ペットにするなら猫派か犬派か。皆さんもそんな話題で盛り上がった事があると思います。猫好きはクリエイティブ志向、感受性が強いとも言われています。作家に猫好きが多いというのも納得ですよね。そこで今回は魅力満載の猫が活躍する小説を集めてみました。
谷崎潤一郎は大の猫好きで、特にペルシャ猫がお気に入りだったそうです。ミイと名付けたペルシャ猫が死んでしまった時、剝製にしていつでもそばに置いておくほどだったとは驚きますよね。そんな著者がユーモアと巧みで繊細な心理描写で描いた猫小説です。
- 著者
- 谷崎 潤一郎
- 出版日
- 2013-07-23
庄造は猫好きでリリーという猫を結婚前からずっと可愛がっていました。その可愛がりようと言ったら、前妻品子と離婚する原因にもなった程です。しかし庄造の前妻品子から福子にリリーを譲ってほしいという内容の手紙が届きます。福子は以前からリリーの存在を疎ましく思っており、何とか庄造を説き伏せて、リリーは品子に譲られることになるのです。
猫に振り回される人間たちの滑稽な姿を、関西弁で率直に表現されている所が楽しい作品。人間の方が猫よりも子供っぽいと言うか、生き物のヒエラルキーがあるとしたら、まるで下層の生き物かのように描かれています。猫好きな著者ならではの表現ですね。
少しも懐かず、思い通りにならないリリーに苦労をする品子。リリーを手放しても不安や嫉妬に悩まされる福子。そして自分が恋しくて戻ってくると、リリーを思い出してはしゅんとする庄造。彼らは猫であるリリーに振り回されているようです。こんなにも人間を振り回す猫とは一体どんな猫なのか。リリーに魅了されて振り回されないよう気を付けて読んで下さいね。
自らをライトノベル作家と称する有川浩の作品です。映画化もされた代表作『図書館戦争』の著者であることでも有名ですよね。「浩」と表記することから男性作家だと思われる方も多いかもしれませんが、「ひろ」と読む女性作家です。今回ご紹介する『旅猫リポート』は小説と絵本が発表されています。
- 著者
- ["有川 浩", "村上 勉"]
- 出版日
- 2015-03-13
主人公ナナは尻尾がちょうど数字の7のように折れ曲がった雄猫です。怪我した所を今の飼い主であるサトルに拾われ5年間一緒に過ごしてきました。しかしサトルがある事情で会社を辞め、ナナをも手放さなければならなくなったのです。サトルはナナの貰い手を探して旅を始めます。そしてその旅は、サトルの古くからの友人を訪ねる、言わばサトルの人生を振り返る旅でもあったのです。
「どうせ出ていくなら、(中略)自分でサッと出ていく方がスマートじゃないか。猫はスタイリッシュなイキモノなんだ。」
(『旅猫リポート』より引用)
サトルに保護され怪我が治ったナナが、玄関先で言ったこのセリフから旅が始まります。猫と犬との決定的な違いが表れたセリフで、思わず格好いいと思ってしまいうようなセリフではないでしょうか。
旅の中盤で、サトルがナナを手放す本当の理由が明らかになります。その辺りからナナの猫らしさ満点の魅力と優しさで涙が止まらない展開になっています。
「僕はサトルの言ったいろんな赤を一生覚えておこう」
(『旅猫リポート』より引用)
ずっと一緒にいて欲しいと泣きじゃくったりせずに、最初から真実を受け止めてサトルについていくナナのひたむきな姿に胸が熱くなる作品です。サトルの言った赤とは何なのか?作品でお確かめください。
重松清は出版社勤務、フリーライターを経て『ビタミンF』で直木賞を受賞しました。次々と作品を発表し、どれも本屋で平積みされるほど売れっ子作家です。読者を飽きさせないエンターテイメント性と読みやすさが人気。しっかりと確立した世界観は多くの読者を虜にしていますよね。
- 著者
- 重松 清
- 出版日
- 2011-02-04
「基本の契約は3日間―2泊3日」(『ブランケットキャッツ』より引用)で猫をレンタルできるお店、毛布に包んで貸し出すからブランケットキャッツ、という奇想天外な発想が重松清ワールドと言う感じです。猫と一緒に寝てはいけない、指定のもの以外食べさせてはいけない、ブランケットを洗ってはいけない。たくさんのルールが設けられ猫は貸し出されていきます。
猫を借りていく客は何かしら壁にぶつかっている人ばかりです。閉塞感や孤独をなんとかしたくて希望を探している彼らの姿に、感情移入できる所が作品の大きな魅力になっています。
1話目の「花粉症のブラケットキャット」では、子供のいない夫婦が1匹の猫を借りていきます。
「自由を最大限に認め合う…そうしないと二人きりの暮らしって、絶対に詰まっちゃうと思うの」
(『ブランケットキャッツ』より引用)
妻有希枝の言葉に、夫の紀夫も納得しますが本心は隠します。お互いの自由を尊重できれば理想的ですが、そのルールでお互いを不自由にして、我慢していた事に三毛猫のアンが気づかせてくれるのです。本当の気持ちを相手に伝えずに、「社会的に契約したにすぎない」夫婦として暮らしていけるほどドライににはなりきれない、まだ「愛」が残るふたり。生きて行く事は綺麗事では済まないと、アンは部屋をめちゃくちゃにすることで教えてくれたのでした。
