『このホラーがすごい!2024』も刊行され、最近盛り上がりを見せているホラー小説・漫画界隈。永椎晃平『スケアリー・キャンパス・カレッジ・ユニバーシティ』は、ホラーファンを語るならぜひ押さえてほしい全8巻完結済みの傑作ホラー漫画。 今回はおバカで単純なちょろかわヒロイン・千嵐まひなと大学の怪異専門処理班・間久部薫、凸凹男女バディの活躍が痛快な本作の見所を、ネタバレ込みでご紹介していきます。
大学が新学期を迎え皆が浮足立っていたある日……サークルの新歓コンパに参加した花の一年生・千嵐まひなは、居酒屋で相席したキレイ目女子・黒肥地に、このサークルが悪名高いヤリサーだと知らされます。
強引に口説いてくる先輩を振り切って非常階段に逃げてきた彼女に声をかけたのは、同サークル3年の爽やかイケメン・藤宮。藤宮と意気投合したまひなは「二人で静かな所に行かない?」と誘われ、嬉々として付いていきます。
甘い予想を裏切り、そこは荒れ果てた廃墟でした。
(犯されるのでは……!?)と早合点で慄くまひなに向かい、藤宮は「幽霊を見てみたいんだ!」と笑顔で宣言。何の取り柄もない人間と自らを卑下する彼は、幽霊と接触することを一種のステータスと考えていたのです。
行きがかり上断れず、心霊スポットでの肝試しに付き合うはめになったまひな。
藤宮が収集した情報によると、工場内を走り回る子供の霊や哀しげに啜り泣く女性の霊が目撃されているそうですが、もとより霊感がない彼女は半信半疑で生返事しかできません。
その直後……LINEを聞かれ振り向いたまひなは、奇行種の巨人よろしく手足を不規則に振り乱し、こっちに駆けてくる全裸男性の大群を目撃。
全体の輪郭が不気味に歪んだ男たちは、揃いも揃って卑猥なフィンガーサインをし、「しずかなところにいこうよ~~」と藤宮の言葉をまねていました。
以来まひなは頻繁に幻覚を見、行く先々で異形の霊に付き纏われるように。挙句の果てに夢で見知らぬ男たちに犯され、バックの中の私物までズタズタに切り裂かれ、心身ともに限界を迎えます。
そんなまひなに学生課の職員は「C棟4階の端 間久部薫を訪ねなさい。力になってくれる」と助言。被禍証明書を持ってその部屋を訪れたまひなが出会ったのは、見た目半グレな怪異の専門家・間久部薫でした。
ーー登場人物紹介ーー
ーーキーワードーー
ーー評価ーー(☆5満点)
- 著者
- 永椎 晃平
- 出版日
永椎晃平『スケアリー・キャンパス・カレッジ・ユニバーシティ』は週刊ヤングマガジンで2022年から2024年まで連載されていました。単行本は全8巻完結済み。
本作の見所はセクシーなサービスシーンと本格的ホラー描写の融合したストーリー。主人公の千嵐まひなは頭がお花畑なアホの子で、キャンパスライフに胸ときめかせて大学に入った矢先、厄介な怪異に取り憑かれてしまいます。
そんな彼女とバディを組んで調査に乗り出すのが被禍処理対策課所属の退魔師・間久部薫。
見た目は刺青の主張が激しい黒タンクトップの半グレ、中身は敬語喋りがデフォルトの真面目な好青年。ドジでおっちょこちょいなまひなを案じ、何かと危なっかしい彼女を守る為、文字通り寿命を削って走り回ります。
まひなもまひなでへこたれず、バレー部万年補欠のド根性で数々の難局を乗り切るうち、間久部すら一目置くメンタルの図太さを獲得。
化け物人間問わず理不尽なハラスメントには「ノー!」を突き付け、その痛快な啖呵でもって怪異にたぶらかされた関係者を正気に戻し、強く逞しく成長していきました。
恩師を失った間久部の過去を知り彼の力になりたいと願うまひな、徐々にまひなのポジティブさに感化されていく間久部……ふたりが育む絆と信頼、微妙な距離感が尊い!
7巻収録の学園祭編では、ミスコンに出場したまひながステージ上で怪異と対決。
豚一頭を丸呑みにするパフォーマンスで会場を凍り付かせた怪異に「どうしたの!?何もやらないの!?できないの!?何もできないのに何故ここに上がってきた!?場違いな女!!恥知らず女!!!!図々しいッ!!何の価値も無いッ!!!!死になさい!!死ね!!」とこてんぱんに罵倒された結果、「うるせ~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!」とマイクのボリュームMAXでブチギレ、以下のラップを即興で披露します。
應陽のミスコン迷い込んだバケモン バカデカい顔と振りかざす態度 一番気取りのいけ好かないプライド 食われた豚が可哀想三元豚(中略) ここにいる皆努力している プライドをかけて戦いに来てる こんな私も必死にあがいてる 大島てるに載る家に住んでる 誰もが何者かなりたくて進んだ モラトリアムには意味があるんだ そこにズルやごまかしいらないんだ トぶ力は自力だCheck it out キャンパス?カレッジ?ユニバーシティ?英語でなんていうかわかりません 大学にアンタはお呼びじゃないぜ とっとと帰りな勝ちは私だ!!
