自分の目の前に、大きな問題が立ちはだかった時、あなたはどのような反応を示していますか?仕事の問題もあれば、プライベートの問題も発生するかと思います。大きな問題を前にした時、世の中にはただ萎縮してしまう人もいれば、一方で、独創的なアイデアでその問題を解決してしまう人もいます。一体その違いは何なのでしょうか? 『20歳の時に知っておきたかったこと スタンフォード大学集中講義』はその違いを生み出すイノベーターの考え方を豊富な事例を交えながら解説してくれます。本記事ではその内容のまとめと共に、世界を見るこれまでとは違った「新しいレンズ」のエッセンスをお届けしていきます。
もしいきなり「5ドルの元手を使って2時間でできるだけ増やせ」と言われたらあなたはどうしますか?
宝くじを買う人や、5ドルで何か道具を買って洗車のサービスをする人もいるかもしれません。しかし、著者のティナ・シーリグ氏が彼女が所属するスタンフォード大学で学生たちにこの課題を与えると、彼女も驚くような方法でお金を増やすアイデアが続々と出てきたと言います。
例えば、5ドルではなくスタンフォードの学生の前で結果の発表をする時間が最も重要な資産と考えて、その3分の発表時間を企業に広告枠として売る学生が現れたり、「スタンフォードの学生売ります。一人買えば二人おまけ」と、5ドルではなく、自分たち自身に価値を見出してお金を増やす学生もいました。
この「5ドル」の問いかけとその学生の事例は、ありきたりな解決策と、人々があっと驚くような解決策の違い、ひいては企業家精神やイノベーションについて学ぶきっかけを与えてくれるのです。
- 著者
- ティナ・シーリグ
- 出版日
- 2010-03-10
「5ドル」の課題は、授業として扱われたものですが、世の中には小さいものから大きいものまで、仕事からプライベートまで、様々な問題にあふれています。それらの問題をどのように捉え、どのように解決できるかはその問題に立ち向かう人の考え方次第なのです。
その考え方=世界を見る新しいレンズをこの本では豊富な事例を交えて紹介してくれます。
中には今の自分の考え方とは相入れないものもあるかもしれません。しかし、最初からその考え方を拒むのではなく、まずは受け入れてみてはいかがでしょうか?改めて新しいレンズで世界をみてみると、違った景色が現れるかもしれません。
大きな問題が立ちはだかった時、名言に救われた、元気をもらったという経験はありませんか?『20歳の時に知っておきたかったこと スタンフォード大学集中講義』には問題と向き合う上ではっとさせられる名言がいくつも散りばめられています。
ここでは、心に突き刺さる名言を厳選して3つ紹介します。
人は誰しも、日々、自分自身に課題を課すことができます。つまり、世界を別のレンズ ー 問題に新たな光を与えることのできるレンズ ー で見る、という選択ができるのです。
(『20歳の時に知っておきたかったこと スタンフォード大学集中講義』P26より引用)
日常の中で問題にぶつかった時、人はなぜこれはチャンスだと考えないのでしょうか。ティナ氏は、人は問題を歓迎するような教育は受けておらず、問題は避けるべきものだと教えられるからだと言います。
しかし、彼女は誰しも自分自身に課題を課す、世界を別のレンズで見る、という選択ができると続けます。問題は数をこなすほど、自信を持って解決できるようになり、そして、問題が問題ではなく「チャンス」だと気付けるのです。
その前提となるのが、問題は避けるべきだという思い込みに気付き、世界は新しいレンズで見ることができるのだ、問題はチャンスだと考える心構えとなるのです。
「許可を求めるな、許しを請え」
(『20歳の時に知っておきたかったこと スタンフォード大学集中講義』P63より引用)
人々があっと驚くようなアイデアは、常識に囚われていては決して出てくることはありません。時にはルールを破ることも必要となるでしょう。
さらに言うと、「ルールは破られるためにある」のです。ほとんどのルールは、ある世界で右も左もわからない人にとってはガイドとなり、その世界で生きる前提を教えてくれます。
しかし、ルールの中にいては革新的なアイデアは生まれません。そこで知っておいていただきたい考え方が「許可を求めるな、許しを請え」というものです。
全てに許可をとっていると、つまり、ルールの中だけでやろうとすると平凡な解決策ばかりになるでしょう。時にはルールを破り、誰かの役に立つ解決策を提示して、その後に許しを請えば良いのです。
「光り輝くチャンスを逃すな。」
(『20歳の時に知っておきたかったこと スタンフォード大学集中講義』P188より引用)
ティナ氏は、授業の最後で学生に期待することを伝えており、その最後のスライドには「光り輝くチャンスを逃すな。」というメッセージが記されています。彼女自身が毎回の授業でベストを尽くすだけでなく、学生にもそうするように望むのです。
すると、どうなるのでしょうか?学生はいつも彼女の期待を超える結果を出し、「光り輝く」というモットーで課題を向き合うようになります。
みなさんが仕事などで何かアイデアを求められた時、どこか無難な、誰もが文句を言わなさそうなアイデアを出したことはありませんか?私たちは「最低限の条件を満たす」ことを無意識のうちに考えるようになっているのです。
そうではなく、潜在能力を最大限に発揮して、場外ホームランを打っても良いと、この「光り輝く」というモットーが伝えてくれているのです。
それではここからティナ氏がこの本を通して読者に伝えようとしている世界を見る新しいレンズ=新しい考え方がどのようなものなのか、そのエッセンスを解説していきます。
冒頭でご紹介した「5ドル」の課題をあなたが与えられたら、どのような反応を示しますか?
