元電通プランナーが明かす、顧客の“建前”に騙されない、自ブランドが活用できるインサイト分析の基本

更新:2026.6.18

「アンケートで『欲しい』と言われた商品が、なぜ売れないのか?」――そんな企画担当者の悩みに元電通の戦略プランナーが答えます。実は、調査に回答するのは人間の「おりこうな人格」であり、本音(インサイト)とはズレがあるのです。この記事では『なぜ教科書通りのマーケティングはうまくいかないのか』から一部を抜粋・要約し、顧客の“建前”を見抜いて本当に売れる企画を導く現場の視点を解説します。(編)

LINE
著者
北村陽一郎
出版日

定性調査でインサイトが出にくい理由と、「二つの人格」

マーケティングの部署にいる方もそうでない方も、「調査」に関わったご経験があるという方は多いのではないでしょうか。「調査」には定性調査と定量調査がありますが、本書において、私は特に定性調査の難しさや、出てきた回答をどのように捉えればいいのかについて考えています。

定性調査の一つである「グループインタビュー」では、他の回答者からの同調圧力が働きます。また、調査に慣れている回答者が無意識に質問者の意図を先回りして、予定調和な回答をしてしまう傾向もあります。そもそも人間の行動の多くが無意識であり、本人がニーズを言語化できないケースも少なくありません。

本書を通じてお伝えしたいのは、一人の人間の中には大きく分けて、「おりこう」の人格と「ゆるい」人格があるということです。

車を購入するのは、理性的に判断する「おりこう」の人格です。それに対し、いつもダイエットに気をつけている人が「今日はカップ麺を食べたい気分」と思ってカップ麺を買うときは、「ゆるい」人格が購入しています。良い悪いではなく、人間には二つの人格があり、それぞれがモノを買うということです。

しかし、どちらの人格が買うモノの話なのかに関係なく、調査に答えるのは「おりこう」の人格です。自ブランドのカテゴリーが「ゆるい」人格が購入するものである場合には、ここに注意が必要です。

動画配信サービスが「どんなコンテンツを見たいか」という調査をすると「外国映画」や「ドキュメンタリー」という回答が多く出てきますが、実際にはよく見られているのは「アニメ」です。また、カップ麺の減塩ラーメンは、事前の需要調査で支持されたほどには売れないという話もあります。

「本音と建前」という分け方をすると、「外国映画」という回答は建前であり、ウソでもあるように思えてしまいますが、それは必ずしもウソではないと、私は思います。あくまでも、調査は「おりこう」の人格が答えるものであるだけで、「おりこう」の人格にとっては本当、本音なのではないでしょうか。ただ、動画配信サービスを見るときの人格が「ゆるい」人格であるだけです。

インサイト分析において調査はよく行われますが、調査にはこのようにさまざまな難しさがあります。出てきた回答をそのまま引用して報告する「過剰なデータ重視」に陥るのではなく、調査はあくまでもインサイトを考えるための有力な手段の一つに過ぎないと考えるべきではないでしょうか。

 

自ブランドに活用できるインサイトの考え方

調査をそのまま鵜吞みにするのは良くない、というのはイメージできることかと思います。それでは、どう考えればいいのでしょうか?

ここで、インサイトを探る目的について、考えてみましょう。

インサイトを考える目的は「競合の中での自ブランドのあり方とその先のターゲット設定をクリアに考えていくため」です。あまり浅いところで立ち止まっては、それを活用するところまで進めません。

おいしいものが食べたい。
たまにはおいしいものが食べたい。
たまにはおいしいものが食べたいけれど、一人で居酒屋は恥ずかしい。

「おいしいものが食べたい」はインサイトではない、とまでは言いませんが、おいしいものは世の中にたくさんありますので、これだけでは自ブランドへの活用が難しいです。

目的に近づくためには、生活者のより深い心理に踏み込む必要があります。有効な切り口として考えているのが、「気持ちの変化」と「規範」の二つです。

人間は飽きる生き物ですので、「いつもと違うちょっとした気持ちの変化を感じたい」という根源的な欲求があります。釣りやジェットコースターでもそうですが、時間によって変化する感情の動きを自社ブランドがどのように提供できるのか、という視点が重要になってくる場合があります。上記の例では「たまにはおいしいものが食べたい」が、この「気持ちの変化」にあたります。

また、人は欲求のままに生きているわけではなく、ほとんどの時間は「他者からどう見られたいか(見られたくないか)」という規範を強く意識して生きています。

ネスレのインスタントコーヒーの発売当初には、「簡単・安上がり」という訴求が当時の主婦層にとって「怠け者・だらしない」と思われていました。「簡単・安上がり」から「家族のために時間を使える」というメッセージに変更したことで、売上が大幅に向上した事例などを本書では紹介しています。この「手抜きと思われたくない」という心理は、現代の冷凍食品やシリアルなどの時短カテゴリーにも共通しています。

生活者の表層的な言動に惑わされず、その心の奥底にある本音や葛藤を考え、探り出すことが、プランニングの最も面白いところなのかもしれません。

 

著者からのメッセージ

現場の目線に立った、誰もが使える実践的な本にしたいという思いで、リアルにこだわって書いてみました。広告会社の人が、目の前の現実的な課題にどう向き合っているのか。いいものを、それが届くべき人に届ける仕事に奮闘しておられる方の役に立つような本になっていれば、これに勝る喜びはありません。

著者
北村陽一郎
出版日

 


マーケティングの本と聞くと「専門用語ばかりで難しそう……」と身構えてしまう方も多いかもしれません。しかし、今回ご紹介した『なぜ教科書通りのマーケティングはうまくいかないのか』は、今回ご紹介したカップ麺の例のように、思わず「へぇ!」と言いたくなるような面白いマーケティング事例が豊富に詰まっています。

専門用語の丸暗記ではなく、現場で本当に使える「人間の心理の見つめ方」を優しく教えてくれる一冊です。マーケティング初心者の方はもちろん、日々の企画や運営で行き詰まりを感じている方は、ぜひ手に取ってページをめくってみてください。現場の景色がガラリと変わるはずです!(編)

  • twitter
  • facebook
  • line
  • hatena
もっと見る もっと見る