5分で分かるレーニンの哲学|レーニンが溺愛したマルクス主義とは?|元教員が解説

更新:2024.11.21

レーニンを理解する上で欠かせないのは、マルクス主義の基本的な概念です。 あまり知られていない事実として、マルクス主義は資本主義の発展を前提としています。 資本主義が進展する過程で生産力が向上し、労働者階級が成熟することにより、最終的に社会主義への移行が実現すると考えられていたのです。 しかしながら、当時のロシアでは資本主義が十分に発展していなかったため、マルクス主義者たちから見れば、社会主義革命が自発的に起こる状況ではありませんでした。 このような歴史的および社会的背景を踏まえることで、レーニンの思想と行動の独自性が浮かび上がってきます。 今回の記事ではレーニンの思想と行動の根底に流れる、マルクス主義の基本概念について解説したいと思います。

大学院のときは、ハイデガーを少し。 その後、高校の社会科教員を10年ほど。 身長が高いので、あだ名は“巨人”。 今はライターとして色々と。
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マルクス主義とは何か?

20世紀の歴史は「1917年のロシア革命で始まり、1989年のベルリンの壁崩壊で終わった」としばしば語られます。共産主義の誕生と崩壊こそが、この世紀のメインイベントだったという見立てです。

ところが当時のロシア革命は「マルクスに反した革命」とも評されました。マルクス主義の理論に照らせば、資本主義が十分に発展した国でこそ社会主義革命は起こるはずでした。後進国ロシアでの革命は、理論の想定から外れた出来事だったのです。

なぜマルクス主義では、資本主義の発展が革命の前提条件とされたのでしょうか。

争いの根源:稀少性という条件

マルクス主義の議論に入る前に、その前提となる人間観を確認しておきましょう。

人類の歴史が争いの連続であることに異論はないでしょうが、その背景には一つの普遍的な構造が働いています。

争いが生まれるのは「多くの人が同じものを求める」こと、そして「求められるものには限りがある」ことが重なったときです。

空気のように無限に存在するものをめぐって人は争いません。逆に誰も欲しがらないものには価値が生まれようもありません。

重要なのは、異性、財産、社会的地位といった人々が普遍的に求めるものが、いずれも有限だという点にあります。

有限である以上「誰がどれだけ取るか」という分配の問題が必ず発生します。

結婚制度は配偶者選択のルールを定め、経済システムは財の分け方を調整し、政治制度は権力の配分を決めます。

社会とは、限られたパイをどう切り分けるかを決める「巨大な調整機関」だともいえるでしょう。

同じようにマルクス主義においても、この稀少性と分配の問題を出発点としています。

限られた資源をめぐって階級同士が対立する構造こそ、マルクスが注目した歴史の原動力でした。

二つの解決策:分け方か、増やすか

稀少性がもたらす争いをどう解決するか。方法は大きく二つに分かれます。

第一の方法は、限られたパイを公平に切り分ける工夫です。

狩猟採集社会や小規模な共同体では、獲物や資源を平等に分配することで争いを防いできました。

人類学者が観察したアマゾンの部族には、獲物を氏族全員で分け合う習慣が残っています。

ただし、この方法には弱点があります。互いの顔が見える数十人規模のコミュニティでは機能しても、見知らぬ他人と分け合う大規模社会では不満が生じやすくなります。

現代の税金をめぐる議論にも通じるジレンマといえるでしょう。

第二の方法は、パイ自体を大きくすることです。

農業革命は食料生産量を増やし、より多くの人口を養えるようになりました。産業革命は工場生産によって物資を豊かにし、IT革命は情報の複製コストをほぼゼロにしています。

奪い合いではなく、全体を増やすことで争いの余地を減らす発想です。

マルクスやアダム・スミスも、人々がより人間らしく暮らすための条件として「生産力の向上」を重視しました。

他者の取り分を奪わなくても、全員が前より豊かになれる余地をつくること。パイの拡大こそが、社会の根本的な目標だと両者は考えたのです。

パイの論理:成長がもたらす恩恵

パイを数字で表したものが国内総生産(GDP)です。GDPとは一定期間に国内で生み出された付加価値の合計であり、これを人口で割れば一人当たりの所得水準がおおよそわかります。

GDPが成長すれば、平均的な生活水準も引き上げられやすくなるという関係です。

この発想を「パイの論理」と呼びましょう。分け方が多少不平等でも、パイが十分に大きくなれば多くの人がそれなりの取り分を得られるという考え方です。

たとえば最貧困層が常に全体の10%しか受け取れないとしても、GDPが100から1000に増えれば、その人たちの取り分も10から100へと増加します。

「どう分けるか」以前に「まずパイを大きくする」ことが重視される理由がここにあります。

反対にパイが小さいままの社会では話が違ってきます。Aさんの取り分を増やそうとすれば、Bさんの取り分を削るほかありません。

誰かが得をすれば別の誰かが損をする「奪い合い」の構造です。限られたパイをめぐって階級どうしが競い合うかぎり、マルクスは社会の緊張は解消されないと考えました。

資本主義への評価:功績と限界

資本主義とは、民間の企業同士が自由に競争しながら財やサービスを生産し、分配する仕組みです。この仕組みが広がったことで、人類は初めて大規模に「パイ」を拡大できるようになりました。