ティナ氏が、ある企業幹部を対象とした講演で学生たちの奮闘を紹介したところ、企業のトップがやってきて「学生に戻れたらどんなにいいでしょう。」と伝えたそうです。
つまり、この課題に対して独創的なアイデアでお金を増やせたのは「学生」の、「授業」の中だからとそのトップは考えたのです。社会人となり、日々の仕事と向き合う中で柔軟な考え方をしないと解決できないような大きな問題にぶつかっているはずなのに、自分の生活や仕事に活かせるとは思わなかったようです。
しかし、本当にそうでしょうか?本物のイノベーターは、問題に対して真正面からぶつかり、常識をひっくり返す解決策でその問題を解いてしまいます。そのイノベーターと、先ほどの企業トップとの違いはなんと言っても「心構え」です。
イノベーターは、絶えず大きな問題にぶつかり、その都度、それを解決する独創的な方法を見つけ出すことができると言います。一方で、先ほどの企業トップのような人は、できる限り問題は避けるべきで、あっと驚くアイデアは大学という管理された環境だからこそできたことだと言うのです。
この本では様々な起業家や、ベンチャーキャピタリストの事例を紹介し、イノベーターが問題を見つけ、常識を徹底的に疑うことで、その問題解決の見返りとして大きな見返りを得てきた具体的なプレセスを示しています。その事例の根本的な共通点としてあげられるのが、「問題は必ず解決できる」という気概を持っていることなのです。
ワーストなアイデアの中にもチャンスがある
「問題は必ず解決できる」という心構えを持った上で、次は社会のルールに目を向けてみましょう。人々が暮らす社会には、実に様々なルールがあります。
しかし、ティナ氏はこのルールに対して次のような考え方を持っているのです。
じつは、わたしたち自身も、大抵は他人に促される格好でたくさんのルールを自分で決めています。(中略)自分に何ができそうかを考えるときにも、自然と自分に枠をはめています。(『20歳の時に知っておきたかったこと スタンフォード大学集中講義』P46参照)
つまりティナ氏が読者に伝えたいことは、いつの間にか人は自分自身を何かしらのルールに当てはめていて、それが自分自身の限界と捉えるようになってしまっている、ということです。
頭の中で決めてしまったこの限界は、社会のルールのよりもずっと強制力が強く厄介なものです。本来であれば可能性で溢れているのに、自分自身で作った限界を上限として、そこから踏み出そうとはしなくなってしまうのです。
そこでティナ氏が紹介する考え方が「ルールは破られるためにある」というものです。
何か大きな問題にぶつかったとき、通常の考え方=ルールに縛られた考え方のもと出てきた解決策は月並みなものとなるでしょう。そうではなく、ルール、常識から外れたところにしかない独創的なアイデアがあるということを知っておいてください。
彼女は、常識的なアイデアから、独創的なアイデアに変換する方法として「ワーストなアイデアの中からチャンスを生み出す」やり方を紹介しています。
例えば、あなたが自分の仕事を進めいている中で課題と感じているものを紙にいくつか書き出してみてください。そして、思いつく限りその解決策をあげていってみましょう。中には素晴らしいと思うものや、これはどう考えてもダメなアイデアだ、というものも入っているかと思います。その中から最高の案と思うものに「ベスト」、最悪の案とお思うものに「ワースト」とラベルを貼ります。
そしてどうするか。「ベスト」のラベルのついた案をシュレッダーにかけるのです。そして「ワースト」のアイデアを改めて練り直して最高のアイデアにする方法を考えてみるのです。