エゴのかたまりの化け物をキレッキレのラップで論破する、鮮やかなタイトル回収が最高に胸熱でした……!
- 著者
- 永椎 晃平
- 出版日
第二の見所はぶっ飛んだオリジナル怪異の造形。
くねくね・八尺様・コトリバコなど、もはや使い古された感のある「洒落怖」ルーツの怪異に阿らず、現代の学生が心に飼っている悪意や欲望を先鋭的に視覚化したクリーチャーデザインは、斬新なオリジナリティーに満ち溢れていました。
まひなが最初に体験した怪異の正体はヤリサーの先輩たちの生霊でした。股間を丸出しにした男の霊が奇怪な動きで殺到してくる見開きはインパクト大、強烈なおぞましさを感じます。
以降もコンビニバイト・リゾート合宿・美容整形・ソシャゲ課金・パチンコ依存・パパ活・妊娠と、学生にとって身近な出来事に纏わる、戦慄のエピソードが描かれていきます。
特に共感したのが長期休み明けのまひなが無気力症候群に陥る回で、罪悪感を覚えながらずるずるサボってしまうどうしようもなさが大変リアル。
キャンパスライフの死角に仕掛けられた落とし穴に嵌まり、「こんなはずじゃなかった……」と悔やみながら脱落していく学生たち。その醜態に焦点を当てた反面教師カタログこそ『スケアリー・キャンパス・カレッジ・ユニバーシティ』なのです。
彼らが落とし穴に嵌まる理由は様々。何者かになりたいと焦がれた藤宮、パパ活で荒稼ぎする黒肥地、実家を勘当されたネネ。いずれも現状に不満を持ち、前途を模索する心の隙間に付け入られました。
自惚れ・劣等感・射幸心……世間知らずな若者たちを唆し道を誤らせるのが怪異の特技なら、それを未然に防ぐのが被禍処理対策課の仕事。間久部とまひなが対峙する怪異は、おしなべて学生たちの欲求不満の産物でもあり、それに相応しいグロテスクなビジュアルを備えていました。
学生課を介しセーフティーネットと繋がったまひなやネネが命拾いしたのと対照的に、完全に取り込まれ身を滅ぼした学生たちの顛末が一話完結の形で差し挟まれる構成も後味悪さを増す要因。
さらに恐ろしいのが應陽学園大学の秘密……在学中に相当数の学生が死亡するにもかかわらず各年度の入学生と卒業生の数が合致するのは、過去に死んだ生徒たちが補充されているから。
結果的に何十人何百人ドロップアウトしても数字の上で辻褄合わせが行われる、それが應陽学園大学の闇深システムでした。
毎日ゼミや教室で顔を合わせていた人間がいなくなっても「関係ない」「よくあること」と気に留めず、惰性で日々を繰り返していく……その異常さに気付かない鈍感さこそ、怪異を生み落とす認知の歪みと言えるのではないでしょうか?
- 著者
- 永椎 晃平
- 出版日
永椎晃平『スケアリー・キャンパス・カレッジ・ユニバーシティ』を読んだ人には櫛木理宇『ホーンテッド・キャンパス』をおすすめします。
本作は雪越大学オカルト研究会の個性派メンバーたちが、サークルに持ち込まれた怪異関連のトラブルを解決していくホラーミステリー。物心付いた頃から霊が見える主人公・八神森司と、高校時代からの後輩・灘こよみのじれったい恋模様も気になります。
ホラー研究会会長の麟太郎と従弟の泉水の絆にもキュンキュンしました。
櫛木理宇おすすめ作品5選!人気のホラー小説「ホーンテッド・キャンパス」他
映画化された人気ホラー小説『ホーンテッド・キャンパス』の生みの親、櫛木理宇。独特の人間模様の描き方やキャッチーな設定が多くの読者に愛される人気作家です。今回は櫛木理宇の魅力が伝わるおすすめ小説をご紹介します。
- 著者
- 櫛木 理宇
- 出版日
- 2012-10-25
- 著者
- ["吉田宙丸", "櫛木 理宇", "吉田宙丸", "櫛木 理宇", "ヤマウチ シズ"]
- 出版日
続いておすすめするのは近藤憲一『ダークギャザリング』。ジャンプスクエアで連載中の人気ホラー漫画で単行本は既刊16巻、2023年にアニメ化されました。
過去の出来事がきっかけで右手に呪いを受けた大学生・螢多朗とヤンデレ幼馴染・詠子が、事故現場から母の霊を拉致した仇を捜す幼女・夜宵と共に、悪霊の親玉・空亡に立ち向かいます。
学生のトレンドを取り入れた『スケアリー・キャンパス・カレッジ・ユニバーシティ』とはまた異なる、禍々しいホラー描写に注目してください。
フィジカル霊能幼女の全国心霊スポット行脚 近藤憲一「ダークギャザリング」ネタバレあらすじレビュー
2023年夏にテレビアニメ化されたジャンプSQ連載中のホラー漫画、「ダークギャザリング」。今回は背筋も凍る本格的ホラー描写と、悪霊の相性で勝敗が決まる斬新な趣向が話題の本作の魅力を、徹底的に掘り下げながらあらすじを紹介していきます。
- 著者
- 近藤 憲一
- 出版日