パンサー向井が思わず自分を重ねてしまう漫画『ちーちゃんはちょっと足りない』

更新:2022.5.18

お笑いトリオ・パンサーの向井慧がパーソナリティを務める、地元の中部エリアでのレギュラーラジオ「#むかいの喋り方」。地域を飛び越えて全国で人気を博していることをご存知でしょうか。 リスナーの心を掴む最大の魅力ともいえるのが、向井自身が見聞きした様々な「エンタメ」の独自分析。ある回に紹介していた『ちーちゃんはちょっと足りない』という漫画について、この記事でも紹介していきます。向井がシンパシーを感じたポイントとは?

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ほのぼのと見せかけて鬱漫画⁉『ちーちゃんはちょっと足りない』とは

一見ほのぼのとしたイラストで、ちょっと勉強ができない「ちーちゃん」を中心とした学園漫画……かのように見受けられる『ちーちゃんはちょっと足りない』。しかし読んでいくと、全く違う顔を見せてくる漫画です。

思春期特有の自意識からくる「周りと比べて私は……」「でも本当は自分が1番可愛い」「この今の友人関係を失ったらどうすることもできない」というような気持ちをえぐられるような作品であり、鬱屈したリアルな気持ちを思い出してしまうでしょう。

あらすじ

ちーちゃんこと千恵は中学2年生。普通と比べて勉強ができなかったり、他の人が思うような会話ができなかったりと「ちょっと足りない」存在です。それでも友達のナツや旭(あさひ)とともに学園生活を送っていきます。

しかしある事件が起き、ちーちゃん、ナツ、そしてその周りの人物との関係が変わります。あくまでも純粋な気持ちを持ち続けるがゆえ、時に過ちを犯すことがあっても成長しようとするちーちゃんと、自分可愛さに嘘をつき続けてしまうナツの対比。事件が起きてからの作品後半では、特にナツの視点でナツの心情が語られながら物語が進んでいきます。

ちーちゃんは、ナツは、何が「足りない」のでしょうか。ハッピーエンドとはいいづらいストーリーに、誰しもが心えぐられながら読むことのできる作品です。

秋田書店から、1巻完結で刊行されています。

著者
阿部 共実
出版日
2014-05-08

作者・阿部共実は他にも、本作のように現実的な残酷さをありありと突き付けてくる作品を発表しています。読んでみたい方には、こちらの記事もおすすめです。

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主人公はちーちゃんではなく、その陰に隠れたもう1人の「足りない」女の子

表紙にも描かれているちーちゃんは、実は主人公ではありません。その友達のナツが主人公。特に作品後半で顕著になりますが、心の声がほとんど唯一描かれたり、自分の育ってきた環境を回想するシーンも出てきます。また千恵のことを「ちーちゃん」と呼ぶのもナツだけなのです。

ナツとはいったいどんな子?

そのナツとはいったいどんな人物なのでしょうか?ナツもまた、友達の旭やクラスメイトの藤岡らと比べて「ちょっと足りない」存在として描かれています。

  • 旭は勉強が得意ですがナツは、ちーちゃんほどではないもののテストの点数もよくありません。
  • 旭は戸建てに住んでいますがナツの家庭は裕福ではなく、ちーちゃんと同じ団地に住んでいます。
  • 旭は2人にも内緒でサッカー部のエースで女子に人気な先輩と付き合っていますが、ナツとちーちゃんは彼氏がいません。
『ちーちゃんはちょっと足りない』

 

ちーちゃんとナツの「足りない」には決定的な違いが

しかし、ちーちゃんとナツの「足りない」にも明確な違いがあります。たとえばちーちゃんは絶望的なまでに勉強が不得意ですが、学級委員とその友達に勉強を教えてもらうことで少し点数がよくなったという描写が。

また恋愛に対しても、ちーちゃんは好きになった学級委員の奥島くんにモテるための努力(天然な女の子になること)をしますが、ナツは「彼氏がほしい」と思いながらも自分なりのアクションを起こすことはありません。

そしてある事件が起きたことで、2人の違いは決定的なものに。ナツだけはある出来事について正直に言いださないまま物語が終わってしまうのです。その終わり方は決して後味のいいものではありませんが、多くの人はナツのような「罪悪感のタネ」を心に抱えていた経験があるため彼女のことを責め切れないのではないでしょうか。

 

パンサー向井はナツのどんな感情に共感したのか

10月放送のラジオ『#むかいの喋り方』でパンサー向井はこの漫画を紹介。最近読んだ印象的な漫画としてその魅力を語りました。

向井は自分をナツにちーちゃんを相方の尾形にどうしても重ねて読まずにはいられなかったそう。

ちーちゃんは極端に勉強ができないため目立っていますが、そのことを見かねてか勉強を教えてくれる協力者が現れます。そして少しでも点数が上がったら、いつもは喧嘩ばかりのお姉さんもゲームを買ってくれようとするのです。

またある事件でちーちゃんは理由があって悪いことをしてしまいますが、旭が代わりにあやまってくれたり……。「足りない」ながらに愛される、庇護欲をそそられる存在だといえるでしょう。そういった点が尾形と共通して思える、と言います。

一方のナツは、新しいリボンを買いそれをつけて教室に入りますが、誰にも気付いて声をかけてもらえません。勉強もできるほうではありませんが、もっとできないちーちゃんばかりにスポットライトが当たるため目立たないのです。結局損な役回りになってしまうことを、お笑い界での向井自身の立ち位置になぞられると語っていました。

そんなナツの、生々しい心の中の葛藤が描かれる本作。ぜひ実際に手に取って感じてみてほしいと思います。そして物語は完結していますので今後ナツの成長が描かれることは今のところ期待できませんが、パンサーの3人はひとりひとりの個性が存分に浸透し、活躍がめざましい存在。そちらも目が離せませんね。


長編の漫画を読むのが大変、という方にもぜひおすすめしたい1巻で完結する漫画『ちーちゃんはちょっと足りない』。

秋田書店の公式サイト〉では試し読みができます。

著者
阿部 共実
出版日
2014-05-08

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パンサー向井が2時間半生放送でパーソナリティを務める『#むかいの喋り方』はCBCラジオにてレギュラー放送中。毎週火曜日22時~24時半、中部地方で聴くことができますが、radikoプレミアムなら時間や地域に関わらず聴くことができますよ。

番組では待望のイベントを開催というニュースも。しかしなんとM-1グランプリ2021決勝戦の日の夕方。せっかくイベントをできるという華やかな出来事ももっと大きなイベントとかぶるというなんとも「向井」らしい展開ですが、中部地方のみならず全国のリスナーが待ち望んだイベント化の実現。参加すれば必ず行ってよかった!と思えること間違いなしでしょう。

詳しい情報は<公式サイト>や<番組公式Twitter>をご覧ください。

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