ヒット作を産み出し続ける漫画界の奇才・浦沢直樹。その作品のほとんどが映画化やアニメ化などメディアミックスされています。そんな浦沢作品の中でも特におすすめしたい漫画を5つ紹介していきます。
主人公のケンヂはコンビニを営みながら失踪した姉の娘・カンナを養う平凡な毎日を送っていました。しかし、幼なじみのドンキーの死をきっかけにケンヂの周囲で次々と事件が起こり始めます。
その事件は「ともだち」と名乗る謎の人物が、幼い頃ケンヂたちが書いた「よげんの書」を元に起こしているもので……。
- 著者
- 浦沢 直樹
- 出版日
- 2016-01-29
本作の最大の謎は「ともだち」は誰なのか、ということです。「よげんの書」の内容を知っていることから幼なじみの誰かであることは間違いないのですが、それが誰かは終盤まで明かされません。ケンヂは幼少期の記憶から、「ともだち」が誰かを突き止めようとします。
このケンヂの幼少期の記憶の描写は、誰しも一度は胸に抱いたことがあるであろう未来への展望や夢について思い起こさせるもので、感情移入しやすいです。
未来(つまり現代)ではかつて自分たちが想像したヒーローや巨大ロボットが実際に現れ、世界は終末を迎えると「よげんの書」に書いたケンヂ。空想の中のものが実現される恐怖は荒唐無稽のようでどこかつリアリティーがあり、惹きつけられるものがあります。
続編の『21世紀少年』で物語は完結し、「ともだち」の正体も分かります。ぜひ最後まで読んで真相を確かめてください。
『20世紀少年』については<『20世紀少年』が名作たる5つの理由をネタバレ考察!登場人物、伏線以外も>で詳しく紹介しています。気になる方はぜひご覧ください。
外科医のテンマは病院に運び込まれた重体の少年ヨハンを助けるために、院長の命令を無視して手術を行い閑職に追いやられてしまいます。そんな中、院長と2人の医者が殺され、同じ日の夜に入院中だったヨハンと彼の双子の妹が失踪する事件が発生しました。
9年後、成長したヨハンと再会したテンマは彼が院長たちを殺害したのだと知りますが、事件を捜査していたルンゲ警部はテンマが犯人だと疑います。テンマは自分の無実を晴らすためにヨハンの行方を追い始めます。
- 著者
- 浦沢 直樹
- 出版日
- 2008-01-30
タイトルの『MONSTER』とはヨハンが抱える恐ろしい殺人鬼としての自分です。ヨハンが育った孤児院では孤児たちに様々な実験を施し、旧東ドイツ政府に忠実な兵士となるように教育を行っていました。そんな環境で狂ってしまったヨハンは、孤児たちを扇動し殺し合わせ、やがて教官も含めた全員を死亡させます。
それからというもの彼は、色々な人に引き取られては、その人が自分にとって理想の家族ではないと感じると殺す、という生活を繰り返していました。物語の途中でヨハンは殺人を繰り返してしまう自分に疲弊し「助けて!僕の中のモンスターが破裂しそうだ!」というメッセージを残しています。
テンマは自分が救い出したことによって生まれた「怪物」を倒すため、ヨハンを追い続けていきます。テンマと関わった人物は彼の無実を信じて手助けしてあげるのですが、ヨハンの手がかりを探ろうとすると、彼の手で次々に殺されてしまうのです。
ヨハンの出生の謎に迫ることで彼の中の「怪物」とは何なのか、何が彼を狂気に走らせるのかが分かってきます。
ベルリンの壁崩壊前のドイツを舞台に、洗脳され自分を失ってしまった少年の人生について描いた作品です。
女子柔道家を主人公にした異色の漫画で、柔道ブームの火付け役となった作品です。この漫画の登場以降、強い女子柔道家のことを主人公の「柔」にちなみ「やわらちゃん」と呼ぶようになりました。
- 著者
- 浦沢 直樹
- 出版日
- 2013-12-27
スポーツ記者の松田はある日、女子高生がひったくりを巴投げで投げ飛ばす現場を目撃します。その少女の名前は「猪熊柔」。彼女は柔道家の祖父に育てられた柔道の天才でしたが、柔道漬けの毎日に嫌気がさしていました。しかし柔の存在をスポーツ記者に知られた祖父の滋悟郎は、柔を公式デビューさせ、本格的に柔道の道を歩ませます。
柔の父親も柔道家でしたが、柔が5歳のときに投げ飛ばされ、失踪してしまいます。柔は柔道のせいで家の中がめちゃくちゃになったため柔道を憎んでいますが、一方で父との唯一の接点として柔道を続けたいという気持ちもあるのです。
そんな複雑な生い立ちのせいで、柔の精神面は脆くなってしまいました。普通に柔道をやらせれば負けなしでも、恋愛や人間関係での悩みを抱えたまま試合に臨むと苦戦してしまいます。
柔道を通して、柔の精神面での成長を描いた作品です。
『YAWARA!』についは<漫画『YAWARA!』の知られざる8つの魅力ネタバレ紹介!結局誰が強い?>の記事で紹介しています。気になる方はぜひご覧ください。
主人公の平賀=キートン・太一は考古学者と元サバイバル教官という2つの肩書きをもっており、考古学の研究資金を稼ぐため保険調査員としても仕事をしています。キートンが経歴のおかげで世界中の様々な事件に巻き込まれる、ほぼ1話完結で進むサスペンス漫画です。
- 著者
- 浦沢 直樹 勝鹿 北星 長崎 尚志
- 出版日
- 2011-08-30
本作の1番の見所は、キートンが元サバイバル教官という経歴を生かして危機から脱出するシーンでしょう。
タクマカラン砂漠に置き去りにされたシーンでは、穴を掘って日光を避けたり、即席の蒸留器から水を作ったりと様々なサバイバル技術を披露してくれます。
作中では古代文明や世界情勢、民族問題など様々なテーマについて描かれています。読み終わったあとには、世界の言語や社会、考古学について更に詳しく学びたいと思う人も多いのではないでしょうか。
『MASTERキートン』の原型となった作品で、軍事モノを軽いタッチで読みやすく描いたヒューマンドラマです。
- 著者
- 工藤 かずや
- 出版日
主人公のジェド・豪士は、かつて傭兵としてベトナム戦争などの様々な戦場で戦った経験を持っており、傭兵を引退した現在は、民間の軍事顧問機関「CMA」の戦闘インストラクターとして働いています。
戦場で生き延びる道をレクチャーする豪士が、傭兵のノウハウを依頼人に教えながら、自らも戦い巻き込まれていくミリタリーアクションとなっています。
本格的なアクションシーンも魅力ですが、戦争に疲れた、もしくは戦争の中でしか生きられない人々の心について描かれているところも見どころです。戦争のせいでノイローゼになったり殺人鬼になったりしてしまう兵士たちの姿は、平和な世界になっても人の心から争いは消えないこと、戦争の傷は一生心に残り続けるということを思い知らせてくれます。
ミリタリーを扱った作品は数多くありますが、戦争による心の被害を深く掘り下げた作品はなかなかないのでおすすめです。
以上5作品ご紹介しました。浦沢直樹の作品はどれも緻密に作られていて、その世界観に引き込まれます。映画やアニメで知っている作品があった方はこの機会にぜひ原作を読んでみてください。