スマホやPC、生活家電に自動車、文房具まで、ありとあらゆる製品をデザインすることがプロダクトデザイナーの仕事です。専門的な知識と技術に加え、やはりセンス(いいデザインを見極める感覚)も必要になるため、憧れだけでは勤めきることは難しい仕事ですが、デザインを手掛けた製品がヒットした時は大きなやりがいがあります。デザイン部やデザイン事務所に勤め、その後独立して仕事をするという働き方も可能な職種です。本記事では仕事内容をはじめ、活躍の場、やりがい、資格、給与事情などの特に知っておきたい要点を紹介。もっと深く知りたい方は、関連書籍を紹介していますので、こちらもぜひ参考にしてみてください。
デザインの仕事は、自身の思うがままにデザインを創り出すことではありません。使いやすさ、見た目のよさ、耐久性の高さなど、さまざまな視点から考え、依頼主あるいはその先の消費者に受け入れられるものをつくる必要があります。そんなプロダクトデザイナーの仕事は、制作工程も少なくありません。
本記事では、デザインの対象や作業工程といった仕事内容を紹介。さらに気になる就職先や資格についても解説していきます。
プロダクトデザイナーがデザインするものは、身近にある生活用品から工業製品までさまざま。食器や文房具に玩具、スポーツ用品、家電製品、家具・インテリア、PC、スマホ、事務用機器、さらには自動車や飛行機など大型の輸送機器まで、多くの製品がデザインの対象です。
依頼主からの発注後すぐにデザインに取り掛かることはありません。まずは依頼主にヒアリングをおこない、競合のリサーチをして、コンセプトを設計します。コンセプトが決まったらラフ案などをアウトプットしながらデザインを固めていきます。
実際の作業にはPhotoshop、Illustratorや2DCAD、3DCADのデザインソフトを使い、形状や機能、材質などを検討しながらデザインします。
そして出来上がったデザイン案は、設計士や工場の技術者の手に渡り製品となります。このようにデザインから製造まで多くの工程を経て、いよいよ流通されるわけです。
主な就職先は、メーカーの商品開発あるいはデザイン部門です。そこにプロダクトデザイナーとして就職し、経験を積んでいくのが一般的な流れです。ただし、デザインをアウトソーシングしている企業もあるため、プロダクトデザインを手掛けるデザイン事務所に所属し働いている方もいます。
プロダクトデザイナーのなかにはメーカーや会社員として経験を積んだのち、独立してフリーランス事務所を立ち上げる人もいます。
プロダクトデザイナーになるために特別取得しなければならない資格はありません。ただし、就職や転職活動の際に活かせる民間資格はあります。その資格のひとつに、日本インダストリアルデザイナー協会(JIDA)が主催する「プロダクトデザイン検定」があります。客観的に実力を証明できる信頼性のある資格です。
プロダクトデザイン検定とは、プロダクトデザイナーとしての専門性を高めた方に向けた関連知識の理解度を評価する検定です。魅力ある商品づくりやデザイン、開発において必要不可欠なプロダクトデザインなど幅広い知識を習得することができます。
階級は、2種類あります。初学者、デザインに関する教養を身につけたい方におすすめの2級と、職業としてのデザイナーを目指し、商品開発をおこなっていきたい方に向けた1級です。
試験は北海道から沖縄まで、全国約280箇所の会場で実施されます。団体でも個別試験も可能なので、すでに企業のデザイン部門やデザイン事務所で働いている方は、会社に個別受験を提案してみるのもよいでしょう。
日本インダストリアルデザイン協会(JIDA)が編纂しているテキストで試験対策が可能です。受験を検討している方はこちらのテキストに必ず目を通すようにしましょう。
参照:プロダクトデザイン検定
しかし、資格を持っているからといって入社が約束されるわけではなく、実績やポートフォリオなどを重視する企業も多いため、面接時などにアピールできる作品を増やしておくことも重要です。
専門的なスキルと知識を持つプロダクトデザイナーですが、収入事情はどうなっているのでしょうか。会社に所属している場合の収入をご紹介します。
プロダクトデザイナーの全世代の平均年収は約418万円です。一般的な会社員の平均年収は400万円強と言われているため、平均的かやや高めの数値となっています。
世代別に見ていくと、20代前半で約300万円前半、20代後半で約350万円前後、30代で約450万円前後、40代以上になると約540万円以上になるのが一般的な流れです。
経験を積むごとに昇給があるため、30代、40代になるにつれ生活も安定していくでしょう。
プロダクトデザイナーは、製品の背景にいる影の存在です。一般生活者は普段使っている製品を作っているのかを知ることはほとんどありません。しかしプロダクトデザイナーを目指すのであれば、日本で活躍する有名なプロダクトデザイナーは知っておくとよいでしょう。
山中俊治さんは、Suicaのタッチパネルのデザインや、ISSEI MIYAKEから販売されている腕時計などのデザインを制作している有名なプロダクトデザイナーです。出身は東京大学工学部。日産自動車センターに勤務し、その後フリーランスのデザイナーとして独立しています。
デザイナーというと大学や専門でデザインを学ぶ必要があるというイメージが強いですが、山中さんはそうではありません。大学時代は工学部で勉強をし、デザインに興味を持ったのは学部4年生の時。もともと絵を描くことが好きで、縁があって日産自動車センターでデザイナーとして働き始めたとインタビューで語られています。