いかがでしょうか?こんなやり方で常識を外れたアイデアが出るのかと疑っている人もいるかもしれません。実際にティナ氏がある電力会社の幹部を対象に「社内の省エネのアイデア」という課題でこのワークショップを実施したところ、普段の業務上では思いも寄らないアイデアが生まれてきたそうです。
是非この記事を読んでいるあなたも、自分の問題に置き換えてこのワークショップを試してみてください。これまでとは違った解決策が見えてくるかもしれません。
例えば、先ほどご紹介したワーストのアイデアからチャンスを探す方法で、これまでにない独創的な解決策が出てきたとします。
ここで一度想像してみていただきたいのですが、そのとき、あなたはどのような行動を取りそうでしょうか?このアイデアは革新的だと、周りの人をも巻き込み行動していきそうでしょうか、それともこの方法は素晴らしいけど失敗しそうだからと何も行動しないという選択を取りそうでしょうか。
もし後者の選択をする人にぜひ知っていただきたい考え方が、ティナ氏の紹介する「失敗のレジュメを更新する」というものです。このアイデアはペンシルベニア州立大学のリズ・キーセンウェザー氏が唱えるもので、私生活や仕事上で犯した主な失敗をまとめてレジュメにするというアイデアです。
過去の自分の失敗をレジュメに書こうとすると、様々なことが見えてきます。そもそも全然書くことがない、という人は全然自分はリスクを取った大きな挑戦をしていないと気付きますし、たくさん書くことができる人は、そのそれぞれの失敗からいくつもの経験上の教訓を導き出すことができるのです。
ティナ氏は本書の中で、様々な失敗から教訓を導き出し、成功へと歩んできた起業家の事例を紹介していますが、その事例から言える考え方は「外に出て、多くの物事に挑戦する人の方が、電話がかかってくるのをじっと待っている人よりも成功する確率が高い」というものです。
挑戦をしなければ失敗をすることはないかもしれませんが、待っているだけでは成功することも難しいのです。あなたも失敗のレジュメがどんどん更新されるくらい、自分の人生において挑戦がなされているか定期的にチェックしてみるのをおすすめします。
あなたはこんなキャリアのアドバイスをもらったことはありませんか?
「成功の秘訣は、みずからの情熱につき従うことである」
ティナ氏は情熱はもちろん大切だが、それだけでは足りないと言います。情熱は出発点にしか過ぎないのです。情熱を持つことができる領域で、自分の能力も伸ばすことができ、さらに市場が大きいところがあれば、それは生涯を通して人生を豊かにしてくれる仕事となるはずです。
しかし、特にこれから仕事を探す学生は、周りの人から「あなたは○○が向いている」と言われることも多くなることでしょう。ティナ氏も担任教師から、君は科学が得意だから看護師になると良いとアドバイスをもらったそうです。また、彼女が大学生になってから君は科学者の考え方ができている、というアドバイスも受け取っています。
このように私たちは皆、周りの人が発するメッセージや、自分を取り巻く環境に大きな影響を受けています。まずは、自分は周りの人に影響を受けているということを理解した上で、頻繁に自分の生活や仕事を振り返り、調整して、最適化を図っていくのです。
人生を豊かにするキャリアを築くためには、実験を繰り返し、多くの選択肢を試し、時には周りの人から受け取るメッセージを検証していけば、仕事だとは思わずに取り組める役割を社会の中に見出すことができるはずです。
ここまで、問題をチャンスに変える考え方をご紹介してきましたが、ティナ氏は「幸運」の重要性も本書の中で述べています。「幸運」はよいことを素晴らしいことに変えてくれるからです。
世の中にはあの人は運がいいと言われる人がいますが、運がいいと言われる人はなぜ運がいいのか考えたことはありますか?
