映画『シン・ウルトラマン』は2022年5月13日に公開された日本の映画。約1ヶ月で観客動員数230万人以上、興行収入34億円を突破した超人気作品です。 主要制作陣が同じ『シン・ゴジラ』に比べるとエンタメ色が強くなっているものの、『シン・ウルトラマン』にはわかりづらい設定・展開がいくつもあります。 この記事では『シン・ウルトラマン』のあらすじ、設定について簡単に説明しつつ、すでに視聴した方向けにネタバレ解説・考察を行っていきます。
『シン・ウルトラマン』は東宝の配給で、2022年5月13日に公開された日本のSF映画です。2016年に『シン・ゴジラ』を大ヒットさせた庵野秀明、樋口真嗣のコンビが企画・脚本・監督として携わり、「空想特撮映画」と銘打たれて製作されました。
本作は1966年にスタートした特撮作品『ウルトラマン』のリブート。オリジナルの骨組みを残しつつ、ストーリー・人物・設定を現代に合わせ、アレンジやブラッシュアップが施された作品となっています。
『シン・ウルトラマン』は誰もが知る『ウルトラマン』の新作であること、ヒットメーカー庵野秀明が主導する作品であること、企業の枠組みを超えたコラボ「シン・ジャパン・ヒーローズ・ユニバース」により、公開前から大きな注目を浴びていました。
「シン・ジャパン・ヒーローズ・ユニバース」とは、タイトルに「シン」を含む庵野秀明作品繋がりで立ち上げられた、東宝とカラー、円谷プロダクションと東映の4社によるコラボ企画。企業間の垣根を越えた一大プロジェクトであり、今後さまざまな形でイベントや商品が展開される予定です。
こういった背景から、『シン・ウルトラマン』は高い注目度とエンタメ性に富んだ内容で公開されるやいなや大ヒット。約1ヶ月経過した6月6日の時点で観客動員数200万人、興行収入30億円を超えています。
関連商品も好調で、特に米津玄師が歌う主題歌「M八七」はデジタル配信を含むシングルCD売り上げなどで首位を独占するなど、エンタメ業界を席巻中です。
本記事ではそんな人気映画『シン・ウルトラマン』について、あらすじや世界観の紹介、内容の解説と考察を行っていきます。解説・考察パートには本編のネタバレが含まれるため、まだ鑑賞していない方はご注意ください。
突如、巨大不明生物が出現するようになった日本。4体目が出現した時点で、日本政府は人類に敵意を抱く生きた災害と認定し、巨大不明生物改め敵性大型生物「禍威獣(かいじゅう)」と命名しました。
さらに政府は防災庁直轄の専従組織として禍威獣特設対策室、通称「禍特対(かとくたい)」を設立。禍特対は自衛隊と密に連携し、続々と襲来する脅威を撃退していきました。
危険な巨大生物の存在が地震程度に日常的になったころ、禍威獣第7号ネロンガが出現。電気を捕食するネロンガは自衛隊の攻撃を寄せ付けず、放電攻撃によって付近を壊滅状態に追い込みました。
被害は無尽蔵に拡大するかに思われましたが……そこへ、地球圏外から正体不明の銀色の巨人が現れました。巨人はネロンガを圧倒、粉砕するといずこかへと姿を消しました。
禍特対は巨人を「巨大人型生物ウルトラマン」と仮称し、禍威獣とともに調査・分析を担当することになります。
映画『シン・ウルトラマン』には物語上で活躍する複数のキャラクターが登場します。特に重要なのは禍特対専従班に所属する5名です。
主人公は禍特対の作戦立案を担当する神永新二。警視庁公安部出身のせいか寡黙ですが、自己犠牲をいとわない正義感の強い男です。
神永を演じたのは『クロヒョウ』、『最上の命医』などで知られる斎藤工。斎藤工は父親が『ウルトラマンタロウ』の制作に携わっており、その縁で『ウルトラマン』シリーズの監督をしていた実相寺昭雄から直接話を聞いたことがあるなど、『ウルトラマン』には人一倍思い入れが深いそうです。最新の主演作『ヒヤマケンタロウの妊娠』がNetflixで公開中。
そんな神永の相棒役となるのが浅見弘子。ウルトラマン出現後、禍威獣とは明らかに異なる巨人を分析するため、公安調査庁から禍特対に出向してきました。神永とは違った意味で目立つ場面も……。
