で最上級の役職だった人を指していました。現代のようなホテルの滞在者相手ではなく、上流階級など裕福な家庭に仕えていたのです。
その当時は、仕えていた主人の仕事のアシスタント業務などもおこない、秘書や側近のような存在でもありました。
日本では、主に高級ホテルのエグゼクティブフロアなど、限られたフロアで働くことがほとんどです。グレードの高い部屋に泊まるゲストをメインにお世話をします。
バトラーの仕事内容は、私たちが予想できないほど多岐に渡ります。
「コーヒーを淹れてほしい」といった要望から「ゲームの相手をしてほしい」といったものまで。ゲストによってバトラーに要求する内容にはばらつきがあり、時にはベテランのバトラーでさえ戸惑うような要求もあるそうです。
一方、ホテルコンシェルジュは、コンシェルジュデスクにいることが多く、ゲストのレストランの予約や交通チケットの手配などがメインの仕事です。コンシェルジュに比べると、バトラーが受ける要望は「〇〇を持ってきて」というような、よりゲストの近くでおこなわれるサービスといったイメージですね。
ここでは、わかりやすいように、特に多くリクエストを受ける内容をご紹介します。
上記は、あくまで参考事例です。実際の職務に就いた際は、ここに書かれていない突拍子もない要求をされることもあるでしょう。
バトラーの最大の目的は「お客様が寛げる空間の提供」です。そのために、ゲストの滞在予定に合わせて季節の花を客室に飾ったり、クリスマスの飾り付けを施すこともあります。
日本のホテルでは「バトラー」という職業がほとんど普及していないのが現状です。バトラーが勤めているのは、一部の超高級ホテルのみ。しかし、海外では比較的バトラーの仕事は普及しており、バトラーの養成学校がある国も存在します。
バトラーとして活躍したい方はまず「日本バトラー&コンシェルジュ」への所属を目指すのがおすすめです。創業家やVIPのサポート業務をおこなえるバトラーを随時募集しており、企業としての顧客からの信頼も高いです。
所属形態は、正社員、契約社員、業務委託社員と3つの形態があります。資産が億単位の資産家や大富豪が顧客ですので高いサービス力が必要です。正式に採用されるのは簡単ではないですが、国内外で活躍できるバトラーとして実務経験を積むことができます。
バトラーの仕事は、ホテル内の他の部署よりも高度な接客スキルや知識を必要とするため、給料の水準も高めに設定されている傾向です。
平均年収は240〜600万円ほど。ゲストのリクエストの内容によっては、残業や夜勤になることもあります。
海外のホテルでは、お世話になったスタッフにチップを渡すのが常識です。日本ではチップの文化は定着していませんが、バトラーが付くような高級な部屋を利用するVIPゲスト(もしくは外国人ゲスト)からは、高額なチップをもらえることもあるそうです。
バトラーという職業に、必須の資格や免許はありません。しかし、働く場所がホテルということや、外国からのゲスト対応をすることを考えると、語学系やホテルマナー系の検定を持っておくと安心でしょう。
ここでは、おすすめの検定をいくつかご紹介します。
「ホテルビジネス実務検定(通称H検と呼ばれる)」は、ホテルの実務知識を体系的に理解しているか測定するための総合的資格制度です。1999年から試験を実施し、2019年時点では5万5000人以上の方が検定に合格しています。
ホテルビジネス実務検定試験を取得することで得られるメリットは2つです。
ひとつは、ホテルのサービスオペレーションからマネジメント業務まで、必要な実務知識を体系的に学べることです。もうひとつは、自己学習の目標設定をおこない、どれだけ到達できているかを把握できることです。
これらのメリットから個人受験よりは、専門学校、大学・短大、ホテル・企業などの団体受験が8割を占めています。バトラー以前に、ホテルで働く者として体系的な知識の習得を目指す場合に、取得必須の検定といえるかもしれません。
参照:ホテルビジネス実務検定
ホテルビジネス実務検定がホテル実務における総合的資格制度なら、「ホテル実務技能検定試験」はホテル業における専門分野の知識や語学力を認定する専門的資格制度です。
