学生にはあまりなじみのない「保険」という商品。とくに「損保」と言われてもあまりぴんとこないという方は多いのではないでしょうか。しかし実は意外なところで損保との接点があります。たとえば自動車保険や自賠責保険、傷害保険は誰にとっても比較的身近であり、知っておいて損はない保険です。 本記事ではそんな損保業界の構造と商品について、また勉強するのにおすすめな書籍を紹介します。損保業界に興味のある方はぜひ書籍も参考にしてみてくださいね。
損保そのものにあまりなじみがない方は多いのではないでしょうか。まずは損保業界が扱う保険について知っていきましょう。詳しく見ていくと、実は自分が加入しているものもあるかもしれません。
「損保」は「損害保険」の略称です。損害保険は、何かを壊してしまった、納期に商品が間に合わなかったなどの経緯で「損害を与えてしまった状態を補填する」ために掛けられる保険です。人の生命や健康状態に対して掛ける生命保険との最も大きな差はこの部分です。
損害保険は損害の種類や対象物によって様々な商品があります。代表的なものを見ていきましょう。
損保業界の中で最も取り扱い規模の大きい商品は自動車保険です。売上全体のうち半分近くを自動車保険が占めるというデータもあります。
自動車保険とは、自動車の所有者が加入する任意保険です。事故を起こしてしまった場合、とくに人身事故で相手が死亡してしまった場合、多額の損害賠償を請求されるケースが珍しくありません。自動車保険のおもなニーズはこの「対人保障」からくるもので、任意保険とはいえ全体の7割以上が加入しています。
参考:保険市場
自賠責保険とは「自動車損害賠償責任保険」の略称です。これは自動車・バイクに対して法律で義務づけられている保険で、必ず加入しなくてはなりません。ただし、保険料・保障範囲ともに少額なので、加入率の割に市場シェアはそこまで高くありません。
自賠責保険は保険期間が柔軟に決められます。自動車や125cc以上のバイクはは基本的に2年に一度車検があるため、車検と同時に更新するのが一般的です。一方、車検のような制度がない原付では自賠責保険を自分で更新する必要があります。
火災保険・地震保険は建物や財産(不動産・動産)に対して掛ける保険です。一人暮らしを経験したことのある人であれば、火災保険のことは何となく把握しているのではないでしょうか。
火災保険は火災だけでなく、水害などの他の自然災害や盗難にも対応している保険です。ただし地震・津波・噴火に対応するには、別個に地震保険に加入する必要があります。日本では、地殻変動にともなう災害は広範囲におよび、被害の規模も大きくなります。そのため保険が分かれているのです。
傷害保険は、怪我をして治療を受けたときに保障を受けられる保険です。医療保険と似てはいますが、対象が怪我に限られているところが特徴です。
似たような保険としては旅行保険やイベント保険などがあります。どちらも特定の行動を取ったときに起こった怪我などを保障する内容です。旅行保険の場合は、荷物の紛失や海外での医療保障などもカバーしてある場合があります。
海上保険は簡単に言うと自動車保険の海バージョンです。貨物や人を乗せる船舶に対して掛けられる保険です。天災や事故などによる貨物の紛失・傷害などに対応します。「海上」保険という名前ではありますが、航空機も対象になります。
時代の変化により、新しい種類の損害が発生することがあります。損保業界はそれらに対応するために新商品を続々と作っています。
最近だと、東京都などで自動車に賠償責任保険を掛けることが義務化されました。背景には自転車対人の事故で死亡例が頻発するようになったという事情があります。自転車の保険というと、これまではほかの保険のおまけのような扱いが一般的でしたが、現在では個別に加入することができるものが増えています。
このような「個人が自分の行為に対して賠償する」保険は徐々に増えています。賠償責任保険はこれまで法人向けに作られてきたものですが、最近ではフリーランス向けに保障をする商品も作られています。
損保業界の会社について調べていると出てくるのが「メガ」「3メガ」という言葉です。「有名なグループがあるのかな」とまではなんとなく想像ができます。グループ名を確認するとともに、業界内の勢力図も知っておきましょう。
現在の損保業界大手は、4つの主要会社と3つのグループに分かれます。
1つ目が「MS&ADグループ」で、内部にと三井住友海上火災保険あいおいニッセイ同和損害保険を含みます。
2つ目は「東京海上グループ」で、損保会社は東京海上日動火災保険です。3つ目が「SOMPOグループ」損保会社は損保ジャパン日本興亜です。
業界全体のシェア9割弱を、上記の4社3グループが占めています。1990年代から始まった保険の自由化が現在の業界構造へ大きな影響を与えていると言われています。
一方で、最近はインターネット経由でのみ契約を取り扱う、いわゆる「ネット保険」が増えています。外資系を初めとした各社が参入しており、比較的保険料が安価であるのが特徴です。インターネットを使った契約に抵抗がない人が増えていくにつれ、現在の業界構造も変化していくことが予想できます。
- 著者
- ["大谷 孝一", "中出 哲", "平澤 敦"]
- 出版日
損保業界に就職した人は、業務の一環として保険の仕組みを学ぶことができます。しかし「一足先に学んでおきたい!」という意欲のある人もいるかもしれません。
そのような人には『はじめて学ぶ 損害保険』のような、大学の教科書になっている書籍がおすすめです。
- 著者
- 森和彦
- 出版日
損保業界の特徴のひとつに「代理店」という仕組みがあります。損保会社は直接お客さんを探しにいくのではなく、代理店に委託して契約業務をおこなっているのです。「保険」を看板に掲げているところだけでなく、自動車整備工場など関連業種でも保険代理店として活動しているところがあります。
代理店は契約件数によって保険会社から手数料を受け取ります。まずは損保業界で働き、最終的には自分の会社を作って独立する、という人も珍しくはありません。代理店ビジネスに関心がある人向けに書かれた書籍が『損害保険代理店の教科書』です。
- 著者
- 柳原 三佳
- 出版日
保険の自由化が損保業界に与えた影響は業界再編だけではありません。一時期は保険金の不払い、払い渋りなどが社会的に問題になりました。
そういった保険自由化の負の側面に焦点を当てた新書が『自動車保険の落とし穴』です。損保業界で働く人だけでなく、消費者としてもどのような課題・問題があるのかを知っておくのにおすすめです。
大手グループがシェアの大半を占める損保業界について紹介しました。手堅い業界ではありつつ、天災が多くなると保険料の支払いが多額になるなど、先が読めない面もあります。これまでもこれからも業界の構造は少しずつ変わっていくでしょう。地道な仕事と、長期的な視野の両方を持っておくのがおすすめです。