5分でわかる左官!独立後の年収は?就職先やおすすめ資格など疑問を解説!

更新:2021.12.8

左官とは、日本の伝統的な職業であり、インテリア、エクステリアを作り上げる職人です。継ぎ目のない壁を塗り上げ、時にはデザイン性のある壁を作り上げることもあります。高い技術が必要とされますが資格は不要で、多くの現場での経験が職人としての腕を磨く近道となります。未経験でも就職・転職がしやすいですが、現場は縦社会。技術以外にもさまざまな社会人スキルは必要となります。本記事では、左官の仕事内容や資格の有無に加え、年収、現場の種類などについても解説します。また、記事の最後には左官を目指す方におすすめの書籍も紹介もしていますので、興味のある方はこちらもぜひ参考にしてみてください。

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左官とは

左官とは、建築物の壁や床にモルタルやセメント、土などをコテを使って塗り上げていく職人のことです。手作業で塗り上げていくためお客さんのイメージにも柔軟に対応することができ、模様も自由自在に生み出すことができます。

仕上がりの早い壁紙と比べて、時間も費用もかかることから敬遠されてきた時期もありました。しかし最近ではリノベーション物件の隆盛、ニューノーマルな働き方の促進によって快適で自分好みの自宅作りに注目が集まり、その需要は増加傾向にあります。

左官壁が自然材料を原料にしていることも人気の理由のひとつのようです。壁紙などの工業製品と比べ、湿度の調整やカビの防止、有害物質の吸着・分解をおこない、快適な空間作りにも影響があるのです。

左官の仕事内容

左官の仕事といえば、一番に上げられるのが壁の塗り上げです。他の職業同様、仕事はそれだけではありません。本章では、左官の仕事内容を簡単にご紹介します。

  • コテでの塗り上げ作業
  • セメント運搬
  • ミキサーや攪拌機などでの練り上げ作業
  • 漆喰や珪藻土などの仕上げ材を塗ることもある
  • 塗装やタイル貼り仕上げの下地をつくる作業
  • キッチンや浴室、洗面所、玄関アプローチや駐車場の下地づくり
  • 住宅内タイル貼り
  • レンガやブロック積み
  • 床のコンクリートの土間打ちでならし(表面を平滑にする作業)

塗り上げ作業に使用する材料を作るのも左官の仕事のひとつ。また壁の塗り上げだけでなく、タイル貼りやレンガ・ブロック積みなどをおこないます。建築工事のなかで、インテリアに関わる部分の造作作業を広く担っています。

大工やとび職人など、建築工事に関わる他の職人と協力して建物を完成させます。

左官が活躍する現場は2種類

左官が活躍する現場は2種類あり、同じ左官でも現場によって仕事内容が大きく異なります。工事現場のことを「丁場」と呼び、左官が活躍する丁場は、野丁場と住宅左官にわかれています。

左官が活躍する現場:野丁場

野丁場とは、鉄筋コンクリート造などの大規模な工事現場のことです。比較的大きなプロジェクトであるため、仕事内容は分業化されています。

そのなかで左官は主に下地作りを担当します。建築物が完成した時には見えなくなってしまう地味な作業ですが、職人の高い技術が必要とされ、誤差は5ミリ以内でおさめなければなりません。工期に合わせて仕事ができる計画性と、仕上がりの質どちらも求められるのが野丁場での仕事です。

左官が活躍する現場:住宅左官

住宅左官は、町場と呼ばれることもあります。壁塗りの仕上げをおこなうのが主な仕事内容です。コテを使って漆喰や珪藻土などを塗ったり、レンガやタイル、ブロックを使って床や壁を仕上げていきます。

完成した建築物では手作業で塗り上げた壁や床がダイレクトに目に触れるため、技術が高く経験も積んでいる左官でないと務まらない仕事です。お客さんの注文に応えて模様を施したり、継ぎ目なく塗り上げたりとセンスと集中力が求められます。

左官の仕事のポイントとは

気温や温度、天気などによって、モルタルなどが乾くまでの時間が異なるため、読み切れない部分も多いことは事実です。予測をつけられるように経験を積んでいくことが重要です。

また、コテは作業によって使い分けるため、ひとつの現場で十数種類を使うことがあり、塗り壁では、コテ波仕上げやコテ引き仕上げ、扇引き仕上げなど、さまざまな仕上げ方法がありますが、職人の手仕事による技術が光ります。