そんな浅見役を熱演したのは『ドラゴン桜』、『コンフィデンスマンJP』で有名な長澤まさみです。葉真中顕のサスペンス小説を原作とする、映画『ロストケア』にヒロインとして出演予定。
城北大学の非粒子物理学者・滝明久は、禍特対の頭脳を担当する2人のうちの1人。職場に趣味の模型を持ち込むオタクで、素行より実力が評価されていることを伺わせる人物です。
癖の強い役を演じたのはアイドルグループ「Hey! Say! JUMP」メンバーの有岡大貴。代表作は『金田一少年の事件簿』シリーズ、『乞食ロボット』など。出演作『インビジブル』が現在テレビ放送中(2022年6月12日現在)。
もう1人の頭脳担当は文部科学省から出向している船縁由美。非常に優秀な生物学者で、禍特対創設以前の作戦において彼女の功績で禍威獣駆除に成功したことが示唆されています。『ラーメン大好き小泉さん』などの早見あかりが演じました。
そして禍特対専従班班長、田村君男。防衛省出身らしく、個人より人類社会の平和と安全を優先する信念の持ち主です。禍威獣対策では自ら陣頭指揮を執り、禍特対メンバーの力を信頼する理想的リーダー。
田村を演じたのはベテラン俳優の西島秀俊です。代表作は『チーム・バチスタ』シリーズ、ストロベリーナイト』シリーズなど。主演作『仮面ライダーBLACK SUN』が2022年秋配信予定です。
『シン・ウルトラマン』は現代によく似た日本が舞台です。ただし、いくつか現実と異なる点があります。たとえば劇中の世界には、「怪獣」の概念が存在しません。
初代『ウルトラマン』の場合は、作品がそもそも怪獣の登場する特撮ドラマ『ウルトラQ』世界の延長線上にあり、物語の開始当初から怪事件を捜査する「科学特捜隊」(通称・科特隊)が登場しました。
ところが映画『シン・ウルトラマン』冒頭(YouTubeでも公開中)の映像にはいきなり3体の怪獣が登場しますが、名称は「巨大不明生物」です。その後、劇中で「禍威獣」という造語で呼ばれるようになり、対策チームとして禍特対が結成されます。
これは「怪獣」の単語に含まれる微妙なニュアンスを払拭しつつ、ともすれば突飛に思える怪獣の設定を、現代日本風の舞台に違和感なく溶け込ませる工夫でしょう。
しかし、設定こそ初代『ウルトラマン』からリファイン、ブラッシュアップされているものの、根本的な部分は変わっていません。
『シン・ゴジラ』が「もしも大怪獣が現れたら」という怪獣災害シミュレーション的側面を持つリアル寄りの映画だったのに対して、『シン・ウルトラマン』は特撮ヒーロー色の強い娯楽作です。このことは「空想特撮映画」と銘打たれている点からも窺えます。
本格的に物語が始まる以前、劇中では6体の禍威獣が出現したことが明かされています。登場順に第1号ゴメス、第2号マンモスフラワー、第3号ペギラ、第4号ラルゲユウス、第5号カイゲル、第6号パゴスです。
時間にして1分少々で流されてしまうこれらの禍威獣。禍特対の成り立ちを説明するためにあっさり駆除されただけに思えますが、実はちゃんと意味があります。
6体はすべて『ウルトラQ』に登場した怪獣。『ウルトラQ』は事実上の『ウルトラマン』前史ですが、リブート映画では企画や時間の都合で省かざるを得ません。そこで本編開始前に『ウルトラQ』由来禍威獣のダイジェストを挿入することで、『シン・ウルトラマン』前史と世界観の説明を一挙に行ったのでしょう。
こうした背景を踏まえて本編を観賞すると、より一層映画『シン・ウルトラマン』を楽しめるはずです。
映画『シン・ウルトラマン』は人間ドラマや禍威獣事件、外星人との対決が多く描かれるエンターテインメント作品でした。ボリュームたっぷりで楽しめる反面、出来事や設定がさらっと流されてしまうため、理解しづらい点がいくつかありました。
そこで『シン・ウルトラマン』の世界をより深く楽しめるように、本編の内容をわかりやすく解説していきます。
地球外から突然現れて禍威獣を撃退し、またどこかへ去って行く銀色の巨人ウルトラマン。
