職業訓練指導員という職業は、若い方や学生さんにとってはなかなか聞きなれない職業かもしれません。そもそも、社会に出るまで職業訓練の制度について知る機会はほとんどありません。しかし、職業訓練指導員は世の中の役に立つ職業であり、活躍の幅も広い。指導した人の就職が決まれば感謝されることもあり、安定性も職業としてのやりがいも感じられます。本記事では、職業訓練指導員の仕事内容、免許取得の4つのルート、年収事情などを詳しく解説していきます。記事の最後には、職業訓練指導員に関する書籍もご紹介するのでぜひ参考にしてみてください。
職業訓練指導員とは、就職やスキルアップなどに必要な技能や技術の指導や就職支援などをおこなう職業のことをいいます。最近ではテクノインストラクターとも呼ばれている職業です。2021年5月現在、約3700名の職業訓練指導員が活躍中しています。
この職業がどのようなお仕事をするのか、次の章から詳しくご紹介します。
職業訓練指導員の仕事は、在職者や求職者などを対象とした職業訓練、キャリアコンサルタント、コーディネーター、職業訓練カリキュラムや教科書・教材などの開発です。それぞれどのような業務内容なのか、詳細を見ていきましょう。
公共職業訓練、求職者支援訓練のことを日本ではハロートレーニングというのですが、このハロートレーニングを担当するのが職業訓練指導員です。
求職者訓練では、就きたい職業の技術や知識を向上を目指す方向けに、その分野に詳しい職業訓練指導員が技術や知識を提供します。
この職業訓練を受けることができる方は、これから働く離職者の方、学校は卒業していて卒業時に就職をしなかった学卒者、いま現在ほかのところで働いている在職者、障害を持っていてその障害と付き合いながら仕事をしていきたい考えている方が対象です。
これらの対象者に、その仕事で必要な知識や技術を提供していくのが職業訓練の業務の内容です。
今までのキャリアを振り返り、これからのキャリアをどう形成していきたいかを示すツールとして、厚生労働省ではジョブカードの作成を推進しています。
キャリアコンサルタントの業務では、このジョブカードを使用して、これからのキャリア形成について一緒に考え、よりよいキャリアが形成できる場への就職を導きます。
ここまでご紹介してきた業務は求職者に対しておこなう業務でしたが、コーディネーターの業務は、企業に対しておこないます。
企業が必要としている人材のニーズを把握し、必要とする人材を育成するためのカリキュラムなどを作成します。
職業訓練をしていくなかで、そのカリキュラムや教材はずっと同じものを使うことはできません。時代の流れや、その時代を生きてきた人の傾向によって少しずつ変えていかなければならないのです。
そんな教材の開発をするのも職業訓練指導員の業務のひとつです。
職業訓練指導員の働ける場所は、全国の公共職業能力開発施設、認定職業訓練施設、法務省の矯正施設となります。
先ほどもご紹介した職業訓練の対象となる方が職業訓練を受けに来る施設で、全都道府県に設置されています。この公共職業能力開発施設で働くと、公務員という扱いになります。
事業主団体や職業訓練法人が、職業能力開発促進法第24条「認定職業訓練」の規定に基づいて、職業訓練を実施・設置しているもので、事業所や法人で従事、つまり会社員という扱いになります。
刑務所、少年刑務所又は拘置所のことで、ここで被収容者に対する作業教育、職業訓練などの指導ならびに、作業の安全衛生及び企画などを業務とします。矯正施設に就職すると、職業名は職業訓練指導員ではなく法務技官(作業専門官)という名前になります。
ご紹介したように働く場所によって職業訓練指導員の立場が異なります。そのため、平均年収は300万円〜500万円となりますが、公務員であれば賞与などが高くなるため、もう少し上がる傾向にあります。
また、働く地域や、職業訓練指導員になるまでの学歴や職歴も給料に影響が出るため一概にはいえません。
職業訓練指導員になるには、職業訓練指導員の免許を取得が必須です。この免許の取得方法は大きく分けて4つあります。それぞれどのような条件が必要なのかご紹介します。
1つ目は、職業訓練開発総合大学校指導員養成課程を卒業することです。卒業をするだけで職業訓練指導員の免許を申請することができます。
養成課程には、指導員養成課程と高度養成課程、長期養成課程の3種類があります。基本的には指導員養成課程を卒業すれば、職業訓練指導員の免許を取得することができます。取得までに必要な期間は1年〜2年ほどの時間を必要とします。
2つ目は、技能検定を合格して厚生労働大臣が指定する講習を48時間受けることです。技能検定には1級と2級が存在しますが、2級の場合は職業訓練指導員の試験を受けて合格しなければなりません。
3つ目は、大学あるいは職業能力大学校を卒業した後に実務経験を受けて職業訓練指導員の試験を受けることです。
実務経験が長い場合には、職業訓練指導員の試験は免除され、代わりに厚生労働大臣が指定する48時間講習を受けることが必要となります。
4つ目は高等学校の普通教員免許を所得することです。この場合も、免許を持っているだけで職業訓練指導員の免許を申請することができます。ただし、すべての教科が該当するわけではなく、看護、福祉、情報、農業、水産といった科目の免許となります。
参照:指導員になるには?
