“衝動買い”が生まれる選書〜CHIENOWA BOOK STORE 後編・佐藤さんインタビュー〜

更新:2021.11.7

埼玉県朝霞市にある、“ギフトが選べるちょっといい街の書店” CHIENOWA BOOK STORE(チエノワブックストア)。1947年に「一進堂」としてリヤカーでの本の販売からスタートし、以降、地域に根差した書店業を展開し続けています。 地域の人々に愛される親しみやすさは、70年以上の時を経た今も健在。「本と人、町をつなげる」がコンセプトのフリーペーパー『ほんのわ』を発行するなど、コミュニケーションの形も多様化しているようです。 ホンシェルジュではそんな「CHIENOWA BOOK STORE」書店員さんのインタビューを前・後編にわたってお届け。後編では書店員の佐藤さんにお話を伺いました。

ブックカルテ リンク

書店員になるまでの道のり

もともと漫画家志望だったという佐藤さん。本屋はマンガの資料集めの際によく立ち寄る場所で、その頃から「将来的に漫画家になれなかったら本屋で働こう」と考えていたそう。

—小学生の時に自由帳に絵を描いて、友達に見せるのが好きだったんです。友達も喜んでくれていました。(佐藤さん)

大学を中退したのは、先輩から「就職がなかなかむずかしい」との話を聞いたから。それならば失敗してもいいからと、アルバイトをしながらマンガを描く生活をはじめました。

—漫画賞によく応募していました。40ページ描かなきゃいけないんですが、描くのに3か月かかるんです。描き続けるのは難しいし、プロの人はすごいなと感じました。(佐藤さん)

その後今の仕事に就くまでに、さまざまな職を転々とします。

以前働いていた塾ではパワハラがひどく、ワーク・ライフ・バランスが取れないこともあり、退職。30歳のときに書店員の仕事に就きます。

インスピレーションを大切にした選書

CHIENOWA BOOK STORE」に来るお客さんは主に20代から40代の女性層や、年配の方。駅ナカという立地もあり、最近はビジネスパーソンも増えてきているとか。店頭では「入院している息子におすすめの本は…?」「最近の若い人はどんな本を読んでいるの?」と聞かれることも。

佐藤さんの選書の要になっているのは、自身の“インスピレーション”。仕入れの時点では本の中身をすべては読めないので、表紙や著者といった情報から想像を膨らませてセレクトしているそう。

ブックカルテで本を選ぶときは、本屋にならんでいる、なおかつ極力自分で読んで参考になった(もしくは面白かった)本を入れたり、お客さんのプロフィールをみて人物像を想像して選ぶとのこと。インスピレーションを大切にしているからこそ、ユニークな選書を実現できているのかもしれませんね。

“衝動買い”が生まれる本棚

別の本屋での勤務を経て、佐藤さんが「CHIENOWA BOOK STORE」に就職したのは一年半前。以前までの本屋に比べて、ここでは目的買いより衝動買いの人が多い印象があるといいます。

—前の本屋では、amazonで評価が高い本を店頭に平積みして並べるとなくなっていったんですが、ここでは、その横においてあるマイナーな本が売れるんです。前の平台におく本は売れ線のものではなく、面白いと思ったものを置くようにしています。立地は駅ナカなので通常は売れ線を意識するものなのですが、すこし「郊外型」の面もこのお店にはあるのかなと。(佐藤さん)

そんなユニークな選書がなされる「CHIENOWA BOOK STORE」の中で佐藤さんが気に入っているエリアは、アウトドアと新書の本棚。理由は図鑑が好きなのと、新書をよく読むから。

また新書の棚も佐藤さんの担当だとか。

—僕は「次何のトレンドが来るか」とはあまり考えないんです。読む本も単純に面白さで選んでいます。最近出た新書で面白かったのは『スマホ脳』(アンダース・ハンセン著)です。スマホを持つことによって人間の脳にどんな影響が与えられるのか、人類は退化していくとか。自分も当てはまってるなと思うと怖いんですよ。(佐藤さん)

新刊ばかりではなく、「インスピレーション」から並べているものも

佐藤さんのターニングポイントになった本

『ベルセルク』

著者
三浦 建太郎
出版日

中世ヨーロッパを下地にした「剣と魔法の世界」を舞台に、巨大な剣を背負う剣士ガッツの復讐の旅を描いたダーク・ファンタジー。佐藤さんが漫画家になると決意したきっかけの作品。

—ファンタジーを描きたいなと思ってマンガをあさっていたとき、ふと出会った本です。絵をよくみると、線が細かったり、途中でちょっとずつ線を書き足していたりと、描き込みが多いんです。レベルが高いな、到底適わないなと。でも、そこを目指していければとうまくなるんだと思えた作品です。

 

『ゆるゆり』

著者
なもり
出版日

絵のかわいらしさと、ほどよくゆるいストーリーで大ヒットを博した『ゆるゆり』。

少女漫画以外はあらゆるジャンルのマンガを描いてきたという佐藤さんの、表現の幅を広げてくれた作品だそうです。

—友達が好きだったんです。僕は『ベルセルク』みたいなどっしりしたマンガが好きだったので、はじめは正直手が伸びづらかった。でも、深夜アニメでやっていたのを偶然見たところ、面白かった。自分の頭が堅かったなと。そこから、ギャグとかラブコメとか幅を広げてマンガを描くようになりました。

 

船井流・「店長」大全

著者
船井総合研究所
出版日

日本最大級のコンサルタント集団・船井総合研究所の精鋭コンサルタント10名による店長ノウハウをまとめた本。佐藤さんが「CHIENOWA BOOK STORE」に入るとき、店長の塩澤さんに貸してもらったという。

—店長ってこんなに大変なんだと恐怖と絶望を思い知らされました。それまで役職についたことはないんですが、このお店には店長候補の募集を見て入ったんです。本には塩澤さんのメモがマーカーでびっしり書いてあって、釘を刺されたような思いでしたね。しっかり責任を持ってやんなきゃ、と気持ちを入れ替えました。

終わりに

駅中の立地で豊富な蔵書を抱えながら、少数精鋭で運営する「CHIENOWA BOOK STORE」。書店員さん自らがやってみたいと思ったことをすぐに行動に移せるフットワークの軽さが魅力だと、佐藤さんは語っていました。

70年以上の歴史を支え、脈々とバトンをつないできた書店員さんたち。地元・朝霞の地を飛び越え、ブックカルテによってこれからどんな出会いが生まれるのか、楽しみですね。

CHIENOWA BOOK STORE 佐藤さんへの選書依頼はこちら

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