『闇金ウシジマくん』を世に送り出した原作者・真鍋昌平の最新作『九条の大罪』。連載開始から注目の作品です。2021年四半期の新作コミック売上も堂々の1位を獲得し、何かと話題の本作をネタバレ必至で紹介します。「ウシジマくん」をグレードアップしたような作品にファンはもちろんのこと、真鍋ワールドを初めて知った人もみな夢中になってしまうことでしょう。
15年もの間、漫画『闇金ウシジマくん』にて、闇金や周囲の裏社会を描き続けてきた漫画家・真鍋昌平。「ウシジマくん」は、徹底した取材に基づき、リアルな世界を描いたことで多くのファンに支持されました。連載が終了した今なお愛され続けている作品です。
- 著者
- 真鍋 昌平
- 出版日
- 2004-07-30
そんな真鍋昌平が次に選んだテーマは「弁護士」。しかも加害者側などの弁護を担当する弁護士が主人公です。2020年10月より「週刊ビックコミックスピリッツ」にて連載が始まると、アンケート初登場1位を獲得という快挙を達成しました。真鍋作品への期待度の高さも窺えます。
主人公は弁護士・九条間人(くじょうたいざ)。飲酒運転による交通事故で、保育園帰りの親子を轢いた男の弁護をするところから始まります。「思想信条がないのが弁護士、法律と道徳は分けて考える」(第1審より)と語る九条がさまざまな事件に臨む姿を描いた物語です。
2021年2月にコミックス第1巻が刊行され、四半期の新作漫画売上では第1位に。リアルな内容であるからこそ、SNS上では賛否が分かれてもいます。
登場人物の過酷な状況に読むのも辛くなるような展開であっても、ついその先を読んでしまう。そんな中毒性のある本作は「ウシジマくん」ファンはもちろんのこと、漫画好きな人なら一度は読んでほしい作品です。
『九条の大罪』に登場するクセの強い登場人物を紹介します。
主人公。弁護士。離婚歴があり5歳の1人娘がいる。現在はテント暮らし。ほかの弁護士が関わらないような面倒な仕事ばかりを引き受けている。実の父親と兄も法律家。その父親は彼を勘当したまま亡くなってしまった。
九条の事務所に居候するいわゆるイソ弁。東大法学部を首席で卒業。四大ローファームのひとつ、東村ゆうひ事務所を1年未満で退社。九条を面白いと慕っている。
自動車整備会社社長。反社勢力とパイプがある。自分の後輩が事件を起こすたびに、九条に弁護を頼む。反社会勢力の口封じのため人殺しも引き受ける。
配達員。軽度の知的障碍者。金本に利用されマリファナの運び屋をやらされている。ほかの人間の身代わりとして、5年前、強盗致傷罪で懲役刑を受けた。
壬生の後輩。元ヤクザの息子で力士を目指していた。金本親子ともども、曽我部親子を見下し酷い仕打ちをしている。
NPO法人司法ソーシャルワークつぼみ代表。曽我部が出所した時、サポートしたソーシャルワーカー。再び罪を犯した曽我部の更生に協力する人物。九条のやり方に苦言を呈する一方、烏丸の実力を高く評価している。
弁護士。九条の父・鞍馬の同期。九条がお世話になっていた山城法律事務所の代表。お金に執着しているため、政界にも顔が利く。
ニューダークヒーローとして注目される『九条の大罪』。その魅力とは一体どんなところにあるのでしょうか。
『九条の大罪』の主人公・九条間人は、依頼人を貴賤や善意で選別しません。だから彼のもとには、面倒な仕事も舞い込みます。罪を犯した人間を弁護することもあります。そんな九条を世間では悪徳弁護士と呼んでます。それは、彼が「道徳上許しがたいことでも、依頼者を擁護するのが弁護士の使命」(第1審より)と考えているからです。
どんなに酷い加害者が裁判に勝つような後味の悪い事件だとしても、つい先の展開が気になってしまう。それが本作の不思議な魅力です。法律や裏社会の徹底した取材による確かな構成力で、よりリアルな物語を構築している作品だからにほかなりません。「ウシジマくん」で培われた原作者の才能そのものが作品の魅力となっています。
九条間人という弁護士のキャラクターもこの物語の魅力のひとつです。彼はもともと鞍馬という性でした。他界した父や兄も法律家。しかし、九条は鞍馬家から勘当されています。九条と兄で検事の鞍馬蔵人との会話「あなたには見えなくて私には見えてるものがある」(第10審)でも、九条が鞍馬家の人間とは別人格であることがわかります。
作中で使われる「道理」という言葉。九条の大事にしているのは、この「道理」です。道徳的であることよりも合理的な九条の考え方が時に本当の意味で人を救っています。こんな主人公だからこそ魅力ある物語なのでしょう。
『九条の大罪』で九条が扱う事件のほとんどが、強者が弱者を食い物にしています。その弱者がどんなに負の連鎖から抜け出そうとしても、なかなか本人の力で状況を変えることは難しい。そんな人たちを救うのが九条という弁護士です。
