5分でわかる公文書館専門職員!そもそも公文書とは。平均年収や就職事情など疑問を解説!

更新:2021.12.7

過去、森友学園問題や加計学園に関連する問題で、公文書の管理体制が注目されています。そもそも公文書とは、日本の歴史に不可欠であり、国民の知る権利や行政の説明責任を担保するもの。永久保存価値のある知的資源なのです。それらの公文書を管理するのが、公文書館専門職員です。日本では200名にも満たない人員しか確保できていない現状があります。 本記事では、そうした公文書館専門職員(アーキビスト)の仕事内容、平均年収、就職・転職情報について解説します。また資格の有無、おすすめの資格についても紹介しているのでぜひ参考にしてみてくださいね。記事の最後には、公文書館専門職員を目指すにあたりおすすめの書籍もご紹介。

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公文書とは

公文書とは、国や自治体が作成した法令文書の原本や外交文書などの歴史史料のことを指します。公文書は、政策決定にいたるまでの過程を知る材料として重要です。歴史的な事実を後世に伝えるための資料としての役割を持っています。

たとえば、2017年から世間を騒がせている森友学園や加計学園に関する問題では、政策決定にいたるまでの過程としての公文書の管理や扱いが重要なポイントとなっていました。森友学園問題では、公文書が改竄されていたことが大きな問題として取り上げられていたのです。

また、南スーダンPKOとイラクPKOの日報問題も公文書という扱いとなり、当時の自衛隊と防衛省が隠蔽していたことが問題になりました。

公文書の管理は、「公文書等の管理に関する法律」により以下の目的で平成23年4月1日に全面施行されています。ですが、近年のさまざまな問題を通して、公文書管理法の改正が検討されています。

公文書等の管理に関する基本的事項を定めること等により、行政が適正かつ効率的に 運営されるようにするとともに、国および独立行政法人等の有する諸活動を現在および将来の国民に説明する責務がまっとうされるようにすることを目的として制定

参考:公文書管理制度|内閣府

公文書館専門職員(アーキビスト)とは

公文書を管理するのは、公文書館専門職員(アーキビスト)です。日本では公文書館専門職員に対する認知度が低く、あまり知られていない職種です。

公文書館専門職員(アーキビスト)とは

図書館には本を管理する司書がいて、博物館には学芸員がいるように、公文書館における専門職員が公文書館専門職員です。公文書をアーカイブと呼ぶことから、アーキビストとも呼ばれています。

公文書は、過去を振り返る史料としてだけでなく、時には判断材料としても活用されます。永久保存価値のある史料を扱うため、管理方法や一般の人への内容公開はどうするかなどの判断も公文書館専門職員が中心におこないます。

公文書館専門職員の仕事内容

公文書の管理以外にも多くの仕事があり、また扱う媒体も多岐にわたります。この章では公文書館専門職員の仕事内容をご説明します。

公文書館専門職員の仕事内容

公文書館における公文書館専門職員の仕事内容は以下の通りです。

  • 情報の査定
  • 収集
  • 整理
  • 保管
  • 管理

どんな情報に永久保存価値があるのか、その保管方法から管理体制までが公文書館専門職員の仕事です。

公文書管理法の適用対象となる機関は、国のすべての行政機関、独立行政法人、歴史公文書の移管を受ける施設などが該当します。令和2年4月1日時点では計568機関が適用の対象です。

これらの機関で作成された公文書を、公文書館専門職員が扱います。小さなことから大きなことまで公文書に目を通し、保管や管理の判断を下さなければなりません。

参照:公文書管理法の適用対象行政機関一覧

扱うメディアの種類

扱うのは書類だけではありません。

  • 書類
  • 音声
  • 写真
  • ビデオ
  • 手紙
  • デジタルデータ

近年ではオンライン上で史料を閲覧する需要も高まっています。そのため情報のデジタルデータへの変換、管理方法の知見ある公文書館専門職員が求められる傾向にあります。

一般の方への公開も公文書館専門職員の仕事

公文書のなかには、一般の方への公開をおこなう史料もあります。

そうした場合、企画からプロモーション、各メディアへの連絡・対応も公文書館専門職員の役割となります。どのような媒体を通して、どの程度の内容を公開するのかのコントロールもおこないます。

公文書館専門職員(アーキビスト)の年収

実は、公文書館専門職員の採用は毎年はおこなわれていません。また、国立公文書館の職員として採用された場合、非常勤としての採用となります。

平成30年度の職種別人員状況

平成30年度に公開されている「独立行政法人国立公文書館」の資料によれば、職別の人員状況は以下の通りです。

  • 常勤:39人
  • 事務・技術職:39人

それぞれ平均年齢は45.1歳と、年齢別の分布状況を見ても若い世代があまりいないことが分かります。今後はデジタルデータの取り扱いも多くなりますし、どの職種にもいえることですが、次世代を育てないことには職種の存続はありえません。

