経営コンサルタントはさまざまな知識やスキルを必要としますが、具体的な仕事内容は?と問われるとうまく説明できないことの多い職業です。コンサルタントとは何か、また、必要なスキルや資格、年収や代表的な企業などを、参考になる本と共にご紹介します。
経営コンサルタントとは、企業や団体などのクライアントから依頼を受け、経営に関する助言や指導を行い、向かうべき方向へと導いていく仕事です。「企業にとってのお医者さんのようなもの」と例えられることもありますが、医者と違い、なるために必須の資格はありません。それがゆえに有象無象の人が名乗れるため、差別化するために中小企業診断士やMBA(経営学修士というビジネススクールで取得できる学位)を持っている人も多くいます。
仕事内容は、会社経営に困っている経営者を手助けし、良い方向へと導くことです。そのために、的確ですばやい情報収集力、分析力、提案力などが求められます。また、クライアント企業から見れば、助言や相談といった目に見えないサービスに対して投資をすることになります。そのため経営コンサルタントには、信頼を得られるだけのコミュニケーション力や誠実さといった人間力も、大切な要素です。
後述しますが、コンサルタントには「戦略」「IT」「組織人事」「経理」など、さまざまな種類があります。本記事のテーマである「経営コンサルタント」は、この分類では「戦略」を扱う人に近い定義です。
その定義に従った上で、日本で有名なコンサルティングファームと言えば、外資系ではマッキンゼー・アンド・カンパニーや、ボストンコンサルティンググループ。日系では野村総合研究所やドリームインキュベータ、コーポレイト・ディレクションなどがあります。
また、それら企業の出身でもある経営コンサルタントとして、大前研一氏、堀紘一氏、波頭亮氏、冨山和彦氏、三谷宏治氏などの方々が有名です。著書を出している方も多くいるため、彼らの本を読み込むことで、仕事内容や仕事の仕方、思考力をはじめとしたスキルの鍛え方、実戦での生かし方などが学べるでしょう。
クライアント企業に合わせて、訪問・指導したり、データ分析をしたり、資料を作成したりすることが多いため、働き方のスタイルは多様です。数か月から1年の間、クライアント企業に常駐する人もいれば、コンサルティングファームに所属していながらも個人事業主のように自分で勤務時間を設定して働いている人もおり、自己管理能力が求められます。
気になる年収、給料についても少しだけふれておきます。ひと口に経営コンサルタントといっても様々なレベルがありますが、今回対象にしているトップクラスの企業ですと、給料、年収は一般企業の同年齢の何倍にもなるでしょう。だいたい30歳前後で1千万円、あとは階級が上がるにつれ何百万円と上乗せされていきます。
しかしその分、提供する価値の高さを問われるシビアな仕事です。階級が上がれば急激に年収が上がりますが、階級が上がれない人は社外にでなければならないこともあり、「アップ・オア・アウト」と言われることもあります。年功序列ではないため、年齢別の平均年収を調べてもあまり意味がないでしょう。成果報酬ではありませんが、実力がものをいう世界です。
さてここからは、いくつかの本を題材に、より具体的な仕事内容、働き方、スキルなどへ迫っていきます。
まず、コンサルタントの仕事とは何かという基本について学ぶなら、本書がおすすめです。先ほどもふれたとおり、コンサルタントには「戦略」「IT」「組織人事」「経理」など、さまざまな種類があります。営業のことを(セールス))コンサルタントと呼んでいる人もいるくらいです。
それらの定義や仕事内容の違いを把握することで、相対的に「経営コンサルタントとはどんな仕事か」が浮き彫りになってくるでしょう。
- 著者
- 神川 貴実彦
- 出版日
- 2008-05-10
本書では、はじめにコンサルタントに関する基礎知識が網羅的に書かれ、その後各種コンサルタントの仕事内容をそれぞれ切り分けて解説されているため、自分の知りたい分野だけを拾い読みすることも可能です。6名のコンサルタントによる著作であり、編著者の神川貴実彦氏はボストンコンサルティンググループ出身の起業家です。
この本はタイトルに「基本」と書いてあるとおり、各コンサルティングファームの特徴やコンサルティング業界の変遷までを載せた、業界の入門書的な1冊となっています。「仕事内容」ならともかく、各ファームの情報まで載せている本はなかなかありません。基本事項を徹底的に学べるため、これから経営コンサルタントを目指す人には最適です。
対象読者は明確に「コンサルティング業界に転職・就職を希望している人」とされており、就職転職対策の章もあります。仕事内容や会社、年収などに軽くでも興味がある、という人は、まずはこの本を読んでみることをおすすめします。
日本を代表する経営コンサルタントといえば、大前研一氏です。その大前氏が、現役時代に自らのノウハウを整理して記した本がこの『企業参謀』。
現在もビジネスの最前線で活躍を続ける大前氏ですが、コンサルタントに必要な「戦略的思考」とは何か、どのように活用するのか、の基本は本書の時代に既に築き上げています。逆に言えば、本書に描かれた基本があるからこそ、大前氏は現在もビジネスの最前線で活躍できているのでしょう。
とにもかくにも、経営コンサルタントを目指すのであれば、読んだことがないとは恥ずかしくて言えないほどの代表的な一冊です。
- 著者
- 大前 研一
- 出版日
- 1999-10-29
『企業参謀』の初版は1975年。紹介した新装版は、『企業参謀』と1977年刊の続編『続企業参謀』の合本です。40年以上前の著書ながら、内容は色あせず、私たちにさまざまな示唆を与えてくれます。