このように、デザイナーになるには必ずしも学術的な勉強をしている必要はありません。それよりも、ゼロからどんなデザインが作れるか。絵を描くことや、デザインを作ることが好きで、想像するだけではなく手を動かして作っていけることが大切なのです。
参照:東大な人 山中俊治さん
深澤直人さんは、多摩美術大学美術学部プロダクトデザイン科卒業のデザイナー。代表的作品として、±0のプロダクトデザイン、無印良品のプロダクトデザインなどが挙げられます。無印良品で人気のCDプレイヤーも、深澤さんがデザインした製品です。
活動のなかで特徴的なのは、21_21 DESIGN SIGHTの企画運営をしていたり、日本民芸館の5代目館長を勤めたりと、プロダクトデザインをする仕事だけでなく、デザインに関わる仕事を幅広くおこなっていることです。
プロダクトデザインは、芸術的なものではなく実用的なものでなくてはなりません。利用者の生活に寄り添ったデザインを広めていく活動は、これからのプロダクトデザイナーに必要なことなのかもしれません。
佐藤ナオキさんは、ローソンの商品パッケージを手掛けたことでも有名なプロダクトデザイナーです。日常のなかでの小さな気付きを掬い上げ、分かりやすい形にして日常に還元できるようなデザインをコンセプトに活動をしています。
出身は、早稲田大学大学院理工学研究科建築学専攻。大学院修了と同時にデザインオフィスnendoを設立し、そこからデザイナーとしてのキャリアをスタートさせています。建築学を専攻していたこともあって、デザインに関する教養や基礎的な部分は大学時代にしっかりと身につけていたのだと思います。
デザインは感性的なものだと思われがちですが、プロダクトのデザインにおいて人間が感覚的によいと感じるものは、緻密に計算して作られています。理工学の知識はデザインと大きくかけ離れたものではないのです。
参照:nendo
仕事のやりがいは人それぞれですが、クリエイティブな仕事はやはり「つくる」ことの楽しみが一番にあげられるでしょう。本章ではやりがいを感じる瞬間について紹介していきます。
使いやすさや美しさ、受け入れやすさ、依頼主の要望など、デザインは考え抜く作業であり、生みの苦しみに疲弊してしまうこともあります。しかし、それらの制限やハードルをクリアして納得できるデザインが出来上がったときは、大きな達成感が得られます。
評価されることは誰にとっても嬉しいことですが、自分のデザインが市場に受け入れられヒットすることは、評価されたことを最も実感できる瞬間ではないでしょうか。評価されれば職場や依頼主からの信頼も得られ、デザインを一任されることも増えて、自由度の高い仕事が出来るようになる可能性もあります。
- 著者
- ["Chris Lefteri", "田中 浩也", "水原 文"]
- 出版日
本書は製品になるまでの実際の作業工程(流れ)を知ることができる1冊です。
さまざまな工業製品の製造手法を、豊富な図解と写真とともに解説してくれます。キッコーマンの醤油瓶やiMacのスタンドなど実際の製品を例にあげ、その技法や原価、加工速度、精度を紹介。ビジュアルブックとしても参考書としても役に立ちます。
- 著者
- ["JIDA「プロダクトデザイン」編集委員会", "日本インダストリアルデザイナー協会", "日本インダストリアルデザイナー協会", "大島 義典", "金井 宏水", "佐藤 弘喜", "塚原 肇", "山内 勉", "山崎 和彦", "横田英夫", "SOUVENIR DESIGN", "日本インダストリアルデザイナー協会"]
- 出版日
ヒットした製品に詰め込まれたデザインプロセスの中身を全部教えてくれるプロダクトデザイナーのバイブル。
デザイン実務からマネジメント、関連手法や技術まで、50名を超える産業界・教育界のエキスパートの著者陣と、日本インダストリアルデザイナー協会(JIDA)の編さんにより、まとめられたボリュームたっぷりな1冊となっています。
見開き完結のカラー図解を採用し、見た目のデザインだけではなく、マーケティングやユーザ工学、加工技術までを網羅的に解説。本書で知識を身につけ、あとは実践的な経験を積むことでプロのデザイナーとしての道が開けることでしょう。
- 著者
- 村田 智明
- 出版日
- 2015-09-17
本書で解説されるのは、物を使う人の行動から改善点を見つけ、そこから新しい形を見つけていくデザインマネジメントの新手法。パナソニックやコクヨファニチャー、日本能率協会など多くの企業が導入し、実績を上げたその手法をで伝授してくれます。
デザインシンキングを学ぶために最適な1冊です。
プロダクトデザイナーという肩書きに憧れたはいいものの、いざ現場に入ってみたらデザインプロセスやコンセプトワークの緻密さに戸惑いを覚えたという方は少なくありません。デザインは感性も大切ですが、クライアントの依頼からデザインを起こす場合は、なぜそのデザインが適切なのかを論理的に説明する必要がありますし、1ミリ単位で印象が変わるデザインを、数値で管理する必要も出てきます。
ただデザインを作るだけではなく、市場調査、競合調査、そのカテゴリーの商品で何が売れているのかなど、さまざまな調査データをもとにデザインを考えます。デザインの引き出しは常にストックしておく必要もあるでしょう。
デザインの基礎知識を学ぶのはもちろんですが、調べたり考えたりすることに慣れておくのもよいかもしれません。考え方についての学習は、本記事で紹介した書籍などを利用するのがおすすめです。
デザインを勉強するために学校に通うのは必然ではなく、普段から絵を描いたり、デザインを描いたりするのが好きな方であれば、きっとプロダクトデザイナーとして働く機会を得られるはずです。ヒットする作品を生み出すプロダクトデザイナーになるための一歩をまず踏み出してみてはいかがでしょうか。