地獄を出禁にされた男が現代社会の不条理を斬る!江口夏実『出禁のモグラ』ネタバレレビュー

更新:2026.3.25

2021年19号からモーニングで連載スタートし、2025年にはアニメもされた江口夏実のホラーギャグ漫画『出禁のモグラ』。大ヒットした前作『鬼灯の冷徹』とは一味違い、今作は現代日本を舞台に訳あり男と問題だらけの人間たちのドラマを描きます。 今回はそんな『出禁のモグラ』の読めば読むほど癖になる魅力とあらすじを、ネタバレありでご紹介していきたいと思います。最後までお付き合いください。

都内在住の小説漫画好きwebライター。特にホラー・ミステリー・ハードボイルド・ヒューマンドラマを愛する。 好きな作家は浅田次郎・恩田陸・東山彰良・いしいしんじその他。 YouTubeチャンネルのシナリオや読書メディアで執筆中。お仕事のご依頼ございましたらTwitterのDMからどうぞ。
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『出禁のモグラ』のあらすじと登場人物紹介(ネタバレあり)

ある日の飲み会の帰り道。

大学生の真木栗顕とサークル仲間の桐原八重子は、上空から落ちてきた広辞苑が頭に当たり、瀕死の大怪我をした男・モグラと出会います。広辞苑の持ち主がサークルの先輩だったことから責任を感じ、何故か逃走を図るモグラを追いかけた二は、抽斗通りと呼ばれる摩訶不思議な横丁に迷い込んでしまいました。

そこでモグラとのっぴきならぬ縁ができた真木と八重子は、彼が訳あってあの世を出禁にされていること、故に年をとらず不死身であることを聞かされ驚愕。

モグラがあの世へ「帰る」ためには道しるべとなる鬼火をカンテラに集めねばならないらしく、回収の協力を頼まれた真木と八重子は、人と人ならざるものどもが関わる怪事件に巻き込まれていくのでした。

登場人物紹介

モグラ / 百暗 桃弓木(もぐら ももゆき)声 - 中村悠一

年齢不詳の男。自称「仙人」。抽斗通りの銭湯「もぐら湯」を営みながら食玩サンプル作りで副収入を得る。その正体は地獄を出禁にされた日本古来の神・「オオカムヅミの弓」。あの世へ帰るために必要な鬼火をカンテラに集めているものの、生来のお人好しな性格が災いし、瀕死の人間に分け与えてしまうせいでなかなか溜まらない。

真木 栗顕(まぎ くりあき)声 - 大河元気

八目大学文芸学科3年生。ボサボサ髪に眼鏡の地味な青年。モグラと交流するうちに幽霊を見る力に目覚め、レッサーパンダの動物霊マギーくんに憑依される。リア充イケメンの弟に密かなコンプレックスを抱く。理路整然とした考え方をする現実主義者で、モグラの異常性を早くから見抜く。

桐原 八重子(きりはら やえこ)声 - 藤井ゆきよ

真木と同じ大学に在籍する学生。無類のレッサーパンダマニアで、レッサーパンダに激似の真木を気に入っている。実は曽祖父がモグラの戦友で、彼に命を救われていた。故郷は人魚伝説が語り継がれる離島。

犬飼 詩魚(いぬかい しお)声 - 藤田茜

パワフルでフィジカルな高校1年生。八重子と同じ喫茶店でバイトしている。とんでもない大食いで常に何かを食べているが、これは霊に憑かれやすい体質な為、そうしないとエネルギーを吸われてしまうことが関係している。フィットネスジムや警備会社を経営する体育会系一族の出。家族全員能筋。

猫附 梗史郎(ねこづく きょうしろう)声 - 村瀬歩

高校3年生。詩魚の2年先輩。化け猫ナベシマを使役する拝み屋見習い。極端なやせぎすな上無愛想で口も悪いが、一族の存続をモグラに頼らざるを得ない現実にいらだち、その因縁を断ち切る方法を模索するなど自立心旺盛な一面がある。

猫附 藤史郎(ねこづく とうしろう)声 - 武内駿輔

梗史郎の父親。幻想小説作家と八目大学の教授を兼ねる真木たちの恩師。代々化け猫に憑かれた猫附家の現当主であり、裏ではVIPの依頼を受け拝み屋の仕事もこなす。モグラとは曽祖父の代からの腐れ縁でお互い顔見知り。見かけによらず子煩悩な愛妻家。

猫附 杏子(ねこづく きょうこ)声 - 種﨑敦美

藤史郎の妻にして梗史郎の母。常に明るく朗らかな愛情深い女性。趣味は料理とお菓子作りで、モグラたちが遊びにくるたび大量のごちそうを振る舞っている。夫と息子が大好き。対面した人間の未来を予知する能力を持ち、初めて猫附家を訪ねた詩魚に何かを感じたらしいが詳細は不明。

毒と風刺の利いたキレッキレの会話劇に抱腹絶倒

江口夏実『出禁のモグラ』は2021年モーニングにてスタート。公式キャッチコピーは「出禁系怪奇劇」で、読んで字のごとく地獄を出禁にされたモグラのドタバタを、コミカルなタッチで描きます。なんなら記念すべき第1話、1コマ目から死にかけているのでインパクトは大。