マルクスは資本主義がもたらす経済成長を高く評価しています。生産力の飛躍的な向上は、資本主義の明白な功績でした。

しかし同時に、資本主義には構造的な限界があるとも指摘しました。巨大化した生産力を、バラバラの民間企業の判断だけで調整するのは困難です。

その結果、不況や恐慌が周期的に発生し、大量の失業者が生まれます。

そこで登場するのが社会主義という構想でした。企業を社会全体の所有に移し、競争まかせではなく計画的に生産を調整する体制です。景気の波に振り回されず、安定してパイを拡大できると期待されました。

マルクスの理想像とは?:労働からの解放

マルクスがより重視したのは、生産力の飛躍がもたらす労働時間の短縮でした。技術が進歩すれば、生産工程は機械やコンピュータに置き換わっていきます。少ない労働時間で多くの財を生み出せるようになり、人々の生活は豊かになると同時に、自由な時間も増えていく。

単純な数字で考えてみましょう。10人が1日8時間働いて100の財をつくる社会では、一人当たりの取り分は10にとどまります。

技術が進歩して同じ人数で1000の財をつくれるようになれば、取り分は100に増えます。

さらに労働時間を半分の4時間に減らしても500の財を生産できるなら、一人当たり50を受け取れる計算になります。

働く時間は減っているのに、生活水準は上がっています。

技術革新がさらに進めば、月にわずかしか働かなくても生活に必要なものが足りる社会も想像できます。

「豊かさ」と「ひま」を両立させた状態、これこそマルクスが思い描いた理想の一つでした。

社会主義への道筋:なぜ資本主義の成熟が必要か

ここでマルクス主義の重要な論点が浮かび上がります。社会主義は、資本主義の発展を経て初めて実現可能になるという考え方です。

マルクス主義の論理はこうです。

資本主義の発展は経済全体の富を増やし、労働者の所得も向上させます。生活が豊かになれば教育を受ける余裕が生まれ、知的な労働者階級が育っていきます。

この成熟した労働者こそが、次の社会主義社会を担う主体となる。資本主義による市民社会の成熟が、社会主義への移行を可能にするという発展段階論です。

したがってマルクスは、後進国ではまず資本主義を発展させる必要があると考えていました。資本主義の段階を経ずに社会主義へ移行することは、理論上ありえない飛躍だったのです。

結論:ロシア革命という逆説

ここまでの議論を踏まえれば、冒頭で触れた「マルクスに反した革命」という評価の意味が見えてきます。

当時のマルクス主義者から見ても、ロシアは資本主義すら確立していない後進国でした。

工業化は遅れ、農村には封建的な土地制度が残り、教育を受けた労働者階級も十分に育っていませんでした。マルクス主義の理論に従えば、このような国で社会主義革命が起こるはずがなかったのです。

ところが1917年、そのロシアで予期せぬ革命が起こりました。マルクスの理論が想定した発展段階を飛び越えた出来事です。

この逆説はこのあと続く社会主義運動に大きな影響を与えることになります。資本主義の成熟を経ずに誕生した社会主義国家は、マルクスが描いた理想とはかなり異なる道を歩むことになったからです。

20世紀を規定した共産主義という実験は、その出発点において、すでに理論からの逸脱をはらんでいました。

レーニンを理解するためのオススメの書籍

マルクス(2016)『資本論 第一部草稿』(森田成也訳)光文社

著者
["マルクス", "森田 成也"]
出版日

本書は、カール・マルクスの代表作「資本論」の初期草稿です。本書は「資本論」第一部「資本の生産過程」に相当する部分の原型となった草稿集です。

本書では、資本主義の根幹を成す資本家による労働者の搾取、剰余価値の獲得といったメカニズムが詳細に分析されています。マルクスは資本主義経済の仕組みを科学的に解明し、資本家と労働者の対立関係を明らかにしています。

「資本論」の内容を深く理解したい人にとって、本書は不可欠の入門書と言えます。マルクスの資本主義批判の原点に迫ることができる貴重な文献です。資本主義と労働を考える上での基本文献として、ぜひ読んでみることをオススメします。

トロツキー(2007)『レーニン』(森田成也訳)光文社

著者
["レフ・トロツキー", "森田 成也"]
出版日

本書はトロツキーが1924年に書いた伝記で、ロシア革命の指導者ウラジーミル・レーニンの生涯を描いたものです。

トロツキーはレーニンの親友かつ同志でしたが、のちに考え方の違いから対立することになります。そのため、レーニンに対するトロツキーの複雑な思いが反映された伝記になっています。

レーニンの政治家としての多面的な人格、ロシア革命やソ連建国の舞台裏が描かれており、当時の状況を知る上で重要な書と言えます。マルクス主義の歴史を学ぶ際には必読の一冊です。

猪木正道(2020)『ロシア革命史 社会思想史的研究』KADOKAWA

著者
猪木 正道
出版日

なぜ後進国であるロシアで社会主義革命が成功したのかを、第一次世界大戦下のロシア情勢から説明した画期的な書籍です。

マルクス主義は、社会主義革命が先進資本主義国で起きると考えていました。しかし1917年、ロシアで革命が成功します。著者の猪木氏は「戦争で疲弊したロシアの反戦世論(厭戦気分)が決定的だった」と分析しています。

社会状況次第で後進国でも革命が成立しうることを示し、マルクス主義の「発展段階説」の限界を浮き彫りにしたのが本書です。ロシア革命の意義を考える際、ぜひ参考にするべき一冊といえるでしょう。

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