「むかしむかしあるところに、」と始まる桃太郎やおむすびころりんなどの昔ばなし。 幼い頃に読み聞かせてもらった人も多いのではないでしょうか。 そんな「昔ばなし」の中で、もし殺人事件が起こったら……?こんな血生臭い昔ばなし、子供にはとても読ませられない!でも、おもしろいこと太鼓判! メルヘンチックな物語に飽きてしまったあなたへ贈る、スパイスの効いた大人の昔ばなしです。
- 著者
- 青柳 碧人
- 出版日
- 2019-04-17
・一寸法師(一寸法師の不在証明)
・花咲じいさん(花咲か死者伝言)
・つるの恩返し(つるの倒叙がえし)
・浦島太郎(密室龍宮城)
・桃太郎(絶海の鬼ヶ島)
昔ばなしといえば「めでたし、めでたし」とおわり、読者に教訓めいたものを残します。
それはきっと読み聞かせる対象がまだ社会というものを経験していない年齢の子供だからではないでしょうか。そんな子供たちに生きていく上での知恵を授けるのが、昔ばなしの1つの役割と言っていいかもしれません。
では本書はどうか?こちらは、ひととおり社会の苦味を味わってしまった大人たちに向けた、教訓なしの純然たる昔ばなしミステリです。
例えば「一寸法師の不在証明」。原題はもちろん「一寸法師」。「不在証明」とは「アリバイ」のことです。
ところで、昔ばなしの「一寸法師」とはどんな物語だったか覚えているでしょうか?簡単にあらすじを紹介すると、身長が一寸(約3.03センチ)しかない男性、その名も「一寸法師」がお姫様にちょっかいをかける鬼を退治し、鬼の宝物である打ち出の小槌で身長を大きくしてお姫様と結婚する、という筋書きです。
そんな昔ばなしの英雄として語り継がれる一寸法師にあろうことか、殺人容疑が!
一寸法師は鬼を退治するために鬼の腹の中へ入るのですが、なんとその間に殺人事件が起きたというのです。状況的にも怪しい一寸法師。しかし、彼には事件が起きた時間、鬼の腹の中にいたという「不在証明」=「アリバイ」が。
さらに、打ち出の小槌が使える厳格な条件も巧みに利用されており、いっそうミステリ感を引き立てています。
はたして一寸法師は姫を助けた英雄か?それとも卑劣な殺人犯か?
のほほんとした物語はとうてい望めませんが、スリリングで刺激強めの昔ばなしが楽しめます。
- 著者
- 青柳 碧人
- 出版日
・シンデレラ(ガラスの靴の共犯者)
・ヘンゼルとグレーテル(甘い密室の崩壊)
・眠れる森の美女(眠れる森の秘密たち)
・マッチ売りの少女(少女よ、野望のマッチを灯せ)
童話でおなじみの赤ずきんが名探偵ばりの推理力と洞察力で事件を解決していく、連作短編集です。
「ガラスの靴の共犯者」では初っ端から馬車でひいてしまった死体を隠すという、犯罪の片棒を担がされる赤ずきん。しかしその裏にあるカラクリを冷静な目で見事に見破ります。
シンデレラの魔法が12時で解けるという部分と、そこに新たな魔法の設定を加えてアレンジされたシンデレラは読んでいてとてもワクワクしてきます。
「甘い密室の崩壊」では、密室殺人が味わえると同時に兄妹の歪んだ「愛」を垣間見ることができます。
題材がヘンゼルとグレーテルだと美しい兄妹愛も読み取れることかと思うのですが、こちらはまったくちがいます。
事件と同時進行で進んでいくのはヘンゼルからグレーテルが注がれる異常なまでの「愛」。
その「狂愛」とも呼んでいい2人の関係が密室事件と相まって、メルヘンな物語に黒い影を落とすのです。
赤ずきんは旅をしていくなかで事件を幾度も解決していくのですが、最終章で明かされる真の旅の目的には驚かされることになります。
最後には赤ずきんの旅の壮大な目的と、これまで辿ってきた道筋が気持ちよく伏線回収されていきます。
この気持ちよさを味わうために、ぜひ順番通りに読んでくださいね!
通常の童話では狼に食べられてしまうような、か弱げな赤ずきんとはまったくちがう冷静沈着な強めキャラの赤ずきんも同時に楽しむことができるはずです。
- 著者
- 青柳 碧人
- 出版日
・かぐや姫(竹取探偵物語)
・おむすびころりん(七回目のおむすびころりん)
・わらしべ長者(わらしべ多重殺人)
・猿蟹合戦(真相・猿蟹合戦)
・ぶんぶく茶釜(猿六とぶんぶく交換犯罪)
昔ばなしミステリ第2弾はさらにパワーアップ!
「探偵」という存在が初めて登場し、SFでおなじみのタイムトラベルミステリ、多重殺人の中にさらに仕掛けがあり......!
そして、連作短編になっているラスト2つの物語は本格ミステリ色が強めです。「猿蟹合戦」と「ぶんぶく茶釜」が題材なのですが、「猿蟹合戦」の昔ばなしは実は人間側の真相。動物側の真相はまったく別物だったのです。
物語は、とあるタヌキが猿の里に連れて行かれ、猿蟹合戦の「動物側の真相」の聞かされることから始まります。
猿は「猿蟹合戦」でとっちめられた父親猿の復讐をすべく、同じく兄ダヌキを殺害されてしまったタヌキに協力を求めてきたのでした。
しかし、猿は復讐したい相手を自分の話からタヌキに推理せよと言ってくるのです。頭がキレる協力者が自分には必要だからと。タヌキは必死に頭をひねるのですが、猿はタヌキの推理の方法にルール(質問は「はい」か「いいえ」で答えられるものなど)を設けるのです。そのしばりがまた物語をいっそうおもしろくしています。
さらに物語はつづき、「猿六とぶんぶく交換犯罪」とタイトルにあるように巧妙な交換犯罪(殺したい者がいる人間同士が、お互いの対象を交換して殺人を犯すこと)が起きます。読者は当然、交換犯罪を想定して読むのですが、この物語は裏の裏をかいてきます。どうぞ、ラストまで気を抜かずに読んでくださいね!
本書は一種の昔ばなしの新解釈として読むこともできます。
たくさんの「もし」が含まれており、発想はとてもユニーク!
昔ばなしそのものの新たな局面を見ることで無限の可能性が広がるのではないでしょうか。