アメリカには、米国税理士という国家資格があります。この資格は日本の企業でも優遇されることがあり、公認会計士や税理士の資格を有している方がキャリアアップのために取得することもあります。米国公認会計士資格と共に、日本での認知度が高い資格のひとつです。主な仕事内容は日本の税理士と似ていますが、具体的な資格内容や試験概要はあまり知られていません。本記事では、米国税理士になるための資格試験の内容から制度の概要、平均年収などについてわかりやすく解説しています。数少ない日本語で読むことのできる関連書籍もご紹介しているので、気になる方はそちらも合わせてご覧ください。
米国税理士の正式名称はEnrolled Agentといいます。略してEAと表記されることもあります。日本の税理士と仕事の内容がよく似ている米国税理士とは、具体的にどのような資格なのでしょうか。
米国税理士(EA)とは、アメリカ合衆国の税理士資格です。国家資格で、アメリカの税務申告をすることができます。
日本と異なり、アメリカではすべての個人が税務申告をする必要があります。タックスリターンと呼ばれるもので、日本の確定申告と似た制度です。アメリカ国籍・市民権・永住権を持っている人はすべてタックスリターンが義務づけられています。日本と比べると個人からの税理士需要が高く、全体として社会が必要とする税理士の数が多いのがアメリカの特徴です。
米国税理士資格保持者は、アメリカの税務について専門的な知識を持ちます。そのため輸出入に携わる一般企業でも優遇される可能性があります。
また、監査法人や会計士・税理士事務所で、特にアメリカとのビジネスに力を入れている事業者へ就職することも可能です。アメリカではすべての個人にタックスリターンが義務づけられていることから、日本在住のアメリカ市民が日本にいる米国税理士に依頼して申告をおこなうケースもあります。
米国税理士の平均年収は、米国にいるのか、日本にいるのかによって少し異なります。
米国で働く場合の平均年収は約450万円程度。米国税理士は各州に登録することにより、税務申告義務をおこなうことが出来ます。活躍できる範囲がある程度狭められているために、平均年収はあまり高くないのです。
日本における米国税理士の平均年収は約600万円程度。なぜ米国にいる場合より高額なのかというと、日本で米国税理士の資格を取得する方の多くが、すでに公認会計士や税理士の資格を有していることがほとんどだからです。
キャリアアップのために資格を取得しているため、元々活用していた資格の給与にプラスアルファされて年収が高くなっているのです。
続いては米国税理士になるために欠かせない米国税理士試験について解説します。日本の税理士試験とは前提がいくつか異なります。
米国税理士試験の大きな特徴は、18歳以上であれば誰でも受験ができるということです。国籍の条件もありません。日本の税理士試験では業務経験かもしくは学歴が問われます。比較すると米国税理士試験は参入障壁が低いといえるでしょう。
アメリカの資格ですから、試験は当然ながらすべて英語でおこなわれます。面接試験はありませんので、英語の読み書きができれば大丈夫です。合格するために必要な英語力は、最低でTOEICスコア600以上と言われています。TOEICはフルスコアが990の試験で、平均スコアがちょうど580〜620程度と言われています。
他の職業と比較してみましょう。スコア600は、航空会社の客室乗務員や外資系のホテル従業員に求められるのとほぼ同じくらいです。ある程度英語が得意な人なら現在の英語力で、ちょっと自信がないなという人は英語の勉強から始めるとよいでしょう。
参考:平均スコア・スコア分布 詳細 (第258回)|TOEIC Listening & Reading Test 公式データ・資料|【公式】TOEIC Program|IIBC
米国税理士の試験は全部で3科目です。科目合格制度が利用可能です。科目合格制度とは合格ラインに達した科目のみ合格と見なすもので、次に受験するときは不合格になった科目のみ受ければよいことになっています。科目合格の有効期限は2年間です。
試験科目はPart 1、 2、 3にわかれます。Part 1は個人所得税、2は法人所得税、3は税理士の業務や手続きについて設問されます。法律の暗記は必要なく、ポイントをきちんと抑えていれば解答することができるそうです。
米国税理士はウェブ試験がおこなわれています。日本にも試験会場が設置されるため、海外渡航の必要なく受験できます。通常は東京と大阪の2箇所で試験がおこなわれていましたが、2021年現在は東京会場のみとなっています。
参考:日本における試験会場および受験可能日の変更につきまして / 米国税理士[EA] 資格の学校TAC
実際に米国税理士試験に合格した人の体験談によると、各科目の合格率は60%程度だそうです。3科目すべてに合格する人はそれより少ないでしょうが、日本の税理士試験に比べると挑戦しやすい資格という印象があります。
参考:私の米国税理士試験合格体験記 | それ、おもしろかわいい。
アメリカの資格であるため、日本語で読める資格案内は数が限られています。『公認会計士・税理士・米国公認会計士・米国税理士 資格取得・就職・転職・開業ガイドブック』は主に日本の資格について書かれた本ですが、米国税理士と公認会計士についても概要を知ることができます。
会計士や税理士など、お金や税を取り扱う資格について知りたい方にもおすすめできる1冊です。
上記で紹介しているのは、アメリカに限らず世界の税務について最新情報を知ることができる『国際税務をマスターしたい!と思ったとき最初に読む本』です。米国税理士試験は日本で手に入るテキストが少なく、多くの人は資格試験予備校に通って勉強をするようです。予備校では日本語のテキストで勉強ができます。
日本のECサイトでも『Enrolled Agent Practice Exams for Part 1、 Part 2、 and Part 3: 600 Questions for the IRS Special Enrollment Examination』など一部の問題集・参考書が入手できます。英語圏ではGleim、Fast Forward Academyなどのウェブサービスで勉強する人が多いそうです。
英語が得意な人であれば、最初から英語で勉強をするのもおすすめです。しかし概念や制度については母語で学んだほうが理解が早いこともあります。『日本人・日本企業のためのアメリカ税金ハンドブック』はアメリカの税制に特化した書籍なので、米国税理士試験勉強の最初に読むのにぴったりです。
基本的な部分を確実におさえているため、ささっと復習したい時にも便利です。
アメリカの税務に欠かせない国家資格、米国税理士について解説しました。英語がある程度得意で税務に関心がある方であれば、比較的現実的に取得できる資格です。将来的に独立したり、海外で働いたりしてみたい方には心強い資格となるでしょう。この機会にぜひ挑戦してみてください。