放送業界といえば、テレビとラジオ。でも業態の仕組みについてはよく知らない方が多いのではないでしょうか。身近にあり、生活のなかの楽しみのひとつとなっている方もいるでしょう。そんな方に読んでいただきたいのが本記事です。 地上波、デジタル、ケーブルテレビってなど分かっているようで実はあまりよく知らない各放送形態について解説。気になるニュースや、現状から見える今後の課題などにも触れつつ、最後には放送業界の一面に触れられる書籍もご紹介しています。
放送業界という言葉自体を知らなかった、という人は稀でしょう。一方で、どのような業態があるのかをきちんと調べてみると意外と複雑です。まずは一般的に「放送業界」といったときに思い浮かべる人が多いテレビとラジオについて見ていきましょう。
テレビにもさまざまな種類がありますが、まずは「デジタル地上波」を見ていきます。
いわゆる「在京キー局」である日本テレビ・テレビ朝日・TBSテレビ・フジテレビ・テレビ東京のほか、準キー局である讀賣テレビ・テレビ大阪などがあります。また、テレビ神奈川や京都放送のように大手の系列にない独立局もあります。それぞれがカバーしている範囲が異なるため、地域によって視聴できる放送局が異なります。
キー局と同様に広域に放送してはいるものの、やや立ち位置が違うのがNHKです。NHKは法律によって受信料が設定されている公共放送です。首都圏ではNHK総合、地域ではそれぞれの地域のNHKが番組を制作しています。2チャンネルのEテレは全国共通の放送内容です。
ラジオには電波の違いによりFMとAMの2種類があります。FMは届く範囲が狭く、音質がよい電波で、AMは拾い範囲に届くものの障害物などに弱いという特徴があります。
どちらの電波も届く範囲に限度があることもあり、地域ごとにラジオ局が設置されています。
地上波デジタル放送とFM・AMラジオが特徴的なのは、受信する機械であるテレビとラジオを持ってさえいれば誰でもどこでも放送を視聴できるということです。電波を受信するための特別な手続きは必要ありません。
この無料放送システムは、番組と一緒に広告を放送するというビジネスモデルによって成り立っています。番組の途中に挿入されるCMや、番組内にコーナーとして設けられるテレビショッピングなどが広告収入のもとになっています。
続いては上記で紹介した地上波テレビ・ラジオ以外の放送業を見ていきましょう。「あ、これはこういうカテゴリなんだ」と納得するものもあるかもしれません。
有線放送というと、事業者の「USEN」が有名です。店舗のBGMに使われていることも多いので、アルバイト先で機器をいじったことがあるという人もいるのではないでしょうか。
テレビやラジオが電波を飛ばして放送する無線放送なのに対し、有線放送は名前の通りケーブルを引いて放送をおこないます。そのため、有線放送を受信するためには専用の機器のほかに配線工事が必要になります。
有線放送はラジオなどの電波が届きにくかった時代に始まりましたが、現代では有線ラジオとケーブルテレビに集約されています。有線ラジオの代表格は前述した「USEN」で、主に音楽を多数のチャンネルを使って流しています。
ケーブルテレビは地上波や後述する衛星放送の電波を受信して、契約者まで有線で届けます。この仕組みがあるため、有料となる衛星放送チャンネルを比較的安価に契約できることがあります。
ケーブルはインターネット接続にも利用できます。そのため、現代ではケーブルテレビといえば「ネット、電話、テレビの一括契約ができるサービス」という印象が強くなっています。
ケーブルテレビは基本的に他社の番組を受信して放送する仕組みですが、自社で番組を制作していることもあります。いわゆる「コミュニティチャンネル」がその例です。
衛星放送は、名前の通り通信衛星から電波を飛ばし、それを地上にあるアンテナが受信する仕組みです。いわゆる「BS」「CS」チャンネルが当てはまります。現在、衛星放送をおこなっているのは大手キー局など地上波を扱う会社ですが、受信には有料のアンテナ設置と聴取料の支払いが必要です。
続いては放送業界全体で現代話題になっているニュースを見ていきましょう。ライフスタイルの変化により、放送業界も節目を迎えています。
テレビやラジオは、長らく番組表のスケジュールに視聴者が合わせるという形態を取ってきました。しかし現代では、オンタイムではなく後追いで見たい、聞きたいという需要が高まっています。
そのためテレビ・ラジオともに、インターネットを使ったオンデマンド・後追いサービスが充実してきています。これらのユーザーは視聴率・聴取率の調査には反映されませんが、一定程度の利用者がいるため今後もサービス内容が増えていくことが予想されます。
見たいときにいつでも観られ、かつスマートフォンさえあれば専用の受信機が必要ないという理由で、動画配信サービスとの競合も課題です。
2021年時点での大きなライバルはドラマや映画ですが、ニュース番組などもインターネット配信が始まっています。ある程度リアルタイムであることが大切な番組で、どうインターネットを活用していくのかは大きな課題となるでしょう。
放送業界は広告収入に頼っているため、人口が減少しつつある地域では地方局の経営難が始まっています。とくに2020年は広告出稿が全国的に抑え気味になっています。また、テレビやラジオは人が集まらないと番組制作ができないという点でも、感染症対策を考えた対応が難しい業界だということが分かってきています。
NHKは受信料の支払いを義務化するよう政府に要請しているというニュースが出てきています。日本全体で人口が減りつつあり、かつテレビを持たない世帯が増えてきていることから、これまでのビジネスモデルが徐々に成り立たなくなってきている現実があります。受信料はNHKの問題ですが、背後には放送業界全体の課題があることが分かるニュースです。
参考:毎日新聞
- 著者
- 村上 春樹
- 出版日
- 2004-09-15
村上春樹のデビュー作である『風の歌を聴け』では、物語の合間を縫って流れるラジオが印象的に使われています。ひとりで聴いていても、何となくひとりではないように思わせてくれるラジオは勉強や仕事のお供としても愛されています。読書をしながらラジオを聴いてみてもよいかもしれません。
- 著者
- 高野 光平
- 出版日
著者はCM史研究の第一人者。テレビ放送が戦後日本で始まったころ、つまり現在のビジネスモデルが少しずつ確立していった黎明期でもある時代のCMに焦点を当てた新書です。
CMの背後には当時の社会があります。ドラマや映画ではあまり見たことのない、「昭和30年代ってこんなふうだったんだ!」という新鮮な驚きを味わえます。CM制作に関わる方はこの機会にCM史をおさらいしておくのもよいでしょう。
- 著者
- 難波 功士
- 出版日
社会を映す存在としての広告をより広い範囲で観ていくのが『広告で社会学』です。今後放送業界は、どのような広告を流すのか、それは企業の倫理として正しいものなのかをより厳しく問われる時代になっていくでしょう。そのようななかで、あらためて広告とはどういう存在なのかを考えることができます。
本書は約80の広告・キャッチコピーを窓口に、日本の今を社会学の切り口から解析しています。家族との関係、教育に関わる問題、医療や福祉の捉え方など、今後の広告・キャッチコピーを考えるうえでぜひ頭に入れておきたい内容ばかりです。
人の心に訴えかけ、行動を促す手段としての広告・キャッチコピーに対して持ちたい倫理観も養える1冊でしょう。
放送業界の構造と、気になるニュースについて解説しました。どんなローカル局であっても、視聴者に情報を届けるという大切な役割のある放送業界。どんな仕事がしたいか、あらためて考える材料にしてみてください。