常勤の人員を増やしたり、次世代の育成に取り組んだりと、課題は多くありそうです。

平成30年度の平均給与額

公文書館専門職員の平均給与額は比較的高いのが特徴です。

  • 常勤:約760万円
  • 事務・技術職:約760万円

職種による年収の大きな差はありません。またこのうち約560万円が基本給に基づく金額で、200万円弱は賞与の金額となっています。

またモデル額についても記載がありますのでご紹介します。

  • 22歳(大卒初任給):月額18万700円/年間給与296万2000円
  • 35歳(本部課長補佐):月額44万600円/年間給与731万4000円
  • 50歳(本部課長):月額74万2440円/年間給与1253万3000円

役職がつくと給与が大きくあがります。

ちなみに多くの方が本部係長級の職位についており、本部課長補佐級、本部課長級はどちらも7名のみとなっています。

参照:独立行政法人国立公文書館|の役職員の報酬・給与等について

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公文書館専門職員(アーキビスト)になるには

結論から言うと、公文書館専門職員の採用は毎年はおこなわれていません。ですので就職・転職を希望する場合は、大学の求人情報を随時チェックする必要があります。

採用における応募資格

本記事では「広島大学文書館職員の募集について」を参考に、応募資格をご説明します。

(1)4年制大学卒業者またはそれに相当する能力を有する者
(2)文書管理業務に3年間以上の実務経験のある者
(3)次の資格等を有する者または文書館勤務後1年以内に取得することができる者
 ①国立公文書館、公文書館専門職員養成課程修了者
 ②個人情報保護士
(4)学芸員の資格を有していることが望ましい
(5)60歳未満の方(定年が60歳)

参照:広島大学文書館職員の募集について

試験などはなく、書類選考と面接を通して採用がおこなわれます。職員数は基本的には1名の募集となるので、採用は狭き門であるといえるでしょう。

採用情報は「全国大学史資料協議会」で不定期に更新されています。採用情報を探している方はぜひ参考にしてみてくださいね。

公文書館専門職員(アーキビスト)に資格は必要?

先述した応募資格にもある通り、公文書館専門職員になるには、個人情報保護士の資格を持ち、かつ学芸員の資格を有している方が就職に有利となります。

個人情報保護士とは

個人情報を適切に管理・監督する能力のある方を「個人情報保護士」といいます。情報のデジタル化、マイナンバーの施行がおこなわれた現代では、個人情報の正しい扱い方や個人情報保護法についての知識を有している方は重宝されます。

企業や行政においてもそれは同様です。個人情報保護士は、個人情報の管理・運用、そして漏洩を防ぐための対策などをおこなう専門家であることを証明する資格です。

誰でも受験可能で、1カ月程度の独学で取得できると言われています。公文書館専門職員を目指す方におすすめの資格といえるでしょう。

参照:個人情報保護士認定試験

デジタル・アーキビストの資格4種類

公文書管理に関する資格として、日本アーカイブ学会登録アーキビスト認定資格と日本デジタル・アーキビスト認定機構による資格が2012年に発足しました。主に、デジタル化の知識と技能を持つデジタル・アーキビストとしての資格が4種類です。

  • デジタルアーカイブクリエータ
  • 準デジタル・アーキビスト
  • デジタル・アーキビスト
  • 上級デジタル・アーキビスト

資格を取得するには、まず日本デジタル・アーキビスト認定機構が認定した大学院・大学・短期大学などで必要な単位を取得します。その後、認定試験に合格することで資格を取得することができます。

資格の種類によって大学での必要単位数は異なります。

また数日間おこなわれる講習会を通して資格を取得することもできます。しかし講習会に参加できるのは、デジタル・アーキビスト資格、準デジタル・アーキビスト資格のみです。

上級の資格を取得するには大学院で必要な単位の取得および、デジタルアーカイブ関係の修士論文の提出が必須です。そのため、国立公文書館での就職を目指す場合、政治学・行政学・歴史学などの分野で大学院修士課程を修了していることが望ましいとされています。

参照:日本デジタル・アーキビスト認定機構

デジタルアーカイブの作業手順が一気に学べる

著者
与志夫, 柳
出版日

本書は、これからデジタルアーカイブの業務に携わる方にぜひ読んでほしい1冊です。

技術面では、画像処理の具体的な作業手順、音声・ビデオの保存の手順などを分かりやすく解説しています。作業の手順や専門用語が分からない、コストがいくらかかるのか分からないという現場で困っている人にも分かりやすく解説しています。

デジタルで保存するにあたって気になる著作権や知的財産権の扱いも、この本では法律に関する内容を分かりやすく解説してくれています。

これからアーキビストの資格取得を目指す方も、目を通しておきたい1冊でしょう。

デジタルアーキビストの養成カリキュラムのある岐阜女子大編集

著者
岐阜女子大学デジタルアーカイブ研究所
出版日

この本はデジタルアーキビストに必要とされるデジタルアーカイブに関する基本的な知識・技能を学べる入門書です。デジタルアーキビストを目指したい初学者にもおすすめの1冊でしょう。

編集は、学部生、社会人、大学院でのデジタルアーキビスト養成カリキュラムがある岐阜女子大のデジタルアーカイブ研究所です。そのため、準デジタル・アーキビストの資格取得講座のテキストとしても読まれています。

デジタルアーカイブの歩みから利用面、著作権法、肖像権、個人情報保護法と、法や倫理についても説明があります。一方、技術面では、画像・動画のデジタル処理などデジタル保存の手順が書かれています。

デジタルアーカイブの重要性、実際に携わる際に必須の知識や能力など、網羅的に勉強したい方におすすめです。

そもそもなぜ公文書は残されなければいけないのか?