手先の器用さや集中力、デザインセンスが求められるお仕事です。

左官職人になるために必要な資格

左官職人になるための資格はありません。左官業を営む企業は未経験でも採用をおこなっており、就職することができれば左官職人としてデビューすることが可能です。

どの業界にもいえることですが、左官職人の数は現在足りておらず、募集をおこなったとしても定員割れとなる場合が多いようです。そのため、未経験からでも働く間口は広いといえるでしょう。

技術の証明や独立開業には資格が必要

左官として働くのには資格は必要ありませんが、習得した技術を証明したり、独立して左官業を開業する場合には資格が必要となります。この章では、左官として取得できる資格と詳細について解説いたします。

左官技能士

「左官技能士」の検定は、国家技能検定制度で、検定職種ごとに学科試験と実技試験が実施されています。左官技能士の試験が実施されるのは、技能検定試験の前期日程のみです。

階級は1~3級が設けられ、合格することでそれぞれの肩書が与えられます。

1級左官技能士と3年以上の実務経験を持つ2級左官技能士は、左官工事業において、主任技術者や一般建築業の許可を得た事業者の専任技術者になれます。ステップアップした仕事を任せてもらえるので、たくさんの経験を積むことができます。

受験条件

基本的に受検にあたっては実務経験が必要です。

  • 3級左官技能士:実務経験6カ月に満たない方も受験可能
  • 2級左官技能士:2年以上
  • 1級左官技能士:7年以上

上記の実務経験については、学歴などによる緩和要件があります。

学科試験

  • 施工法と材料
  • 意匠図案
  • 建築構造
  • 製図
  • 関係法規
  • 安全衛生

上記の分野から出題されます。

実技試験

実技試験の課題は、試験日に先立って公表されます。たとえば、平成31年度前期であれば各級で以下のような課題が出されています。

  • 1級:壁、天井およびそで壁の一部と仮定された下地への塗り仕上げ、普通合板の吹付け用下地への仕上げ吹付け
  • 2級:壁およびそで壁の一部と仮定された下地への塗り仕上げ、普通合板の吹付け用下地への仕上げ吹付け
  • 3級:床と仮定された試験台への塗り仕上げ

試験時間はおおよそ4時間〜5時間の長丁場。集中力と体力が試験合格の鍵となります。

参照:★左官職種★ 技能検定試験について

建築施工管理技士

「建築施工管理技士の検定」は、建設業復興基金が運営しています。建築施工管理技士は施工管理技士の国家資格のひとつで、建築工事現場のキーマンです。主に現場監督をおこなううちのひとりであり、専門工事を総合的にまとめる役割を担います。

検定の階級は1級と2級に分かれていて、左官業で1級建築施工管理技士を取得すると、一般建設業および特定建設業の許可を得た事業者の専任技術者、主任技術者、監理技術者になることができます。

2級建築施工管理技士は3つの区分があり、そのうちの2級建築施工管理技士(仕上げ)を取得すると、一般建設業の許可を得た事業者の専任技術者と主任技術者になることができます。建築工事の現場でより深く業務に関わり、活躍したいと考える方なら取得を検討してもよいでしょう。

受験資格

受験資格は、1級と2級にそれぞれ定められており、区分も複数あります。両方の階級の受験資格を一覧し、どちらの階級なら最短で取得可能なのかを確認するところから始めましょう。

試験内容

1級、2級ともに、一次試験と二次試験があります。当たり前ですが受験範囲が異なるため、内容は各自で確認するのがよいでしょう。

1級、2級どちらも合格率はさほど高くなく、例年30%台〜40%台を推移しています。合格の難易度が高くなっている理由として、出題範囲の広さが考えられます。特に1級は建築工事全般の知識が要求され、現場での実務経験以外に新たに学ぶ内容は多いです。

ただ合格には6割以上の得点がとれていれば問題ないので、すべてを完璧に勉強する必要はありません。得点配分を意識しながら7割〜8割ぐらいを目標として勉強をおこなうことがおすすめです。

参照:建設業振興基金

左官職人の平均年収

左官職人の年収の平均は380万円で、平均年収推移は288万円~743万円です。独立開業した左官職人の場合の平均年収は450万円~650万円となり、一般企業への就職時より年収幅は狭まります。

左官は高い専門技術が必要とされる仕事ですので、独立開業するまでの期間は最低でも5年が目安。多くの現場でさまざまな経験を積むことで、独立した後も仕事をもらえるようになります。正確な下地作りの技術と、住宅左官で必要とされる芸術的なセンスを磨くことが独立を成功させる鍵となるでしょう。