前作『鬼灯の冷徹』との最大の違いは現代日本を舞台にしていること、作中の時間がきちんと経過していること。最新12巻では初登場時に高校3年生だった梗史郎がめでたく卒業し八目大学に進学、晴れて真木たちの後輩になりました。他にも八重子の友人の森奏芽が上京し女装ウェイトレスのバイトを始めるなど、登場人物を取り巻く状況や環境がめまぐるしく移り変わっていきます。

このスピード感は『鬼灯の冷徹』にはなかった要素。SNSにコミットした令和のホラー漫画として価値観がアップデートされており、時代錯誤な古さや冗長な引き延ばしを感じることがありません。

サザエさん的マンネリ時空でわちゃわちゃするのが魅力な『鬼灯の冷徹』と異なり、『出禁のモグラ』は縦軸のストーリーがしっかり面白く、話が進むに連れエンタメとして奥行きが出てきます。2025年のアニメ化でファンの裾野が広がったのも記憶に新しいですね。

とはいえ『鬼灯の冷徹』から引き継がれた魅力は健在なので、その点はご安心を。舞台が現代日本になったぶん、時事ネタや社会風刺の切れ味は増しています。とりわけ個性的なキャラたちの掛け合いは安定した面白さを誇り、キレッキレの会話劇には抱腹絶倒!

ルッキズム・SNS依存・霊感商法・モラハラ夫・毒親による虐待と、現代社会の病理に切り込む長編は特に読みごたえたっぷりで、悪霊たちがそうなるに至った背景の闇深さには戦慄を禁じえません。はては男の娘やバ美肉転生VTuberまでカバーしているのですから、作者の守備範囲の広さに脱帽です。

著者
江口 夏実
出版日

スッキリ勧善懲悪にもっていかない、考えさせられる結末

ホラー漫画は後味が悪くてなんぼ、バッドエンドこそ至高。『出禁のモグラ』も例に漏れず、全エピソードがスッキリ大団円を迎えるわけではありません。因果応報と勧善懲悪はイコールではないのです。

それが最も顕著なのが単行本3巻~4巻に収録された、通称人魚編の締め方。

このエピソードは八重子の故郷の離島が舞台となり、モグラたちの活躍で島を支配する実業家一族の陰謀が暴かれていきます……が、安易に悪を裁いて罰して終わりにはなりません。

モグラたちが帰ったあと八重子の父は社長を弾劾せんと屋敷に押しかけた島民に対し、頭を冷やすように説きました。

何故?

誰かを村八分にして済ませたのではこれまでの繰り返しだから。本気で悪しき因習と不幸の連鎖を断ち切りたいなら、共同体全員が当事者意識を持ち、自らも加害者だった事実を省みなければなりません。

2巻収録の姉妹編はマヤ・ミヤ姉妹を巡る話。

大前提としてミヤが病んでしまった原因はマヤの葬式で「なんで可愛い姉の方が……」とこぼした叔父にあり、妹を純粋に愛していたマヤが、復讐したくなるのも無理ありません。故にYouTubeのスカっと系チャンネルなら、悪霊化したマヤが無神経な伯父に制裁を加え、めでたしめでたしで結ばれた可能性は大いにあります。

実際はどうでしょうか?マヤの復讐は土壇場でモグラに阻まれ、姉妹との対話を経た伯父は自らの失言を反省し、ミヤは「しかたないなあ」と笑ってそれを受け入れるのでした。

本作がただのホラー漫画で終わらないのは、登場人物の内面描写に清濁併せ呑むリアリティーを感じられるから。

悪人を懲らしめて気持ち良くなるだけで終わらず終わらせず、図らずも被害者に「許されてしまった」彼らが悩みながら更生していく過程を描くことで、周囲との関わり方次第でいくらでも変われる人間の可能性を示しています。

最新12巻ではモグラの宿敵・疫病神がインフルエンサーとなってセミナーを主催し、続々と信者を増やしていきます。性別不明の新キャラ・柿谷藍も登場し、波乱含みの物語の行方からますます目が離せません。

著者
江口 夏実
出版日

『出禁のモグラ』を読んだ人におすすめの本

江口夏実『出禁のモグラ』を読んだ人にはえろきうしろの正面カムイさん』をおすすめします。

本作はセックスで悪霊を昇天させるイケメン霊能者・カムイと女子高生助手のシヅカが、さまざまな怪異とバトルを繰り広げる話。

トイレの花子さん・姦姦蛇螺・くねくねと、洒落怖好きにはたまらない怪異たちが美(少)女化して登場するのも、オカルトマニアにとってはご褒美ですね。

一話に一回必ず全裸になる露出狂のカムイさんを筆頭に、少年誌ギリギリアウトなサービスショットも満載。2026年には待望のアニメ化も決定し、今後の展開への期待が高まります。

著者
["えろき", "コノシロ しんこ"]
出版日

続いておすすめするのは駒魔子オカルトジャーニー【閲覧注意】』。

干物女・杉山ノリコとヤクザの取り立て屋・浅井はコンビを組み、心霊映像でバズりを目指し配信活動を始めるものの、撮れ高を求めてとんだ先には高確率でおぞましい怪異が待ち受けており……。

怪異の描写はしっかり怖く、ノリコと浅井の掛け合いに笑える隠れた良作です。

著者
駒魔子
出版日
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