猫の身のこなしを思うと、現実に対してもっとしなやかに向き合う事が自然な事だとわかります。その他、優しい子だと思っていた息子がいじめの主犯だった「尻尾のないブランケットキャット」、ペット禁止のマンションで契約違反の借主を見つける「嫌われ者のブランケットキャット」など、同じ世界観なのに全く違う切り口の7編で、人生の壁を突き破ってくれる希望の猫があなたを元気にしてくれます。
著者は、「SF界の長老」と呼ばれる、アメリカのSF作家です。借金を返すために書き始めた小説がヒットし、『月世界征服』が映画化されます。この作品で脚本に参加し、特殊効果にも助言するなどその才能は多岐に亘ります。今回ご紹介する『夏への扉』は、日本のSFファンが選ぶ長編SF小説の企画で度々1位に選ばれています。
- 著者
- ロバート・A. ハインライン
- 出版日
- 2010-01-30
物語の舞台は1970年代のアメリカ、ロサンゼルスです。主人公ダンと愛猫ピートは冬になると夏への扉を探します。その扉は必ずあると2人は信じているのです。ダンは恋人ベルと結婚話が出るなど順風満帆でしたが、ベルと友人マイルズに裏切られ、地位、財産、名誉全てを奪われてしまいます。
ダンは裏切り者2人に復讐しようとしますが返り討ちにあい、結局冷凍睡眠で眠らされてしまいます。その間にピートは行方不明になってしまうのです。2000年にダンは目覚めます。そこからタイムマシンに乗り、過去へ戻りピートと再会し復讐を決行します。
この作品は、冷凍睡眠が行われていたり、タイムマシンが出てくるなど、ストーリーは王道のSF小説です。そこにロマンチックな愛情溢れるストーリーが絡んで来るところが魅力的な作品です。
物語の終盤、ダンはピートと共に再び冷凍睡眠する事になります。リッキイとの別れの場面で、涙に暮れる彼女の姿を目の当たりにし、決意を固めます。
「もちろんだとも、リッキイ。それこそ、ぼくの望みなんだ。だから、ぼくはこんな苦労をしてきたんだよ」(『夏への扉』より引用)
リッキイからの逆プロポーズへのダンの返事です。誰かを信じて時を超えるなんて怖いし不安です。単なるロボット技師だったころよりも強くなったダンがどんどん魅力的になっていく所も見所です。
イラン・テヘラン生まれ、大阪育ちと言う少し変わった経歴の直木賞作家です。雑誌『ぴあ』のライターを経て小説家になり、『きいろいぞう』が映画化され大ヒットしました。関西弁と明るいキャラクターでテレビ、ラジオでのトークも面白い方です。
- 著者
- 西 加奈子
- 出版日
- 2011-10-25
きりこはぶすな女の子ですが、両親に可愛がられて育ったので、その事に全然気が付いていません。自信に満ち溢れ、クラスを引っ張っていくような女王様タイプでした。
彼女の愛猫ラムセス2世は賢い猫で人間の言葉が理解できます。そこできりこはラムセス2世に手伝ってもらい大好きなこうた君にラブレターを書きます。しかし、彼女はこうた君にぶすと言われ強いショックを受けます。きりこは悩み、引きこもり状態になってしまいますが、ラムセス2世に勇気づけられ社会に飛び出していきます。そして予知夢で見た、泣いている女の子を助ける為に奮闘します。
きりこが4年ぶりに外に出た時の描写でラムセス2世や他の多くの猫を引き連れて、レイプ被害者になったちせを訪ねる印象的なシーンがあります。
「誰に何と言われても好きなように生きる」(『きりこについて』より引用)
親に「家の恥」と言われても、涙を見せなかったちせが初めて泣きます。彼女の強さと猫を引き連れたきりこの神々しさに引き込まれるシーンです。ちせは自分が正しい道を歩いているか不安だったけれど、変わらないきりこの姿に迷いが消えます。その美しい涙は胸を打たれるものがあります。
「うちは、容れ物も、中身も込みで、うち、なんやな。」
「今まで、うちが経験してきたうちの人生すべてで、うち、なんやな!」(『きりこについて』より引用)
体からの声を聞き、傷つき、その傷を携えて生きて行くと人生は豊かになる。きりこは美しい黒猫ラムセス2世と寄り添って暮らしたことで、大事な事を知ったのです。
きりこがいろんな障害を越えた事で得た名言の数々で勇気づけられる本作。ラムセス2世のように、達観した物事の見方をそこらの塀で日向ぼっこをしている野良猫もしているのかと想像すると、世の中が前よりもっときらきらして見えるような気がします。
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直木賞も受賞し、一躍注目を浴びることになった女性作家・西加奈子。彼女の手がけた作品は小説の域を越えて、映画化や絵本化もされるほど多くの支持を集めています。その魅力とはいったい何なのでしょう。
数ある猫小説の中から、純文学、ライトノベル風、SFと様々なジャンルの作品をご紹介しました。小説は人間が書いたものですが、実際の猫を見ていると、あながち間違っていないような気がしてくる小説ばかりでした。猫が単なるペットではなく、自立した人間と対等な同じ動物同士のようです。一緒に過ごせば小さな体に誇りとユーモア、そして強さを兼ね備えた最強のパートナーになってくれそうですね。