「法は人の権利を守っても命までは守れない」(第7審より)。それを誰よりも把握し実行に移しています。どんなに正当性や正義を振りかざしても、それが通用しない世界もある。その中で人を守るとはどういうことなのか。立場の弱い人間が前を向いて未来を選択できるように、自らがダークな道を歩むヒーロー。そんな魅力が詰まっています。
『九条の大罪』は、1話目から衝撃的な展開が始まります。物語最初の事件は「片足の値段」です。飲酒に加えゲームをしていた運転手の森田が人を轢いてしまいました。そんな彼は自動車整備会社の壬生に助けを求めます。
すぐに弁護士の手配をする壬生。その弁護士がこの物語の主人公・九条間人でした。被害者は保育園帰りの父子親子。父親は死亡、息子は片足を失ってしまいます。それでも、九条が弁護した森田は執行猶予がつきました。一方、被害者は弁護士をつけなかったため保険学もたいした金額にならず……。無知な人間が損をする。現実の厳しさを描いています。
1巻のもう1つのエピソードは「弱者の一分」。薬物の配達をやらされている曽我部聡太が大麻とコカイン所持で警察に捕まります。九条が担当し明るみになる曽我部がこれまで受けてきた後輩・金本からの酷い仕打ち。負の悪循環を断ち切るため、九条が曽我部を救います。
どのエピソードでも共通していることは、まずは弁護士をつける、相談するのが最善策ということ。私たちはあまりにも法律には疎く、そのことを痛感する物語となっています。
- 著者
- 真鍋 昌平
- 出版日
コミックス第2巻に収録されるであろうエピソードは「家族の距離」。九条の家族のことも垣間見ることができます。九条の旧姓は鞍馬といい、九条は別れた妻の苗字。鞍馬家からは勘当され、父親は他界しています。兄は検事となり、鞍馬家は法律家一家です。しかし、そんな鞍馬家の人間とは一線を画している九条でした。
今回の最初の依頼は、家守華恵というコンサルティング会社を経営している女性から。父親の遺産を取り戻してほしいといいます。社団法人に4億遺贈するという遺言が見つかりましたが、父が書くわけないとのこと。この父親が入居していた介護施設の代表・菅原と弁護士の山城祐蔵の仕業だというのです。
九条が独立する前にお世話になっていたのが山城弁護士の事務所。山城が事件に関わっているのか九条の捜査が始まり、徐々に師匠を追い込んでいきます。九条を含むさまざまな形の家族の距離を描くと同時に、山城と九条の師弟バトルも見せてくれるエピソードです。
- 著者
- 真鍋 昌平
- 出版日
連載が開始され半年が過ぎたばかりですが、早くも話題の作品となった『九条の大罪』をままずは無料でいかがでしょうか。「ビッグコミックBROS.net」では第1話が無料配信され、「週刊ビックコミックスピリッツ」では最新号を読むことができます。読みたい方はこちらから。
ビッグコミックスピリッツ 2021年 5/31 号 [雑誌]
2021/5/17
「週刊ビックコミックスピリッツ」のサイトからも、購入のほか最新刊の情報を知ることができます。
1話を試し読みしてみたい方は、ビッグコミックBROS.netで読んでみてください。
2021年5月28日にはコミックス最新第2巻が発売予定と何かと気になる『九条の大罪』。今後の九条の活躍を大いに期待していきたいですね。
- 著者
- 真鍋 昌平
- 出版日
前作『闇金ウシジマくん』をさらにグレードアップしたような漫画『九条の大罪』。変わらずの綿密な取材力から構成されるその物語は、「ウシジマくん」ファンも納得の内容です。今後の展開がますます気になる『九条の大罪』。新たな真鍋ワールドをぜひ堪能してください。
作者自身が本作について語っているインタビュー動画も公開されています。
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欲望におぼれる人間のすがたや社会の闇の深さが描かれている、『闇金ウシジマくん』。アングラなジャンルにも関わらず約15年間連載が続き、4度の映画化と3度のドラマ化、さらに単行本発行部数は、累計1000万部を突破!第56回小学館漫画賞・一般向け部門の受賞実績がある人気作品です。 怖くてもついつい読みたくなってしまう理由は、リアリティ。作者・真鍋昌平の綿密な取材によって描かれているということもあり、「このエピソードは、あの出来事がモデルになっているに違いない」という感想もよく見られます。 今回はそのうち、「あの人気エピソードは、北九州で実際に起きた凄惨な事件をモデルにしている?」説を検証していきます。