フィジカル霊能幼女の全国心霊スポット行脚 近藤憲一「ダークギャザリング」ネタバレあらすじレビュー

更新:2023.10.29

2023年夏にテレビアニメ化されたジャンプSQ連載中のホラー漫画、「ダークギャザリング」。今回は背筋も凍る本格的ホラー描写と、悪霊の相性で勝敗が決まる斬新な趣向が話題の本作の魅力を、徹底的に掘り下げながらあらすじを紹介していきます。

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近藤憲一「ダークギャザリング」の簡単なあらすじと登場人物紹介(ネタバレあり)

幻燈河螢多朗は成績優秀な大学生。生来霊を引き寄せやすい体質で苦労しており、中学生の時に幼馴染の寶月詠子に霊障を負わせてしまったトラウマから、ひきこもっていた過去を持ちます。

大学入学を機に家庭教師のバイトを始めた螢多朗は、詠子の家に居候している親戚の少女・寶月夜宵と引き合わされ、彼女の指導を担当することになります。夜宵はずば抜けたIQを叩き出した天才少女であると同時に、悪名高い心霊スポットを巡り、ぬいぐるみの形代に悪霊を封じて回る霊能者でもありました。

夜宵が悪霊をコレクションするのは、二年前に交通事故で命を落とし、目の前で空亡にさらわれてしまった母を助け出す為。夜宵は自分の部屋で蟲毒を行い、他の霊を喰らい尽くして生き残った強力な霊―通称「卒業生」を、強力な手札として使役していたのです。

霊を誘き寄せる囮として見込まれ、心霊スポットに連れ回されるうちに、螢多朗と夜宵の間にはバディの絆が芽生えていきます。

そんなある日、螢多朗は二人目の生徒・神代愛依と出会います。

愛依はニ十歳で死に、一族に憑依した神の花嫁として迎えられる宿命を背負っていました。その事情を知った螢多朗たちは、全国各地の最恐心霊スポットで卒業生相当の悪霊を集め、愛依を苦しめる神霊を倒すべく行動を開始します。

  • 幻燈河螢多朗 真面目で優しい大学生。夜宵の家庭教師。霊を引き寄せやすい体質のせいで苦労している。中学生の時に霊障を受け右手の神経が表在化し、常に手袋を着用している。
  • 寶月詠子 螢多朗の隣の家に住む幼馴染。彼を「螢くん」と呼んで慕っている。無類のオカルトマニアでオカルトを学問している。夜宵の目的にも協力的。機械に強く盗聴盗撮もお手の物。趣味は螢多朗のストーキング。中学生の時に霊障を負い左手の神経が可視化してしまった為、手袋を嵌めている。
  • 寶月夜宵 詠子のいとこにあたる小学三年生の少女。螢多朗の教え子。交通事故で両親を亡くし、詠子の家に引き取られた。フィジカル特化の霊能者で、ぬいぐるみに封じた悪霊を使役し敵を倒す。両目に髑髏を宿す重瞳で、生者が暮らす現世と亡者が彷徨する幽世を映す。母親を拉致した謎の霊、空亡を追っている。
  • 神代愛依 京都出身の中学生。陽気なギャル。ニ十歳の誕生日に命を落とし、神の花嫁となる宿命を背負っている。神霊の憑依中は両目に星型の紋様が浮かぶ。
  • 空亡 夜宵の母を連れ去り、彼女を母胎としてこの世に生まれ出ようとしている謎多き存在。その性質から百鬼夜行のラストを飾る妖怪と同じ、「空亡」の名が付けられた。本作のラスボス。
著者
近藤 憲一
出版日

醍醐味は悪霊ポケモンバトル!相性で勝敗が決まる

「ダークギャザリング」の作者は近藤憲一。2019年よりジャンプSQで連載スタートし、2023年時点で既刊13巻まで発売されています。2023年夏にはテレビアニメ化されました。近藤憲一のSNSでは、読み切り版と連載版の第一話が無料で読めます。

ちなみにアニメOPは二種あり、二期では夜宵と共闘する卒業生たちが紹介されます。

アニメのキャッチコピーは「最高にクレイジーな新感覚オカルトホラー」

原作序盤は2~3話の短い話数で完結するエピソード中心。螢多朗・夜宵・詠子が心霊スポットに赴き、恐怖体験をするのが主でした。しかし四巻、神代愛依が登場し、夜宵の手持ち最強勢力・卒業生に焦点が当たり始めた頃からギア全開で面白くなります。