映画の中盤では彼の正体と処遇を巡って、物語が大きく転換しました。正体は「光の星」から地球に来た外星人(いわゆる宇宙人)であると同時に、地球人・神永新二でもあります。
ウルトラマンが初めて地上に降りた時に衝撃が発生し、神永は逃げ遅れた子供をかばって偶発的に死亡しました。その利他的行動に心を動かされたウルトラマンは、神永と同化して彼を生き返らせたのです。
なお、地球人がウルトラマンと一体化する流れは、初代『ウルトラマン』を踏襲したものです。初代は怪獣ベムラーを追跡中、不慮の事故でハヤタ・シン(ハヤタ隊員)を死亡させてしまったウルトラマンは、責任を感じて彼と同化し復活させました。
ただし、初代『ウルトラマン』の場合は基本的にハヤタの人格が表に出ていたのに対して、『シン・ウルトラマン』では神永の肉体にウルトラマンの精神が宿っている形でした。神永の意識はなかったらしく、ネロンガ戦以降、神永が不審な行動を取っていたのはこのせいです。
ウルトラマンと一体化した神永は、ベーターカプセルを使用することで巨人の姿に変化します。変身メカニズムは「光の星」が保有する超技術「ベーターシステム」の応用で、別次元に存在するウルトラマンの本体を呼び出すというもの。従って変身というより、肉体の置換と表現した方が正しいかもしれません。
『シン・ウルトラマン』劇中において、ウルトラマンの体の色は何度か変化します。
最初は「銀色の巨人」の名の通り、銀色がベースで少し薄い色が模様になってる程度でした。最初の変化は禍威獣第8号ガボラ戦の時で、薄い色だった部分が赤くなっていました。そして同じガボラ戦、終盤のメフィラス戦で今度は赤い部分が緑に変化します。
少し話がそれますが、ウルトラマンといえば胸のカラータイマーが有名です。これは地上での活動限界を示すインジケーターで、ピンチを視覚的に表すギミックとして組み込まれました。
しかし、初代ウルトラマンをデザインした成田亨の初期案には、カラータイマーはなかったのです。カラータイマーは演出の都合から勝手に追加されたもので、成田はデザイン性を損なうために嫌っていたといわれています。
ここから『シン・ウルトラマン』に繋がるのですが、総監修の庵野と監督の樋口は成田の大ファン。2人は成田をリスペクトして本来想定されていたデザインを採用し、ウルトラマンからはカラータイマーと目の部分の黒い点(着ぐるみののぞき穴)が廃されました。
とはいえ、作劇の都合上、弱体化したウルトラマンを何かで表現する必要はあります。そこで取り入れられたのが体色の変化です。カラータイマーの代わりに、体の色が鮮やかな赤色からくすんだ緑色に変えることで、弱った状態をわかりやすくしました。
最初の変化でデフォルトの体色が赤に変わるのは、メタ的にはそれがウルトラマンのイメージカラーだからでしょう。しかし、体色が変化するのはウルトラマンが神永と同化してからなのが意味深。
赤を「血の色」と捉えると、外星人であるウルトラマンに地球人・神永の血が混じったことを暗示していると考えてもよいかもしれません。
ちなみに成田自身はヒーローのイメージに金と黒があったらしく、晩年にデザインしたイメージイラスト「ウルトラマン神変」などでは、初代ウルトラマンに近いシルエットに金と黒を配色した姿が描かれました。のちに解説するもう1人の「光の星」の使者は、どうやらこちらのデザインを踏襲したようです。
成田のデザインといえば、初代ウルトラマンは放送初期から後期にかけて3つのマスクが作られました。それぞれA・B・Cタイプといわれており、Aは口元にシワがある生物っぽいデザインで、シワのないB・Cは硬質な顔です。
実は『シン・ウルトラマン』でもマスクの変化があり、初登場時はAタイプに近い顔で、体色が赤になってからはB・Cタイプの混じったデザインとなっています。
ウルトラマンとは地球人が命名した呼び方で、本当の名前はリピアー(当初リピアと思われていましたが、映画の字幕版でリピアーと確定)です。この名前は『シン・ウルトラマン』に登場するウルトラマンの本名であり、初代ウルトラマンとは関係ありません.