そもそもティナ氏は息子の言葉を引用し、「幸運なんてものはない。すべては努力次第だ」と言います。何もないところから出発した人が、並外れた努力をした結果、思いがけない幸運を引き寄せることができるのです。
しかし、幸運を呼び込むのは何も努力だけではありません。彼女は努力以外の要素を事例を交えながら紹介します。例えば、運のいい人は道のチャンスを歓迎し、経験のないことにも積極的に挑戦しています。また、彼らは自分の知識と経験を活用して、組み合わせるユニークな方法を見つけています。
運は待っているものではなく、努力と、訪れた機械を歓迎する心構え、そして、身の回りの出来事に注意を払う観察力を磨くことで幸運に出会う確率をあげることができるのです。
ここまで本書のエッセンスとなる考え方をいくつか紹介してきましたが、全てに共通するキーメッセージがあります。
それは「あなた自身に許可を与える」というものです。
ティナ氏が各事例を交えて紹介した考え方は言い換えると常識を疑う許可、ルールを破る許可、失敗する許可、自分自身で進路を描く許可、そして、自分の限界を試す許可と言えるのです。これこそが彼女が20歳の時に知っておきたかったことであり、読者に伝えたいことなのです。
この本の読者の多くは20代前後の人だと思いますが、次のカーブに何が待ち受けているのかわからないが故に大きな不安を感じている人もいるのではないでしょうか。そのような人に彼女は、「将来が不確実なのは歓迎すべきことなのだ」と伝えたいのです。
『20歳の時に知っておきたかったこと スタンフォード大学集中講義』の著者は一体どんな人なのでしょうか?気になる彼女のプロフィールや経歴を深掘りしてみました。
彼女はアメリカにあるスタンフォード大学アントレプレナーセンターのエクゼクティブディレクターで、「起業家養成講座」「イノベーション」などのクラスを担当する名物教員です。
ユニークな経歴をもたれており、スタンフォード大学医学大学院で神経科学の博士号を取得し、戦略コンサルタントや起業など様々な経験もしています。2011年にはNHK教育の白熱教室シリーズに登場し、大きな話題となりました。
本書は、様々な経験をし、大学で「起業家養成講座」「イノベーション」を教える彼女自身が20歳の時、あるいは30歳、40歳の時に知っていたかったことがまとめられているのです。
それではここからは、『20歳の時に知っておきたかったこと スタンフォード大学集中講義』を読んだ人におすすめの関連本を3つご紹介します。
まず一つ目はこの記事で紹介している本の第二弾、『未来を発明するためにいまできること スタンフォード大学 集中講義II 』です。
本書の一貫したテーマは「クリエイティビティとは、頭で考えるだけでなく、実際にやってみるものだ、ということです。」というもの。
誰もが内に秘めたクリエイティビティがあるはずなのに、発揮できていない状況があります。その状況に対して、著者のティナ氏は「イノベーション・エンジン」という新たなモデルを提示し、内なる世界と外的な環境がどう影響し合ってクリエイティビティが生まれるのかを描いていきます。
- 著者
- ティナ・シーリグ
- 出版日
- 2012-05-31
この本を読むことで、個人やチーム、組織のクリエイティビティを引き出すためのヒントをたくさん得ることができるでしょう。
この本は、スタンフォード大学で最も優秀な教員に贈られるウォルター・J・ゴアズ賞をはじめ数々の賞を受賞されたケリー・マクゴニガル氏によって書かれた一冊です。
何か達成したい目標がある時に、それを阻害する思考パターンはどのようなものがあるのか、逆にどのような思考パターンをすれば良いのか教えてくれます。
- 著者
- ケリー・マクゴニガル
- 出版日
- 2015-10-10
特にこの本は「意思力」について着目されており、意思という目に見えない抽象的なものを、誰でも実践できる内容でどういう時に意思力が落ちたり、上がるのかをわかりやすく解説してくれます。
最後にご紹介するのはスタンフォード大学医学部臨床神経外科教授のジェームズ・ドゥティ氏の『スタンフォードの脳外科医が教わった人生の扉を開く最強のマジック』です。
この本は「マインドフルネス」について著者の実体験に基づく物語形式で解説されます。
内容もわかりやすく、ワクワクしながら読み進められる一冊となっています。
- 著者
- ["ジェームズ・ドゥティ", "荻野 淳也", "関 美和"]
- 出版日
人生の中で大きな問題に向き合わなければならない時、悩みが解決しない時、ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか?
いかがでしたか?『20歳の時に知っておきたかったこと スタンフォード大学集中講義』では、さらに詳しく、豊富な事例を交えて世界を見る新しいレンズの紹介がされているため、ぜひご自身で読んでみることをおすすめします。
何か大きな問題が目の前に立ちはだかった時、悩みがなかなか解決しない時、この本で紹介されている考え方が解決への光を与えてくれるかもしれません。本記事によって、あなたが自分自身に光り輝く許可を与え、飛躍されるきっかけとなれば嬉しいです。