寿司職人とは、お寿司屋さんでお寿司を作り、お客さんに提供している職人さんのことを指します。回転寿司屋が多く普及している一方で、鍛錬を重ね技術を磨き続けている寿司職人が握るお寿司は、ますます需要が高まっていると感じます。しかし、回らない寿司屋、寿司専門店で一人前の寿司職人になるには、その道のりは大変厳しく、険しいものです。見習いから一人前になるまで10年以上かかると言われています。 本記事では、そんな寿司職人の仕事内容、平均年収、1日の働き方などを解説しました。寿司職人の仕事に興味のある方、必見の内容です。
寿司職人を目指すため、一昔前までは寿司専門店などの日本料理店に就職し、親方や兄弟子たちに技術を教わりながら職人を目指すというルートが一般的でした。しかし、現代ではあまりこのパターンはみられなくなっています。
寿司職人を養成するための専門学校や調理師免許を取得するための専門課程に入学・卒業後に就職し寿司職人を目指すというルートが一般的になっています。
寿司職人として一人前になるには10年以上かかるといわれていています。「シャリ焚き3年、合わせ5年、にぎり一生」というような言葉があるほどです。そのくらい寿司職人になるには時間がかかり、また突きつめていけば一生をかけていくものだということでしょう。
専門課程で基本的な知識や技術を取得したとしても、お寿司屋さんに就職した後は、同じように「見習い」として入職し、親方や兄弟子の技術を盗みながら自分自身のものとして磨き上げていく必要があるのです。
寿司職人に一番必要なのは、体力と精神力であるといえるでしょう。
「見習い」のうちは率直に言って、寿司などにはまったく触らせてもらえる機会はほとんどありません。最初は、朝早く起きて店舗の掃除や雑用をします。先輩たちが仕事に取り掛かれるような準備をするのが見習いの仕事です。
先輩の職人が朝、市場からネタを仕入れてくるので、店に戻るまでに作業がおこなえるような準備をしておくのが見習いの仕事です。
営業時間の合間に洗い物や包丁とぎ、足りなくなった食材を買いに走るのも見習いの仕事です。デリバリーをおこなっているお店ならば、出前のお届けをするのも見習いの仕事です。
勤める店にもよるでしょうが、その後に覚えるのがお客さんとの「接客の技術」です。
基本的にお寿司屋さんはカウンターを挟んで、対面で仕事をこなしていきます。そのために必要な接客スキルを早くから学ぶ必要があるため、基礎基本となる「挨拶」は早くから、その店なりの流儀をたたき込まれます。
ホールに出られるようになれば、オーダーをとったり、清掃をしたりもします。合わせて先輩職人の客足あしらいの様子も見て学びます。
寿司職人の就職先というのは、手取り足取り教えてくれる学習の場ではありません。基本的には受け身の姿勢だと何も得られません。自分自身で先輩や親方の技術を盗み、覚えるしかないのです。
最初はまかないの調理や貝の殻を外したり、慣れてくると小魚をさばいたりもします。その後、シャリの作り方を覚えていきます。
ご飯を上手に炊き上げ、合わせ酢を作りシャリと混ぜ込んでいきますが、美味しいシャリを作るには時間との勝負となってきます。シャリの作り方には各店独自の作り方があるので、何度も繰り返し学んでいくしかないのが寿司職人の厳しい現実です。
シャリが作れるようになったら、次は巻物から覚えていきます。
巻物も簡単に作っているようには見えますが、巻物作りの技術も奥が深いのです。均一に同じ大きさとなるよう巻いていくこと、がちがちに固くなる過ぎると固くて美味しくない巻き寿司になります。具とご飯の比率を間違うと、巻物により太さが変わってしまうこともあるでしょう。
一見、簡単に見える巻きずしですが、これも奥が深いのです。
寿司職人としてお店を任せられるようになるといわれている期間は、早くて15年ほどだとか。その間、真面目に真摯に学び続ければ、どんなに不器用で物覚えが悪くても、それなりにひとりでなんでもこなせるようになっている頃だと判断されます。
ここまで来ると独り立ちして、自分でお店を持つ寿司職人も出てきます。
寿司職人として独り立ちしていくには、何も技術だけあればいいのではありません。寿司職人の基本には、カウンターの対面に立ち、お客さんと会話しながら握るのが基本です。お客さんの要望に応えながら、食事の進み具合を判断し、サービスを提供します。
ひとりで来店するお客さんとは会話を楽しんでもらえるようにと、コミュニケーションスキルや、会話の引き出しを数多く保有しておく必要もあるでしょう。また、寿司専門店にいらっしゃるお客さんであれば社会的情勢に詳しいほうが役に立つことが多いかもしれません。
寿司職人としての技術だけではなく、コミュニケーションスキルやホスピタリティ精神も求められるのが寿司職人です。
寿司職人は、パート勤務や正社員での勤務形態があります。
各地の寿司職人求人情報を検索し、率直な感想を述べると、パート勤務の場合でも、正社員の場合でも月々の平均は、その地域に対しての収入と比較して平均ラインの印象でした。およそ20万~40万円の範囲内であることが多いようです。
そのなかで、業績手当てやボーナスが出るケースもあります。また、その就職先が一流ホテル内のお寿司屋さんだったりリゾートホテルの場合は、給料が若干高め設定されていることも少なくありません。
寿司職人の平均年収は、およそ300万円~500万円程度です。
日本で働くか、海外で働くのかによってもその収入は変わってきます。近年では、諸外国の日本食ブームで、寿司職人も海外で開業して経営をしているケースも増えてきました。その場合だと、500万円~1000万程度と平均年収があがることも少なくありません。