以後、両者を区別する時は「リピアー」と「初代ウルトラマン」と表記します。単に「ウルトラマン」とした場合は、原則としてリピアーを指しています。
リピアーは地球人に代わって禍威獣と戦ってくれる存在ですが、彼自身が地球に来た目的は伏せられています。初代ウルトラマンが怪獣を追跡中、偶然地球に来たこととは対照的です。
しかし、映画後半に登場するある人物の発言から、リピアーは地球保護のために「光の星」から派遣されたことがほのめかされます。リピアーが地球の保護者である設定は、彼の名前からも推察可能です。
リピアーの由来は、ヒメイワダレソウの別名リッピアといわれています。ヒメイワダレソウは繁殖力が強く、他の雑草を駆逐するグランドカバープランツとして利用される外来植物です。上手く付き合えば庭を保護できる一方、扱いを間違えれば強力な生長性から生態系を浸食しかねない危険性があります。
守護と浸食の二面性を兼ね備えた外来種。映画をラストまで見ると、リピアーの立場と非常に重なります。ちなみにヒメイワダレソウの花言葉は「絆」と「誠実」。深掘りすると色々符合していくのが見事です。
外星人とは地球外知的生命体、すなわち宇宙人です。『シン・ウルトラマン』の劇中には合計3人(正確には4人)登場します。1人目はウルトラマン、2人目がザラブ、3人目がメフィラスです。
ザラブは極めて高度な科学を用いる外星人で、劇中で初めて地球人とコンタクトを取りました。自称・外星人第2号。身長は地球人と大差ありませんが、見た目が非人間的な上に背中側がえぐれている奇妙な容姿をしています。警戒心を抱かせないためか、人前に出る時には帽子とコートを身につけていました。
外星人の中でも特殊なのがメフィラス。外見は完全に日本人そのものであり、日本語はおろか風習までも完全に熟知して、日本社会に溶け込んでいます。禍威獣、外星人騒ぎに便乗するビジネスライクな人物かと思いきや、居酒屋で飲み食いした挙げ句に割り勘を提案するお茶目な一面も見せました。
メフィラスは外星人として3番目に登場するのですが、地球に来た時系列でいえば一番最初。そのため劇中3人目の外星人なのに、最初の外星人(外星人第0号)を名乗るというちょっとややこしいことになっています。
『ウルトラマン』の各シリーズで怪獣と宇宙人は区別されていましたが、『シン・ウルトラマン』でも同様に禍威獣と外星人はまったく異なる存在です。
もっとも大きな差は理性・知性の有無。禍威獣は本能で行動するのに対して、外星人は地球文明を凌駕する科学技術を駆使します。また禍威獣は事実上の生きる大災害で意思疎通できませんが、外星人とのコミュニケーションは可能です。
そもそも『シン・ウルトラマン』世界における禍威獣とは、高度な知性体が人工的に造り出した生物兵器です。この事実はメフィラスの発言で明らかになりますが、禍威獣第8号ガボラ出現時にあった船縁由美の発言「(以前のパゴスとネロンガに)首から下が酷似」、「アタッチメントで挿げ替えたよう」が伏線となっていました。
実は禍威獣の体が似ている、というのも元ネタがあります。初代『ウルトラマン』のネロンガとガボラの着ぐるみは、いずれも『ウルトラQ』に出てきたパゴスを流用したもの。コスト減で行われた着ぐるみ流用の裏事情を踏まえつつ、怪獣とは違った生物兵器の設定に落とし込んだセンスが光ります。
外星人の目的を一言で表すと、ずばり侵略です。
ザラブは自分にとって有利な協定を国家と結んだ上で暗躍し、最終的に同士討ちによる地球人の滅亡を企てていました。その際、地球人類にウルトラマンへの不審感を植え付け、唯一の味方を敵視させる巧妙な罠も張り巡らせています。
人類抹殺を目論む理由について、ザラブは「仕事だからだ」とだけ語っており、計画が完了したあとの展望は不明です。
ザラブ以上に凶悪なのがメフィラス。ウルトラマンが持つのと同質の超技術「ベーターシステム」の技術供与をちらつかせ、自らを地球人類から見た上位存在と規定させる交換条件を提示しますが……狙いは地球の完全な支配です。
メフィラスは圧倒的な技術格差で地球を精神的に隷属させ、人類のあらゆる活動を管理するつもりでした。禍威獣の出現も人類に無力感を与えるための策略で、未然に防がれたザラブの騒動すら、メフィラスの地球支配計画に利用されてしまいます。