著者
源, 瀬畑
出版日

この本の最初に、天皇制を研究している著者の瀬畑氏が公文書の研究で注目されるようになった過程が紹介されています。

文書による決裁については、近代の官僚制から始まったとされています。公文書の管理はなぜ必要なのか、なぜ森友学園問題では公文書が改竄されていることが明らかになったのかといった点について、背景を含めて分かりやすく解説してくれています。

実際に起きた問題をベースに解説してくれているので、とても理解が進みます。

また、福田康夫首相(当時)が公文書について興味を持っていたことについても書かれています。福田元首相は、後援会から前橋市の敗戦直後の写真がほしいと依頼され、米国公文書館を訪ねたところ、すぐに写真が出たことに驚いたそうです。このことがきっかけで公文書に関心を持ったということです。

公文書の歴史、政治家や政府との関係など、公文書の背景を知れる1冊となっています。

本来あるべき公文書管理体制とは

著者
瀬畑 源
出版日

公文書は後世に政策過程を残すという点で必要な資料であり、国民の知る権利を保障するための知的資源です。実際、公文書管理法が2009年に制定されてからは、自衛隊の日報問題、森友・加計問題が起こっています。なぜ、政府が公文書を破棄したり、隠蔽したりするのかといった問題を考察した1冊が本書です。

たとえば、厚生労働省の毎月勤労統計調査の問題があげられます。この問題のポイントは、抽出調査であるにも関わらず、全数調査をしていたと公表したことです。調査方法をやり直した結果、雇用保険は追加支給されることになりました。

その他にも、金融庁の報告書問題があげられます。ワーキンググループが出した「高齢社会における資産形成・管理」では、無職で年金生活の場合、毎月5万円の赤字で2000万円の取り崩しが必要という見解が示されました。

政府はこのワーキンググループが出した報告書を否定し、これにより年金制度への疑念が生じました。多くの方が覚えている問題でしょう。

公文書の分析をおこなう能力も、公文書館専門職員には必要な能力です。この本では、公文書を管理している施設やサイトについても紹介しています。まずは公文書を実際に読み、慣れておくことから始めるのもよいでしょう。

なぜ公文書は改竄・ねつ造されたのか?

著者
宗幸, 新藤
出版日

官僚はなぜ公文書を改竄し、捏造することにいたったのか。いつから日本の官僚機構は劣化してしまったのかといった問題を考察した本です。

本書は行政学の新藤宗幸名誉教授が官僚と官僚機構の変化を考察した本で、公文書管理制度と改竄にいたった経緯を異なる視点で知ることができます。

これから国家公務員・地方公務員を目指す学生や社会人にとっても、公文書を管理することの重要性を前もって知ることができる1冊です。行政学や政治学を専攻している学生、これから公務員を目指す方だけでなく、日本に暮らす方全員に読んでほしい内容になっています。

これから公文書管理について考える人に推薦したい本

著者
["榎澤 幸広", "清末 愛砂", "飯島 滋明", "池田 賢太", "奥田 喜道", "永山 茂樹"]
出版日

公文書の隠蔽・改竄・廃棄などがおこなわれ、公文書管理が問題になっています。この本の編者は弁護士と法学者で、公文書が適切に管理されない状態が続くと民主主義の崩壊につながると指摘しています。

公文書がなくなるとどうなるのか、公文書とは何かといった初歩的な疑問から、問題の背景を分かりやすく解説しています。

第2章では、アメリカと日本の公文書管理体制を比較しています。この本によれば、公文書の管理をおこなう人員がアメリカは3112人(2014年時点)ですが、日本は167人(2013年時点、常勤・非常勤合計)です。

日本の公文書を管理する人が、日本では圧倒的に足りていないことがわかります。今後、公文書館専門職員(アーキビスト)を増やすための対策も必要となることでしょう。

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今回は、公文書館専門職員(アーキビスト)について紹介しました。

広く知られていない職業ですが、今の日本、今後の日本をどうしていくのかにあたり、公文書は価値の高い知的資源です。歴史的資料価値も高く、後世の人間が何かを決定する際の判断材料としても使われてきました。

公文書を管理するには、公文書をきちんと読む能力に加え、今後は情報のデジタル化の面でも知見が必要となります。公文書管理の専門家として知識を身につけるには、大学および大学院での勉強と研究は欠かせません。

勉強には時間がかかるうえ、研究への熱意が必要とされます。その分、就職後の収入については安心できますが、採用は狭き門ですのでタイミングが大切です。来る時に備え、日々勉強し、余裕があればデジタルアーキビストの資格も取得しましょう。

今後、公文書管理が徹底されるようになると公文書館専門職員(アーキビスト)がさらに必要となるかもしれません。日本の公文書管理体制への改善、人員増加、次世代の育成が期待されます。

 

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