以下、夜宵が従える卒業生の紹介です。卒業生とは夜宵が部屋に集めた悪霊100体が共食いを行い、生き残った頂点をさします。共通するのは近隣五軒まで悪影響を与える強力な霊であること。手元に置くのを危険視され、別々の心霊スポットに隔離されていました。

卒業生には各々の本質に根差す「諱」が与えられ、召喚時の「言霊」が開戦のトリガーとなります。

  • 邪経文大僧正「弔って 邪経文大僧正」の言霊で顕現。袈裟を纏った僧侶の姿をし、聞いたものを軒並み地獄送りにする、邪悪な経文を読む。首を落とされても攻撃は止まず、死んだ動物や他者の声帯を乗っ取って読経を続行。形代はクマのぬいぐるみ。
  • 千魂華厳自刃童子「絶って 千魂華厳自刃童子」の言霊で顕現。外見は白装束の年若い少女。帯を使った遠隔攻撃、首に赤い線を刻んで徐々に切り離す呪いを行使。周囲に分霊を飛ばすことができる。形代はゾウのぬいぐるみ。
  • 殉国禁獄鬼軍曹「散華して 殉国禁獄鬼軍曹」の言霊で顕現。生前は南方戦線で活躍した日本兵。不死身と称されるほど高い回復力を誇り、三段階の陣を広げる呪いで敵に干渉。陣に取り込まれた者は軍曹が戦時中に体験した傷病・飢餓・睡魔を被り、永遠に苦しみ続ける。形代は犬のぬいぐるみ。
  • 魄啜繚乱弟切花魁「煌めいて 魄啜繚乱弟切花魁」の言霊で顕現。生前は妹分の新造に裏切られ、梅毒を患った果てに廓に火を放った花魁。自分を陥れた者への憎しみと怨みから若さや美に執着する悪霊に変貌した。敵の命を啜って力に変え、呪いの強さと種類を拡張していく。形代はキツネのぬいぐるみ。
  • 月蝕尽絶黒阿修羅「盈して 月蝕尽絶黒阿修羅」の言霊で顕現。虐待死した男児の霊。継母に実父を殺害された上、その死体から作った肉団子を食べさせられた過去がある。スケッチブックを介した呪いと捕食による強化を使い、敵の体を肉団子に変換する。形代はライオンのぬいぐるみ。

 

他、卒業生相当の戦力として「過渡期の御霊」と「斎弄晒レ頭」、七体の地藏を共食いさせて最後に生き残った「超越地蔵」(卒業生よりやや強い)が挙げられます。

タイトルのダークギャザリングは夜宵が開発した「悪霊捕縛(蟲毒) / ダークギャザリング」システムをさします。

雑魚を全滅に追い込んで部屋から巣立った悪霊を「卒業生」、地蔵専用の蟲毒部屋を「特殊学級」と呼ぶなど、ブラックユーモアを孕むネーミングセンスも本作の魅力

「ダークギャザリング」を語る上で外せないのは、霊同士の相性が勝負の趨勢を決するフレキシブルなバトルの面白さ。

H城址のエピソードでは、相手の首を徐々に切り離す呪いを掛ける千魂華厳自刃童子と、聞いた者全てを地獄に引きずり込む経文の紡ぎ手、邪経文大僧正が戦いました。童子の呪いは遅効性な為、結果は僧正の勝利。

対する旧旧Fトンネルの場合は、フィジカルアタックが得意な斎弄晒レ頭殉国禁獄鬼軍曹を差し向けます。軍曹の呪いは即効性があるので、戦いを有利に進めることができました。

単純に「強い霊が圧勝する」と言いきれない意外性こそ、本作が悪霊ポケモンバトルと呼ばれる所以。卒業生よりランクが下がる霊も、適材適所に配置すれば想定を遥かに上回るポテンシャルを発揮するのです。

著者
近藤 憲一
出版日

「ダークギャザリング」に登場した実在の心霊スポット紹介

「ダークギャザリング」には実在の心霊スポットが多数登場します。作者が実際に現地に足を運んで取材している為、背景の再現度は非常に高く、今まさに肝試しをしているような臨場感が味わえます。

以下、「ダークギャザリング」に登場する心霊スポット一覧です。

H市の電話ボックス

東京都八王子市八王子霊園入口脇の公衆電話。夜中に電話ボックス内で通話していると霊が出現する他、深夜に近くで遊ぶ女の子の霊が目撃されています。ホラーゲーム「死印」の「くちゃら花嫁」もこの電話ボックスの話をモデルにしています。