さらに恐ろしいのは、地球支配が真の目的のための準備段階に過ぎないこと。メフィラスは地球人がウルトラマンと同じように、「ベーターシステム」で巨大化できることに注目。
自分が地球人類をコントロールすることで、疑似ウルトラマンになれる60億人以上もの人員を確保し、独占的に運用する――というのがメフィラスの真の目的です。巨大生物兵器として扱うので、人類の禍威獣化と言い換えてもよいでしょう。
映画『シン・ウルトラマン』後半の山場として、ウルトラマン対メフィラスによる激しいアクションシーンが描かれます。
格闘戦でも光線技でも互角の戦いでしたが、流れは徐々にメフィラスへ。神永との同化と巨体の維持、スペシウム光線――ウルトラマンはあらゆる活動でエネルギー源のスペシウム133を著しく消耗する一方、ネゲントロピーを利用するメフィラスは、安定的かつ低出力で行動できることから余裕があったのです。
劇中の戦いを続行していれば、まず間違いなくメフィラスが勝利していたでしょう。しかし、メフィラスは第三者の介入を察知して戦闘を放棄、地球から撤退してしまいます。
第三者とはウルトラマンと同じ「光の星」からやってきた、4人目の外星人ゾーフィです。
ゾーフィは体表が金色であること以外、ウルトラマンとそっくりな見た目をしています。外見の類似から増援と判断し、不利を悟ったメフィラスは素早く撤退した――状況だけを見るとそう思えるシーンでした。
しかしながら、ゾーフィのその後の行動を考慮した場合、別の見方が可能となります。
「ベーターシステム」による地球人の兵器化を宇宙全体の脅威と捉えた「光の星」は、メフィラスないしメフィラスと同様の考えを持つ外星人が実用化にこぎ着ける前に、ゾーフィを派遣して天体制圧用最終兵器ゼットンで太陽系ごと滅却する判断を下しました。
ウルトラマンすら歯が立たなかったことから、ゼットンはおそらく科学の進歩程度を問わず、あらゆる文明を一方的に消滅させる「光の星」の切り札です。
メフィラスは「ベーターシステム」の高度な応用である「ベーターカプセル」と、それを生み出した「光の星」について熟知していました。ということは、「光の星」が最悪の事態に備えた強硬手段を用意した上で、躊躇なく使用することも知っていた可能性が高いです。
そう考えるとゾーフィを確認した時点で、潔く引いたのも納得できます。仮にウルトラマンを倒して地球を実効支配できても、ゼットンによって太陽系ごと消滅させられるとなれば、戦闘続行は無意味と判断したのでしょう。
ちなみにメフィラスの去り際の一言「さらばウルトラマン」とは、初代『ウルトラマン』最終話のタイトルです。原作をオマージュしつつ、最後の展開を暗示した会心の台詞と言えます。
ゾーフィは『シン・ウルトラマン』終盤に登場する「光の星」の裁定者です。名前と立場こそ初代『ウルトラマン』の最終回に出てくるゾフィーに似ていますが、言動と行動はまったく違います。
ゾフィーはゼットンに倒された初代ウルトラマンを救う平和的な使者でしたが、ゾーフィはゼットンを使って太陽系ごと地球を消滅させようとする冷血漢(リピアー曰く「光の星の掟に忠実」)でした。
明らかにゾフィーが元になっているのに、似ても似つかないゾーフィ。これにはかなりマニアックな元ネタがあります。初代『ウルトラマン』放送当時、ある児童誌に誤って、ゾフィーが宇宙恐竜ゼットンを操る「悪の宇宙人ゾーフィ」と掲載されたことがありました。
ゾーフィは本来、ゼットン星人とゾフィーを混同した完全な誤報でした。一部のファンしか知らないマイナーネタがピックアップされ、約55年の時を経て逆輸入された結果誕生したのが『シン・ウルトラマン』のゾーフィというわけです。
『シン・ウルトラマン』にて事実上のラスボスとして立ち塞がるゼットン。主武装である「1テラケルビンの超高熱球」をひとたび放てば、対象の惑星はおろか惑星の存在する星系ごと蒸発させられる超越的な存在です。
1テラケルビンと聞いてもピンと来ませんが、我々になじみ深い摂氏に換算すると約1兆度。太陽の表面温度ですら約6000度(内部温度なら約1500万度)なので、それと比べると桁違いの熱量を持っているのがわかります。
