食べたいものを食べる方法【小塚舞子】

更新:2021.11.26

出産前、出産後、授乳中、卒乳後・・・。女性の身体はどんどん変化する。隣の部屋で大の字になって寝ている娘も日に日に大きくなる。自分から一人の人間が分裂したことが今でも不思議だ。産後すぐは、大きくて重かったお腹の感覚も、産むときの痛みも覚えていたから『私が産んだ』という気分だったが、2年近く経った今はなぜか自分が分裂したように思ってしまう。こんなに大きく成長する人間が自分から分裂したのなら、私のほうはちょっとくらい小さくならないものなのか。鏡の前に立つたびに自分の身体にがっかりする。太った。

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私の脂肪のミナモト

 

原因はわかっている。食べすぎだ。妊娠中の食べづわりに始まり、授乳中はたくさん食べても大丈夫、むしろ食べないとおっぱい出ないからと完全に食べる癖がついてしまった。卒乳してからもそれは変わらず、暇と理由を見つけては何かしら食べている気がする。

最もよく使う理由(言い訳)は“食べないと脳が働かない”だ。食べたところで大した働きは見せない残念な脳だが、食べないことには余計にダメな気がして、つい食べてしまう。しかも脳を働かせる=甘いものだろうと高カロリーなものばかり。昔は脳を働かせるとカロリーを消費しているような感覚があったものだ。ラジオの放送前など、もりもりごはんやお菓子を食べても、2時間ほど経つとお腹が空いていたし、運動しなくても頭を働かせていれば太らなかった。今はただ眠くなるばかりで、吸収した甘いものは直接脂肪へと変化する。

食べる量やスピードも、同世代の女性よりは圧倒的に多く、圧倒的に早い。例えば、吉野家だと特盛である。並盛だと腹五分目くらいで終わってしまうから、大盛りにしたらご飯の量に対してお肉が足りなかった。そこで、アタマの大盛りにしてみた。これは並盛と同じ量のごはんにお肉だけが大盛りになるというものだ。ご飯とお肉のバランスには満足したが、満腹にはならなかった。味噌汁やサラダなどのサイドメニューで補うという選択肢もあるが、牛丼を食べるときはお腹いっぱい牛丼が食べたい。

次なる段階が特盛だ。ごはんの量は大盛りと同じ。お肉は大盛り以上。これが私の求めていたものだった。腹十分目付近まできてはいるが、気持ち悪くなるほどではなく、牛丼を食べたという満足感で幸せな気持ちになった。スピードに関して言えば吉野家はいつもテイクアウトを利用するので、他人と比べられないのだが、カレーを食べるスピードは誰にも負けない。店に入った時には既に食べ始めていた男性客よりも早かったりする。大食い、早食い。太る条件コンプリート。

さらに今年はコロナの影響で、あまり外に出られないことが脂肪増大に拍車をかけた。世間の流れに従い(というか流されて)お菓子作りを始めてしまった。パウンドケーキの型をネットで取り寄せ、小麦粉やらバターを買いにいった。すると売り場の棚はすっからかんだった。

母に電話してみると、どこも同じような状況らしい。皆一斉にお菓子やパンを手作りし始めた時期である。しかし諦められないのでちょっと足を延ばして業務スーパーに行ってみると、大きいサイズの小麦粉やバターは普通に売られていて、喜んで買って帰った。何に使うのかわからないアーモンドプードルやチョコチップ、どこも売り切れだったホットケーキミックスも買った。

お菓子作りなんて中学生以来だろうか。やり始めてみるとオーブンから漂う甘い香りに心躍って、ほぼ毎日何かを作った。主にクッキーとパウンドケーキ。クッキーには相当な砂糖とバターが入っていることを知り震えたが、自分で作ったお菓子は美味しくて嬉しかった。

一週間ほどで、バターが底を尽きかけた。業務スーパーで買った特大のバターだ。いつまでもあると思っていたのに気付けば銀紙にちょろりとくっついているだけになっていた。特大のバターのほとんどを一週間ほどで使い切ってしまった。お菓子はほとんど自分で食べた。バターの分以上に私は大きくなっていた。

見つけてしまった最高のリセット法

 

体重を測る習慣がないので(測れよ)、どれくらい増えたのかはわからなかったが確実に身体は重くなっていた。代謝が悪くなったせいでもあるだろうし、運動不足も原因のひとつだと思う。しかし自粛期間中は娘を連れて散歩ばかりしていたので、むしろ普段よりちゃんと動いていたくらいかもしれない。

やはりどう考えてもお菓子だ。(あと特盛)しかしいきなりお菓子(と特盛)を断つのは辛いし、気合いを入れて運動する時間も気力もない。早起きしてランニングすることも考えたが、今は何よりも睡眠時間が大切だ。何かいい方法は…と考えてたどり着いたのがジュースクレンズである。