日本でも一流の寿司職人として独立し、ある程度の顧客やリピーターを得ることで年収1500万以上も得られるケースもあるようです。
お寿司屋さんでは、未経験の場合は見習いとして入職するので、平均よりもやや収入が低くなる傾向にあるようです。しかし入職条件には住み込みであることも多く、生活費の負担が軽減されているケースもあり、そこまでカツカツの生活にはならないでしょう。
結論から言うと、寿司職人として活躍するために特別な資格は必要ありません。あるとよいといわれているのは「調理師免許」ではありますが、絶対に必要な資格ではなく、また、勤務しながらでも取得することはできるので最初から無理に取得しておく必要もありません。
調理師免許は、決められた実務経験数があれば独学で勉強し受験、合格すれば免許を取得することができます。
最後に寿司職人の1日をご紹介します。寿司職人の1日は、実はとてもハードなのです。
寿司職人は早ければ早朝4時や5時、遅くとも6時には市場に行き、その日の営業時間に提供する魚の仕入れに行きます。セリが始まる時間が季節などにより変動するので、その時々にあわせて出かけます。赤身・白身・貝、マグロも必要です。
季節により旬の魚も変わってくるので、その日のおすすめとしての鮮魚を探すのも重要です。常時20種類前後の新鮮な魚を仕入れてきます。その後8時くらいには店に戻り、仕込みを始めます。
鮮度が重要になるものから下処理を進めます。貝の殻を外したり、厚焼き玉子を焼いたりと、地味な作業かもしれませんが実は結構力や体力がいる大変な業務です。その後ご飯を炊き上げ、シャリを作っていきます。ご飯を炊くのにもその日の気温や天候、気圧にも左右されますので、状況を見て火加減を調節しながら炊き上げます。
アナゴや漬けものがあればそれらのたれの仕込みもおこないます。この辺りは各お店によりかなり特徴が出ますので、寿司職人も気合を入れているところです。
ランチタイムの営業をしていれば、休む暇もなくランチの提供準備をし始めなくてはなりません。ランチタイムが終わると足りなくなった食材を買い足しに行ったり、洗い物や夜の仕込みの取り掛かります。
職人さんの人数が多ければ交代で中休みをとることもしますが、人数が少なければそのまま夜の営業準備に取り掛からなくてはいけないので、体力勝負の仕事となります。
夕方以降になると、大体どの店も夜の営業を開始します。カウンターで寿司を握りながら接客もおこないます。20時~22時がとくに忙しい時間帯なので、店内の状況を把握しながら、お店をまわします。
その後23時~24時ごろには閉店となります。疲れを残さないように早めに就寝するのも大切な体調管理のひとつです。翌日も早朝からセリに出かけなくてはなりません。
- 著者
- 法月 光
- 出版日
こちらの書籍は、独学で調理師免許を取得するためにおすすめの1冊です。図解やイラストが豊富に使われていて、わかりやすく解説されています。押さえておくべき要点やポイントなどがまとまっているので、試験前の総復習をおこなうのもよいでしょう。
調理師試験では、公衆衛生学、食品学、栄養学、食品衛生学、調理理論、食文化概論に関する問題が出題されます。調理師として働くうえでも、飲食店で働くうえでも知っておきたい基礎知識ですので、免許取得をせずとも勉強したい方にもおすすめできる1冊です。
- 著者
- ["千種, 高田", "幸路, 辻本", "東京すしアカデミー"]
- 出版日
こちらの書籍は「東京寿司アカデミー」が著作した書籍です。ご飯炊きからシャリの作り方、巻物の作り方から魚の降ろし方まで、寿司職人を目指すうえでの基礎基本がギュッと濃縮された1冊です。
漫画で描かれているため、理解しやすい内容にはなっています。また、実際の写真でも手順や技術の紹介がされているため、楽しく学ぶことができます。
家族で寿司を楽しみたい、友人知人に本格的な寿司をふるまってみたいという方への導入書としてもおすすめです。
- 著者
- 寺沢 大介
- 出版日
世の中に数多くグルメ漫画はあるものの、「寿司」をテーマにした漫画は意外に少ないのではないでしょうか。数少ない寿司漫画のなかでも「将太の寿司」はまさに寿司漫画の王道といえるべき作品です。俳優の柏原崇さんが主演となり、テレビドラマ化されたことでも有名となった作品です。
この作品は、主人公の関口将太が中学卒業と同時に、実家の寿司店を救うために、東京の名店、鳳寿司に単身修行に向かいます。
「新人寿司職人コンクール」の出場を目指し、寿司への並々ならぬ愛情と努力で、技術や知識を習得していきます。若いながらも、驚きの発想や努力のたまものもあり、最終的に全国優勝を成し遂げるお話です。
将太の実家の寿司店は、ライバルチェーンの笹寿司にことごとく嫌がらせを受けますが、将太はそのような嫌がらせにも正面から立ち向かい、ことごとく退けます。ライバル店の息子は将太と同じ年ということもあり、強いコンプレックスを抱いているようですが、最後には将太が心を込めて握った寿司に感銘を受け、和解します。
少年誌のスポーツ漫画にも通じるその青春時代を彷彿させるストーリー展開もまた、この作品の特徴のひとつです。
本記事で寿司職人の実態に迫ってみましたが、なんとなくイメージをすることはできたでしょうか。日本の食文化の象徴ともいえる寿司。国内外で人気が高く、寿司職人の技術や感性は世界でも通用する高いレベルを誇っています。
寿司職人は、料理を通してお客さんに感動を与えられる職業のひとつでもあります。興味のある方はぜひ一度、おすすめした書籍も手に取ってみてくださいね。