Sトンネル

東京都渋谷区千駄ヶ谷の千駄ヶ谷トンネル。墓地の下を掘り抜いた立地が影響し、昔から霊現象が絶えず、奇妙な事故が相次ぐ場所として知られています。トンネル内には血まみれの女性の霊が現れるそうです。

H城址

東京都八王子市の八王子城址。戦国時代は北条氏照の城がありました。織田信長の小田原征伐に伴い、御主殿の滝で婦女子が自刃した悲劇がよく知られています。千魂華厳自刃童子の諱は華厳ヶ谷に庵を結んだ僧侶、華厳菩薩妙行が由来と思われます。現在は史跡を見学できます。

旧旧Fトンネル

東京都青梅市吹上トンネル。清水崇監督の映画「犬鳴村」のロケ地としても有名な場所です。青梅市の黒沢地区と成木地区を都道53号で結ぶ現吹上トンネルの他に、1904年に竣工された手掘りレンガ造りの旧旧吹上トンネル、1953年に竣工された旧吹上トンネルが存在。殺人現場になった、白い和服の女性(被害者)の霊が現れる、幼児の泣き声が響き渡るなどの霊現象が報告されています。

旧I水門

東京都北区の岩淵水門。明治時代に建造された旧水門は、特徴的な赤色から赤水門とも呼ばれています。昔から水害が起こるたび大量の水死体が流れ着く場所であり、河川敷の公園に真っ黒な人影が出る、川面にバラバラの手足が浮かぶなどの霊現象が報告されています。

Aダム

京都府宇治市の天ケ瀬ダム。飛び下り自殺の名所であり、京都有数の心霊スポットとして知られています。上流から流れ着いた水死体がダム湖で目撃されることもあるとか。

F公園

京都府京都市北区船岡山公園。山腹に建勲神社が存在し、山頂は五山の送り火がよく見える人気スポットになっています。応仁の乱の合戦場跡であり、前身は京都三大風葬地・蓮台野だった為、昔から幽霊の目撃談が絶えません。昭和59年には警官射殺事件が発生。首吊り自殺も多いです。誰もいないのに足音だけが聞こえる霊現象が有名。

首塚大明神

京都府京都市西京区首塚大明神。ご神木は落雷で黒焦げになった木。酒呑童子は平安時代に都を荒らし回った鬼の首領ですが、源頼光と彼が率いる四天王に討ち取られた際、「首から上の傷病を癒す」と約束して神社に祀られました。赤い服の女性の霊が目撃される場所です。

平将門の首塚

東京都千代田区大手町にある平将門の首塚、別名将門塚。京都に持ち去られた将門の首が、飛んできた場所だと語り継がれています。関東大震災後の仮庁舎設立とGHQ主導の区画整理の際、工事中の事故や関係者の変死が相次いだことから、不用意に動かせば祟りを成すとして恐れられています。

これ以外にも最恐心霊スポットが続々登場します。オカルトマニアは必見。

著者
近藤 憲一
出版日

「ダークギャザリング」を読んだ人におすすめの本

近藤憲一「ダークギャザリング」を読んだ人には川口まどか「死と彼女とぼく」をおすすめします。

「死と彼女とぼく」は死者が見える孤独な少女・時野ゆかりと、幽霊や動植物の声を聞く明朗闊達な転校生・松実優作が、さまよい続ける死者の助けになるべく奔走するホラー漫画。

悪霊のグロテスクな造形に反し、中身はトラウマの克服を主題にした王道的ヒューマンドラマ。丁寧に描かれた登場人物の心情や人間関係の機微が、切ない余韻を残します。

著者
川口 まどか
出版日

続いておすすめするのはひよどり祥子「死人の声をきくがよい」

死んだ人間が見える高校生・岸田純は、行方不明の幼なじみ・早川涼子と再会するも、彼女は幽霊になっており……。生者の狂気と死者の怨念が交わる怪奇事件の数々と、涼子の妖しい魅力に取り憑かれます。

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※注意 今回ご紹介する作品は非常に刺激の強いものが多くあります。スプラッタやグロテスクに耐性のない方はご注意ください。この警告に同意頂ける方は、夏に向けておすすめしたいスプラッタホラー漫画5作品をどうぞご覧ください。

著者
ひよどり祥子
出版日
2012-08-20
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