2021年の最後に、ハッピーなコメディ映画の公開のニュースが飛び込んできました。安田顕主演で映画化される『私はいったい、何と闘っているのか』は、芸人のつぶやきシローの小説が原作。大ヒット小説ではないものの、読めば必ず人におすすめしたくなるような面白さを徹底紹介します。
『私はいったい、何と闘っているのか』の魅力は、作者本人の実体験かと思ってしまうような妙なリアルさにあります。サラリーマンの方は特に、自分に重ねて読めるでしょう。
一見、なんの変哲もないような素朴で地味な設定こそが本作の日常ドラマのリアリティを支えています。クスリと笑える要素があるのも、親しみが持てる舞台設定だから。
本作の主人公・伊澤春男は地元の人々に愛されるスーパーで主任として働いているお父さん。スーパーでは25年働いているものの店長にはなれず、前任者がいなくなったのちも異動してきた年下の店長の元で副店長に就任するに留まります。
家族は妻に娘2人、息子1人。年頃の娘たちに翻弄されたり、父親として慕われているのか不安になったりしながらも一家の大黒柱として頑張る姿を家族に見せています。これらの突飛ではない設定が、本作最大の魅力です。地道な人生を営んでいる多くの方に刺さる物語となっています。
そんな「平凡」な主人公の暮らしを文学に引き上げるのが、主人公の考えすぎてしまう性格です。「つぶやきシロー節」と呼べるような、独特の自意識からくる思考回路。
配慮したつもりなのに相手には伝わっていなかったりなど空回りをしてしまう主人公に、「読者だけは味方でいるからね!」と応援したくなります。哀愁と可愛らしさを感じてしまうのです。
その思考は時に、現実の事実から少々逸れたつぶやきシローの妄想の域に達することがあります。それこそがおかしみにつながっているのですが、ストーリー後半のどんでん返しはただの妄想という言葉では片づけられません。家族のつながりにも、職場での人間関係にも、主人公の頭の中で構築する以上のドラマが待っています。「物語」の力を感じられます。
- 著者
- つぶやきシロー
- 出版日
- 2016-10-26
映画『私はいったい、何と闘っているのか』は2021年12月17日から全国の映画館で公開。主人公・伊澤春男をTEAM NACSの安田顕が、春男の妻・律子を小池栄子が、それぞれキャストを務めます。
2人の夫婦役は2度目。連続ドラマ『俺の話は長い』以来、2年ぶりの共演となります。関係性はすでにできあがっていて、スムーズに撮影に挑めたそう。
その他のキャストも個性豊か。娘の小梅役に岡田結実、冷めた目で主人公を見守る店舗スタッフにファーストサマーウイカ、店長に伊集院光などなど「あ、この映画面白そう!」と思うに十分な顔ぶれです。
映画でも注目したいのは、娘が家に彼氏を連れてくるシーン。原作でも特に人気のシーンですが、公開されている予告動画を見る限り映画でも再現がなされるようです。威厳を示したい父親の細やかな抵抗と葛藤にご注目ください。
監督は、コメディ映画やバラエティ番組で活躍する李闘士男。『家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています。』でも主演を務めた安田顕との再タッグに期待が高まります。脚本の坪田文は、おかざき真理原作『ずっと独身でいるつもり?』の実写映画も担当しています。
ホンシェルジュでは、つぶやきシローの書評連載を掲載しています。小説や映画に興味を持った方は、ぜひこちらものぞいてみてください。
お笑い芸人のつぶやきシローさん。小説家としてもデビューをしています。しかし、「本を1冊読むのに数ヶ月かかることもある」など、読書に対してかなりの抵抗があるらしい。「おもしろい本と出会って読書の楽しさを知ってほしい」と考えたホンシェルジュ編集部は、半強制的に何冊かの本を渡しました。さて、つぶやきシローは何を思うのか。包み隠さず感想をつぶやいてもらう連載です。隔週金曜日更新!