経営コンサルタントがよく用いる「フレームワーク」も紹介されていますが、本書ではむしろ、「戦略的思考」に基づいてそれらをどう活用するのか、という実践的なイメージの湧く1冊になっています。大前氏が30代前半で本書を執筆したという事実を知ると、その凄味がより増してくるでしょう。
本書のテーマである「戦略的思考」とは、物事の本質を見抜くための考え方。言葉を借りると「混然一体となったものを解きほぐして分析すること」とされています。一例として、世の中にあふれる「価格」はパッケージ化されているので、料金のうちどの部分がいくらにあたるのかが曖昧なことはよくある(裏を返せば、曖昧にしないで分析することで示唆が得られる)、という指摘には「なるほど確かに」と頷かされます。
「戦略的思考」とは、経営コンサルタントにとって基本的な、そして必須のスキルです。しかしそれ以外のビジネスパーソンにとっても有用であり、身につけることで他の人々と差をつけることができるスキルでしょう。その意味では、多くのビジネスパーソン必読の書です。
- 著者
- 安宅和人
- 出版日
- 2010-11-24
イシュー(issue)という単語は、直訳すれば「問題、論点」といった意味ですが、本書におけるイシューは、「今、考えるべき問題」とされています。はじめから問題ありきで「この問題をどうするか」と考えるのではなく、「それは今解決しなければいけない問題か」と検討することがイシュー設定のポイントであり、経営コンサルタントには必須の力なのです。
イシューを正確に見極めたうえで解決に導くためのステップとして、本書では次の4つのステップが挙げられています。
1.イシュードリブン:情報を集めてイシューを見極める
2.仮説ドリブン:イシューを分解し、ストーリー立てて絵コンテをつくる
3.アウトプットドリブン:分解したイシューを分析する
4.メッセージドリブン:本質的でシンプルにまとめ「伝える形」にする
また、各ステップを具体的にどのように行えばよいかも掘り下げて記しています。例えば、経営コンサルタントがよく使う「思考の道具」として「フレームワーク」がありますが、その使い方についても述べています。
「イシューの見極め」の段階でも、「イシューの分解」の段階でも、フレームワークは非常に役に立つものです。しかし本書では、イシューを無理やりフレームにはめ込んで本質を見失うことは危険である、と警鐘を鳴らしています。問題設定はいかに大切かが感じられる主張です。
毎日長時間働いているような、目の前の問題を疑うことなく必死に仕事をしている方にこそ、ぜひお読みいただきたい一冊です。解くべきではない問題と、ほんとうに解くべき問題を整理することで、自分の負担を軽減しながらも成果を上げることができるのです。「生産的な働き方」の参考にしていただければと思います。
- 著者
- 高田 貴久
- 出版日
- 2004-02-01
『ロジカル・プレゼンテーション』とは、「論理的な提案」のこと。経営コンサルタントをはじめとするビジネスパーソンが最も身につけるべきは、ロジカル・シンキングではなく、この「ロジカル・プレゼンテーション」なのだと、著者は述べています。
なぜなら、ビジネスパーソンは、職種やポジションによって求められる力は違いますが、「アウトプット=人に伝えること」が必要なのは誰でも同じだからです。
必要なのは「考える」段階で止まらずに、「伝える」こと。いくら素晴らしいことを「考え」ても、「伝える」ことができなければ、ビジネスパーソンとしての結果には結びつきません。したがって「伝える」技術を身につけるべき。これが1冊通しての著者の主張です。
著者自らのコンサルティング経験の中で、日本企業には、欧米から持ち込んだ論理思考以外に、「日本的論理思考」なるものがあると感じたことから、本書は、多くの日本企業に則した形で体系化されています。
人前で発表したり、提案したりということが苦手な人が多い中で、伝えるスキルは身につけてしまえば強力な武器になります。対象読者が就活中の学生から管理・経営層まで幅広く設定されているのも頷ける、表現力を磨くための参考書です。
これまで4冊で、コンサルタントの概要、戦略的思考法、問題設定・解決法、提案力を学んできました。しかし、頭では理解できても、実際に活用してみないとなかなか身につかないものです。
最後におすすめする一冊は、実際のビジネスの場面を通じた問題解決のスキル活用方法を学べる本です。『戦略プロフェッショナル』は、本格的なビジネス書でありながら、ストーリーを通して経営コンサルタントの仕事を体感できるつくりになっています。
- 著者
- 三枝 匡
- 出版日
- 2013-06-28
物語仕立てのビジネス書は昨今多く出版されていますが、本書の場合、フィクションのストーリーでありながら著者の三枝氏の実体験に基づいた話であるため、とても臨場感があります。また、要所でポイントを整理してくれていることで、「戦略を実践する方法を学ぶ」という目的を見失わずに読み進めることができます。
三枝氏はボストンコンサルティンググループなどで経験を積み、数々の赤字会社の再建などを手掛けてきたベテラン経営コンサルタント。問題の見つけ方から、分析し解決する方法まで熟知した著者です。それでいて堅苦しい内容ではなく、サクセスストーリーになっているため、あっという間に完読できてしまうでしょう。文庫版もあり、続編もあるので、未読の方はまずはこの本を手に取っていただき、さらに深く学びたければ関連書へと手をのばしていくのが良いでしょう。