試験には初級と上級があり、問題は宿泊、飲料と部門ごとに出題されます。ホテル業務全般の知識を持ちつつ、専門的な知識を身に付けられているのかの証明になります。
試験は基本的に団体のみ受け付けていますが、個人の方向けに年に1度の公開試験も実施されています。誰でも受験可能ですので、個人で興味のある方は試験日程を確認してみてくださいね。
資産家や大富豪に仕えるバトラーは、幅広く高いスキルが求められます。
エグゼクティブフロアなどに宿泊するゲストは、各界の要人や世界で活躍するビジネスマンが多いのも特徴です。日常生活で問題ないレベルの英会話力でも、足りない場面が出てくる可能性もあります。
また、使うのが英語とは限りません。中国語やフランス語など、数カ国語を操るバトラーを目指すのがベストでしょう。
こちらは、ホテルで働くなら誰もが必要となるスキルです。バトラーは常にゲストの近くにいることが多いため、より所作の美しさや姿勢の良さなどが求められます。
ゲストから無理難題を受けることもあるでしょう。そんな時「できません」「無理です」は禁句に近いのがバトラーの仕事。物理的に無理、もしくは危険がともなうような要望は断るべきですが、どんな時も代替案を用意できるような柔軟な思考を持つことが求められます。
日本バトラー&コンシェルジュの代表取締役である新井直之さんが、かつて依頼人から「温泉の掛け流しに入りたい」と要望を受け、1年かけて温泉を掘り当てたというのは有名な話です。一般的には無理だと思われることでも、どうしたら要望に応えられるかを考え、実行にうつす行動力が求められます。
参考:プロフェッショナル執事・新井直之が教える意外と庶民派?世界の富豪たちの知られざる食事情
これは、相手が求めていることを先に感じとる能力です。今ゲストが何を求めているのか、ゲストのためになることは何かなど、バトラーは常に察知力を働かせる必要があります。
ホスピタリティが求められるのは、バトラーに限ったことではありません。ホテル業界や接客に携わる職業であれば、必ず必要となります。「どうやったら相手が喜んでくれるか」を考えるのが苦ではないという方は、バトラーにも向いているかもしれません。
- 著者
- ["デイヴィッド・S・キダー&ノア・D・オッペンハイム", "小林朋則"]
- 出版日
バトラーには、幅広い知識と教養が必要となります。就職する前に学んでおくのがベストではありますが、なかなか時間を確保するのが難しいという方も多いのではないでしょうか。
こちらの本は、1日1ページ読み進めるだけで、幅広い教養や知識が身に付くよう設計されています。忙しい方にも取り入れやすいため、学生・社会人を問わずおすすめの1冊です。
- 著者
- 村上リコ
- 出版日
執事という職業の発祥である、英国の執事にスポットを当てた書籍です。なかでも、特に「男性使用人」にまつわる歴史が書かれています。
バトラーのルーツだけでなく、当時の彼らの生活振りを知りたいという方にもおすすめです。執事という職業から連想される、穏やかで優雅な執事像からは想像もできないような、執事と主人の関係や給料、出世、私生活までを丸裸にした1冊です。
- 著者
- 吉積 サイモン
- 出版日
著者は、日本人の父親とイギリス人の母親との間に生まれました。そんな著者が、外資系ホテルのバトラーとして、各国のVIP対応をこなした経験談などが掲載されています。
彼は外資系ホテルで働いた後、歌舞伎座でさまざまな業務に携わることとなりました。たくさんの外国人やVIPと接した彼だからこそわかった日本のよさも教えてくれています。一流のバトラーの視点を知りたい方におすすめの1冊です。
今回ご紹介したバトラーは、接客スキルだけでなく、幅広い知識やゲストにリラックス感を与えるような雰囲気を必要とします。無理難題を投げられたり、細かな気遣いでゲストをサポートしますが、その分ゲストからの「ありがとう」もたくさん頂ける職業でもあります。
国内だけでなく、海外でバトラーとして働くことに憧れる方もいるでしょう。そういった方は、語学力と教養をみに付けられるような大学や専門学校を探してみてください。ご紹介した書籍も、あわせてチェックしてみてくださいね!