通販の胡散臭いCMみたいにならざるを得ないのが悔しいが、これが最高だった。ジュースクレンズとは、言わばプチ断食だ。コールドプレスジュースという、生の野菜や果物を低速回転のジューサーで絞ったものを食事の代わりに飲む。繊維などが入っておらずサラサラの味が濃いジュースで、野菜や果物の組み合わせにもよるがとても美味しい。しかもやけに腹持ちがよく、なかなか空腹にならないのだ。私が買った店のプログラムだと500ミリのジュースを一日5本。朝昼夜とその間に飲む。ジュースだけではなく同量の水も飲む・・・今思うと5リットルの水分を飲んでいたのか。そらお腹すかんわ。

しかしまぁとにかく素晴らしいのだ!お腹が空くことの辛さなんて感じることなく、デトックスできる。お腹の中がきれいになると、そのまま全身の細胞がスッキリ生まれ変わったように体が軽くなる。おまけに寝起きまで爽快なのだ。窓から柔らかな朝の光が流れ込むベッドでシルクっぽいパジャマを着ながら「オハヨー!」と笑顔で伸びをするCMのイメージそのまんまの寝起きだ。胡散臭いと思っていたCMも信じてみようという気になってくる。心まで浄化されてしまった。「人生がパッと明るくなりました!もうこれなしの生活なんて考えられません!(目キラキラさせて)」的な。

エクスペンシブな免罪符

 

せっかくなのでCMの続きを。

「オハヨー!」と伸びをする女性。朝の光は部屋全体を明るく包み、カーテンはそよそよと優しく揺れる。女性はベッドから抜け出すと、軽やかなステップで鏡の前へ。自分の顔を見て満足そうににっこりと微笑む。「わたしを変えてくれたジュースクレンズ!もう日課にしたいくらいです。さあ、あなたも生まれ変わりましょう!」

キラキラした表情の女性から画面は色とりどりのジュースに変わる。

「気になるのがお値段です!」
「なんと!今回限りの限定価格・・・ではありません!何度でも・・・!何度でもこの価格!」

ジャン!「一日なんと8000円!」
ジャジャン!!「二日だとさらにお値打ちな15500円!三日なら22000円!」
「さあ!今すぐお電話を!」

本来ならここでフリーダイヤルが表示される。でもちょっと待って。一日8000円て。ジュース5本ではっせんえんて。むちゃくちゃ高いわ。お電話促しにくいわ。

ジュースクレンズ最大の弱点はここである。高い。ホームページで値段を見た時はギョッとした。一か月くらいはただホームページを眺めていた。しかしもうズルズル太り続けるのが嫌で二日間のセットを買った。買いに行くときは背筋がシャンと伸びた。結果的にはお値段以上に大満足だったのでよかったが、二日で一万五千円も払って効果なかったら泣くわ。

その効果には感動したが、ジュースクレンズはあくまでデトックス。一時的なもので、ダイエットではないと思う。一度リセットした身体もあっという間に元に戻った。しかし一日分を5千円ほどで買える別の店を見つけて、二回目はそこで買った。またリセットされた。・・・という記事をビール片手にこつぶっこを食べながら書いている。

わかっている。“運動しろよ、自分”“食生活見直せよ、自分”毎日のように思っている。しかし食べることが生き甲斐でもあるわたしは、それをやめられない。おまけに食べてもいい理由を新たに見つけてしまったのだ。だって私にはジュースクレンズがあるんだもん!(決め顔)

ダイエット本じゃないダイエット本

著者
村上春樹
出版日

いつも書いていますが、村上春樹さんの著書を読むと、生活を正したくなります。丁寧に熱いシャワーを浴びたり、掃除をしたり、無駄なものを捨てたり。そして美味しいものをバランスよく、少しだけ食べようという気にもなるのです。食事のメニュー例や、痩せる習慣が書かれた本を読むよりも自分で考えて行動できるようになる方が痩せる気がするのです。(痩せてないけど)

こちらは短編集。寝る前に一話ずつ読むことで、翌日の暴飲暴食を防ぐことができます。多分。

著者
伊坂 幸太郎
出版日

ちょびちょびお菓子をつまんだり、ダラダラとごはんを食べないようにするのはミステリーが一番。

人を誘拐することで生計を立てる兎田の新妻が誘拐されることから動き出す物語はあちこちの点と点が繋がりあっていく爽快感があります。どうなるの?どうなるの?と続きが気になって、読みながら食べようと開けたポテトチップスの存在を忘れさせてくれるのです。食欲を抑え込むくらい面白くないとできない作戦です。読み終わったら食べるんですが。

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