実は「1兆度の火球」というのは、ウルトラマンシリーズで半ばお約束となっている初代ゼットンの必殺技なのです。そしてこの「1兆度の火球」……設定としてはめちゃくちゃで、ファンからもツッコミが入れられるほど。
SF作品の不備を面白おかしく指摘した『空想科学読本』の柳田理科雄によると、「1兆度の火球」には太陽の470兆倍のエネルギーがあり、もしそれが爆発すれば太陽系はあっという間に蒸発するそうです。しかもその破壊力は、地球から数百光年先まで達するとか。
- 著者
- 柳田 理科雄
- 出版日
単体の怪獣が持つ攻撃方法にしては、あまりにも過剰と言わざるを得ません。『ウルトラマン』が子供向けであり、SF設定におおらかな時代だったからこそ生まれたとんでもない数値だったのですが……。
「1兆度の火球」のめちゃくちゃな数値を逆手に取って作られたのが、天体制圧用最終兵器ゼットンの「1テラケルビンの超高熱球」というわけです。
ある程度進んだ危険な文明を、生き残りが出ないように星系ごと問答無用で殲滅する。ゼットンの必殺技を現実的なレベルに落とすのではなく、1兆度の火力が必要な状況を設定するという、逆転の発想に脱帽します。
『シン・ウルトラマン』には劇中で明かされなかった設定、伏線らしき要素がいくつかありました。ここからはそんな設定について、独自解釈による考察を行っていきます。
考察はあくまで筆者個人によるものなので、必ずしも公式設定と符号するとは限りません。また何かの機会に設定が明かされた時、まったく的外れなことが判明する可能性があります。その点を注意してご覧ください。
タイトルに含まれる「シン」の意味について、『シン・ウルトラマン』劇中では一切言及されません。
2016年に『シン・ゴジラ』が公開された際、「シン」の意味について聞かれたプロデューサーの山内章弘は以下のように答えました。
「庵野総監督のアイディアです。“新、真、神…”見る人にさまざまなことを感じてもらいたいということで、正解があるわけではありません」(「女性セブン」2016年9月15日号より引用)
今のところ庵野秀明、樋口真嗣といった中核メンバーから『シン・ウルトラマン』の「シン」について語られた発言はありませんが、なんらかの意味が込められているのは間違いありません。
ぱっと思いつくのは「新」。単純に新作と考えてもよさそうですが、もう一歩踏み込んで一新、つまりリニューアルと捉えることもできます。『シン・ウルトラマン デザインワークス』によると、元々3部作の構想だったとか。そのことから「シン」にはウルトラマンの新しいシリーズを始める、という意気込みが込められている可能性があります。
あるいは「神」かもしれません。劇中でウルトラマンは神に等しい存在として地球人類に認識されます。ただ本人が神ではないと否定しているので、可能性は低そうです。
作品内容とリンクするものとしては、「sin」が有力かもしれません。
sinは罪を意味する英単語です。ウルトラマンが「光の星」の掟に背いて他の知的生命体(地球人類)に干渉した罪。ゼットンの絶対的な絶望を前にして思考放棄し、自らの運命を他者に委ねた地球人類の罪。もしくは傲慢にも1つの種のために恒星系ごと滅ぼそうと考えた「光の星」とゾーフィの罪。
もう少しポジティブに考えると、「進」とも読み取れます。進歩、あるいは進化。地球人類は他者に運命を委ねる愚かな罪を犯しましたが、禍特対のように未来を切り開くべくあがいた者たちもいました。
諦めずに突き進む意思。それこそがウルトラマン――リピアーの思い描いた、地球人類が新たなステージに進む希望であり、制作陣からのメッセージのように思えます。
いずれにせよ「シン」の意味は1つとは限らないので、ここで挙げたものや、その他の意味が複合されている可能性があります。自分なりに「シン」の意味を考えてみると、違った見方で『シン・ウルトラマン』を楽しめるはずです。
- 著者
- 庵野秀明・株式会社カラー
- 出版日