就職は、都道府県ごとに採用試験が実施されるため、この試験を受けます。
しかし、全ての都道府県で採用が実施されているわけではないですし、前年に採用をおこなっていた地域でも採用を実施しない年もあります。
採用人数は、各免許状に対してひとり程度です。各免許状とは、たとえば職業訓練指導員の資格のなかでパソコンの分野を得意とする、電気系統の分野を得意とするなど自分の教えられる分野のことです。人気のある分野では、就職も競争率が高くなります。
試験は専門知識について問う筆記試験と職務の適性(専門技術・技能、指導力)についての口述試験、人柄・性向などについての人物考査がおこなわれます。
都道府県によって試験の難易度は異なりますが、おおむね30~50%ほどの合格率となります。
近年、職業訓練指導員は全国的に人手不足の状態です。厚生労働省では安定的な人材確保を進めているとのことですので、今後は採用予定人数を拡大することも十分にありえるでしょう。
職業訓練指導をした方から感謝をされる仕事のため、やりがいを感じるという意見が多いです。
職業がある限り仕事が存在し続けるので、どのような状況下でも職を失わずに働き続けられるという安定性も魅力の1つのようです。
ほとんどの施設が暦通りのため、休日もしっかりと取れ、家族との時間やプライベートも充実させられるという意見も多数見受けられました。
- 著者
- 一般財団法人 職業訓練教材研究会
- 出版日
各都道府県職業能力開発協会で実施されている職業訓練指導員講習(48時間講習)用テキストです。
そのため、職業訓練指導員の試験内容も網羅されていますので、職業訓練指導員を目指すと決めて勉強を始めるのであればこの1冊を手元に置いておくことをおすすめします。
問題集も付属されており、多くの受験生が受験前にこの本の問題集を解いています。試験に出てくる最新の法律の内容なども網羅されており、より実践に則した内容となっています。
初心者の方には難しい内容が多いかもしれませんが、職業訓練指導員の道を考えた時にどのような内容なのか先取り学習のために見ておくのも良いでしょう。
- 著者
- 酒井 富士子
- 出版日
本書は、職業訓練校がどんな場所なのかを詳細に説明してくれています。
人気職種に就くためにはどんな技能が必要なのか、将来有望な技能を習得するにはどうしたらいいのかなど。これから職業訓練校に通うことを考えている方にとって参考になる内容が詰まっています。
そのほか、誰も教えてくれない失業給付金の受け取り方にも言及されています。
- 著者
- 日向 咲嗣
- 出版日
職業訓練について、私たちは普段知る機会がほとんどありません。退職後、離職後、そして求職中に知るのではなく、事前に職業訓練のメリットについて知ることができたらどんなによいでしょうか。
本書は、求職中の方はもちろん、制度として知っておきたい方にもおすすめできる1冊です。たとえば、1年未満のコースであれば授業料は完全無料だったり、一部有料のコースであっても授業料は月額1万円とかなりお得。それでいて、職業に活かせる実践的な知識や技術を学べるということであれば、この制度を利用しない手はないでしょう。
また職業訓練のコースは多彩であるのも魅力的です。OA事務、ITビジネス、プログラミングから始まり、陶芸や調理などのコースもあるから驚きです。優良コースに入り就職するための72の裏技もご紹介しています。読んでみて損はない1冊です。
最後にご紹介した書籍は、主に職業訓練を受講する方向けのものですが、職業訓練指導員を目指す方であれば目を通しておいた方がメリットもあるでしょう。
安定性が高く、指導した方が希望の業界に就職できた時のやりがいも魅力的。誰かの役に立ち、それがひいては社会の役にも立っていく。そんなやりがいの連鎖を感じ取れるのが職業訓練指導員の仕事だといえると思います。
まずは書籍も手にとってみることがから始めてもよいかもしれません。