水産業界とは、名前の通り水産物を扱う業界です。仕事は主に漁業、加工業、販売業の3つにわかれています。そのため就職をする際は、まず水産業界のどの部分に携わるのかを決める必要があるでしょう。なかでも漁業では人手不足問題や、デジタルトランスフォーメーションの推進、マーケティング問題など、解決すべき課題が山積みです。本記事では、そうした水産業界の仕事の種類から、天然資源の確保、今後の売り方などを含め、知っているようで知らない水産業界についてわかりやすく解説します。記事の最後には、水産業界を知るのに役立つ書籍もご紹介しています。こちらもぜひ参考にしてみてくださいね。
水産業界というと、大型船から冷凍マグロがごろごろと出てくる市場の様子や、加工工場などをメディアで見かけることがあります。しかし、それ以外にどういった仕事があるのかについては、いまいちイメージが湧かないのではないでしょうか。まずはいわゆる1次〜3次産業に分けて水産業界の仕事を見ていきましょう。
水産業界のうち、一次生産現場にあたるのが漁業です。漁業は船に乗って水上でおこなうものなので、農業や林業などと比べても身近に感じにくい人が多いのではないでしょうか。「魚は高いからあまり食べない」という人もいるかもしれません。
しかし、身の回りの食品を眺めてみると、ちくわや魚肉ソーセージ、おでんのたねといったいわゆる「練り物」、ツナ缶・サバ缶などの缶詰、味噌汁に入れる顆粒だしやおにぎりに巻く海苔など、魚由来の製品がたくさんあります。これらはそれぞれ漁業の現場で漁獲・生産されています。
鮮魚以外の状態で流通する漁獲物には何らかの加工がしてあります。加工業にはさまざまな種類があります。干物作りひとつを取ってみても、漁師が手作業でおこなうものもあれば工場で大規模におこなわれるものもあります。「海外で日本の漁船が水揚げした魚を日本で加工する」という複雑な行程を経て店頭に並んでいる加工品もあります。
干物のように比較的手間が少ない加工品だけでなく、練り物や缶詰生産も加工業に含まれます。
水産物は主に食品であるため、販売業はスーパーやコンビニまで多種多様な業界が関わっています。有名な漁港の近くでない限り、「水産物だけを売る」業態を探すのはなかなか難しいかもしれません。ただし、最近ではベンチャーが魚屋を営む例も見られますし、一般的なスーパーでも「ここは魚に強い」「ここは全身が精肉店だったので水産物は少なめ」といった特徴があることもあります。
業界全体で見るよりも企業ごとに調べていったほうがよいでしょう。
日本は国土をぐるりと海に囲まれているため、漁業が盛んにおこなわれています。一方で、労働環境や流通などで問題を抱えてもいますし、国際情勢に巻き込まれることもあります。そもそも漁業がなければ加工業も販売業も成り立ちません。身近なはずなのに意外とよく知らない漁業のことを見ていきましょう。
釣りで「乗合船」「仕立船」などと呼ばれる釣り船に乗ったことのある人はいるでしょうか。これはそれぞれ釣りをする個人・団体客から乗船料を取って船を出し、沿岸部で釣りを楽しんでもらうサービスです。
沿岸漁業と呼ばれる漁業は、こういった釣り船に近いイメージです。小型の船で出漁し、一日のうちに寄港します。捕る魚の種類によって網を使ったり、一本釣りをしたりと形態はさまざまです。釣り客向けの釣り船と、自身が漁をするための船とを両方操業している漁師もいます。
近海漁・沖合漁と呼ばれるのはもう少し遠くまで漁に出かける形態です。船は近海漁と比べると大型で人員も多く、だいたい2〜3日を海で過ごします。
遠洋業は、非常に大型の船で長期間出漁します。多くの場合は国境も越えて航行します。捕った魚は船のなかである程度加工して冷凍します。日本ではマグロやカツオ、イカ漁が多く見られます。
上記の漁業は、すべて天然の資源を捕獲するタイプですが、畜産のように自分で育てて収穫する漁業もあります。それが養殖業です。身近なところでは海苔やカキ、ホタテなどがあげられます。真珠も貝のなかでできるため、養殖の一種に数えることができます。
その他には、タイなどの高級魚も養殖物がよく見られます。ウナギやマグロなど、漁業によって大きく生息数を落としている種の養殖も注目されています。最近では近畿大学がマグロの完全養殖(親の代から採卵したマグロを製品化できるまで養殖すること)に成功して大きな話題になりました。