入社した企業や、資格、ポジションによって給与が変動するため、勉強を欠かさず経験を積んでいくことでより稼げるようになります。

日本で有名な2人の左官職人

左官の仕事には、依頼人の頭の中にある理想を具現化するイメージが強くあります。ですが左官の仕事は想像以上にクリエイティブで、自由で、面白い。日本を代表する2人の左官職人をご紹介します。

挾土秀平

挾土秀平(はさど・しゅうへい)さんは、従来の左官職人の枠にとどまらず、ユニークで記憶に残る左官壁を作り上げている方です。今までに、総理公邸や洞爺湖サミット会議場、JALの羽田空港国際線ファーストクラスラウンジなどで「職人社 秀平組」、土壁を手掛けています。

土壁についてはほぼ独学で、アイデアを自由に表現する仕事はとても斬新。アイデアの元となる美的センスを磨くための勉強はほとんどせず、日常の中にあるヒントをもとに誰も思いつかなかったような土壁を作り続けています。

土壁作りに一切の妥協はせず、常に80点以上の作品を生み出すために壁に向き合う。その姿勢から技術以上に大切なものを学ぶことができるはずです。

参照:稀代の左官・挾土秀平が語る。ものづくりの果てなき苦悩と無限の可能性

久住有生

久住有生(くすみ・なおき)さんも、挾土さん同様、親が左官を務める家に生まれた生来の左官職人です。歴史的価値の高い建築物の修復も可能な左官職人として、国内外からオファーを受けています。

主張がないことが良しとされる左官の仕事も大切にしながらデザインされた土壁も手掛け、自然のよさを感じられる壁が特徴的です。久住さんが手掛ける壁には思わず触りたくなる要素があり、ポロポロと壁がとれてしまっても直していけばいいという考えを大切にされています。

自然の要素を取り入れ、人を遠ざけない壁。左官職人の仕事に必要なことは何かと考えさせられますね。

参照:久住有生さん(左官職人) | 藤田美術館 | FUJITA MUSEUM

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左官の基本を理解するにはこの1冊

著者
原田 宗亮
出版日

左官の基礎知識はもちろん、知っておきたい最新技術も盛り込んでいるのが本書の特徴です。

従来、難しく工期のかかる伝統技術とみなされていた左官ですが、技術が進化し続けた結果、工期や単価に柔軟に対応できる工法が多数生まれています。

そんな現代の左官のための道具や仕上げ方法、使用する素材などを写真やイラストを使ってわかりやすく解説。これから左官を学びたい未経験の方から、キャリアを積んだ上で、あらためて左官を勉強し直したい方まで参考にできます。

左官の魅力から業界動向まで伝える『左官総覧』の最新版

著者
工文社
出版日

東日本大震災以降注目されている、耐震性や耐久性、耐候性などの優れた性能を持つ左官工法や材料、また、優れたデザイン性を表現できる左官技法をピックアップしています。

そんな左官の魅力を設計士や工務店に紹介する企画を中心に構成されているのが本書です。左官仕上げの最新事例や、高性能な左官工法の解説、業界動向を紹介しつつ、左官の今後の展望について語られています。

左官で手に職をつけようと思っている方は、アピールできる魅力を押さえ、左官職人として働いていくための必要な知識を身につけられます。

天然の土から独創的な壁を生み出す、日本を代表する左官職人『挟土秀平』の考えや思いの痕跡に触れたエッセー集

著者
挾土 秀平
出版日

著者である挟土秀平は、添加物や着色料を使わず、土という素材にこだわりを持ち続ける日本を代表する左官職人です。

本書では自然の土が生み出すさまざまな色をテーマに、人との出会いや仕事について、表現などへの思いがつづられています。

挟土秀平の思考や、体験に裏付けられた生きた言葉によって色の物語を描かれています。日本を代表する現代の匠の言葉や思考に触れることで、ただの職業ではなくアーティストとしての左官職人について理解を深められます。

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左官という職業には必須のはなく、未経験からでも始めることが可能です。慢性的な人材不足なため募集は定員割れとなっている企業も多く、就職は比較的容易にできるでしょう。しかし、ステップアップや独立のためには経験を積んで資格を取ることが必要です。

土や天気と向き合い、自然と対峙することで座学だけでは吸収できない経験を積み、より優秀な左官へと成長できます。当記事を読んで、より左官に興味を持った方はここで紹介した本にも目を通してみてはいかがでしょう。

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