『シン・ウルトラマン』と『シン・ゴジラ』は同じ「シン・ジャパン・ヒーローズ・ユニバース」作品ながら、表向き関連性を伺わせる描写はありません。あくまで庵野秀明関連作品だから……と片付けるのは簡単ですが、深掘りすると見えてくるものがあります。
たとえば「怪獣」の呼び方。『シン・ゴジラ』劇中でゴジラは怪獣ではなく、終始「巨大不明生物」と呼ばれます。一方、『シン・ウルトラマン』冒頭のゴメスから3体目のペギラも、同様に「巨大不明生物」と扱われました。
そもそも「怪獣」という用語が日本で最初に使われたのは、1954年の映画『ゴジラ』でした。『ウルトラQ』も初代『ウルトラマン』も、「怪獣」の呼称とイメージは『ゴジラ』から来ているのです。
逆に考えれば、『シン・ウルトラマン』の「巨大不明生物」呼びは『シン・ゴジラ』と関連しているからこそだと考えられます。
他には禍特対の正式名称が禍威獣特設対策本部であるのに対して、『シン・ゴジラ』側の機関は巨大不明生物特設災害対策本部(通称・巨災対)。語感が非常に似ています。『シン・ゴジラ』で総理大臣補佐官を演じた竹野内豊が、「政府の男」という似た役柄で登場したのも気になるところ。
スタッフの遊び心と言ってしまえばそれまでですが、偶然の一致とは思えません。
とはいえ『シン・ウルトラマン』と『シン・ゴジラ』が直接繋がっている、と考えるのは色々と無理があります。たとえば巨大不明生物第1号がゴメスであること。もし両作品が地続きなら、第1号はゴジラでないと辻褄が合いません(ちなみに『ウルトラQ』のゴメスの着ぐるみはゴジラの流用で、『シン・ウルトラマン』では『シン・ゴジラ』のゴジラ第4形態の案が使用されました)。
関連性がありそうなのに、地続きだとすると矛盾が生じる……そこで活きてくるのが「マルチバース宇宙」設定。『シン・ウルトラマン』ではゾーフィによって言及された「マルチバース宇宙」ですが、これはいくつかの「ウルトラマン」シリーズで取り上げられた概念です。
簡単に言えば並行世界のことで、自分たちの宇宙に極めてよく似た別の宇宙があるという設定。2つの作品が「マルチバース宇宙」のよく似た世界だとすれば、用語や設定、登場人物の類似に矛盾がなくなります。
つまり『シン・ウルトラマン』は『シン・ゴジラ』実質的な続編と考えてよいものの、作品的には完全な続き物ではない――というのが結論です。
ゾーフィの名前の由来はすでに解説しましたが、実は劇中のラストだけウルトラマンから「ゾフィー」と呼ばれているシーンがあります。該当シーンはゼットンと最後の決戦が行われたあと、ワームホールから救出された場面です。よく注意するとウルトラマンが「ゾフィー」と呼んでいるように聞こえます(字幕版はゾーフィ表記のまま)。
重要なクライマックスのシーンで、台詞のミスや言い間違いをするとは到底考えられないので、これは意図的な演出を考えるべきでしょう。つまり最後のシーンでウルトラマンに理解を示し、神永を蘇らせたのはゾーフィではなくゾフィーだったのです。
わかりづらいかと思いますが、これも「マルチバース宇宙」で説明可能です。
ウルトラマンは平行宇宙の移動原理を用いてゼットンを別次元に飛ばして撃退しますが、その際に自身もワームホールに飲み込まれてしまいました。この時、ウルトラマンは元々の宇宙とは別の「マルチバース宇宙」に移動していたのかもしれません。
別宇宙に移動したことを現す演出のために、あえてゾーフィではなくゾフィーと呼ばせたのではないでしょうか。よく似た別人だからこそ、ウルトラマンの希望を汲んで地球から手を引き、神永を蘇らせてくれたのです。
ただし、ゾーフィしか知らないはずのウルトラマンが、なぜいきなりゾフィー呼びしたのかという疑問は残ります。別宇宙に移動した段階でウルトラマンの認識が上書きされたか、テレパシーのような力で察したのかもしれません。
映画『シン・ウルトラマン』は満足度の高い娯楽映画でした。当初は3部作の構想があったそうなので、いつか実現することを願いつつ、『シン・ウルトラマン』で盛り上がっていきましょう。
ホンシェルジュ認定ライターの偏愛
長年ホンシェルジュを支える本好きライターたちが、「これについて書きたい!」と作品選定から企画・執筆した記事を集めました!