続いては最近の水産業界で気になるニュース・トピックを見ていきましょう。
特に、漁業の現場で深刻な問題になっているのが人手不足です。規模の小さい近海漁では跡継ぎ問題・新規就業者の減少が各地で見られ、小規模な漁港が使われなくなって別用途に転用されるといった事例も出てきています。
遠洋漁業でも、乗組員が獲得できない問題が発生しています。もともと漁船は、一度乗ってしまうとその間はずっと仕事をしているような特殊な職場です。海上で荒天に見舞われることもありますし、業務自体も力仕事で厳しく、さらには海域によっては海賊などの脅威があります。「稼げるがきつい」仕事に人を呼び込むための工夫が官民問わず、おこなわれています。
現在官公庁が取り組んでいるDX(デジタルトランスフォーメーション)。一般的にはオフィスのペーパレス化とほぼ同義に理解されているかもしれませんが、水産業のような業態でも推進する取り組みがおこなわれています。
これまで属人的な経験や勘に支えられていた部分をきちんとデータ化し、後進に共有できるようにしたり、アナログだった業務をデジタルに置きかえることで効率化したりといった取り組みが見られます。産業支援として国が取り組んでいることもあり、今後DXを進める水産業者には何らかの形で補助などが発生することが想定されます。
参考:農林水産省、ビズリーチでDX人材を公募 農林水産業のDX実現に向け、民間のデジタル人材求む |Visionalのプレスリリース
人手不足とDXが同時に議論されていることからも分かるように、時代の変化にとういう対策が足りていないのが水産業界の大きな課題です。天然資源を活用するという特性上、ある程度は行政による規制や手助けが必要な業界において、それが十分ではないことが指摘されています。
身近なところでは、乱獲の問題があります。外国の漁船とのトラブルもありますが、国内でも資源を守るための基準作りが後手に回っています。その結果、今後消費しつづければ絶滅してしまうのではないかと懸念されている種もあります。
こういった背景から、一部の漁業組合では自主規制をおこなって水産資源を守る取り組みを始めています。
参考:駿河湾奧のサクラエビ漁、今秋も自主規制 また実質禁漁に|静岡新聞アットエス
さまざまな一次産業に共通していえることですが、流通の方法が増えた現代において「どのように売っていくのか」も課題になっています。単に業者に卸すだけでは簡単に過当競争へ突入してしまうため、地域によるブランド化や消費者に訴える付加価値作りが模索されています。
2020年は社会情勢の変化によって生産者から消費者への直接取引が増えた年でもありました。外食産業の落ち込みによって出荷量が減った生産者が多く、余剰在庫をインターネット通販などで販売する動きが見られました。
これらには国も補助を出すなどの後押しがあり、今後こういった取引の形態は確実に定着していくものと考えられます。生産者側にはインターネット環境の整備、売り方の工夫など、上記のDXやマーケティングに関わる工夫が求められていきます。
- 著者
- ["濱田 武士", "佐々木 貴文"]
- 出版日
遠洋漁業者がほとんど日常的に接している海野上の国境問題。日本の遠洋漁業の歴史から現代に至るまでの問題点について、漁業者の視点で解説しているのが『漁業と国境』です。これまでとこれからについて、俯瞰的な視野で読むことができます。
- 著者
- 俊雄, 勝川
- 出版日
「今はまだ捕れてるから」「たぶん大丈夫だろう」こういった甘い見通しによって減少してしまう天然資源。過去を振り返ってみれば、ニホンカワウソも乱獲によって絶滅したと言われている動物です。
同じ轍を踏まないためにはどうすればいいのか、生産者側、消費者側でそれぞれできることについて考えるのには『魚が食べられなくなる日』がおすすめです。
- 著者
- 濱田武士
- 出版日
内容としては上記2冊と重なる部分もありますが、業種としての水産業全体を解説しているのが『図解 知識ゼロからの現代漁業入門』です。「興味はあるけれど仕事とするイメージがあまり湧かない」といったときにまず手に取ってみるとよいでしょう。
知らないことが多く、課題も山積みの水産業。食は人間の生活に欠かせないものである一方で、現代ではシンプルに、捕って食べるだけでは難しい側面があります。これから水産業界に携わることを考えている方には、ぜひ創意工夫と好奇心を持ってチャレンジしてほしい業界です。